見えない床って、アレですアレ。
では本編どうぞ!
【エンプーサ】のキャシーを仲間にした後、アベル達はここに住んでいたという彼女の案内で迷うことなく通路を進んだ。
魔物が出る場所も把握しているのか、気配をいち早く察知して教えてくれた為、アベル達は無駄な戦いをする必要がなく、スムーズに進んで行く。
キャシーは自分の宣言通り、充分役に立っていた。
「古いわりには結構しっかりした塔だな。神さまに守られてるってワケか?」
「なにか神聖な気配を感じます。神がお造りになった というのは本当かもしれませんね」
ヘンリーとマリアが歩きながら それぞれに柱や壁を見て告げる。
二人とも神の塔に何かを感じ取っているようだった。
「キャシー、君、道順をよく憶えていたね」
「うっふん。見直したかしラ?」
「……まあ……」
「うっふ~ん。アベルんダイスキ~ん❤」
ヘンリー達の前を歩きながらアベルがキャシーを褒めると、キャシーはアベルの腕にしがみつき、すりすりと頬を摺り寄せる。
「ちょっ、く、くっつかないでくれる……!?」
「ヤダん、アベルん、照れてるぅ~。ねぇん、アベルん、ダーリンて呼んでもいいかしらン? アタシのことはハニーって呼んデ❤」
「だありん!? いやっ、それはちょっと……!」
先程からキャシーがぐいぐい攻めて来るので、アベルは何とか宥めてやんわり断っているのだが、キャシーの攻撃は一向に
敵対していた時の攻撃の方がよっぽど軽いなと思わざるを得なかった。
「アベルさん、キャシーさんにとても好かれているのですね」
「アハハ……、アベルって魔物にもモテるんだよなあ……(アベル完全に嫌がってるけどな……)」
「まあ、そうなのですね。……優しい方ですもの」
「…………ム、そ、そうだな……(オレも優しい男なんだぜっ!?)」
アベルとキャシーの様子を後ろからヘンリーとマリアは見ていたわけだが、マリアがアベルを見つめて目を細めるので、ヘンリーは面白くない。
とはいえ、アベルに対して不満があるわけではないので、ヘンリーは何も言わずに頷くだけに留めておいた。
――やっぱりマリアはアベルのことを……。
凹んでしまいそうになるが、マリアとアベルが二人で親しく話しているのを見た事がないヘンリーは、まだ二人はそこまで親しいわけではないと踏んで、彼女にアピールを続けることにする。
キャシー程図太くは なれそうにないが、彼女のポジティブな行動は落ち込みそうになるヘンリーの想いを鼓舞させたのだった。
「マリアそろそろ疲れたんじゃないか? 少し休もうぜ」
「いいえ、大丈夫です。私、皆さんの足手まといには なりませんわ」
ヘンリーはマリアが疲れていないか気遣う。
ところがマリアからは首を横に振られ、断られてしまった。
「そ、そっか。疲れたら言うんだぜ?」
「はい、ありがとうございます。ヘンリーさま」
休憩を断られ挫けそうになるヘンリーだったが、呪文が得意なアリアとは違い、マリアは呪文が使えない。旅には不向きな女性である。
けれども、優しく芯の強い女性だ。
ヘンリーは“マリアは頑張り屋だな……”とここまで懸命について来た彼女を尊敬するのだった。
(修道服姿でここまでやって来るのは大変だったろうに……。)
「ヘンリーさまって……、ヘンリーでいいのに……」
ヘンリーは小さく呟くが、マリアには聞こえなかった。
さて、アベル達の最後尾、一人
「……ふむふむ、これは意外な展開になって来たぞ、アンドレ。……アベル殿は、キャシー殿と……。ヘンリー殿は、マリア殿と……。では私は……………………、…………はっはっはっはっ!!(まあ、そうなるであろうなあ!!)」
アンドレが訝し気にピエールを窺うが、彼は高らかに笑っていた。
◇
「……ここが五階、最上階よ。でもン、あの鏡までは行けないノン……」
