いい加減ひらがなで何話とか書くのアホっぽいので止めますね(ハイドーゾ)。
というわけで、レヌール城に即行なんて行かないよの巻きです。
では、本編どうぞ!
次の日――。
「……んー……!」
アベルは目を覚ますと半身を起こし、背伸びをした。
そして隣のベッドを見てみると、アリアが横たわるパパスの額に濡れタオルを置いているのを目撃する。
「……あ、あれ? アリア何やってるの……?」
『あ、おはよう、アベル。パパスさん熱があるみたい』
「おは……、え?」
アベルはベッドから下りると、パパスの傍に寄って声を掛けてみた。
「父さん」
「ハックション、ハックション! うう、頭が痛い……。どうやら風邪をうつされてしまったらしいぞ。なさけないことだ」
……真っ赤な顔でパパスが“はぁはぁ”と苦しそうに息をしている。
「はぁ……、すまんなアベル。今日はサンタローズに戻れそうにない……、構わないか……? はぁ、はぁ……ぜぇぜぇ……」
「ね、寝てていいよっ!」
パパスは半身を起こそうとしたものの、相当辛いのか途中で断念しベッドに沈んだ。
その拍子に額に置かれた濡れタオルが床に落ちた。
アベルは慌てて捲れた布団を掛けてやる。
『……辛そう。お薬、分けてもらえるといいんだけど……』
アリアは弱り目で床に落ちた濡れタオルを拾うと再びパパスの額に当てた。
「僕貰って来るよ。アリア待ってて」
『うん、待ってるね』
……パパスをアリアに任せ、アベルは一階へと下りることにした。
◇
アベルが一階に下りると、ロビーにはビアンカがいる。
やって来たアベルに気が付いたビアンカは片手を軽く振って笑顔をみせた。
「あ、おはようアベル。昨日言ってたこと、どうなった? パパスおじさん、上手く説得できそう?」
「父さんが風邪引いちゃった。ビアンカのお父さんの薬、分けてもらえないかな……?」
「大変っ! わかったわ。聞いてみるね!」
アベルからパパスの様子を聞いたビアンカがすぐさま家族の居る部屋へと駆けていく。
……昨夜、パパスに風邪を引かせれば――とは言ってはいたが、本心ではなかったのだろう。
慌てていたから戸枠を潜る際に手をぶつけて「いたっ!」と声を上げた。
それから数分もしない内にバタバタと、おかみさんを連れてビアンカが戻って来る。
おかみさんの手には薬の入った袋が握られていた。
「はぁ……すまないねぇ……、坊ちゃん。この薬多めに貰って来たから飲ませてやってちょうだい。すぐには効かないだろうけど、うちの人も今朝には効き目が出てきたからじきによくなると思うよ」
「ありがとう、おばさん」
おかみさんは多目に買ったという風邪薬を分けてくれるらしく、薬袋を差し出してくる。
アベルはお礼を告げて風邪薬をありがたく受け取った。
「っ、ごめんね、アベル……。私が昨日あんなこと言ったから……。本当にこんなことになるなんて思ってなくて……」
「ううん、大丈夫だよ! ビアンカは悪くないよ、気にしないで! じゃあ、後でまた下りて来るから!」
……ビアンカが今にも泣き出しそうな瞳で涙を湛えている。
アベルは彼女を安心させるように微笑んで、薬を手に階段を上がって行った。
「優しいいい子だねぇ」
「……っ、うん……アベルって優しい……」
おかみさんが走っていくアベルの背中を見送りながら零すと、ビアンカも目を擦って深く頷いた。
◇
……アベルは階段を駆け上がり、三階の部屋へと戻って来ると勢いよく扉を開く。
「お待たせっ! ……あ」
「あ、しー……。今眠ったところなの」
部屋に入るとパパスのベッドの隣でアリアが椅子に腰掛け、人差し指を一本口元に当てている。
パパスは「はっ、はっ、はっ」と浅い呼吸を繰り返し、時折「うーん……うーん……」と唸っていた。
「……薬、貰って来たよ」
「ありがとう、起きたら飲ませるといいと思うよ」
アベルは貰った薬を枕元に置いて、パパスの様子を窺う。
「うぅ……ぅーん……」
パパスは眉を
それに汗もすごい。
そんなパパスの首元に滲む汗を、アリアはそっと乾いたタオルで拭う。
