昔の三人に戻れたかな。
では、本編どぞ~。
「……ははっ……、やっぱアリアって面白いね。変なことばっかり言ってる」
「変なことって……ふふっ、そう? にしても、私の羽根で記憶が戻るとはね~。びっくりしたなぁ」
「ハハッ……、全くだよ! アベルお前、アリアの羽根ずっと持ってたんだろ……?」
アベルが“昔の彼女だなぁ”と懐かしく笑うと、アリアもはにかむ。
ヘンリーも乾いた笑いを浮かべていた。
こうして三人で喋っていると十年前に戻ったようだ。
「あ、ああ……、まさか天使の羽根が記憶を戻すアイテムだったなんて……。もっと早く使っていれば……今頃……」
そこまで言ってアベルはふと、これまでの記憶喪失のアリアとの旅を思い出す。
――どこか自信がなさそうな、大人しい女の子のアリア……。
恥ずかしがり屋で控えめで優しいが、芯の強い彼女に惹かれたんだっけ……と、ちらっと、今のアリアを見てみる。
「……ん? どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「あ、いや……」
アベルの視線にアリアは柔和な顔で首を傾げた。
記憶のなかったアリアは自分を見ると恥ずかしそうに頬を染めていたのに、今の彼女は優しく笑い掛けてはくれるが、何というか 余裕があり大人びているように見える。
アベルは今の彼女を自分よりも大人に感じてしまうのだった。
――あのアリアにはもう会えないのか……。
そう思うと少し淋しい気もする。
今の彼女は自分を見ても頬を染めたりなんてしない。
今までの彼女は何だったんだろうか……。
――まさか、記憶を思い出した所為で、記憶がない間のことを忘れてしまっているなんてことは……。
嘘なのか冗談なのかわからないが「私のこと好きなの?」「でもダメよ」なんて言われてしまってはどう捉えたらいいのかわからない。
ヘンリーが云っていた通りになった気がして、下手に想いを伝えなくて良かったとアベルは思った。
今の彼女はさっきまでの彼女のように表情が全く読めない……。
「ね、アベル。今日はどうするの?」
「え? あ、うん。ラインハットに行こうと……」
――まさか本当に忘れ……!?
アリアの質問にアベルの額に嫌な汗粒が浮かぶ。
「っ、アリア……君、記憶を失っている間のことを忘れたりなんかは……」
「……へ? 私、また何か忘れてるっ?」
アベルが恐る恐る訊ねると、アリアはハッとして口元に手を当てた。
「っ……、アリア……」
アリアの表情にアベルは涙目になってしまう。
散々回り道をして記憶を戻せたのに、再会後 旅の間の出来事を忘れられたら……。
――ちょっと立ち直れないかもしれない……。
「……アベルっ! そんな顔しないで。ほら、ヘンリー君も! 多分忘れてないと思うよ?」
ヘンリーもアベルと似たような顔をしていたようで、アリアは二人を交互に見て優しく微笑んだ。
「「え……?」」
「ラインハットに行くんでしょ? 私も行くよっ! ニセ太后とやらを懲らしめないとねっ」
アリアは自信に満ちた瞳で以って両手で拳を作り、左右で かち合わせると深く頷く。
「「アリア……!!」」
アベルとヘンリーは ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
「……先ずは腹ごしらえをして、それからマザーを説得するね! 記憶を取り戻したからには前のようには いかないんだからっ!」
アリアは立ち上がると、アベルとヘンリーに背を向けたまま両肘を曲げグッと後ろに引いて気合を入れる。
「「え……?」」
「……マザーね、完全に私のこと避けてるの。心配で手放したくないのかもしれないけど、さっきまでの私はもういないもの……。それに、誰も私を止める権利はない。私は自由でいたいし、自分のことも知らなきゃね」
目を瞬かせる二人にアリアが振り返ると、晴れやかに笑った。
「アリア……」
アベルはアリアの“さっきまでの私はもういない”の言葉に、少しだけ残念な気持ちで彼女の笑顔に釣られるように口角だけ上げる。
