アリアを愛でる回。
では、本編どぞ。
ヘンリーは立て看板をじっと見つめていた。
「ヘンリー……君は何も悪くな……」
「“ラインハット王国に栄光あれ! すべては王国のために!”……だってさ」
アベルが声を掛けると、ヘンリーが看板の文字を読み上げ、眉を顰める。
「……一体どうなっちまったんだ、この国は……。王国のためって……」
はぁ……。
ヘンリーの口から溜息が漏れ、彼は頭を抱えた。
そんな様子の彼にアベルが告げる。
「……ヘンリー、あっちに行ってみないか?」
「ん? ああ、わかった」
武器屋と道具屋のある商店街の方へとアベルが誘い、三人はそちらへ行くことにした。
武器屋は灯りが消え閉まっているようだが、道具屋はやっているかわからなかったので訪ねてみることに。
その途中で、散歩中の旅の戦士に話し掛けられる。
「やあ、君達は旅人かな? 昼間は見掛けなかったが、さっき着いたところか?」
「ええ、そうなんです。十年前、ここに来たことがあって。近くまで来たから懐かしいなと思って立ち寄ってみたんです」
アベルが応対し「夜は人が少なくて静かですね」とよくある世間話の話題を振ってみた。
「……そうだな。夜だけじゃなく、昼間も割と静かだぞ。随分人が出て行ったようだしな」
「え……?」
戦士の言葉にアベルが瞳を瞬かせる。
「この国の王が代わってから、国も変わってしまったらしい」
「王が代わったのって……、一体いつなんだ?」
アベルと戦士の話を聞いていたヘンリーが口を挟んで訊ねた。
「なんでもこの国の前の王は九年ほど前に亡くなったそうだ。自分の死期を知りその前にヘンリー第一王子に王位を譲ろうとしたが……、ある日王子は行方知れずになってしまったらしい。そんなことがあり今は第二王子だったデール様が王様というわけだ」
戦士が語り終えると、ヘンリーは黙り込んでしまう。
「ヘンリー……。そうだったんですね……。昔そんなことが……」
ヘンリーの様子を窺いつつ、アベルは戦士に相槌を打った。
「十年前のこの国の事は知らないが、十年経てば色々変わっていることもあるだろう。今日はもう宿で休んで明日町を歩くといい。後ろにいるお嬢さんも眠そうだぞ?」
「え……」
戦士がアベルの背後にいるアリアに目を向け目を細めるので、アベルはアリアの様子を見る。
彼女は疲れたのかぼーっとしているようだ。
「……アリア? 大丈夫?」
「…………、……ぁっ! だ、大丈夫です!」
アベルに声を掛けられ、アリアはワンテンポ置いてから顔を上げ、微笑む。
そんなアリアに戦士が近付いて、まじまじと彼女を見下ろした。
「……ほぉ、随分と美しい娘さんだな……。そういえば、綺麗な娘をお妃候補にするとかなんとかお触れが出ていたな……。ひょっとして、その娘も候補なのか?」
「っ……、違います! 彼女は僕の……」
アベルは咄嗟にアリアを背後に隠す。
「僕の……? っっ!!?」
ぼーっとしていたアリアは、アベルの言葉に目を見開いた。
(ど、どういうことですか……アベルさんっ!?)
……びっくりして目が覚めたらしい。
「…………そうか。これまで何人か城に入って行ったのを見たよ。だが、誰一人として城から出てきた様子は無い。あれだけの人数を集めていったい どうしようというのか……」
「あれだけの人数って、一体何人の女性が……?」
アベルはアリアを庇いながら話を続ける。
「一度に見たわけではないが、恐らくもう五人以上は見ていると思う。あんなに多くの妃候補が必要なのか甚だ疑問なのだが、未だ美しい女性を集めているらしい」
戦士はそう云うと、アベルにアリアが連れて行かれないよう気を付けろと忠告して去って行った。
「……アリアが狙われるのも時間の問題かな。で、どうすんだ? 渡したりは……」
「……渡すわけないだろ」
「だよな!」
ヘンリーとアベルはアリアの処遇について互いに確認を取る。
「すみません……。私、またご迷惑を……」
「っと、謝るのはこっちの方だ。悪いのはアリアさんじゃないよ! オレもアベルもキミを護ってやるから、アリアさんは心配しなくていいからなっ!」
「うん、心配しないで。絶対渡したりしないから」
アリアが頭を下げるとヘンリーとアベルが彼女を励ますように笑顔を見せた。
アリアは顔を上げてお礼を告げる。
「っ、ありがとうございます……」
「……フードだけじゃ心配だから前も……、と、留めておいた方がいいかもね……、……っ、あと……顔を上げないように下を向いていることって出来る……?」
例えフードを被っても顔を隠すだけで、マントは全身を覆っているわけではないので中の服が見え、女性だとバレてしまう。
お礼を云う彼女にアベルは目を向け、マントを閉じてあげようと思ったのだが、マントから覗く胸元につい視線を奪われてしまい、触れるのを躊躇ってしまった。
「あっ、はい……。確かマントの内側に留めるボタンがあった気がします」
アリアはマントを前で留め、中の服が見えないよう隠す。
全身がマントに覆われフードを被って下を向けば、男か女かわからなくなる。
「これでいいですか?」
「……うん、ばっちり。この町……あ、城の中は特にだけど、なるべく上を向かないように気を付けて」
マントで覆われたアリアが確認を取ると、アベルは是認した。
「はいっ、わかりました」
――こうかな……?
