修道院にて一泊。
では、本編どぞー。
「……ラインハットのことは気になる所だけど……、とりあえず今日はもう遅いし、寝ようぜ」
「……ああ、そうしよう。アリアが居ないんじゃ意味がないし……」
ヘンリーがベッドに身体を横たえると、アベルも隣のベッドに腰掛ける。
「ははっ……、認めた途端はっきり言うのな~」
「ははっ……。どうせヘンリーにはバレバレみたいだし、いいかなって」
頭の後ろに手を組みながら、ヘンリーはアベルの方へと顔を向けた。
アベルは笑みを浮かべてベッドに身体を横たえる。
「そういや、お前って結構情熱的なとこあるよな」
「そうかな?」
「おう、花なんかプレゼントしちゃったり、恥ずかしがってたかと思ったら急に積極的になってたり、奥手かと思ってたら手が早かったり……、ちぐはぐで見てておもしれーわ」
「……アハハハ……そう? ヘンリーはよく見てるなぁ……」
「まあな~、お前のことを心配して十年。そろそろ、お役御免
アベルがヘンリーの方へと顔を向けると、ヘンリーは天井を見上げていて、欠伸を噛み殺し そのまま眠りに落ちていった。
「……ヘンリー……。君は僕の親友だ。どの世界の君も、僕と仲良くしてくれてる……。面と向かって言うのは恥ずかしいけど、いつも感謝してるよ。ありがとう」
昔は嫌な奴だと思っていたヘンリーだったが、十年の奴隷生活ではヘンリーに何度も助けられた。
それは今まで繰り返したどの世界でもそうであった気がする。
アベルは心地良さそうに眠るヘンリーに「マリアさんと上手くいくといいね、応援するよ」と囁いて目を閉じるのだった。
そして夜が明けた――!
◇
「アリアに会えないってどうして……」
アベルは朝食を摂り終え【特別室】の前でショコシスに訊ねる。
「アリアさんはマザーのお話を聞いていらっしゃいます。朝の分が終わるまで少々お時間が掛かると思いますわ」
ショコシスの手には分厚い本が数冊握られ、部屋を追い出されたのか「早く終わらないかしら……」と扉に背を預け待っていた。
「朝の分……?」
「昼の分が始まるまでは少し休憩を頂けるはずですわ。その時にお会いになれば宜しいのでは?」
講堂の掃除をするシスターがやって来て、そんなことを言い残して去っていく。
「ひ、昼の分……!? まさか夜の分もあるとか……!?」
「……あー……、みたいだな。さっきマリアさんに会ったらそんなこと言ってたぜ……」
席を外していたヘンリーが戻って来て、気まずそうに眉を顰めていた。
「な、何で……」
「……お説教……らしい」
「お説教……??」
「……ほら、アリアってさ、置手紙置いて出てきたって言ってたろ?」
「あ、うん」
「……マザーの逆鱗に触れたらしいんだよなあ……。だから当分の間、修道院から出して もらえないんじゃないかって……マリアさんに教えてもらった」
――ははっ、何かオレだけ朝から楽しくてごめんなっ!
アベルの元に来る前マリアと楽しくお喋りしていたヘンリーは頭を掻き掻き、笑って軽く頭を下げる。
「ぇぇええええっ!? そんなっ!!!?」
楽しそうなヘンリーとは対照的にアベルの顔は引き攣っていた。
――昨日の嫌な予感が的中してしまった……!!
