またしても通せんぼ。
では、ほんぺーん。
王の間にアベルとアリアがやって来ると、ヘンリーとマリアが大臣に詰め寄っていた。
なんと、大臣が四階へと続く階段の前で通せんぼしている。
そして、玉座に居るはずのデールの姿もないではないか。
「どうしたんだろう……? デール君も居ないみたいだし……」
「うん……」
アリアが首を傾げると、隣りのアベルがヘンリー達の元へと歩いて行く。
と、
「……だから、通してくれって!」
ヘンリーが大臣に掴み掛り、そこを退くよう抗議していた。
マリアはヘンリーの後ろで手を組み、譲ってくれるのを待っているようだ。
ピエールも黙ったままで、後からやって来たアベルに気が付いて場所を譲る。
「ヘンリー、何か問題でもあった?」
「お、アベル。主役は遅れて来るってヤツかい?」
「ははっ、何それ? ……で、どうしたんだい?」
「それがさ、大臣の奴が通してくれないんだよ」
アベルがやって来るなりヘンリーがホッとしたような顔を浮かべた。
ヘンリーが云うには“今は取り込み中でここは通せない”と大臣が退いてくれないらしい。
アベルが大臣に伺ってみれば、こうだ。
「我が王に何か用か? しかし今は それどころではないのだ! なんと王様がどこからか太后様をお連れして……。驚くなかれっ。太后様が二人になってしまったんじゃっ!」
大臣は混乱している様子で、王がどうにか事を収めるまでここは通せないと云う。
「王がどうにかして下さるであろう。王を信じ、今しばらく待たれよ!」
腕を広げ“絶対通さないぞ!”と大臣が行く手を阻む。強い意志を感じた。
……退いてくれそうにない。
アベル達は一旦階段から離れ知恵を絞ることにする。
さて、どうするかな……とヘンリーがアベルに相談を持ち掛けた。
「どうやらデールのヤツ、地下牢にいた本物の太后を連れ出したみたいだな」
「そっか……デール王も解決しようとしているんだね」
「とはいえ、大臣が通してくれないんじゃ困ったぞ。混乱してんのか知らんけど
「う~ん。強行突破はいいけど、怪我をさせるとまずいかな?」
「まあ……、そうだよな」
アベルとヘンリーはチラッとアリアとマリアの方を見る。
「さて、どうしようか……」
アベルとヘンリーは共に腕組みをした。
二人がそうしている内にアリアが大臣の方へと歩き出す。
「大臣さん。私達デール君を助けに来たの。そこを空けてくれませんか?」
「っ、そなたは……!! 白金の天使……!? ここのところ見掛けないから辞めたのかと思ったがおったのか……!」
アリアが大臣に声を掛けると、大臣の瞳が輝き出した。
「んん……?(白金の天使? なんじゃそら……?)」
「おお、おお……! そなた、この私の不安を取り除きにやって来たのだろう? そうであろう?」
「……ん? わっ!?」
ぎゅぅっ。と、大臣がアリアの手を握り締めると、アベルが「アリアっ!」と大きな声を上げ慌てて走り出す。
「太后様が二人になるなんて前代未聞である! 私はこの事態にどう対処していいのやら不安で不安でしょうがないのだ……!」
大臣はアリアに縋るように、握った手を額に擦り付けていた。
大きな図体の割りに、肝は小さいらしい。
「っ、セクハラ~……! 大臣さん、それセクハラなんですけど~……(記憶喪失中はアホなことしちゃったなぁ……)」
アリアは手を引っ込めようとするが、がっつり掴まれていて解けない。
「アリアっ! ……くっ、放せっ!!」
「何をするかっ!?」
アリアの傍にやって来たアベルが大臣の手を剥がそうと力を込める。
「何をするかじゃないっ! その手を放せっ! アリアは僕の……じゃなかった、デール王の古い友人なんだぞ!?」
「なんとっ!?」
アベルの話を聞くや否や“パッ!”と大臣が手を放した。
「それは まことか!?」
大臣はアリアに詰め寄る。
勢い余って大臣から唾が飛んで来るので、アリアは引き気味に後退った。
