イカーダどこいったんよ。
では、本編どぞー。
「っ……!?」
アベルが頭を撫でて、アリアはやっと顔を上げた。彼女の頬は赤く染まり、目の前のアベルを見つめる。
そのアメジストに見つめられると、アベルはいつものように釣られて頬が熱くなってしまうので……、
「っ……、えっと、うん。大丈夫だよ、うん……。僕の度量が小さいだけだから。僕は無理だけど、魔族と和解が出来たら素晴らしいことだと思う。……アリアの気持ち、大事にしてくれていいからね」
アベルは出来るだけ不自然にならないように目元を緩め口角を上げ、ゆっくりと視線を彼女から逸らす。
そして、アリアの頭を軽くぽんぽんと撫で、手を放したのだった。
アリアから顔を背けたものの、アベルの耳が赤い。
「アベルさん……(あ、耳が赤い……)」
照れてらっしゃるの……?
私の意見を否定しないでいて下さるなんて……、アベルさんは度量が大きい方だと思いますよ……。
アリアはアベルの横顔を眺めていた。
「……魔族と和解が出来たら、この世は楽園みたいになるのかな?」
「楽園ですか……?」
「……魔族じゃないけどスラりん達のように、魔物達の中には善い魔物もいるだろう? 魔物と人間がもっと仲良くなって、それが魔族にも伝わって仲良く出来たなら争いも無くなるはずだよね?」
「……争いのない世界……。そうなったら……いいですね……」
アベルが僅かにアリアの方を向いて話をすると、彼女は穏やかにはにかむ。
「……まあ、そんなこと無理だろうけどね。オレ達の誘拐だけじゃなく、あちこちで悪さしてるみたいだしさ。あいつ等は人間の敵でしかないよ」
「あ……はい。わかっています……」
ヘンリーが口を挟むとアリアは落ち込んでしまった。
すると、アベルがアリアを庇う発言をする。
「ヘンリー……! そういうこと言うなよ。思うことは自由だろ?」
「お前だってさっき無理って言ったじゃん」
「言ったけど、アリアの気持ちはアリアのものだろ? 否定することないじゃないか」
突如、アベルとヘンリーが口論を始めてしまうので、アリアは慌てて二人の間に割って入った。
「お二人共喧嘩しないで下さい。私の考えが甘かったんです。魔族から受けた傷は人々に陰を落としている……。わかっているんです。和解出来たとしても、急に平和になんて多分ならないと思います。……そんな簡単なことじゃない……。でも、そんな未来があったら素敵だなって……思っただけなんです」
アリアは“ごめんなさい”と、再び二人に頭を下げる。
夢を見過ぎだとわかってはいるが、そんな平和な世界を見てみたいとアリアは思うのだった。
「アリア……。うん、そんな未来が来るといいね」
アベルはアリアの意見に目を細める。
アリアに僕と違う考えがあったとしても、それはそれでいい。
彼女と僕は違う人間なのだから。
これからどんな未来が待ち受けているかは、今はわからないけど、いつか平和になるといいな……。
「……アリアさんは魔族の所為で呪いを受けたのに、恨んでないのか?」
「え……」
「いや、だって、魔族と和解しようなんて言うからさ……。せ……背中の傷酷いって、聞い……たし……、呪われたままだし……」
ヘンリーは言い辛そうに言葉を紡いでいった。
ところがアリアはというと、
「……あ、えと……、憶えていないからかもしれませんが、恨んではいないです」
あっけらかんと言ってのけ、微笑む。
「マジか!? お人好しだな!」
「ふふっ、そうですか? 私、起こる事象は起こるべくして起こっていると思っているんです」
「ん? どゆこと?」
アリアの哲学的な物言いにヘンリーは首を傾げた。
「……この身に起きることは……、何か気付かなければならないことがあるから……。なら背中の傷も、呪いも必要なことだったんじゃないかと。記憶を失っている今も、何か意味があるんだと思うんです。全部が全部、必要なこと……」
「アリア……」
凛とした顔で話すアリアに、アベルはそれ以上何も言えずに彼女を眺める。
起こる事象は起こるべくして起こっている……。
何か気付かなければならないことがある……。
毎回、僕の父さんは殺される。
毎回、僕は母さんをさがす旅をする。
僕は一体何に気付けばいいのだろう……?
アリアの言葉は人生を繰り返すアベルにとって重く、深く心に刺さった。
「なるほど、わからん! アリアさん、オレには難しいや! オレはオレを攫った奴等を許せないし、義理の母親だってムカつく。あんなとこに連れて行ったゲマも許せない。それしかわからないよ」
ヘンリーは頭を抱えて左右に振っている。
「……私もはっきりわかってはいないんです。気付くのは多分……、ずっと後なんだと思います。もっとずっと、先の未来……。私がおばあちゃんになった頃なのかもしれませんね」
――ふふっ、私、また変なこと言っちゃいました!
