到着したのは夜でした。
では本編どぞ。
「……そう、ですか……。先がわかると便利だと思いますが……」
ピエールはアベルの考えに同意し兼ねるらしく首を捻る。
「便利か……ピエール、君は強いね。僕は、ちょっと疲れてしまっていてね……」
時折やって来る前の記憶が良い事ばかりなら、そう思えたかもしれないけどね……とアベルは苦笑する。
子供の頃は時折やってくる妙な感覚に、何が起こっているのかわからなかった。
繰り返しているとはっきり自覚したのはラインハットを出て行く父パパスの背中を追った時。
運命に抗おうといつもと違う行動を取ってはみたが何も変わらなかった。
あとは
何の為の別世界の記憶なのかは相変わらずわからないが、一気に記憶がなだれ込まず、細切れにやって来るのは自分に絶望させない為の救済な気がした。
と、神妙な顔で前方に迫る城下町を見ていると……。
「アベルさんっ」
アリアが後ろから走って来て、アベルの肩を叩いた。
「ぁっ、アリア!? ど、どうしたんだい!? 魔物が出たのかっ!?」
急に肩を叩かれアベルは驚いてつい、身体を引いてしまった。
「ぁ……あのっ、もうすぐラインハットなんですけど、私このままで大丈夫ですか?」
――あ、触られたら嫌だったのかな……。
アリアは頭を左右に振りながら、アベルの態度にちょっぴり悲しくなってしまう。
「え?」
彼女の質問にアベルは瞳を瞬かせる。
するとアリアはアベルを真っ直ぐに見つめた。月明かりが彼女の紫水晶を照らし、煌めいている。
「……ラインハットで変装……しなくてもいいのかなって……、アベルさんに相談しようと思って……」
「変装……?(綺麗な瞳だなぁ……)」
アベルはアリアの瞳に囚われたように見つめ返してしまう。
先程までの神妙な顔はどこへやら、アリアが現れただけで全てが霧散し、目の前の彼女のことでいっぱいになってしまった。
「はい。一応、仕事で使っていたウィッグもあるので……」
「ぁ……、黒髪の……?」
アリアに云われるままにアベルはぼーっと応える。
黒髪も似合ってたなぁ……。
あの柔らかいウサギをまた捕まえたいなぁ……。
好い匂いがしたっけ……。
彼女のバニー姿を思い出してしまうアベルだった。
「はいっ、私の髪、目立つみたいなので」
アベルに確認され、アリアは自分の髪を一房手にして手櫛で掬う。
髪が目立つから黒髪にした方がいいかアベルに相談に来たのだった。
ところが、アベルは頭を左右に振るう。
「…………あ、いや、君、髪色変えても目立つから意味ないよ……?」
「えっ? そうですか?」
かなり印象変わると思うのですが……とアリアは首を傾げるのだが。
「うん……。髪色を変えても可愛いさは隠せないし……(バニー姿を思い出すし)、そのフード被ってくれるだけでいいよ」
「かわっ……っっ!!?」
アリアの瞳から目を逸らせないアベルがぼーっと口にするとアリアの顔が瞬時に茹ってしまう。
「ぁ……、うん。カワイイ……、そういうとこも……(ずっと見ていたい……)」
「っっ!!」
アベルはそのまま歩いていたが、アベルに褒められたアリアは恥ずかしさに立ち止まってしまった。
「……アリア?」
アベルはアリアが止まったことに気付き、振り返るとピエールに先に行くよう告げて彼女へと駆け寄った。
「っ……ほ、褒め過ぎです……」
アリアはアベルが傍にやって来ると俯いてしまう。
二人の横をヘンリーがしょっぱい顔で通り過ぎて行った後でアベルは口を開いた。
「え……? 僕何か言ったっけ……。失礼なこと言ってたらごめんね。君を前にすると、僕おかしくなるみたいで……」
あはは……、とアベルは頭を掻いた。
「っ? おかしくなるんですか……?」
「……ぁ、うーん……。うん……、そう、みたいだ。変なこと口走ったら怒ってくれていいからね」
「っ……、変なことなんて……」
――アベルさんおかしくなるの……? どうして……?
