落ちぶれてしまったラインハット。
では、本編どぞー。
◇
「城下町の様子が随分変わっちまったな。なんだか、うす汚れた感じがするよ」
城の方へと向かいながら辺りを見回し、ヘンリーが呟く。
道行く人々は疎らで、せっかくの晴れた朝だというのに、皆暗い顔をしている。
町にかつての活気はなかった。
ヘンリーの瞳は哀し気で、アベルもアリアも声を掛けられないまま後ろについて行く。
「もうここに戻ることはないと思ってたんだが……、とうとう来ちまったな」
昼間のみ架けられている可動式跳ね橋の前に立ち、ラインハットの城を見上げてヘンリーが遠い目で呟く。
「ヘンリー……」
アベルは悲哀とも取れるような瞳で城を見上げるヘンリーの肩に手を置いた。
ヘンリーからしたらそうだよね……。
継母に命を狙われ、あんな場所に送られたんだ。
ヘンリーの胸中は複雑だろうと、アベルは同情する。
「ヘンリーさん……、元気出して下さい」
アリアも同情したのか、ヘンリーの服の裾を摘まんで呟いた。
「……二人共……、ありがとな。オレなら平気だ。行こうぜ」
と、ヘンリーが跳ね橋に一歩踏み出そうとすると、
「お前さん何をしに来たのか知らんが、命が惜しかったらあんまり城に近付かん方がええぞ」
アベルの背後からお年寄りの声が聞こえる。
「え……?」
アベルがその声に振り返ると、白髪の禿げた頭と白髭を蓄えた老人がへの字口で首を横にふりふり続けた。
「悪いことは言わんから、じじいのお節介だと思って言うことを聞いておけ。……と、くわばらくわばら……」
老人が話をしていると、丁度城から強面の兵士が橋を渡って来て、刺すような目付きでジロリとアベル達の方へと視線を向ける。
すると老人はびくりと肩を揺らし、慌ててアベル達から離れていった。
アベル達を睨んだ兵士は仕事なのか、そのまま城下町を出て行く。
「……何だか、瞳が怖い方でしたね」
「……大丈夫だよ。……けど、強い兵士を集めてるって言ってたっけ……」
アリアがこっそり見ていたのか、立ち去る兵士の背を眺めながらぽつり。
アベルはアリアが不安にならないように、彼女の頭をぽんぽんと撫でてから、先程宿屋で聞いた話を思い出し告げた。
「……っっ……!?(あ、頭撫で……!!?)」
アリアは突然頭を撫でられ照れてしまうが、俯いている為アベル達には気付かれなかった。
「城に近づいただけで危ないって? まったく、この国はどうなっちまったんだ!?」
ヘンリーが憤りに声を荒げる。
――ったくどうかしてるぜ!
(こうなったら、オレがどうにかするしかないなっ!! 先ずはデールに会ってみないと!)
