天使がにっこり微笑みます。
では、本編どぞ。
ヘンリーが開いた扉の先には清らかな泉が左右に湧き、それぞれの中央に乙女の像が安置されていた。
泉の周りを生垣が囲い、その生垣の所々に白い八重咲の花が咲いている。
光の加減で埃が発光しているように見えるのかは定かではないが、時折白い光の粒が庭の中を彷徨っては消えていた。
魔物が出る塔とはいえ、神聖な気配を感じざるを得ない程美しい庭だった。
「綺麗な庭だな……って、ここ、真ん中は吹き抜けになってるんだな……。おお、結構高いな……、これを上っていくのか……」
――こりゃ骨が折れるな……。
ヘンリーが頭上を見上げると一部中央に通路が見えるが、その遥か上空には青い空と白い雲が見える。
下から階層を数えていくと、この塔が五階建てだということはわかったが、中々の広さの為、複雑な造りになってなければいいなとヘンリーは思った。
「綺麗なお庭ですね……(何だか空気がとても澄んでいる気が……)」
マリアは生垣に近寄り、白い花に触れる。
――このお花、なんて名前なのかしら……。とても綺麗……好い匂い……。この香りどこかで……?
白い花からは爽やかで甘い香りがする。
マリアはどこかで嗅いだことがある気がして思い起こしてみるものの、思い出せなかった。
「……確かこの奥に……」
――父さんと……、母さんらしき人が見えたんだっけ……。
上を見上げるヘンリーと花を愛でるマリアをそっとしておき、アベルは奥へと歩いて行く。
――また会えるかな……、父さん、……母さん。
爽やかで甘い香りの道をアベルは歩きながら、ふと気付く。
(この香り……、アリアの匂いに似てる……)
ほのかに漂う香りにアリアを感じ、生垣を見るアベルの目元が自然と弛む。
そういえば、昔彼女の髪に付いていた花はここに咲いている花に似ていた気がするなと、不思議な結び付きを感じたアベルだった。
そうして歩いて行くと、庭の奥には身体が半透明に透けてはいるが、プラチナブロンドの長く緩いウェーブが掛かった髪に、真っ白な翼を携えた美しい女性が、白い花に止まった白く光り輝く蝶達と戯れているのを見つける。
「……っ……!!??(父さんと、母さんじゃない……!?)」
――アリアッ!!??
思わぬ人物の出現にアベルは目を見開く。
髪型が多少違うものの、その女性はアリアにそっくりだった。
女性はアベルからはやや後ろ向きで蝶と戯れていた為、アベルがやって来た事に気付いていない。
「……ア、アリア……?(何でアリアがここに……、というか翼が生え……)」
アベルが声を掛け女性に近付いて行くと、彼女は振り返る。
「ぁ…………、っ…………(アリアじゃないっ!! 似てるけど……!)」
振り向いた女性の瞳は青く澄んでおり、身体は透けているが艶やかな白い翼も美しく、絶世の美女という言葉がしっくりくる。その姿は見目麗しい正真正銘の天使だった。
アリアよりも少し年上なのだろうか、随分大人っぽく見える。
――ひょっとして……アリアの……?