「アリアは……」
「んー……?」
「タオルは触れるんだね」
「え? あ、本当だ……」
アベルが指摘するとアリアは手元のタオルを見下ろした。
確かにタオルの感触を感じるし、触れている。
「昨日、ビアンカともぶつかってたし……。触れるものと触れないものがあるの?」
「んー……試してはいないけど……。アベルの地下室に居た時は何にも触れなかった気がする。でも、次の日には窓に触れたし、今はこうしてタオルにも触れる」
「徐々に触れるようになってるのかな?」
「ね、だといいなぁ……」
アベルに訊ねられ、アリアは汗を拭いたタオルを枕元に一旦置いた。
そしてパパスの額にある温くなった濡れタオルを取ると、ベッドの傍に置いた水を張った桶にそれを浸す。
“チャプ。”
タオルが水の中に沈むと冷たい水が温くなったタオルを冷やしていく。
冷えたそれを取り出し、アリアは絞って形を整え再びパパスの額へ当ててぺたぺたと押さえた。
ぴちゃぴちゃ、と水が小さく弾ける音がするが、音が小さすぎてアベルは気が付かなかった。
「……ありがとう。父さんの看病をしてくれて」
「ううん、アベルにはいっつも守ってもらってるし、パパスさんにもここに来るまで守ってもらったし、お礼」
「ふふっ、そっか……」
アベルは床に膝立ちしてベッドに肘を付け、アリアの一連の動作を見守る。
――父さんの看病してくれた人なんて初めて見たな……、やっぱりアリアは
アベルは何故か嬉しくて堪らなかった。
「……でも、あれよね」
「ん……?」
「タオル、硬く絞ってるつもりなんだけど……、力が足りないみたいで」
「え……?」
アリアの言葉にアベルは身を乗り出しパパスを窺う。
アリアはまだパパスの額のタオルにぺたぺたと触れていた。
「うーんうーん……、冷たい……」
……パパスの
額に当てたタオルの様子がおかしい気がする――とよく見てみると、絞りが甘かったのかパパスの首の後ろまで水が滴っていたらしい……。
「わっ、びちゃびちゃ! かしてっ!」
「っ、ごめぇん!」
アベルは慌てて濡れタオルを取り上げ、ぎゅっと余計な水分を絞った。
「……ふぅ。これでいいかな?」
……程よく水分を含んだ冷たいタオルをパパスの額に当てて一呼吸。
「……ご、ごめんね。何か上手く絞れなくって……。面目ない……(子供の力ってこんな弱いの……? 大人の私ならもっと上手くできるのに……!!)」
アリアは自分を情けなく感じたのか、顔を覆って俯いてしまう。
その間にアベルはパパスの濡れた枕を自分のものと交換した。
「大丈夫大丈夫、ちょっと濡れただけだよ。枕も替えたし、父さんさっきより呼吸が楽そうだよ?」
そう言ってはみたものの、交換した枕には立派な世界地図が描かれている。
「ぅう……ちょっとどころじゃ……びちゃびちゃじゃない……。……っ、大人としての威厳が……。っ、それかしてっ!」
私何やってんだろ……、何かアベルの前だと失敗ばっかりだな……、嫌になっちゃう。
……なんて思いながら、アリアは濡れてしまった枕をアベルの手から奪った。
「いや、だからアリアは子供でしょ……? 僕もだけど」
「っ、そうだけどっ! ……っ、バルコニーに干してくるね」
「え? あ、うん……」
アベルに“僕たちは子どもだよ”と云われたアリアは濡れた枕を持ってしょぼくれたように項垂れ、部屋から出て行ってしまう。
「……アリア……、気にしなくていいのにな……」
――
……
何が
アベルは自らの不思議な感覚に頭を左右に振り振り。
「ふぅ……。父さん、僕また後で来るね」
ため息を一つ。
パパスにそう告げて、アベルもアリアの後を追うように部屋を出た。
アリアぽんこつ過ぎる……。
その内使い物になるといいのですが。
そして今更なんですが、原作だとアベル少年期は一人称“ボク”なんですよね……。
“僕”のままでもうええわ……。
むしろ“僕”の方が都合がええわ。
絶対そうやわ。
悔しい……(無念)。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!