ヘンリーに恋愛相談って……向いてるのか?
では、本編どぞ~。
アベルの期待も虚しく、アリアの記憶は【ラーの鏡】では戻せなかった。
ヘンリーが客室に来る頃には食事の時間となり、アベルとヘンリーの二人は食堂へ。
アベルはアリアと席は離れていたが、食事が一緒になりつい、胸をドキドキと高鳴らせ彼女を目で追ってしまっていた。
時折アリアと目が合うと、彼女は柔和に微笑んでくれる。
そんな彼女にアベルの胸は益々高鳴り頬が熱くなってしまうのだった。
◇
「はー……食った食った。ここの料理は美味いよなあ。明日は早いからそろそろ休むか」
「ん……? あ、ああ……」
食事を終え、客室に戻って来るとヘンリーがベッドに腰掛け腹を擦っていた。
アベルは二階の客室の手摺から一階で片付けをするアリアを見下ろしていたが、ヘンリーの声に振り向いて背を手摺に預け返事をする。
「あ、そういやマリア、明日一緒に来てくれるってさ」
「え……あ、そうなんだ」
「おう、見届けたいらしいよ。神の塔にあったラーの鏡のチカラってのが気になるんだろ?」
「へえ……よかったね、ヘンリー」
アベルはヘンリーとマリアは上手くいってるみたいだなと、目を細めた。
親友が幸せなら自分も嬉しい。
アリアがいない間は見せつけられて何とも言えない気分になったものだが、アリアが近くに居る今なら、ヘンリーとマリアがイチャつこうが大いに結構!
――僕もアリアと……!
アリアが自分を想ってくれているかもしれない今、アベルの心には余裕があったのだ。
「お、おう……。……で、アリアはどうすんだ? ……記憶、戻らなかったんだろ……?」
ヘンリーは照れ臭そうに頷くと、今度はアリアについて訊ねる。
実は、アベルとアリアの会話を一部、客室の扉一枚隔てた向こう側でマリアと共に聞いていたヘンリーだった。
アリアが泣き出した辺りで“アベルに任せよう”ということで、ヘンリーはマリアと共に一階へと下りていた。
アベルとアリアの会話は、所々はっきり聞き取れない箇所もあったが大体把握している。
「実は聞いていたんだ」とは言えないので、客室に入った際にアベルから“【ラーの鏡】を使ったが駄目だった”と報告を受け知ったことにした。
「…………、…………連れてく」
アベルは手摺に片肘を掛け、ちらと背中越しに一階を覗くと口角を上げる。
炊事場で洗い物をするアリアを見下ろしてから はっきり告げたのだった。
一階では片付けをするアリアやシスター達の会話と食器の音で、二階のアベル達の声は恐らく聞こえないだろう。
「マザーが許してくれるのか? マリアにはOK出してくれたらしいけど……、アリアは長期だから厳しいんじゃ……?」
「……関係ないよ。アリアが望んでるんだ。僕はそれを叶えてあげるだけ」
ヘンリーの言葉にアベルは一階で働くアリアを優しい眼差しで見守っている。
「……ふーん……?」
――オレ達が離れた後で何か約束でもしたんか……?
アベルの奴、何か余裕ありますって顔してるなあ……とヘンリーは一部二人の会話を聞いていたとはいえ、アベルの態度に余裕がある気がして気になってしまった。
「……ヘンリー」
「ん?」
アベルは手摺から離れ、自分のベッドにやって来ると腰を下ろす。
向かいにはヘンリーが腰掛けていた。
「明日……、少し遅く出てもいいだろうか? アリアは出来ればマザーを説得したいって」
「え。…………ぁ、あー……、まあ、しょうがないか……。オレの我儘に付き合ってもらうんだ。この際だ、半日くらい待つよ」
ヘンリーは頭を掻いて少々苦い顔をしたが、アベルの気持ちが解るのか承諾してくれる。
「悪いね。でさ、ヘンリー……、これは相談なんだけど……」
「お、おう……?」
アベルが急に真剣な顔でヘンリーを見るので、彼は息を呑んだ。
その頃一階では片付けが終わったのか静かになり、灯りが消えていた。
・
・
・
「やっ! っ、……それはまだ……、は、早いんじゃ……!? 時期尚早ってヤツだろ……!? ってか、お前……、グイグイ行くタイプだったんだな……。奥手だとばかり……」
――びっくりした……! アベル、アリアに告白するってか!? マジかよ!? ……勇気あるなあ!!