恥ずかしいのか、アリアは頬っぺたを両手で挟んでぺちぺちと叩いた。
「おばあちゃんて……、アリアさんの年老いた姿想像出来ないけどな……」
「そうですか? ここやここに皺がよったり、腰が曲がったりすると思いますよ……?」
ヘンリーに指摘されると、アリアは鼻の下と目尻を指差し、腰をトントンと叩いてみせる。
皆、いつかは行く道ですよ、とアリアは微笑んでいた。
そんなアリアにアベルはつい、口を滑らせる。
「アリアは歳を取っても綺麗だと思うよ」
髪の色が真っ白になっても今の髪色と然程変わらないだろうし、性格も穏やかだからこのままなんじゃないかな……。
――隣でそれを見届けることが出来たならいいな……。
アベルは艶めく髪と彼女の笑顔をじっと見つめた。
「へっ……!?」
「あっ……、っ、……な、何となくそう思っただけ! も、もう行こう!」
アリアの視線がアベルと合って見開く。
それに気付きアベルは慌てて口元を覆うと、くるっと反転し彼女に背を向け部屋を出て行ってしまった。
「っ、アベルさんっ! 置いて行かないで下さいっ!」
アリアもアベルを追って走って行く。
「……アベルの奴、アリアをいちいち褒めないと気が済まないんだな。ははっ(まあ、確かにアリアは綺麗に歳を取りそうだけども)」
部屋に残されたヘンリーが呆れたように笑った。
「ははは……。今回の主殿は奥手な部分もあったりしますが、情熱的な方のようですね」
「ん? 今回って何だ?」
ピエールの言葉にヘンリーは“どういう意味?”と首を捻る。
「はっはっはっ! ヘンリー殿、参りましょうか!」
「あ、ちょっとピエール? おーい!」
ピエールが高らかに笑い声を上げると、アンドレに「行こうか」と指示をして部屋を出て行くので、ヘンリーも続いたのだった。
◇
そうして、アベル達はイカダを求めて水路までやって来たのだが……。
「な、ないっ!!? な、なあ、アベル。確かここに乗り捨てたよな? な?」
水路を遠くまで見渡してみるが、イカダらしき影は見えなかった。
ヘンリーは
「……うん、けど……十年前だからね……。あっても壊れてたかもしれないよ?」
「っ、そうだった!! ここでのことを昨日のことのように憶えてたから抜け落ちてたぜ……。そうだよな……十年か……。無くなってたって不思議じゃないよな……」
――あぁ~!! 時間を無駄にしちまったぁああああ!!
ヘンリーはその場に膝をつき、頭を抱え崩れ落ちた。
「……ね、ピエール、君はイカダが無いって知らなかったのかい?」
「……ええ。そんな細かいところまで憶えておりませんよ……」
アベルはこそこそとピエールに訊ねるが、ピエールもそこまで記憶を
そんな中、水中を覗き込んだアリアが呟く。
「……綺麗なお水ですね。あ、お魚が泳いでいますよ! 釣り竿があればお魚が釣れましたね(焼き魚にしたら美味しいかしら……)」
何気ない一言だったのだが、瞬時にアベルの脳裏に十年前の彼女が蘇る。
“ここの水綺麗だなって。ほら、魚が泳いでるよ?”
昔の彼女が同じことを云っていた。
あの時は切羽詰まっていたのに、彼女の言葉に毒気を抜かれたっけ。
今はヘンリーが自身を責めて嘆いているのに、アリアはのんびり魚を目で追っている。
懐かしい彼女を垣間見た気がして、アベルの口角が上がったのだった。
「……………………っ、うん! いつか釣りに来よう! たくさん釣って、焼き魚をご馳走するよ」
「え? あっ、はいっ。ありがとうございます……(焼き魚のこと、何でわかったんだろう……)」
――アベルさんてすごい……。
たまたま口を衝いて出た言葉だったが、アリアの中でアベルの評価が上がる。
アベルを見たアリアの瞳はキラキラと輝いていた。
「……え、えと?(な、なんだろ……、アリアの瞳がキラキラしてる???)」
――可愛い……。
理由はよくわからなかったが、アベルはアリアに上目遣いに見られ悪い気はしなかった。
「…………、……アリアさんもアベルも、釣りって……なに悠長なこと言って……、もーー……しゃあねーなぁ……」
独り嘆いていたヘンリーが復活して立ち上がる。
「アベル」
「ん?」
「イカダがないんじゃしょうがない。ラインハットに戻ろうぜ!」
「…………了解。じゃ……」
“リレミト!”
アベルが脱出呪文を唱えると、一行は古代の遺跡を後にした。
無駄足っていうwww
脱線楽しかった……。
こういうのが好きなのです……蛇足蛇足www
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読んでいただきありがとうございましたっ!