「とってもお世話になったから穏便に済ませたいな。アベル一緒に来てくれる?」
「え、あ、うん。もちろん」
「じゃあ、朝ごはん食べ終わったら一緒に行きましょ」
「わかった」
アリアに頼まれ、アベルは反射的に頷いていた。
「あ、オ、オレはいいのか……?」
「ふふっ、ヘンリー君は マリアさんの支度を手伝ってあげて? 荷物を馬車に運んであげたりするといいと思うよ」
ヘンリーがそーっと挙手すると、アリアは目を細めながらヘンリーを見下ろす。
アリアはヘンリーの気持ちがマリアにあることに気付いているようだ。
「え、あっ……、…………ははっ、アリアさん鋭いな……」
鼻の下を擦って、ヘンリーは頬を赤らめる。
――やっぱ、昔のアリアには敵わないな……。オレのこと、全部お見通しだ……。
「あ、ヘンリー君、私のこと“アリア”って呼び捨てでいいよ。って……あれよね、ヘンリー君王子様なのに私の方が態度でかいって何なんだって感じだねぇ~……ふふっ」
――私、恥ずかしがり過ぎだったよね~……。名前くらい呼び捨てでいいじゃんね……。昔の私……弱くてイヤんになるわ~……。
記憶喪失中のアリアは転生前のアリアに似ていた。
……それも、遠い昔の自分に……。
◇
◇
◇
……転生前の幼い頃、アリアは父親に虐げられ自己肯定感が低かった。兄が何かと庇ってくれてはいたが、居ない時はどうしようもない。
『うるせー、泣くな!』
『あ? 体操服が破れて恥ずかしい? 知るか!』
『さっさとしろ愚図』
『お前は使えない』
『お前はゴミ』
『誰のお陰でメシが食えると……』
『お父様の金で生かしてやってる』
『ヘラヘラしやがってバケモノ』
『目障りなんだよ大人しくしてろ』
『お前は俺がいないと何にも出来ないバカ』
『バカは俺の言うことを黙って聞いてりゃいいんだよ』
母が亡くなってからというもの、父に浴びせられた数々の言葉は毒そのものだった。日常的に父にどやされ、いつもオドオドし自己を出さないよう大人しく過ごす日々。
学校では服などがボロボロだったから友達は居なかったし、授業が終わったら即帰宅していた。
自分はバケモノで、周りは人間。だからバケモノは目立たないように大人しくしていないといけない。
父が黒といえば黒、白といえば白。
それを洗脳だというのは兄と一緒に家を出てから知った。
その後は少しずつ解毒していったが、やっぱり“私なんて……”という想いは中々消えない。
これもある種“呪い”である。
父との距離が離れ解毒が進み、更に転生して違う人物になったお陰で明るく振る舞えてはいるが、忘れたわけではないのだ。
……その頃の性格が記憶喪失中の性格に影響され出ていたかと思うと、アリアは憂鬱に感じた。
もちろん、全てが反映されていたわけでは無いのだが……。
――恥ずかしくて確認はできないけど……そ、そこまで変じゃなかったよね……!?
今のアリアはそれなりに自信を持っているので、アベルとヘンリーに対する態度を振り返り“さっきまでの私、内気過ぎ、ハズイ……”と、突っ込まれたらどうしようと内心ドキドキなのである。
……決して顔には出さないが……。
精神が大人なアリアは微笑みを崩さずにいることぐらい造作もなかった。
「……ははっ、オレは別に構わな…………、って、あ。アリアさんっ!」
「ん?」
「……お願いがあるんだ」
ヘンリーは笑ったかと思うとハッとしてアリアを真面目な顔で見上げた。
「お願い?」
「……オレのことは、全て思い出すまではヘンリー
「…………? そんなことでいいの……?」
アリアは不思議顔で、瞳を瞬かせる。
アベルもヘンリーの隣で同じ顔をしていた。
「ああ、オレが頼みたいのは それだけだ。思い出したら呼び捨てで呼んでおくれよ」
「……わかった。じゃあそうするね。そろそろ戻りましょ」
ヘンリーの意図はわからないが、アリアは了承する。
そうして、三人は修道院へと戻った。
アリアは記憶喪失中のことをツッコまれると、恥ずかしくて逃げ出しそう。
「あんなん私じゃな~~い!」
記憶喪失中のアリアは転生前の幼い頃のアリアさんでしたとさ。
内気な彼女も書いてて楽しかったです。グッバイ!