ラーの鏡をゲットだぜ! の回。
では本編どぞ。
色々あったが、アベル達は漸く不思議な鏡……【ラーの鏡】の元へと辿り着いたのだった。
「……これがあれば……!」
アベルは【ラーの鏡】の元にやって来ると、台座に収まる鏡に手を掛け持ち上げる。
これがあればラインハットの一件だけでなく、アリアの記憶も戻せるかもしれない。
ふと覗いた【ラーの鏡】には頬が赤く汚れたアベルが映っていた。先程キャシーに熱い接吻をされた口紅の跡である。
アベルはハンカチを取り出し、拭き取る。
「アンッ、拭き取っちゃうなんて、ひどぉぉおおいいン!(ンもう、照れ屋さんなんだからぁああんン!)」
キャシーが口元に両手拳を持って来て唇を尖らせ剥れていた。
が、アベルはキャシーの方を一切見ようとはせず無視をする。
「ついに見つけたぞ! この鏡があれば今のラインハットを救うことができるはずだ」
ヘンリーがアベルの手元の【ラーの鏡】を覗き込んで、ほっとした顔をしていた。
「ああ、ヘンリー。ラインハットを救うだけじゃない。これでアリアの記憶も戻るかもしれないんだ」
「だな! やったな!」
ヘンリーに応えるアベルの表情が柔らかくなり“じゃあ、大事なものだから僕が持っておくね”とアベルは【ふくろ】に【ラーの鏡】を仕舞う。
その後ろでキャシーが俯き「……時々聞くアリアってダレヨ……?」とドスの利いた声で呟いていたのだが、アベルとヘンリーは【ラーの鏡】入手に、「早くアリアに使ってあげたいよ」「だなっ!」等々、喜悦の声を上げていて気付かなかった。
「それにしても目に見えない通路ってのはビックリしたな。神が造った塔、という話もあながち作り話じゃなさそうだ」
【ラーの鏡】のあった場所から見えない通路を眺め、ヘンリーはしみじみと語る。
その隣ではマリアが手を組み、目を閉じて祈りを捧げていた。
「私達、神の試練を乗り越えることができたんですね! 神さま……ありがとうございました」
「マリアここまでよく頑張ったな」
ヘンリーが祈るマリアに向けて優しく微笑み掛ける。
「不安でしたが勇気をもって一歩、踏み出せば道が拓けるものなのですね。私も、これからは勇気をもって生きたいと思います」
マリアはここまでやってこれたことに自信を持ったのか、祈りを終え目蓋を開くと、明るく朗らかな笑みを見せたのだった。
「マリア……(可愛いなぁ……)」
当然、ヘンリーはマリアの笑顔に釘付けである。
アベルは首を縦に下ろし「ああ、そうだね、頑張って」とマリアを応援していた。
「目的のものは見つけたんだ。早いとこラインハットに帰って、この一件を終わらせようぜ!」
「その前に、修道院かな。それからでも遅くないと思うんだけど、いいかい?」
ヘンリーが早速ラインハットへと向かおうと来た道を戻り始めるが、アベルは引き留める。
ヘンリーの言い分はわからなくもないが、ここは先ずアリアに【ラーの鏡】を使いたいところである。
「あ、そうだったな! すまんすまん。じゃあ、一旦修道院に行こうぜ!」
「ああ、じゃあ行こう」
アベルの言葉にヘンリーはオレの事情だけ優先させるつもりはなかったと謝罪した。
アベルが塔を出ようと歩き出し、元来た見えない通路に戻るわけではなく確実に下に落ちてしまうであろう場所まで行くと、ヘンリーが声を掛けて来る。
「ちょ、アベル、お前まさか……」
宙に浮く通路の端に足を掛けたアベルにヘンリーは恐る恐る訊ねていた。
「ん……?」
「お前、まさか飛び降りようってんじゃないよな……? な……? ほら、リレミトでさ……」
「落ちても大丈夫だよ? 帰りに何かあっても嫌だろう? 魔力は少しでも温存しておかないと」
ね、ピエール。とアベルは後ろに付いて来るピエールに話し掛ける。ピエールは黙って頷いていた。
キャシーも後ろについている。
今、回復呪文を使えるのはアベルとピエールのみなのである。
帰りの道中怪我をした際、回復呪文を使用する為に温存しておきたいというわけだ。
「っ……マジか……。オレ、飛び降りるの苦手なんだよな……」
「まあ、ヘンリーさまも……?」
ヘンリーが弱り目で頭の後ろを掻き掻き零すと、マリアがぽつり。
「マ、マリアも……?」