「え? あ、うーん……多分……?(昔挨拶したけど、姿は見えていなかった……よね?)」
「……そ、そういえば、デール王も“アリア”という女性が来たら いつでも通していいと仰っていたような……」
「あら、デール君たら……。ふふっ(ありがたいわね)」
大臣の話にアリアは顔を綻ばせる。
その後ろでヘンリーが「デールの奴!」と苦笑いを浮かべていた。
「っ……アリア何で嬉しそうなんだよ……」
「ん……?」
アベルがボソッと口を尖らせるとアリアは首を傾げる。
「アベル達も友人なんです。通していただけますよね?」
「……ウ、ウム。そなたなら仕方ない。良ければ王の力になってやってくれ」
「はーい! 任せて!」
アリアが元気に返事をすると、漸く大臣が四階へ続く階段の前を譲ってくれる。
「またアリアさんに助けられちまったな(デールには後で説教しとかないとな!)」
「お役に立てて何より!」
ヘンリーがアリアに笑みを向けるとアリアはサムズアップしてはにかんだ。
「さあアベル。デールの所へ急ごうぜ!」
そうしてアベル達は四階へと向かうのだった。
◇
四階に到着すると、護衛の【さまようよろい】が部屋の扉の前で
【さまようよろい】の動きに合わせ、鎧がカチャカチャと音を立てていた。
「いったいどうしたことか! 二人の太后さまが会った途端、とっくみ合いのケンカに! 何とか二人を引き離したが、王さまにもどちらがどちらか分からなくなったのだ!」
やって来たアベル達の姿を見るなり【さまようよろい】が嘆き出す。
「あちゃ~。自分から行動してみたら この結果かよ。そういえば、あいつ昔から鈍臭かったんだよな」
「大変ですね。でもこれでアレが役に立ちますわ」
「だな!」
ヘンリーとマリアが互いに見合って頷き合う。
そんな二人の会話を聞きつつ、アベルは扉に手を掛けた。
「よし。じゃあ行ってみようか」
「歴史的瞬間ね!」
「ん?」
「ん? あ、違った?」
アベルが首を傾げると、胸の前で両手拳を握ったアリアもそれに倣って首を傾げる。
「プッ! んまあ、そういう見方もあるかもね?」
「ふふふっ!」
アベルが吹き出すとアリアも笑う。
二人は互いに笑い合ったのだった。
◇
扉を開くと、部屋には豪華なソファーに二人の太后が腰掛けていた。
二人の太后は互いに「わらわが本物」と言い争っている。
距離を置いてデールが二人の太后を見定めるようにじっと凝視していた。
「う~ん、どちらが本物の母上だろうか……。兄上だけに苦労させてはとボクなりにやってみるつもりだったのに……。どうもボクのやることはヘマばかりだな」
デールが独り言を呟き
「自分でも解ってるんだな。一応王なんだし、もう少し しっかりして欲しいもんだぜ」
「あの方がこの国の王さまで、ヘンリーさまの弟なんですか。あまり似ていませんね……」
ヘンリーとマリアがデールを見てそれぞれ語った。
「え? オレの方がいい男だって? やだなぁ、マリア。照れるぜ……」
ヘンリーは照れながら頬をカリカリ。
「え……?」
「ヘンリー君。マリアさん、何も言ってないよ……?」
「え、あ……っ、そ、そう……?」
マリアが目を瞬かせると、すかさずアリアがツッコミを入れて来る。
指摘され恥ずかしくなったのか、ヘンリーは頭の後ろを掻いていた。
「ていうか、ヘンリー君よりアベルの方が格好良いし……ね、マリアさん?」
「ぁ……、は、はい……」
女の子二人が突然アベルを褒める。
アリアはいつもの柔和な顔だったが、マリアはほんのり頬を紅く染めていた。
「えっ!!??(そ、そーなのっ!?)」
アベルは突然アリアに褒められ、ドキッとしてしまう。
――アリア、ヘンリーより僕の方が格好いいって思ってくれているのか……!
……ちょっと嬉しくなってしまったアベルだった。
大臣はアリアを飲み屋のおねーちゃんか何かと思っているフシがありますね。
デール君、ヘンリーのこと大臣に言ってないでやんのw