ゲマって誰やねん。
では、本編どぞ。
◇
あれから三人は修道院脇から移動し、アベルとアリアは修道院前のベンチに腰掛けていた。
少し離れた場所でヘンリーは独り、草の上で三角座りをして いじけているのか「何でオレのこと憶えてないんだよぉ……」と再び涙目で、辺りの雑草をブチブチと引っこ抜き草むしりに貢献中である。
マリアとイモシスには少し三人で話しがしたいと説明し、修道院に戻ってもらっていた。
「アリア……どういうこと……? 僕のことは思い出したんだよ……ね?」
ヘンリーがいじけてしまっている為、アベルが代わりに訊ねることに。
「あっ、アベルのことは、もちろん思い出したよっ! ビアンカちゃんのこともね!」
アリアはにこにこと明るくアベルの質問に答える。
アベルは引き続き何処まで思い出したのか訊くことにした。
「そっか、ビアンカのことも……。じゃあ……なぜ……、あ。どこまで思い出したんだい?」
「……うーんと……、私、ラインハットに一緒に行ったでしょ?」
「うん、そこまでは憶えているのかい?」
「デール君と王妃様に挨拶して……教会でお祈りしたところまでは憶えてるんだけど……。その後のことは実はさっぱり! その後、色々あったんだよね?」
アベルに訊ねられアリアは何処まで思い出しているかを伝える。
アリアの話によれば、ラインハットに行ったことは憶えているが、ヘンリーに会う前までの記憶しかないということだった。
古代の遺跡に行く前に、アベルと二人(プックルも入れると+一匹)で【冒険の書】を記録してもらったのはラインハットの教会で最後だったわけだが、アリアはそこまでの記憶しかないのである。
「あ、ああ……。色々って……簡単にまとめ過ぎじゃない……?(父さんが死ぬのは毎回だけど、アリアだって翼を引っこ抜かれたっていうのに……平気なのか……?)」
「あ、あはは……。あっ、ごめんね……、パパスさんの最期も憶えてなくて……」
アリアは気まずそうに笑ったかと思ったら、アベルに悪いと思ったのか頭を下げた。
「いや、それはいいけど……。君、自分の翼のこともあるのに平気なの?」
「え……? あっ、そういや翼なくなっちゃってるもんねぇ」
アベルの指摘にアリアは自分の背にちらっと目をやる。
翼が無くなって十年、意識不明の状態から気が付いて二年、長い間翼が無かったからか特に不便は感じていないようだ。
「え」
彼女の暢気な声にアベルは瞳を瞬かせた。
「飛べなくなったのは残念だけど、まあ、しょうがないよね。逆に痛いのとか憶えてなくて良かったよ、うん」
――元々翼なんて無かった人間だもの、元に戻っただけっていう……ね。
アリアは然程気にしていない様子であっけらかんとしている。
「……っ、ゲマを恨んでないのか……?」
「えっ、ゲマさん?」
「っ、“さん”なんて付けるなっ!! あいつは父さんや君の翼を……!!」
ゲマに敬称を付け呼んだ途端、アベルの眉が吊り上がった。アベルは拳をベンチに“ドンッ”と打ち付ける。
その拍子に手の甲に軽い擦り傷が出来てしまい、出血もしてしまっていた。
「っっ……アベルごめんっ、そうだよねっ! ……そんなに怒らないで。私、そのゲマって人のこと憶えてないから、恨むも何も無いっていうか……。手、痛めちゃうよ……、かして?」
「っ……」
アリアは、アベルのベンチに打ち付け赤くなった拳に【ホイミ】を掛けると、その手を両手で優しく包んだ。
「無神経なこと言ってごめんね……? 許して……?」
彼女が上目遣いにアベルに許しを請う。
「ぐ……。っ……許すも何もないっ……けど……。もう二度と“さん”付けなんかしないでくれっ……! あんな奴……!」
「うん、わかった、もう言わない! そうだよね、アベルとヘンリーサンを拉致した人だもんね。酷い奴だよね……!(……ゲマっちならいいかな……? あ、でもアベルには言わないでおこう……心の中だけ心の中だけ……)」
――ゲマっち。……どんな人だったんだろう……? 中ボス的な……?
