さて、マザーに挨拶したら行きましょうね。
では、本編どぞ。
◇
「え……?(な、何で……?)」
アベルは急に追い出され、閉じられた扉を見つめる。
――僕、何か悪い事したっけ……??
アリアの態度に違和感を感じ不安になってしまった。
そんなところに不意にポンッ! と。
アベルは背後から肩を叩かれる。
「……よっ、アベル。アリアはどうなった?」
ヘンリーだ。
アベルが【特別室】から出て来たのを見てやって来ていたのだ。
「あっ、うん、一緒に行けるようになったよ」
「そっか! 良かったな!」
アベルの返事にヘンリーは目を細め、喜んでくれる。
「あ、ああ……。そうなんだけど……」
「ん……? どした? 何かあったのか?」
「あ、いや……、何でもない……」
アベルはヘンリーに相談しようかと思ったが、直ぐ後ろにマリアも居たため止めておいた。
「アリアがすぐ準備するから待っててくれって」
「そっか。んじゃ、アリアが来れば出発ってことだな。それならオレとマリアは先に馬車で待ってるよ。な、マリア?」
「そうですわね。外でお待ちしていますわ」
「ああ、わかったよ。悪いね」
アベルが頷くと、ヘンリーはマリアの荷物を片手に外扉へと向かった。
マリアが「ヘンリーさまっ! 自分で持ちますわ!」とマリアの荷物を運ぶヘンリーを追い掛けて行く。
ヘンリーは「いいから、いいから」とマリアに笑顔を向けると、彼女は恐縮しつつも笑顔を彼に向けていた。
何だかいい雰囲気である。
「……お似合いだな……」
――僕もアリアとあんな風に歩けたら いいのに……。
アベルは二人の背を羨ましいと思いながら眺めていた。
「いやっ! 僕だってこれからあんな風に歩けるハズ……!!」
――記憶が戻ったんだ。昔のように町を歩けるよね……!?
閉じられた【特別室】の扉の前でアベルはアリアが出て来るのを待つ。
さっき感じた違和感は気になる所だが……。
――アリアは僕を“愛してる”って言ってくれたんだ、彼女を信じないと。
演技をお願いされただけということも忘れ、アベルは舞い上がったままである。
「愛してる……か……」
――言ってしまった……、我ながら思い切ったな……。
マザーに“アリアと結婚します”宣言をしたことに、今更ながら恥ずかしさを覚え、頬が熱くなる。
アリアに演技じゃないと早く伝えたいが、さっき遮られた気がしてアベルは、そこだけが気になってしまっていた。
そうしてアリアを待っていると……。
カチャ、と。
扉が小さな音を立てて開く。
「お待たせ。マザーに挨拶してから行こっ」
「あ……、……うん……(靴下……穿いたんだ、似合う……)」
【特別室】から出て来たアリアは旅の間来ていた服装だったが、生足ではなく、二―ソックスを穿いていた。
記憶が戻ったアリア曰く、生足はさすがに恥ずかしかったらしい。
二―ソックスでも充分恥ずかしいと思われるのだが、長旅に耐えられそうな服は他に持ち合わせていない為、致し方なし。
アリアはそのままマザーの居る祭壇の方へと歩いて行ってしまう。
「アリアっ」
アベルは祭壇に向かうアリアの手を取り、彼女を呼び止めた。
「……ん?」
「……マザーの前はこうしてようよ」
アリアの手に自分の指を絡め、アベルは手を繋ぐ。
「っ……、そ、そうね。ここを出るまではしょうがないよね」
絡めとられた手を見下ろし、アリアは一瞬声を詰まらせ、直ぐに笑顔で頷いた。
「………………照れてる?」
「…………、…………別に? 演技だもの、何ともないよ?」
アベルが優しい瞳でアリアを見るが、アリアはスッと一瞬目を逸らしてからにこにこと微笑んでみせる。
「…………そう……なんだ……(そっか……、全部演技だったっけ……)」
アリアの瞳が一瞬冷たくなった気がして、アベルの胸が痛む。
と、さっきの出来事が自分の気持ち以外は 全て演技だったことを思い出した。
――アリア……? 何だか急に冷たくなったような……? 気の所為か……?
彼女の態度の変化がどうしてなのかはわからないが、手を振り解くことはしなかったので、アベルとアリアは そのままマザーの待つ祭壇へと向かった。
◇
「行くのですね……?」
「はい」
祭壇でマザーに問われ、アリアは静かに頷く。
「今後もし、近くに来ることがあったなら必ず顔を出すのですよ?」
「はい、マザー……。見ず知らずの私の面倒を十年もの間、看て下さりありがとうございました。このご恩は一生忘れません……」
アリアは深く深く頭を下げた。
マザーはそんな彼女の肩に触れる。
「ああ、アリア! こちらへ。よく顔を見せて頂戴」
「はい、マザー……」
マザーに呼ばれると、アリアはアベルから手を放してマザーの傍に寄った。
すると、マザーはアリアを抱きしめ、包み込む。
マザーの瞳には涙が光っていた。
「……怪我などせずに元気でやるのですよ。そして、アベルとお幸せに……、辛く長い旅でも二人がいつも笑顔で居られるのならば、それが一番の幸せなのでしょう」
「は、はぃ……」
――私はアベルと結婚はしないのだけど……。
マザーの言葉にとりあえず、アリアは頷いておく。
「……アベル、アリアさんを宜しく頼むわね。彼女の呪いを解くのは並大抵のことではないでしょう。もし彼女を泣かせたら、この韋駄天のマリアが黙っていませんよ? 何処にでも飛んで行きますからね」
「っ、い、韋駄天のマリア……ですか??」
――どゆこと?
アベルはマザーの話に面食らう。
マザーがアリアを自分の腕から解放して笑った。
「フフフッ、遠い昔の私の二つ名ですわ……」
「……道理で……!!(逃げ足が速いと思った!)」
特別室まで捉まらなかったマザーのメタルスライムばりの逃げ足の速さに、今更ながらアベルは納得する。
――というか、マリアって……マリアさんと同じ名前なんだな……。よくある名前なのかな……?
「ウフフ」
マザーは不敵な笑みを浮かべていた。
「……マザー、では……」
「ええ、旅先で呪いが解けることを祈っているわね」
「ありがとうございます」
アリアがアベルの隣に戻ると、アベルが手を差し出す。
「……アリア、行こう」
「……うん!」
アリアはアベルの手を取り、二人は修道院を後にした。
「……お似合いだわ……。ああ、神さま、二人の未来に幸多からんことを……!」
仲睦まじく手を繋いで去り行く二人の背に、マザーは祝福の祈りを送ったのだった。
さて、記憶が戻ったアリアと再出発です。
アベルとアリアは果たして、結ばれるのでしょうか!?
韋駄天のマリア……。
疾風のマリア・駿足のマリア等々、悩んだ末に結局韋駄天のマリアに落ち着きました。
韋駄天が通じるのかは不明だけどアベルには通じたのでヨシ(適当)