神の塔にやって来ましたが……。
では、本編どぞー。
森の中の祠を出ると、アベルは地図を片手に南を指差した。
「森から出てあの山の間を抜けて行くと、神の塔があるんだ」
「…………、…………あ、アリアさん、オレと一緒に歩こうぜ」
アベルの発言をまたも無視し、ヘンリーはアリアに馬車の後ろに行こうと誘う。
「え? あ、はい……」
アリアはチラッとアベルを見てから弱り目で僅かに はにかむと、ヘンリーと共に馬車の後ろへと行ってしまった。
「…………、ヘンリー……。アリア……」
「……主殿。そう気になさるな。直にヘンリー殿もわかって下さるはず」
「……ああ」
ピエールにぽんぽんと腕を叩かれ、アベルは少々落ち込みながらもパトリシアの手綱を引いて歩き出す。
パトリシアが「ブブブブ……」と小さく鳴いて優し気な瞳でアベルを見下ろしていた。
“元気出して”と云っているように聞こえた。
「パティ……、ありがとう」
――ヘンリーに謝った方がいいのかな? こんなこと初めてだからどうしていいかわからないな……。
ヘンリーがなぜ怒ったのかはわからないが、この先に起こることを知っているアベルは早く仲直りしたいと思う。
――ヘンリー。
君とはもうすぐお別れなんだ。出来れば仲直りしてから別れたいよ……。
◇
あれから一行は何度か魔物と遭遇しつつもアベルの案内で山の中にある【神の塔】へと無事辿り着いた。
「ここが神の塔だよ」
「神の塔……ですか……」
アベル達の前にツタや植物が古びた壁に這う、長い年月を感じさせる塔が
少し遠巻きだが塔の真ん中に出入口なのだろう、閉ざされた青い大きな扉が見えた。
アベルの案内にアリアが塔を見上げていた。
「ずいぶん古い塔だな。こんな山の中に塔があったなんて知らなかったよ」
ヘンリーはアベルの方には見向きもせずに、塔を見上げてからアリアに微笑み掛ける。
「……ヘンリー。僕の予知能力のことなんだけどさ」
アベルは塔を前にしながら青い扉に近づくことなくヘンリーに話し掛ける。
ヘンリーからの返答はなく、彼は黙り込んでいた。
「……あっ! 私扉の方へ行ってますね! ピエールさんも行きましょう?」
「え? あ、はい」
アリアが急に挙手してピエールを連れ、青い扉の前に行ってしまう。
「アリア……?」
「……アリアさん……」
アベルとヘンリーだけがその場に残された。
二人は沈黙しながら、青い扉に触れるアリアの様子を見守る。
「……ヘンリー……ごめん。僕ヘンリーに予知能力のこと言ってなかった」
「…………、…………いいって。話せなかったんだろ?」
アベルが謝罪の言葉を口にすると、ヘンリーは沈黙の後に小さく零した。
「え……? あ、ああ……、突然降って来るからいつもわかるわけじゃなくて……、言っても混乱するかなって思って言えなかった。……説明が難しいんだよ」
本当は予知能力ではなく、自分が知っているのは過去の出来事なんだと正直には言えないので、アベルは出来るだけ わかりやすく伝えてみる。
すると、ヘンリーの口角が上がった。
「……オレはお前の親友だよな?」
「ん? ……もちろん! 十年、一緒に頑張って生きて来た親友だ。奴隷時代は臭かったから臭い仲……」
「それはもういいっての! お前がオレをそう思ってくれてんなら それでいいさ!」
アベルの“臭い仲”発言に、バカ言ってんじゃねぇよとヘンリーが吹き出して、いつもの明るい笑顔を見せる。
「……ヘンリー……。ありがとう、君は人間で唯一の親友だよ……」
「人間でって……ピエールがいるじゃん。って、彼は魔物か……。お前他にも友達いないのかよ……、ってオレもいないけど……。あ、アリアがいるか」
“人間での親友はヘンリーだけだよ”とアベルが伝えると、ヘンリーは嬉しいような照れ臭いような笑みを浮かべて、アリアを見る。
アリアは青い扉の前で、開かない扉に首を捻って鍵穴を覗き見ていた。
「……僕にはビアンカっていう友達がいるけど、アリアは違うよ」
「おお! そういやアベルには もう一人幼馴染がいたんだったな! ん? アリアは違うってどういうこった?」
「彼女は友達じゃない。少なくとも僕にとってはね」
アベルもアリアを微笑ましく眺めながら口にする。
「…………、それって……、つまりそういうこと?」
ヘンリーが瞳を数回瞬かせ、アリアから目線をアベルに移し訊ねた。
「……………………、……………………、……………………そ、そういうこと!」
アベルの頬が徐々に赤く染まってゆく。