「アベルっ」
「ああ、行こう」
ヘンリーがアベルに声を掛けると、アベルは深く頷いた。
そうしてアベル達は跳ね橋を渡ったのだった。
◇
重い大きな扉を押し開き、ラインハット城内へと入ると、十年前、入口にいた警備の兵士は今は居らずアベル達はデール王の元へと急ぐ。
が、不意にヘンリーが立ち止まるので、アベルとアリアもその歩みを止めた。
「ちょっと待ってくれよ」
「……ヘンリー? どうかしたかい?」
アベルが首を傾げる。アリアも後ろで俯きながらも何かあったのかと様子を窺っていた。
「言っておくけど、とりあえず事情が分かるまで、オレが誰かはナイショにしておこうと思うんだ。しばらくはオレはただの旅人だぜ。さあ、行こうか」
ヘンリーはそう云って再び歩き出した。
「…………了解」
アベルも了承し彼の後を追う。後ろにアリアとピエールも続いた。
確か、通路の突き当りを右に抜けた先だった……ような……と、うろ覚えのアベルは前を行くヘンリーの背を見つめる。
ヘンリーは十年前まで住んでいた場所だ、しっかり憶えているのだろう。どこへ行けば王の間に辿り着くのかわかっている様子ですたすたと歩いて行った。
突き当りまで来ると右に抜ける通路はあったものの、その前に眼光鋭い兵士が槍を片手に立ちはだかり、こちらを威圧するように睨み付けている。
「王様にお会いしたいんですが」
「これより先は太后様に呼ばれた者しか通すわけにはいかぬ。帰った、帰った!」
ヘンリーが「ちょっと通してもらえるか訊いて来るから、みんなはここで待っててくれ」とアベル達を待たせ、兵士に臆することなく掛け合っていたのだが、兵士は鼻息荒くシッシッと手を振ってあしらったのだった。
「……通してはもらえなそうだね」
「困りましたね……」
アベルとアリアが少し離れた所で“さてどうしようか?”と腕組みをする。
「王様じゃなくて太后様に呼ばれた者かよ……。デールは本当に国王なのか?」
ヘンリーが戻って来ると、彼も腕組みしながら首を捻っていた。
「ヘンリー、一先ず出直そうか?」
「こうなったら、情報収集だな! 確かそこの階段の上は兵士達の待機所だったはずだ」
アベルが声を掛けるとヘンリーは二階へと続く傍の階段を上って行く。
「……待機所か……。アリア、顔を出さないように気を付けてね」
「はい」
アベルとアリアもヘンリーの後を追った。
◇
二階、兵士達の待機所――……。
十年前にもアリアと歩いた場所である。
「……っっ、アベルさんっ」
階段を上がると待機所のテーブルに魔物らしき者達が談笑している。
アリアは驚きアベルのマントを引いた。
「っ、あ、ああ。後ろに隠れてて」
アベルも驚いたが、アリアが縋って来るのが嬉しくて、護るように彼女を背後に隠しながら先を行くヘンリーの傍へと向かう。
ヘンリーは明らかに魔物と思われる禍々しい気を放つ全身鎧の魔物【さまようよろい】に声を掛けていた。
「なあ、オレは旅してる者なんだけど、この国の太后様っつーのはどういう人なんだい?」
「この国の太后様は中々大した人物だな。この国が世界を征服する日もそう遠いことではあるまい。わっはっはっ」
【さまようよろい】が大きなジョッキを傾け、器用にぐびぐびと酒を喉の奥に流し込む。
兜の端に酒が滴り、床を汚していた。
「へ、へぇ……」
ヘンリーは引き攣り笑いを浮かべながら【さまようよろい】から離れて、アベル達の元へと戻った。
「世界征服!? あの義理のオフクロはいったい何を考えてるんだ」
「世界征服……か……。魔物も多く出るっていうのに……そんなこと出来るのかな……」
戻って来たヘンリーが眉間に皺を寄せるも、アベルは腕組みして思案する。
アリアとピエールは黙って二人の会話を聞いていた。
「……もう少し話を訊いてみようか」
「ん? ああ……」
アベルは【さまようよろい】の隣に座る山賊風の男に声を掛ける。
「こんにちは。僕達旅をしているんですけど、この国についてちょっと知りたくて……」
「よお兄ちゃん! おめえも兵士になりたくてやって来たのかい? この国はいいぞお! 戦ってさえいれば金がいっぱい貰えるし、美味い物も食い放題だぜっ」
アベルが声を掛けると、山賊風の男は酒を飲みながら、臭い息を吐き出し下品に嗤った。
「チッ……こんなヤツらにオレの国が……」
アベルの背後でヘンリーの舌打ちが聞こえる。
男には聞こえなかったようで、ご機嫌な様子で酒を煽っていた。
アリアとピエールは黙り込んだまま様子を窺っていたのだった。
ラインハット攻略まではアリアさん大人しくしていてもらいたい。
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