ピエールさんパニくる。
では、本編どぞ。
アベルはヘンリーとアリアを扉の前に残し、一人水路に続く階段を下りて行った。
「ピエール」
「主殿! こ、ここにある筈のイカダが無いのです!」
アベルが声を掛けると、ピエールは狼狽えたように訴えて来る。
「? ある筈のイカダ?」
「…………っ、やはり、まだ降りて来ていないのですね……」
アベルが何のことか解らず目を瞬かせると、ピエールの声が少しだけ小さくなった。
「…………ん? あ、もしかして……、別世界と違うって?」
「…………はい。別世界で、ここにはイカダがあったのです。そのイカダに乗り、ヘンリー殿の仰った抜け道へと向かうのが正しい道筋……」
ピエールの説明にアベルの眉間に皺が寄る。
「正しい道筋って……繰り返すことが?」
「……繰り返す……、はい。言い方を変えればそう……ですね」
「……ふーん……。つまり、ピエールの知っている展開じゃないってことか……」
アベルは顎に手を当て、うんうんと頷いて流れる水路を見下ろした。
水路の水面は陽の光を反射し、きらきらと輝いている。
アベルの瞳が、心なしか輝いているように見えた。
「はい、そのようです……。今まで一度たりともこのようなことが起きたことは無かったので取り乱してしまいました……」
楽しそうなアベルと対照的にピエールは顔を俯かせ、首を左右に振っている。
「……ここにイカダが無いと、抜け道は見つけられないんだね?」
「は、はい……。はっきり憶えてはいませんが、イカダで水路を進んだ記憶はあるのです。その奥にはこのく……っっ……くっ……」
アベルが質問すると、ピエールは答えようとするのだが、途中で舌でも噛んだのか黙り込んでしまった。
「ピエール? どした!?」
「っ、っく……。……はぁっ、はぁっ……。いっ、息が詰まる……っ!!」
「えっ!? 大丈夫かい!?」
ピエールが苦しそうに喉元に両手を添えると、アベルはピエールの背を撫でてやる。
「くっ……、っ、はぁっ……はーっ……、ふぅ……これ以上は話してはいけないようです……」
はぁ……はぁ……、とピエールは呼吸を整え“もう大丈夫です”と力こぶを作ってみせる。
「……そ、そうなんだ……? 無理に話さなくてもいいよ……?」
「いえっ! これは私にしか出来ぬこと。主殿と共に違う未来を見る為、私は出来得る限り、助言して差し上げたいのです」
「……けど、何か苦しそうだし……。僕の場合、気付くのは直前が多いけど、助言なんてなくても立ち向かってみせるよ……?」
「息が詰まったら止めることとします。それまではどうぞお聞きになられて下さい」
アベルが“助言しなくてもいいよ”と伝えるのだが、ピエールは心配なのか助言するのを止める気はなさそうだ。
「……ピエール……君って奴は……」
――僕ってそんなに頼りないかなぁ? もっと頑張らないとな……。
アベルはピエールを不安にさせてしまって申し訳ないと思うのだった。
『おーい、アベルー!』
階段の上からヘンリーの声が聞こえてくる。
「んーー?」
『抜け道が思い出せないから、一旦出ようぜ! あんまり長居してっと兵士が来るかもしれないからさ! オレとアリアは先に城から離れるからお前達もすぐ来いよー!』
「……わかったーー!」
アベルが返事すると、ヘンリーとアリアは跳ね橋の方へと歩いて行ってしまった。
「……こんな展開になるとは……」
「……やっぱりアリアの影響かなぁ……」
ピエールとアベルは歩いて行くヘンリーとアリアを見上げ呟く。
「……アリア嬢……」
「……不思議な
アベルの目にアリアが躓き転ぶ様子が映る。
草に足を滑らせたらしく、ヘンリーが起こしてやっていた。
……僕が居たら転ばせなかったのに!
ヘンリー、アリアに触らないでくれないかなぁ!?
アベルはムッと頬を膨らませる。
「ええ……、本当に……」
――アリア嬢は時々足元が覚束ないことがありますね……。
何故なのだろうと不思議に思ったが、これも呪いの所為なのかと、ピエールはとりあえず理由を付けておいた。
「じゃあ、僕達も後を追おうよ。二人に何かあったら困る。それに、城に入る何か別の方法を考えないとね」
アベルはピエールに優しく笑い掛けて「行こう」と誘う。
「主殿……。主殿はいつでも心が強くていらっしゃる……。私はそんな主殿を尊敬しておりますよ」
「えっ? そ、そう? そんな風に言われると照れるなぁ……」
「はっはっはっはっ。そんな謙虚な所も主殿の良い所ですな!」
「ピエール褒め過ぎだよ!?」
アベルはピエールに褒めちぎられ、頭の後ろを掻き掻きラインハット城から離れるのだった。
ラインハット城から離れ跳ね橋を渡り切ると、そこに居るはずのヘンリーとアリアの姿がない。
「……どこに行ったんだろう……。こんなすぐに居なくなるなんて、まさかまた攫われたりは……」
アベルは急に不安に駆られる。
――アリアと離れちゃいけなかったんだ……!!
ドクドクドクドク……と、心臓の音が強く波打つ。
アベルに嫌な緊張感が走った。
その時だった。
「……お兄さん、お姉さんからの伝言です」
背後から先程お金をあげた物乞いの少女に声を掛けられる。
「え……!?」
アベルは振り返って少女の伝言に耳を傾けると、ラインハットを後にした。
◇
「はぁっ、はぁっ、……っ、居たっ!! アリア! ヘンリー!!」
ラインハットを出て間もなく、アベルが息を切らしながらアリアとヘンリーの姿を目にすると駆け寄る。後ろにはピエールも続いていた。
そこにはパトリシアと馬車も待機しており、
「おー! 来た来た」
「アベルさんっ!」
ヘンリーがやって来たアベルの肩を叩いて「ご苦労さん」と労い、アリアはアベルの顔を見てホッとしたのか柔和な顔をしていた。
「っ、はぁ……何かあったのかい?」
「それが……、すみません、私の所為なんです……」
「違う! 何言ってんだよ! アリアさんは悪くないだろ!」
アベルが顎に垂れた汗を拭い訊ねると、アリアが頭を下げるがヘンリーはそれを否定する。
「何があったんだ?」
「橋を渡っている時に兵士が何人か出て来てさ。目を付けられてもマズイって思って出て来たんだよ。それに……」
「それに……?」
「……抜け道は水路を行かないと見つけられない。けど、移動手段がないだろ?」
「あ、ああ、まあそうだね……」
ヘンリーが何を言いたいのかはわからないが、アベルは訊かれたままに頷いた。
「で、だ。オレ思い出したんだよ」
ニッとヘンリーはほくそ笑む。
「何を?」
「水路を行くには、乗り物が必要だろ?」
「ああ、うん。小舟か、イカダか……」
「そうそう、この辺で水路っていったら、あそこしかないよな?」
「ん……?」
アベルが首を傾げると、ヘンリーは「行こうぜ!」と北東を指したのだった。
イカダが無いのは何故なのか。
それはアレです。
もっとヘンリー君と旅をしたいからv
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