太后がこんな所になぜ……?
では、本編どぞ!
◇
暗い通路を進んで行くと、薄暗い灯りがぼんやりと見えて来る。
そこには先程の牢よりも少し広めの牢があった。
高貴な身形をした女性が牢の鉄格子を掴み、ガタガタと揺らしている。
その女性の様子を先に来ていたヘンリーが訝しい顔で見ていた。ヘンリーは女性に話し掛けようとはせず、壁の陰に隠れ女性からは見えない位置で彼女を観察しているようだった。
女性は「はよう出してたもれと言うておろう! これだから平民は……!」とキィキィ喚きながら憤慨している。
「ヘンリー……?(声掛けないで何をしてるんだ……?)」
「……あ、アベル。ちょっと……、あの人の事なんだけどさ……」
「う、ん?」
女性を指差すだけで近寄ろうともしないヘンリーの様子がおかしい気がしたので、アベルは彼をそのままにし とりあえずアリアと共に牢の女性に話し掛けることにした。
「あの……」
「おお! よくぞ来てくれた! わらわはこの国の太后じゃ! 早くわらわをここから出してたもれ!」
「……太后さま……?(あれ? 太后さまって、お城の中にいらっしゃるのでは……?)」
自らを太后と名乗った女性が鉄格子を揺らす。
アリアはもしかしたらお化けかもしれない可能性も捨てきれなかったのか、アベルのマントを掴んでついて来ていた。
「う、ウソだろ……。そんなはず……」
後ろでヘンリーが目を見開いている。
「どうした? わらわが太后だと信じられぬと申すかっ? ええい、はがゆい!」
ガチャガチャガチャガチャ!!
女性は髪を振り乱し必死の形相で鉄格子を激しく揺らすが、扉が開くことは無かった。
「っ……(コワイ……!)」
アリアは女性の顔が怖かったのか、アベルの背後に隠れてしまう。
「…………えっと……大丈夫? 後ろに居ていいからね」
「ぁ、はい……。ありがとう……ございます……」
アベルも女性の顔がちょっと怖かったが、アリアの壁になることにして、女性の話の続きを待った。
「……たしかに十年前、ヘンリーを
女性は話し終えると、床に膝を落として泣き崩れてしまう。
「…………う、ん?(どういうことだ?)」
――この人が太后……?
アベルは女性の話を聞き終えると腕組みし、首を捻る。
顔は怖かったが、泣いている女性を見ると可哀想に思えて、アベルは一声掛けようと鉄格子に近付いた。
刹那、“ガバッ!”と。
泣き崩れて
「わぁっ!!?」
「……出してたもれ!」
「っ……、あなたは本当に太后なのですか!?」
アベルは驚いて女性の指を慌てて剥がそうとするが、彼女は放すまいと必死だ。
涙で濡れた女性の顔は鼻水も
アリアの涙とはえらい違いだ……服に付かないといいな、と、アベルはそう思いながら何とか女性の手を解いた。
「だからそうだと申しておろう! 反省もしておるわ! ここからわらわを出せば褒美を取らせようぞ! なっ? オホホホ……」
早くここから出してたもれ……、と女性は今度は上品に半笑いしてみる。
泣き落としが効かぬなら、笑顔でどうだ! とでもいうのか。
ところが、アベルには笑顔も効かなかったようで……。
「……あなたが太后だというなら、二つ訊かせて欲しい」
アベルは攫われた女性達について訊ねていた。
「なんじゃ? それを申したら出してくれるのかえ?」
「なぜ、デール王のお妃候補を集めているんだ? なぜ彼女達を石に変える必要が……?」
「? な、何のことじゃ!? わらわはそんなことは知らぬぞえ? デールはまだ成人しておらん。わらわの可愛いデールに妃など まだまだ先の話じゃ!」
アベルの質問が何のことか思い当たらないのか、女性は目を瞬かせ“キッ”とアベルを睨み付けた。
今度は凄んでみる作戦なのか……?
「…………、…………じゃあ、アリアを攫うように命令していないと?」
「アリア……? 誰じゃそれは……。はっ! そういえば、時折若い娘の声が通路から聞こえたがそれが攫われた
“だからここから出してたもれ!!”
アベルの問いに、やはり女性は何も知らない様子で自分は無関係だと訴える。
「……どういうことだ……?(何も知らなそうだな……)」
「……アベルさん。……この方……、何も知らないのでは……?」
「うん……、そうみたいだね……」
アリアがマントを引くと、アベルは振り向いて頷いた。
――アリア僕のマントずっと掴んでてカワイイなぁ……。
身長差で自然といつも上目遣いになってしまうアリアは、明るい中であろうと薄暗い中であろうと関係なく、アベルには可愛く映ってしまうようである。
「……一先ず、先を急ごう。判断するには材料が足りないみたいだ」
「はい……」
アベルはアリアの手首を掴んで、鉄格子から離れる。
背後の鉄格子から「ええい行くでない! ここから出してたもれ! うっうっうっ」と女性の悲痛な声が聞こえたが、ここに居ても何も出来ないので先に進むことにした。
アリアが彼女を振り返り「解錠呪文、憶えてなくてごめんなさい……」と小さく呟くので、
「アリアの所為じゃないよ」
アベルはアリアの頭をぽんぽんと撫でてやる。
「ヘンリー、行こう」
「どういうことだ!? あれは どう見ても太后……。オレの義理のオフクロじゃないか。なんで城の中でふんぞり返ってるはずの女が、こんな地下牢にいるんだ!?」
ヘンリーの元に戻って声を掛けると、彼は目を数度瞬かせ、眉間に皺を寄せていた。
「うん、その答えが多分この先にあるんだと思う。…………だよね、ピエール?」
「え……。あっ! はい! その通りです!!」
急に振られたピエールは驚いたが、深く頷いたのだった。
そうして太后らしき女性と別れ、通路を進んで行く途中で【くさった死体】の群れと遭遇した。
「きゃぁああああっっ!! ベギラマっ! ベギラマぁああっ!」
アベルがアリアを庇おうとしたものの、アリアは三体の【くさった死体】の群れを見た途端、【ギラ】の上位呪文【ベギラマ】を二度唱え、即時に一掃してしまう。
「っ……!?(瞬殺っ!?)」
「強っ!!」
「はぁ、はぁ……。あ、あれ……?(倒しちゃった……!?)」
アベルとヘンリーが呆気に取られる中、アリアは涙目で一瞬で倒れた【くさった死体】達を見下ろす。
【くさった死体】達は燃やされ それぞれ昇華されていくのだが……、三体の内、一体が揺らりと立ち上がった。
「ヒッ!? アベルさんっ!」
「えっ、あっ、アリアこっち!」
アリアが立ち上がった【くさった死体】に驚き、身体を竦ませると、アベルは彼女の手を引き、背に隠す。
「っ……ヤダヤダヤダ……!!」
「…………えっとー……」
【くさった死体】が仲間になりたそうにアベルを見ていた。
アベルは背中で震える彼女を窺いながら【くさった死体】の動向を探る。
「オ、オデ……、スミス……。ナカマニ……シテイタダケルト……トテモウレシイノデス」
【スミス】と名乗った【くさった死体】は自分の胸元に両手を当て、頭を下げる。
片言ではあるが、礼儀正しさを感じた。
あ、アベル二つ訊かせろと言って、三つ訊いてるわw まぁいいや。
スミス……。
アリアは追い詰められると爆発するタイプのようです。
先手必勝ってやつですね!
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