「はい。こう胸の辺りがヒュッとするような心地で……。大神殿から出て水路から落ちる時にとても怖くて……」
マリアは頷き胸元辺りに手を持って来ると、大神殿から脱出した際の落下した感覚が忘れられないのか眉を顰めていた。
「そうそう、オレもあの時にトラウマになっちまって……」
ヘンリーとマリアがお互いに「ハハハ、怖かったよな」「はい……怖かったです」と労わり合っていた……のだが。
「……多分大神殿よりは全然高くないよ。先に行ってるね! 二人も早くおいでよね」
「だぁりぃぃいいい~~ん!! アタシもぉぉおおんん!!」
アベルが
「あっ、ちょ……!!(アベルッ!!)」
「アベルさんっ!!」
ヘンリーとマリアの二人は残され、慌てて下を覗くが、アベル達はあっという間に一階の中庭に降り立ち、手を振っているように見える。
「マジか……」
「……どうしましょう」
残った二人は唾を呑み込む。
死なないとはいえ、五階から落ちるのは勇気がいるものである。
「……まあ、死ぬことは無いもんな……」
――腹を括るか……。
魔物が出る塔で、マリアと二人だけでここまで来た道程を戻るわけにはいかない。
アベルの魔力温存も一理ある。落ちれば一瞬で一階まで戻れるのだ。
ヘンリーはチラッとマリアを一瞥する。
マリアは怖いのだろう、額に汗を浮かせていた。
「っ……はい」
――この高さならあの時のような思いはせずに済むでしょうか……。アベルさん達をあまり待たせるわけには……、でも。
でも怖い……、とマリアは一階で待つアベル達を見下ろす。
一階の中庭ではアベルが腰を下ろし、隣りにキャシーが腰掛けアベルの腕を抱いてキャッキャッと楽し気に笑っている(アベルは遠くを見ている)。
ピエールは白い花に触れ匂いを嗅いでいた。
「……マリア」
「はい……?」
「行こう」
ヘンリーはマリアに声を掛け、手を差し出す。
「え……」
「オレも怖いけど……、っ、怖いならっ、っ、て……、手を繋いでてやるからっ!」
――これって、もしかしてマリアと距離を縮めるチャンスなんじゃないか!? アベル……そうだよな!?
一階中庭のアベルは相変わらずキャシーに言い寄られているが、今は目を閉じ瞑想しているように見えた。
ピエールは相変わらず花を愛でている。
ヘンリーはアベル達の様子を眺めながら“アベル、お前気を遣ってくれたんだな……!”とマリアが手を取ってくれるのを待っていた。
「ヘンリーさま……」
マリアはじっとヘンリーの手を見下ろす。
「…………ど、どうだい?」
「…………、私、勇気を持って生きると決めました。ですから大丈夫ですわ」
ヘンリーが再度訊ねたが、マリアがヘンリーの手を取ることは無く、断られてしまった。
「っ……、そ、そうか……」
――マリアは強いなあ……。そういう所も……いいなっ!
ヘンリーはそっと手を下ろす。
手を取ってくれなかったことは残念だったが、マリアの強さに惚れ直してしまうヘンリーだった。
ところが、
「さあ、ヘンリーさま、参りましょう」
何故か今度はマリアが手を差し伸べる。
「ん……?」
「私は大丈夫ですわ。ヘンリーさまが怖いというのであれば、私の手では頼りないですが握って下さって構いません」
差し伸べられたマリアの手は少し震えていた。
言葉では大丈夫と云いつつも、苦手なものは苦手なのに変わりはないようだ。
「マリア……、……フ、じゃあ頼むよ」
ヘンリーはマリアの気丈な振る舞いに少しばかり、口角を上げてマリアの手を取った。
「……3、2、1で行きましょう」
「ああ、いいぜ。……マリア、キミは強い女性だ」
「……ヘンリーさま……、ありがとうございます」
頼もしいマリアの声にヘンリーが目を細め褒めると、マリアも目を細めはにかむ。
……3、2、1……!
ヘンリーとマリアは二人同時に一階へと向け足を一歩踏み出し、飛び降りたのだった……。
ヘンリー君とマリアちゃんもいい感じ……?
落ちても死なないけどでもコワイ。
二百四十六話でガンドフは落ちても死ななかった気がしますが、ぶん投げられたら怪我するってことで、まあいいか……。
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