ヘンリーの声が一瞬大きくなるが、慌てて口を手で覆うと一階に聞こえないように続ける。
アベルはヘンリーに、“アリアへ想いを伝えようかと思う……”と相談したのだった。
ところがヘンリーはそれにストップを掛けたのだ。
「うーん……、やっぱり早いかな……(でも、アリアだって僕のこと……)」
「あ、あのさ……、お前、これからアリアと旅するんだよな……?」
恐る恐るヘンリーがアベルを窺う。
「うん、そうだけど……?」
「…………、…………ちゃんと考えてんのか?」
「え……? 何が……?」
アベルはヘンリーが何を訊いているのかわからず、ぽかんと瞬きをしていた。
「……よしんば、アリアと上手くいったとしよう。なら、お前の辛い旅は辛いだけじゃない楽しい旅に変わるだろうさ」
「ああ! 最高だと思う!」
ヘンリーの例え話にアベルは妄想し顔を綻ばせる。
だが、ヘンリーの眉間には皺が寄っていた。
「……で、でもだな……」
「ん……?」
言い淀むヘンリーにアベルは首を傾げる。
何とも歯切れの悪い物言いをするヘンリーをアベルは不思議に思った。
ヘンリーの話は続く。
「…………その……、失敗した時は……どうするんだ……?」
「え」
――どういうこと……?
ヘンリーがたどたどしく疑問をぶつけるが、アベルには理解出来なかった。
「……アリアの気持ちがお前に無かったら……?」
「へ? そんなはずは……」
「……あの子、オレにも優しいんだぜ……? ……オレだけじゃなくて、ピエールにもだけど……。再会してそんなに経ってないし、お前だけが特別だと思われてるとは限らなくないか……? あっ、いや……確かにオレも、お前とアリアはいい感じだなーと思ってはいるけどさっ!」
ヘンリーの話が進むにつれ、アベルの顔が青くなっていく。
「っ……!!?? それって……つまり僕はアリアから想われていないってことかい……?」
アベルは目を見開く。
――さっきの【ラーの鏡】や過去を話した一件で、すっかり両想いだと思っていたのに、違うというのか……!?
膝の上に置いたアベルの手が震えていた。
「……女の子の気持ちなんて……オレにはわかんないよ……。考えてもみろよ、お前、フラれたら一緒に旅出来るのか……? そうなったらアリアだって気まずいだろ……」
オレに聞かれても困ると、ヘンリーはフラれた場合についてアベルに話す。
ヘンリーにしてみたら、マリアの想い人が目の前のアベルかもしれないわけで。彼女の気持ちが自分に向くまで何とか頑張るしかないのだ。
それには先ず、ラインハットの問題を片付けなくてはならない。
――どっちにしたって、気まずくなるだろ……。
今アベルがアリアに気持ちを伝えて、上手くいくにしろ、フラれるにしろ、イチャイチャされても嫌だし(マリアが可哀想だし)、気まずい状態というのも非常に困るのである。
つい先日アベル自身が『これから旅を続けるのに気まずくなるのだけは避けたい』と云っていたはずなのだが……。
たった一日で180度の方向転換である。
「う…………、た、確かに……」
ヘンリーの話にアベルはぐうの音も出ない。
――そうか……、アリアが僕を想っていないかもしれない……とは思わなかったな……。
「……こういうのは、ちゃんと確証を得てからでないと失敗する。慎重にした方がいいぜ(昨日まで冷静だったのに、いったい どうしちゃったんだよ……)」
「くっ……けど、アリアがもし僕を想ってくれていた場合は……?」
――そうだったら、早い方が……!
慎重にな、とヘンリーがアベルの肩を掴むが、アベルは少し暴走気味なのか食い下がった。
「……そんなの確実にそうだって思った時に言えばいいだろ。アリアだって、旅の途中で記憶が戻るかもしれないんだ。前の彼女に戻ったらお前だってわかんないだろ?」
「……どういうこと? 僕は別に……」
アベルは首を傾げる。
「アベル……、お前、今のアリアが好きなんだろ? 記憶戻っても好きなままでいられるのか? 今のアリアは昔の彼女と性格が大分違うんだぜ……?」
「え……、ぁ……。うん?」
ヘンリーの問いに、アベルは首を傾けたまま固まってしまった。
すっかり恋に落ちているアベルさんですが、ちょっと暴走気味ですねw