アリアは顔を足元へと向ける。
少しだけ髪が零れ落ちてはいるが、許容範囲だろう。アリアが「明日は髪を結んでいきますね」と俯いたまま告げた。
アベルはそんなアリアの頭に触れ、撫でてやる。
「……アリアはいい子だね」
「……っ……!?(何がですか!?)」
いーこいーこ、と頭を撫でられアリアは目を見開きアベルを見上げた。
「……あ、上を向いたらダメだよ?」
「え? ぁっ、はい……」
アベルに注意され、アリアは再び下を向く。
すると、アベルはまた“いーこいーこ”と、彼女の頭を撫でていた。
(彼女の顔が見えないから、触れやすいな……。)
本当は直接髪に触れたいが、アリアと目が合うと緊張するので今はこれで我慢である。
「……アベルお前……」
――本当にアリアのことが好きなんだなぁ……。
ヘンリーがアベルの顔を見ると、瞳は優し気に細められ唇は弧を描き、とても幸福そうに見えた。
アベルはしばしの間アリアの頭をナデナデし、「ふぅ……」と満足したように息を吐いてから口を開く。
「ヘンリー……、君のお父さんは君を想っていたんだね」
「……自分の死期を悟って親父がオレに王位を譲ろうとしてたなんてな……。あの頃、城の中が何となく落ちつかない雰囲気だったのはそういうワケだったのか」
アベルの言葉にヘンリーは十年前の状況について思い出していた。
――親父……悪かったな。オレはちっとも親父の事をわかろうとしてなかった……。
「…………、大人になると見えて来るもんてあるんだな」
「……そうだね……」
ヘンリーとアベルは月夜の下の、ラインハット城を見上げて遠い目をする。
二人の隣でアリアは黙り込み、心ここにあらずで俯いていた。
というのも、さっきからアリアが顔を上げようとすると「ダメ」とアベルに注意されるので、困惑し【メダパニ】(物理的)状態なのである。
そして、ラインハット城から視線を戻すと、アベルは再びアリアの頭を撫でた。
「っっ!!?(ま、また撫でて……!?)」
「……アリア、道具屋に寄ってから宿屋に行こうと思ってるけど、ついて来れるかい?」
「っ、ぁ、……はいっ」
アリアが下を向いたまま返事すると、アベルはまた「いーこいーこ」と頭を撫でてから歩き出した。
「…………、ぅぅ……(どうして頭を撫でるの……??)」
アリアはアベルの意図が読めず頭を抱え、彼の後ろに黙ってついて行く。
自分に背を向けるアベルからは小さな鼻歌が聞こえた気がした。
随分と機嫌が良さそうだ。
「……アリアさん、嫌だったら嫌だって言った方がいいぞ」
「え……?」
「……あいつ、ちょっと距離感おかしいだろ?」
「ぁ……、……確かに……」
前を歩くヘンリーに云われ、アリアはアベルの背を眺める。
ここに来るまでの移動中、時々振り返っては自分を見て来る彼の行動の意味はよくわからないが、嫌な気はしなかった。
……嫌じゃない……。
思い出せないけれど、アベルさんと居ると落ち着く気がする。
長い間一緒に居たような……。
早く記憶が戻ればいいのに……、アリアはそう思いながら道具屋の扉を開けて待つアベルの元へ駆けたのだった。
アベルって時々強引なとこあるよね。
ナデナデしたかったんでしょうね。
今回ちょっと長めですが、すみません。
切りどころがわからず……。
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