いつかこの記憶も戻ったりするのだろうか。
アリアはゲームの中なのに自分が知らない部分があるのは、やはり自分がモブキャラで、主人公ではないからなのだろうと感じたのだった。
ゲマに対してパパスのことに腹立たしさはあるものの、ゲマのことを忘れているからなのか、アベル程憎しみの感情は持っていない。
――思い出したらその限りではないのかもしれないけど……。
それでもアベルやヘンリーからしたら憎む相手なのだ。アリアは無神経な発言をしたことを反省した。
「…………っ……そうして」
――そんな上目遣いで見つめられたら、許すしかないじゃないか……!!
申し訳なさそうに微笑み承諾するアリアに、アベルは頬を赤く染め どぎまぎしてしまう。
そんな話をアリアとしていると……。
「……つまり、アリアの記憶はラインハットの教会までしかないってことか……。オレと会う前に教会に行ったってことだな……」
いじけていたヘンリーが漸く立ち直った様子でフラフラとベンチにやって来て、アリアの隣に腰掛けた。
「アハハ~……、何か中途半端に思い出したみたい……?」
――セーブしたところまでしか憶えていませんって、ことなのかなぁ……。
アリアはヘンリーの方へ身体を向けて頬を掻く。
「……けど、アリアがそこまで思い出してくれているなら僕は嬉しいよ」
アベルはアリアの手を引いて自分の方へと振り向かせた。
「お前はいいよなっ!!」
ヘンリーが唾を飛ばしながら大きな声を上げる。
「……ヘンリーサン?」
アリアはやんわりアベルの手を解き、ヘンリーに身体を向けると首を傾げた。
「っ……、アリアの記憶が戻ったってのに、何かオレだけ、すげー疎外感感じる……」
「ぁ、ごめんなさい。あっ、じゃあヘンリー
拗ねたようにヘンリーがアリアから目を逸らして頬を膨らます。
と、ヘンリーが友達だったことは アベルも云っていたから確かなのだとわかっているアリアは、明るく謝罪して別の提案をしたのだった。
「っ、そういうことじゃ……、まあ……別にいいけど……」
アリアが大輪の花の開花の如く昔のように笑うので、ヘンリーはほんのり頬を赤く染めて口を尖らせる。
「……ふふっ、ヘンリー君。キミ、カワユイねえ……」
ニヨニヨとアリアは顎に手を当てヘンリーの顔をじっと見つめた。
至近距離でじっと見つめられ、ヘンリーの顔色がどんどんと紅潮していく。
「っっ!? か、可愛いって言うなよなっ!!」
「アリア、ヘンリーをからかうのは……」
アリアの眼差しにヘンリーはそっぽを向いてしまった。
アベルがやんわりアリアの肩に触れ止めるものの……、
「ふふっ、アベルもカワイイヨ!」
今度はくるっと、アリアの身体が反転し振り向いたかと思うと、アベルの鼻先に人差し指で“ツン”と優しく触れて彼女は微笑んだ。
「っ!?」
どっき~~ん!!
ってなもので……。
アベルの目は見開き、鼓動が跳ねる。
――っ、な、何……!? さっきまでのアリアと全然違うのにドキドキする……!?
小悪魔的なアリアの微笑みに、アベルの胸はドクドクと強く脈打ち、口を開けたままぼーっとしてしまった。
「ふふふっ、二人とも高校生男子って感じだねっ! カワイイっ!」
「っ、こうこうせえ……?」
「こうこうせえ……?(何だそりゃ?)」
アリアがくすくすと楽しそうに笑うと、アベルとヘンリーは記憶を取り戻した途端おかしなことを言い出したなと呆気に取られる。
彼女はにこにこと嬉しそうにアベルとヘンリーを交互に見つめていた。
記憶が戻ったものの、完全ではないという……。
トラウマ過ぎて深層心理の奥底に眠っているのやもしれませんね。
今更なんだけどアリアって、中身はおばさんなわけでしてw