神の塔、五階へとやって来ると、キャシーが奥に見える不思議な鏡……【ラーの鏡】を指差し口を窄める。
【ラーの鏡】の元までは行ったことがないらしい。
「……どういうことだ?」
「あ、ヘンリー!」
キャシーの云っている意味がわからなかったのか、ヘンリーが通路を歩いて行ってしまうので、アベル達は慌てて追い掛けた。
ところがヘンリーは通路の途中で立ち止まっている。
「なんだ、ここは!? 通路が途切れてて、これじゃ先に進めないぞ!」
アベル達が追い付くと、ヘンリーが足元を見て声を上げた。
目の前の通路は途中で分断され、床が途切れている。
途切れた通路の先には奥の【ラーの鏡】のあるフロアまで繋がる通路が続いているにもかかわらず、そこに至るまでの床が数メートル抜け落ちていたのだ。
しかも、その距離は跳躍して飛び越えられる長さではない。
そんな途切れた通路を前に、マリアが口を開いた。
「確か、この塔の言い伝えでは
「目に見えるものを疑ってみるったって……、どうするよ……」
マリアの言葉にヘンリーは“神さまっつーのはけちん坊だな”と足元を見下ろす。
落ちても死ぬことが無いのはわかっているが、あまりの高さに落ちるのは抵抗があり遠慮したいところだ。
マリアも「高いですね……」と恐る恐る下を覗いてゴクリと喉を鳴らした。
キャシーも、
「ダァリィィイン、キャシーコワイぃン!!」
と、アベルにしがみついてわざとらしく身体を揺らしている。
そんな三人の様子を黙って見ていたアベルだったが……。
「……キャシー放してくれ、大丈夫だよ。ちょっと離れてて。ピエール、キャシーを頼む」
「承知しました。キャシー殿」
「……へ?」
アベルはキャシーに自分から離れるようにと告げ、ピエールに彼女を託す。
ピエールがキャシーに腕を放させると、アベルは一人途切れた通路へと足を踏みだしたのだった。
「っ、おいっ、アベル!? 落っこっちま……ぅ!!?(ぅんっ!?)」
「アベルさんっ!?」
「ダーリンっ!?」
ピエールを除く、ヘンリー、マリア、キャシーが目を見開く。
アベルが途切れた通路の何もない空中に立っているではないか。
「……見えない床があるんだよ。みんな、僕のすぐ後について来て」
アベルが振り返って腰に手を当て仁王立ちしたかと思うとニヤリ。
ちょっとドヤ顔をしてみせたアベルだった。
「っ、ま、マジかよ……!」
「アベルさん……! すごい……! よくお解りに……!」
「アベルん……❤(笑顔がステキん。最っ高っ! アタシのダァリィィィイン❤)」
ピエールを除く三人が目を見開いたまま今度は口を大きく開けていた。
キャシーは喜び勇んで「すっごぉぉおおいぃ! こんなの初めてぇぇええんン❤」とアベルの後を追い掛ける。
ヘンリーとマリアも慎重にアベルの後を追った。
最後にピエールが見えない床を渡り、アベルの傍にやって来る。
何事かとアベルがピエールに耳を傾けると、彼はボソッと呟いた。
「……主殿。我々は経験済みなのですから、あんなにドヤる程のことでは……」
「……っ! ちょ、ちょっとくらい、ドヤってもいいじゃん!?」
ピエールに指摘され、アベルはカッと頬を赤く染める。
「……いえ……、幾度も経験したことですから……。……恥ずかしくないですか……?」
「っ、は、恥ずかしくなんてないけどっ!!?」
――冷静にツッコんでくるのやめてくれないかなっ!?
静かに耳打ちしてきたピエールの言葉にアベルは今後、何か思い出しても驕ることのないよう、気を付けようと心に誓ったのだった。
実はピエールがドヤっている時もあるのだが、表情は兜に覆われ見えないので自分のことは棚上げなのである。
そして、ついに……!
玉ヒュンスポット。
いや、私玉持ってないから知らんけど。
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