「へえ……。やっと認めるんだ」
「っ……、しょ、しょうがないだろっ? あん……、あんなに可愛い子がずっと傍にいたらどうしたって気になるに決まって……」
ヘンリーにジト目で見られてアベルはしどろもどろになってしまった。
「いや、アベルお前、彼女と再会してすぐだったろ……?」
「っっ!!? なっ、ヘンリー何を言って……!!?(何でわかるんだ!?)」
「はははっ! 最初っからバレバレだっての!(しかも、散々目の前でイチャついといて今更だっての!)」
耳まで真っ赤にして俯くアベルの肩をヘンリーは笑い飛ばしてバシバシと叩く。
「っ、ヘンリー! シィッ! 静かにっ、声が大きい。……か、彼女には黙っておいてくれないか……? 嫌われてはいないと思うけど、彼女が僕をどう思ってるかわからないんだ。これから旅を続けるのに気まずくなるのだけは避けたい」
「………………任せろ。オレはお前の親友だぜ? アリアには一切何も言わないから安心してくれよな!」
アベルがヘンリーに声を小さくするよう告げてから小さな声でおずおずと呟くように話すと、ヘンリーはサムズアップして頼もしい笑みを浮かべた。
「……よかった……」
ほっ、とアベルは安堵の溜息を漏らす。
「にしても、彼女確かに可愛いけどさ、記憶なくてもいいのかい……?」
――昔のこと忘れられてて悲しくないの? 今のアリアは別人みたいでオレは悲しい。
ヘンリーはずっとアベルに訊いてみたかったことを訊ねていた。
「……それなんだけど、彼女がもしアリアじゃなくても、一目見た時から僕は多分…………って、そんなこと訊かないでおくれよっ!」
――何で僕、ヘンリーに恥ずかしいことを言ってるんだよぉおおっ!!
アベルはつい正直に答えてしまったことに羞恥心が湧き上がり、顔を手で覆って俯いてしまう。
耳まで真っ赤に染まっていた。
「一目見てって……うわ……、おまっ……それってまさか……一目惚れってヤツか……? マジ……?」
ヘンリーも釣られて頬を赤く染める。
「しーーっっ!! ヘンリー! 声が大きいって!」
「いや、お前の方が声でかいって……! っ……前に大神殿で一目惚れしちゃえばとは言ったけど…………、したんか……。お前、“一目惚れなんかあるのかな?”って言ってなかったっけ?」
「…………っ、そう思ってた時期が僕にもありました……」
アベルは赤い頬のままヘンリーから視線を逸らした。
「はぁーー……、マジか……」
ヘンリーは口元に手を当てて瞬きを繰り返す。
「っ……、な、何だよ……。こういうのは理屈じゃないんだよ……」
「……いや、実はオレもマリアさんに……」
アベルが照れたように口を尖らせると“お前も正直に言ってくれたから……”、ヘンリーはもじもじしながらマリアへの想いを吐露した。
「え……。そうなのかい? でも、アリアにちょっかい出してたよね……?」
「……っ、だな。オレの場合、アリアにも多少未練があったし……。あっ、けどもう完全に諦めたから! 王族とはいえ、やっぱ二人同時にってーのは無理があるよなっ!」
「……へんりぃぃくぅうん?」
ヘンリーの返答にアベルの眉間に皺が寄る。
こめかみには血管が浮き出ていた。
「っ、今はマリアさん一筋だって! アリアはただの友達だって!」
「…………ふーん?」
「っ……あーあ、マリアさんとまた会えたらなぁ~! 会いたいなぁ~!」
アベルの険悪な態度に、気を抜くと震えそうになるのでヘンリーは両手を頭の後ろで組んで塔を見上げた。
――アベル、お前アリアが絡むと めっちゃコワイ顔してんぞ……。
「そっ、そろそろ向こうに行こうぜ。アリア達待たせてるし……」
「……うん、そうだね」
そうしてアベルとヘンリーはアリア達の元へと歩き出した。
お気付きの方はお気付きだったかもしれませんが、アベルはアリアに一目惚れだったんですねえ……。
大神殿でアベルが言っていた「……一目惚れなんてあるのかな?」は実はフラグだったといふ。
こういうフラグをあちこちにばら撒いてあるので、物語を進めながら回収していきたいと思います。
フローラが確かアベルに一目惚れなんですよね、逆もいいかと思って書いてみました。
----------------------------------------------------------------------
評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。
読んでいただきありがとうございましたっ!