焼きシイタケパーティーて……。
では、本編どぞ。
「っ、ぁ……。っ、僕が持つ!」
アベルはアリアの手にしたカゴを奪ってサッとキャビンから降りる。
「あっ、……ありがと……」
「……アリア、降りられる……?」
キャビンを降りたアベルはアリアを見上げ訊ねた。
「っ、これくらい降りれるよ!?」
「ふーん? …………転びそうだから、ほら。手、貸してあげる」
“心外だな!”といった顔でアベルを見下ろすアリアに、アベルはカゴを片手に、空いている手を差し出す。
「……あのねぇ……、もー……。はぁ……、じゃあお言葉に甘えて……」
アリアはアベルの手を取り、キャビンから飛び降りたのだった。
飛び降りる拍子にスカートが……以下略。
「……っと! ありがと」
「……っ…………どういたしまして……(……ぱんつ)」
アリアはキャビンの中でついたスカートの皺を伸ばす。
「……アベルってえっちね。……ふふっ」
「っ!? っ、僕はべ、別に何も……!!」
――見てたの、バレてた!?
アリアに指摘されアベルの頬が真っ赤に染まってしまった。
「ふふっ、可愛いっ。あっ、いい匂い~!!」
アリアはアベルの態度に微笑みを浮かべ、焚き火の方へと走って行ってしまう。
焚き火の上には鍋がセットされており、マリアが何かを煮込んでいるらしく、食欲をそそる良い香りが立ち込めていた。
「っ、可愛いって……。何……、アリア……」
――アリアは僕のことは……友達としてしか見ていない。でも。
アベルは胸元を掴み眉間に皺を寄せる。
「……胸が痛い……」
アベルはアリアに弄ばれているような気がするものの、胸がいっぱいになってしまうのだった。
「アベル、早くおいでよ、それも焼こ~!」
アリアが焚き火の方でアベルを呼んでいる。
アベルはカゴを持って行くと、アリアの代わりに焼いて皆に取り分けた。
ヘンリーやマリアは始めは驚いていたが、アリアが塩を振り掛け美味しそうに食べるのを見てから恐る恐る食すと目を見開き、それ以降はおかわりもするように。
アベルも「マッシュから生まれたんだよね……」と微妙な顔をしつつ、アリアが食べるならと思い切って食べると、気に入ったのか幾つも食べたのだった。
いつの間にか、馬車にいた仲魔達もやって来て、焼きシイタケパーティーが開催されていた。
「バターとお醤油があればもっと美味しいんだけど」
アベルだけでは間に合わず、アリアもシイタケを焼いてスラりん達に配る。
「オショウユってヤツはわからんが、バターかぁ、城の台所で見たことあるし、町なら売ってるんじゃ?」
「本当!? いいこと聞いちゃった。じゃあ今度探してみる。ヘンリー君ありがとね!」
ヘンリーからの情報にアリアの顔がパッと明るくなり朗らかに笑った。
「いや……そんな大した情報じゃ……、アリアさんは料理人にでもなるのかい?」
「そういうわけじゃないけどね。長旅するならせめて美味しいごはん食べたいじゃない?」
はい、ドラきち君。とアリアは話をしながら焼けたシイタケをドラきちに分ける。
ドラきちは「ハフハフ。熱い~、ウマァ~!」と目を細めて嬉しそうに食べていた。
「うふふっ、アリアさんて面白い……!」
「あははっ、そう? マリアさんの煮込みスープ美味しいね、作ってくれてありがとう!」
マリアが上品に笑うと、アリアもマリアの作った煮込みスープを口にして目を細める。
マリアは料理が上手だった。
料理が出来る人がパーティーに居るとありがたい。アリアも料理は出来るが誰かに作ってもらったご飯は格別なのだ。マリアに感謝しながら一口一口を噛み締める。
「お口に合って良かったですわ。ヘンリーさまと一緒に調理したのですよ」
「そうだったんだ。初めての共同作業……的な?」
マリアの話にそれまで黙って聞いていたアベルが何となく口にしていた。
「「え……?」」
アベルの発言にヘンリーとマリアがぽかんと口を開く。
アリアも同様だった。
「ん……? あ、いやっ、二人共、仲がいいな~って……思って……?」
アベルも自分の発言に首を傾げる。
――何だ? 今の……?
自ら発した言葉の意味がよくわからずアベルは目を瞬かせた。
「ぁっ……、や、やだ……。そんな……」
マリアの頬が“ぽっ”と紅潮する。
「え……? ぁっ……、っ……?」
ヘンリーも釣られて顔を赤く染めた。
――オレとマリアの初の共同作業って……、それ……何だよ。アベル、お前オレとマリアが結婚する未来が見えたっていうのか……?