アリアは気まずそうに口を歪ませるアベルの前で首を横に振る。
「……行こう? これ被ってたらきっと大丈夫だから。何かあっても僕が護るよ」
アベルがアリアのマントのフードを被せてやると、彼女は目の前の彼を見上げた。
「あ……、はい」
「……っ、フード被っても可愛いね……(そんな風に見つめられたら胸が締め付けられる……!)」
近い距離で上目で見られ、アベルがつい口にしてしまう。
「っっ!!?? ぁ……えと……」
アリアは顔を真っ赤にしたままちょっと涙目になってしまった。
そんな態度のアリアにアベルがハッとして目的を思い出す。
――そうだ、アリアに見惚れてる場合じゃなかった……!
「あっ……っ、い、行こうっ!! ピエール達は着いたみたいだよ!」
「あっ……!」
アベルはアリアの手を取り、彼女に背を向け引っ張って行った。
そうしてラインハット入りしたのだった。
◇
ラインハット……。
十年前、ここで未来を知り、アベルが絶望した国……――。
「……ラインハットか……」
アベルは目の前のラインハットの国を臨む。
ピエールに馬車の管理を任せ、後で宿屋で合流することにし、アベル、ヘンリー、アリアだけで城下町へと入る。
城下町は夜だからなのか人が少なく、しんと静まり返っていた。
十年前、ヘンリーとアリアが攫われ、そして父さんが殺される未来を僕はここで知った。
出来る限り抗ってはみたけど、何も変わらなかった。
アリアだけでも生きていてくれて本当に良かった……。
アベルは隣でラインハットの町を一望するアリアを見下ろす。
「……もう夜だから、人があまりいませんね……(それにしても少な過ぎるような気もするけれど……)」
「……うん」
アリアがアベルに視線を移すと、アベルはほんのり頬を染めて頷いた。
そしてすぐアリアから目を逸らしてしまう。
(アリアの瞳を見ていたら目的を忘れそうだ……。)
そんなアベルの様子にアリアは首を傾げていた。
「城に入るにはとにかく、昼間に来ないとな。とりあえず今日は休もうぜ」
ヘンリーが城へと至る可動式の、今は上がっている跳ね橋を指差す。
昼間は橋が架かっているが、夜は橋を上げて行き来出来ないようになっていた。
「そうだね。……宿屋で休もうか。けどせっかくだし……」
「はいっ、歩きましょう! 何かお話が聞けるかもしれません」
アベルの言わんとすることがわかったのか、アリアは町を歩き出す。
ヘンリーも同意し、
「オレもこの国の話を色々聞いてみたい。……把握しておかないとな。休むのはその後だな」
と、城を眺めながら歩き出した。
少し歩くと、ヘンリーが前方からやって来る恰幅の良い中年男性とぶつかってしまう。
ドンッ。
「っと……。悪い。よそ見してた」
「ヒック……、ウィ~……」
ぶつかった男にヘンリーは謝るが、男は酔っぱらっているのか身体を左右に揺らすだけで、ヘラヘラと笑みを浮かべていた。
手には酒の入った瓶が握られており、足は千鳥足である。
「酒くさっ! おっさん飲み過ぎじゃないのか? 大丈夫か?」
「国が豊かになっても国民は貧しくなる一方、これが飲まずにいられますかってんだ! ヒック……」
ヘンリーの言葉に男は酒瓶を傾け、嘆く。
「…………、ぶつかって悪かったな。あんま飲み過ぎんなよ」
男にそう云うと、ヘンリーは独りで先に歩いて行ってしまった。
「ヘンリー……」
「ヘンリーさん……」
アベルとアリアはヘンリーの後を追う。
ヘンリーは町の立て看板の前で立ち止まっていた。
いちゃつきながら、ラインハット入りです。
----------------------------------------------------------------------
評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。
読んでいただきありがとうございましたっ!