アベルは頭を抱えガクッと膝から崩れ落ちる。
「アベル? おい、大丈夫か?」
「っ……、大丈夫じゃない。……全然、大丈夫じゃないよヘンリー! せっかくアリアの記憶が戻せそうなのに……!」
ヘンリーを見上げたアベルの顔は動揺に満ちて
「……ははは……。昨日、アリア帰りたがってなかったもんな……。こういうことだったんだな」
「っっ……知っていれば馬車に残して……!!」
「いや、それはそれで心配になってたろ?」
「そうだけどっ!」
「とりあえず朝のお説教が終わるまで、情報収集でもして待とうぜ、ほら行くぞ」
(アリアぁ……)
アベルは首根っこを掴まれヘンリーに引っ張られて行った。
「オレの情報収集って言えば……、あっ! マリアさん!」
ヘンリーが二階に向かおうとするとマリアが丁度講堂にやって来て、一番後ろの席へと着き、本を開く。
と、ヘンリーはマリアに近付き、再び彼女に話し掛けたのだった。
「まあ、ヘンリーさん。先程はありがとうございました」
「こちらこそ! あのさ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど、少しいいかな?」
「ええ、構いませんよ。今度はどんなお話でしょうか」
マリアが顔を上げ、ヘンリーに微笑み掛けてくれる。
「マリアさんて、お兄さんの他にご家族は……?」
今訊くべき内容は神の塔に関する事なのだが、ヘンリーは忘れているのか、恐らく個人的な興味であろう質問をマリアに問い掛ける。
すると、マリアがゆっくりと語り出した。
アベルは首根っこを掴まれたまま【特別室】へと視線を注ぎながら、黙ってマリアの話を聞く。
「私は子供の頃から兄と二人だけで生きてきたんです。生活が苦しくてもうダメかって思ったとき、光の教団に勧められ兄は兵士になりました。おかげで私も教祖さまのお世話の仕事をいただいて とても感謝していたのです。ですが、多くの人を犠牲にしてまでりっぱな神殿を作るなんて私には理解できません。兄のことも心配ですが、私にできるのはこうして祈ることだけ……」
話し終えたマリアは手を組み合わせ祈るように瞳を閉じた。
「そうだったんだ……(マリアさんのお兄さん……無事でいるかな……)」
マリアの話にヘンリーは、彼女の兄ヨシュアが罪に問われていないか心配になるのだった。
そんな時、連れて来られ黙って二人の話を聞いていたアベルがヘンリーの手を退けて口を開く。
「……マリアさん」
「ぁ……、アベルさん……。ど、どうかされましたか……?」
アベルが話し掛けた途端、マリアの頬が“ぽっ”と赤く染まった気がした。
「……お兄さん、きっと生きているよ」
――“絶対、死なないで”と言ったんだ。きっと彼は生きてる。
アベルは何故か彼が生きている気がして、マリアに微笑み掛ける。
「ぁ、は、はい……、ありがとうございます……」
マリアはアベルの元気付けてくれるような微笑みに、嬉しそうに微笑み返したのだった。
「っ……!」
マリアのその様子にヘンリーは息を呑む。
――マリアさんはアベルの事…………けど、オレは諦めないぜ! だって、アベルにはアリアがいるからな!!
マリアと居ると、ヘンリーの心は安らぐ。
どうにかしてマリアと距離を縮めたいヘンリーは、少しでも多くの時間を彼女と過ごし、交流を図りたかった。
それからヘンリーはしばらく他愛のない話をマリアと楽しんでいた。困ったことにすっかり神の塔のことなど忘れているようである。
アベルはというと、親友の楽しそうな笑顔に無言のまま それに付き合っていた。
◇
「いや~、付き合わせちゃって悪かったな!」
「……いや、いいけど……(ヘンリー、神の塔のこと忘れてる……?)」
マリアと別れヘンリーはほくほく顔、対してアベルは無表情でパイプオルガンの傍に居るシスター(以下パイシス)に目をやる。
「そういえば……修道女も修道僧なんだよな。あの塔のこと相談してみようぜ」
“忘れてたわけじゃないからな!”
アベルの視線に気付いてヘンリーは「わっはっはっはっ!」と高らかに笑った。
マリアとお喋りした後だからなのか、妙にテンションが高い。
(ヘンリーもわかりやすいよ……。)
アベルはクスッとしてしまった。
「……アリアはまだ休憩じゃないみたいだし、彼女に話を訊いてみようか」
先程からちらちらと【特別室】を窺っているのだが、アリアが出て来る気配は無い。
二人は講堂のパイシスに話し掛けることにした。
ヘンリー君が幸せになる番。
アリアは黙って出て行ったので、お説教くらってます。
何だかんだ修道院の方々に可愛がられているアリア。
そりゃ、十年も居ればね……(意識無かったから正確には二年しか知らんけども)。
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