いやぁ~、参ったなぁ~!!
オレはその予言信じるからなっ!!
ヘンリーはアベルをじっと見つめ、口角を上げると頷いたのだった。
「ん……?」
ところが言った本人のアベルはよくわかっていなかった。
そんなアベルの未来予知もありつつ、焼きシイタケパーティーは続く。
「……にしても、アリアは何でこのキノコのこと知っていたんだい?(こんなキノコ初めて見たんだけど……)」
しばらくして魔物チームは食事を早々に終えると、眠くなったのかキャビンの中へ。ピエールが付き添って行った。
残った人間チームはアベルとアリア、ヘンリーとマリアでそれぞれペアで分かれ話をしている。
アベルはアリアに“シイタケ”について訊ねていた。
「ん? あ、これ? 私の元いた世界じゃメジャーなキノコでね。まさかこっちで食べられるなんて思わなかったよ。ふふっ。マッシュが どんどん生えるから好きに食べろだって! ふふっ、マッシュって面白い人ね」
「人じゃないけどね」
アリアが楽しそうに話すが、アベルはすかさずツッコミを入れた。
「あはっ。違いない! でもアベルが仲間にした魔物達はみんな人間みたいよね」
「そうかな? そう言ってもらえると嬉しいな」
「みんな意思があって、お喋りだわ。話してると楽しいもの」
先程焼きシイタケを「アチアチ」「あちち!」「あつぃン!」「グルルルルン!」と舌を火傷しながら頬張っていた仲魔達を思い出すと、顔が綻んでしまう。
「アリアは魔物の言葉が解るんだもんな……。不思議だ」
「私も! えへへ……」
アベルに笑みを向けられ、アリアも笑った。
――何の特殊能力なんでしょ……。
モブにしちゃあ呪文といい、魔物の言語理解力といい、過ぎた能力よねと今更ながらに、“アリア”という人物は恵まれている、天空人とかいう人種のお陰なのか。
主人公と共に歩む意味は一体何なのか。
よくはわからないが、アベルとは縁があったのだとアリアは感じていた。
呪いを解くための旅を今更一人でしようなどとは思っていない。
アベルに出来るだけ負担が掛からないよう、頑張るだけだ。
「…………まだあるけど、もっと焼く?」
アベルはまだ残るシイタケの入ったカゴを持ち上げる。
「んーん。もういいや。お腹いっぱい! 残りは干しておくよ」
「干すんだ!?」
「そっ。干したら長持ちするからね」
「へ~……。アリアっていろんな事知ってるんだね」
「ハハハ……。生活の知恵っていうやつかな……(修道院の自給自足生活……凄かった……)」
アリアが生活の知恵をアベルに伝えると、アベルは目を丸くして感心していたが、アリアは乾いた笑いしか出なかった。
修道院での生活はかなり厳しかったのか、思い出す度 戻りたくないと思ってしまう。
衣食の何もかもが自給自足。下着ですらも。
今身に付けているショーツとブラですら手作りなのだ。
――現実世界はあれでも恵まれていたんだなぁ……。
アリアはふと、現実世界での生活を思い出す。
大人になってからは薄給なのにも関わらず、仕事仕事で日々いっぱいいっぱいだったが、コンビニに行けば調理されたお弁当、袋詰めされた下着、気軽に読める本。家に帰れば、ボタン一つで炊ける炊飯器に掃除機、洗濯機。清潔なトイレ。
お金さえあれば自ら生み出さなくても、大体のものは手に入れることの出来る世界。
今いる世界はその殆どを自分で賄わなければ生きていけない、とても厳しい世界。
呪文が色々使えるとはいえ、ゲームの中の世界がこんな厳しいものだとは経験してみないとわからないものである。
十年もの間、元に戻れなかったのだ。
もう元の世界に戻ることは無いのだろう。
アリアは現実世界に感謝しつつ、修道院で学んだ経験は無駄じゃなかったと、こちらにも感謝するのだった(……ただ、戻りたいとは思っていない)。
そうして焼きシイタケパーティーは盛況の内にお開きとなり、その晩、アベルとヘンリー、ピエールの三人が火の番をし、アリアとマリアはキャビンにて休むことにした。
そして、夜が明けた……!
マッシュは色々菌を持っているという設定です。
マッシュルームやマツタケもいい……。(何の話)
その内なめこも生やそかな……。