アベルは驚きに満ちた瞳のまま、女性との距離を詰めていく。
すると……、
「あっ……!?」
女性まであと数メートルという所で、彼女はアベルに優し気に微笑み掛け、姿を無数の白い光の蝶へと変えた。
光の蝶達は一斉に空へ向けて飛び立ってゆく。
飛び立った蝶達は徐々に砂のように光の粒へと変化し消えていった。
「今のは……!? アリア嬢……!?」
ピエールが消えゆく蝶を目で追うが、光の蝶はもう殆ど消えてしまっていた。
そして最後の光の蝶が一頭、アベルの傍に寄って来るので、アベルは何となく手を差し出す。
最後の光の蝶はふわふわと優雅に羽ばたき、アベルの指先に止まったかと思うと小さな光の粉となって消えた。
「……違うよ、ピエール。今のは……」
――アリアの……お母さんなんじゃないかな……。
アベルは自分の手から零れ落ち消えゆく光の粉に“戻ったらアリアに教えてあげないとな……”と口角を上げるのだった。
「……こんなことは初めてです……」
「…………そうだね、僕も初めてだよ」
ピエールは美しい光景だったとしながらも、初めての出来事に茫然として蝶達の消えた上空を見上げていた。
「あら? 今そこに どなたかいらっしゃいませんでしたか?」
「アベル見たよな?」
マリアとヘンリーが後ろからやって来て、女性を見ていた様子で訊ねて来る。
「うん……」
アベルは穏やかな顔で静かに首を縦に下ろした。
「あの女性って……(アリアに似てなかったか……?)」
「翼が生えて……あの神々しい女性はいったい……?(アリアさんに似ていたような……?)」
ヘンリーとマリアはアベルを窺い見る。
「……多分、天空人。……天使だよ」
アベルは生垣に咲いた花を見下ろし、二人にそう伝えたのだった。
「天使……」
ぽつり。マリアが呟く。
「……アリア……だったのか……?(いや、でも違ったような……)」
「え……? どういうことです?」
「あっ、マリア何でもないんだ」
「……? そうですか……。確かにあの女性、アリアさんに似ていたような気がしますね……(とてもお綺麗でした……)」
ヘンリーはアベルに訊ねたが、マリアが首を傾げるので“アリアのことはマリアに言うべきじゃないな……”と首を横に振って誤魔化した。
マリアは要領を得ていなかったが、天使を見たのは初めてであまりの神々しさにうっとりしている。
「不思議なこともあるんだね……。逢ったこともない人と逢えるなんてさ」
アベルは“綺麗な
「そういえば、神の塔は魂の記憶が宿る場所とも言われているそうです。だからこそ、すべてを見通す不思議な鏡が祀られているのだとか……。今の幻影も、もしかしたら誰かの魂の記憶だったのかもしれません」
「へえ……、魂の記憶ねえ……(いつか親父の記憶も見てみたいもんだな……)」
「魂の記憶か……なるほど……(アリアも連れて来ていれば、失くした記憶が戻ったりしたのかな……?)」
マリアの言葉にヘンリーとアベルはそれぞれに思いを馳せる。
それから一行は中庭を後にし、塔を上っていった。
◇
……何度か通路を間違え、アベル一行は幾度となく魔物の群れと遭遇しながらも進んで行く。
中には【スライム】の形によく似た、すばしっこい銀色のアイツ……【メタルスライム】とも遭遇したものの、仕留めることは叶わずまんまと逃げられている。
……初めての【メタルスライム】との戦いはこうだった。
瞳をギラつかせた【メタルスライム】一匹が突然アベル達の前に現れたかと思ったら……。
遭遇し初手で、アベル達よりも素早い【メタルスライム】が挑発するようにヘンリー目掛け【メラ】をぶつけてくる。
と、ヘンリーは「アチチっ! くそっ! アイツ悪い顔してんな~!!」なんて云いいながら【メタルスライム】目掛け【チェーンクロス】を振るった。
……のだが【メタルスライム】はヘンリーの攻撃をサッと避けヘラヘラと嗤いながら悠々と走り去って行ったのだ。
それは あっという間の出来事で、アベルは武器を構えていたのだが居なくなってしまってはしょうがない。
【やいばのブーメラン】を仕舞った。
「あぁ~!! アイツなんだよ、むっかつくぅぅううっ!!」
――今度会ったら絶対仕留めてやる!
前髪を焦がし意気込むヘンリーだったが、それ以降【メタルスライム】との遭遇はなく、他の魔物ばかりとの戦いが増え【メタルスライム】のことなど直ぐに忘れる。
神の塔だというのに、魔物が多く住み着いているのはいったいどういうことなのか。
もしかすると、ここの魔物は侵入者を試すために姿を変えている神の使いなのかもしれない。
……にしたって、数が多過ぎる。
もう何度目かはわからないが、魔物の群れがどこからともなくアベル達の前に姿を現したのだった。
アリアのお母さん、初登場の回。
アベルに微笑んで消えちゃいましたね~。
メタルスライムの下りは投稿時加筆しました。
そういやメタルスライム遭遇してないわ……と思いまして。
仲間にしちゃうとバランスブレイカーの為、今回はスルー。
その内何処かで仲間にするかと思います。
どくばりで仕留めたいなぁ……プスッとな。
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