子どもにはお腹いっぱい食べさせてあげたい。
では、本編どぞー。
◇
宿屋を後にし、アベル達はヘンリーを追い掛け城門の方へと向かった。
「よし、門は開いてるな」
さぁ、行こうぜ! とヘンリーが息巻いて城門へと近づいて行くと、お堀の前にみすぼらしい格好をした小さな少年と少年の姉らしき少女が立っていた。
二人は横に並んで、道行く大人に何かねだるように語り掛けていたが、人々は首を横に振るだけで彼等の前を素通りしていく。
「……あの子達は……? ……何だか様子が変です」
アベルとアリアもヘンリーを追っていたが、アリアが少年達の様子に気付いてそちらへ近づいて行った。
「ん……? あっ、アリアどこへ……!? っ、ヘンリー! こっちに来てくれ!」
「ん? お、おう……?」
アベルは前を行くヘンリーを呼び止め、アリアの後を追う。
そのアリアはといえば、ボロを纏った少年と少女に話し掛けていた。
「どうかされたのですか? 顔色が悪いですね……」
「おなかが空いたよぉ」
「どうかお恵みを……。もう三日も何も食べていないんです」
アリアが声を掛けると、少年と少女は空腹なのか目は虚ろに青白い顔で物乞いをする。
「まあ……。それはお辛いですね……」
「アリア、これを……」
アリアが眉尻を下げると、後ろについて来たアベルが二人に渡してくれとアリアに5ゴールド手渡した。
「あ……。ありがとうございます。……これ、アベルさんからです。これで何か買って下さい」
アリアはアベルから渡された5ゴールドを少女の手に握らせる。
と、
「あ、ありがとうございます。ご恩は一生忘れません」
少女の瞳に僅かに光が宿り、涙が滲んだ。
「あ、それと……、これは私から……」
「え……?」
アリアは自分の持ち物から瓶に入った菓子を取り出し少女に渡す。
「かぼちゃのビスコッティです。おなかの足しになるかわかりませんが、フルーツとナッツも入っているので栄養はありますよ。硬めなので飲み物と一緒の方がいいかもしれませんけど」
アリアが瓶の蓋を開けると、甘い香りが漂った。
「あ……、いい匂い……食べてもいいですか……?」
「ボクも食べたい……!」
「はい、どうぞ?」
アリアが少年と少女に差し出すと、二人はビスコッティを口に運んだ。
カリッといい音がする。
「「んむっ!!?」」
ビスコッティを口に入れた途端、少年・少女の瞳が見開かれ、それまで虚ろだった瞳に生気が宿った。
「「おいひぃ……!」」
ポロポロと二人の目から大粒の涙が溢れる。
「ボクこんなの食べたの初めて……」
「私も……。このご恩は一生忘れません」
おいしい、おいしい……と子供たちが涙しながら瓶の中のビスコッティを平らげていく。
そして、焼き菓子ゆえのパサつきに二人はむせる。
ケホッ、ケホッ。
「あ、えと、このお水もどうぞ……?」
アリアが持っていた水筒を差し出すと、少女が受け取り少年に先に飲む様にと手渡した。
少年はむせながらも水を飲んでから少女に水筒を渡す。
二人はあっという間に全て食べ終えてしまった。
「……もう食べてしまいました……」
「ボクまだおなかすいてる……」
少女が空になった瓶と水筒を左右に振って申し訳なさそうに頭を下げるが、少年はお腹を擦ってもっと食べたいとせがんでいる。
「あ、ふふっ、そうですね。それくらいじゃお腹いっぱいにはなりませんよね」
“これ、お返しします”と、少女から空になった瓶と水筒を返されると、アリアはそれを鞄に仕舞った。
「……でも、元気が出ました。ありがとうございます」
「うん、とっても甘くておいしかった。お姉ちゃんありがとう!」
少女と少年が屈託のない顔でアリアを見上げる。
アリアはずっと下向き加減でいたが、少年と少女の目線からは彼女の顔が見えるので、アリアの優しい笑顔に安心してか笑顔を見せたのだった。
「どういたしまして。あとはアベルさんから頂いたお金で何か買って食べて下さいね」
「はい。お兄さんもありがとうございました!」
少女と少年に手を振られて、アベル達は二人の元を離れる。
「オレもドレイになってすぐは空腹に泣かされたよ。腹が減るって本当に辛いよなあ」
「……そうですよね……。本当、お腹が空いているのに食べられない時の絶望感は耐え難いものです……」
ヘンリーの話にアリアが反応して告げるのだが、アリアの言葉はまるで経験したことがあるような物言いだった。
「……アリアは、優しいね」
アリアは自分と別れてからは修道院にお世話になっていたのだから、そんな思いはしてない筈なんだが、自分と出会う前、もしかしたら昔そんな経験をしたことがあったのかもしれない、忘れてしまっているのだろう……と、アベルはアリアの物言いが少し気になったがここではスルーしておいた。
「いえいえっ、そんなっ、優しくなんてないですよ! ……ただ、私、小さな子が辛い想いをしているのを見るのがイヤなんです……。子ども達には皆笑顔で居て欲しいだけで……。アベルさんこそ、優しい……。さっきの女の子、お金を渡したらとても嬉しそうでしたよ……。ありがとうございました」
アリアは首を左右に振ってからアベルを見上げてはにかむ。
顔を上げてはいけないというのに、その微笑みが可愛くてアベルは注意するのも忘れて黙り込んでしまった。
「…………、……っ、えっと……アリアがお礼を言う必要は……(あぁ……笑顔がカワイイ……!)」
――……この可愛い生き物は何なんだ……!?
アベルを真っ直ぐ見上げる大きな瞳につい、見惚れてしまう。
彼女の瞳には今自分しか映っていない、そう思うと鼓動が逸る。
ドクドクドクドク……。
恥ずかしくて目を逸らしたくなるのに、彼女に真っ直ぐ見つめられると囚われたように動けなくなってしまうのはもう何度目だろうか。
そんな考えた過ぎった時だった。
突然アリアの顔が下を向いた。
「わぁっ!」
「アリアさん。はいごめんよ、下向いて~! アベルも注意してやれよなっ!(ったく、隙あらば見つめ合う!! ここ城のすぐ側だぞ? アベルもアリアもわかってんのかよ!?)」
ヘンリーがアリアの頭を軽く押さえ、俯かせたのだった。
「っ、ヘンリー! そんな無理やり頭を下げさせたら首を痛めるだろっ! ……大丈夫かい?」
「だ、大丈夫ですっ。すみません、私ったら言われていたのに……!」
アベルがヘンリーに抗議し庇うとアリアは下を向いたまま頭を左右に振る。
「アベル、彼女を護るんだろ? いくらオレ達が強いったって、城の兵士全員相手には勝ち目ないんだぜ?」
「っ、ごめん、そうだね。うっかりしていた……、アリアもごめん」
ヘンリーがここは城に近い場所なんだから気を付けようぜ、と二人に注意すると、アベルが謝罪の言葉を口にした。
「いえっ、私こそすみませんでした」
アリアはアベルとヘンリーに深々と頭を下げたのだった。
「ついて来てもらっておいて何だけどさ、気を付けてくれよな」
ヘンリーの云う事は最もである。
その後、アベル達は再び城の方へと向かった。
アリアの鞄の中身…。お菓子だらけだったり…w
色ボケアベルに代わり、ヘンリー君いい仕事してますねぇ。
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