さて、ニセ太后を暴きましょう。
では、ほんぺーん。
「ムゥ……。アベルっ、お前はいいよなっ!!」
「なっ、なにが……!?」
急にヘンリーに睨まれ、アベルは両手を胸の近くで挙げ身体を後ろに引く。
「……まあ、いい。さっさとニセの太后に引導を渡そうぜ!」
「デール君。一緒に見破ってみない?」
「あっ! アリアさんっ……!(デール君? 君呼び……新鮮っ!!)」
ヘンリーの声に、アリアが手を差し出しデールを誘った。
デールはアリアを見た途端ぽーっと頬を赤らめる。
「よ、よろこんでっ!!」
デールは破顔してアリアの手を取り繋ぐ。アベルがその後ろで面白くなさそうに頬を膨らましていた。
「ふふっ。そうこなくっちゃ!」
「ぁ、あれ……? アリアさん、雰囲気変わりましたか……? 何だかこの前と違うような……」
アリアに手を引かれ、デールは何となく訊ねてみる。
「そう? うふふっ。こっちが本当の私なの。お淑やかなアリアじゃなくて、ごめんねっ」
「い、いえっ! どちらも素敵ですよ……!」
「あら、ありがとう! お世辞でも嬉しいなっ」
「お世辞なんかじゃ……」
アリアが優しい笑みをデールに向けるので、デールは頬を掻いてデレデレしていた。
アリアとデールがそんな会話をする中、二人の間に不服そうな顔のアベルが割って入る。
「……手を繋ぐ必要はないんじゃないかな……!?」
「え……? あっ」
アベルはアリアとデールの手首を掴んで、デールにだけに黒い笑みを浮かべてみせた。
「ヒェッ! す、すみませんっ! そうですよね!!」
「……アベル……」
デールがアベルの視線に背筋を凍らせると、彼女の手を放す。
アリアは不機嫌そうなアベルの様子をじっと見ていた。
「アリア、お手々繋いで仲良しごっこをしてる場合じゃないよ? 目的を見失わないでくれ」
「…………アベルとならいいの?」
アベルが注意してくるので、アリアはアベルの前に手を差し出した。
軽く首を傾げ、彼を見上げ口角を上げる。
「っ!? …………………………ぃ、ぃいわけないでしょ! 今はニセ者を暴く時! さっき歴史的瞬間って自分で言ってたよね!?」
「…………はいはい。行こ、デール君」
「あっ、はい!」
アベルは一瞬手を取ろうか迷ったが、目的を思い出し踏み止まってアリアに説教をした。
彼女は手を引っ込め、デールを太后達の元へと連れて行く。
「はいはいって…………、はぁ……(何なんだ……)」
――ねえ、アリア。何かと僕に絡んで来るのは何故なんだい……?
友達だって云ったのは自分の癖にさ……。
記憶の戻ったアリアの行動が不可解過ぎて、困惑するアベルだった。
そのままアベルはアリアとデールの後ろについて行く。
後ろにピエール、ヘンリーとマリアも続いた。
二人の太后の元へと近付くと、二人は未だ「わらわが本物!」と言い合い、次第にヒートアップしたのかキャットファイトを繰り広げている。
二人共頬に引っ掻き傷を負ってはいたが、互いに攻防を繰り返し、組手とも取れるフォームを見せていた。
シュババババ……!
風を切る音が聞こえ、太后二人の戦いは五分といった所か。
段々と目視では動きが追えない程、素早い手業で互いを打ち負かし、勝利したどちらかが“本物”になろうとしているようである。
そんな状態なので、二人はアベル達が傍に来たのにも気付いていない様子。
辺りは太后二人からの風圧で旋風が巻き起こっていた。
「……なんと! こんな展開だとは……!」
太后達の様子にピエールが驚きの声を上げる。
“自分の知っている展開と違うではないか!!”とのこと。
「太后って強いんだね……(こんな展開だったっけ……?)」
「オレも、ここまでやるとは思わなかったぜ……(攫われてなかったらオレは太后に
――この場合、攫われて良かったのかもわからんな……。
アベルが目をぱちくりさせて呟くと、ヘンリーは義理の母が自ら手を下さなくて良かったと安堵した。
(これって、やっぱりアリアの影響なのかな……。)
アベルはチラッとアリアの方を見る。
彼女と出会っても行く先で起きることは変わらないと思っていたけれど、実は違うのではないか……?
アベルは考え方を改める必要があるのかもしれないと感じていた。
「母上……」
「すごいね……互角じゃない? 近寄れないけど、どうしよう……?」
デールとアリアが太后達のすぐ傍までやって来たが、太后達の起こした風の所為でこれ以上近寄れない。
デールの後ろでアリアが顎に手を当て、考え込んでいた。
すると、
「っ、ボクが何とかしますっ!」
「え?」
デールが突然挙手して、すぅっと大きく一息吸い込む。
次の瞬間――。
「っ、ははうえぇぇええーー!!!!」
大音量でデールは太后達に声を掛けたのだった。
その一声で、太后達はバトルを止める。
「ぜー、ぜー……はぁっ、はぁっ……。止まった……!(よかった……)」
「「おほほほほ。デールや、こちらにいらっしゃい」」
デールが“ぜーはー”と呼吸を整えている間に、太后達は同時にデールに向かって腕を広げた。
互いに腕を広げるので片手同士がぶつかる。と、二人は再び睨み合った。
そしてパシパシと手の甲同士で叩き合い始めてしまう。
パシパシパシパシ。パシパシパシパシ。パシパシパシパシ。パシパシパシパシ。パシパシパシパシ。パシパシパシパシ。パシパシパシパシ。
それらは次第にリズミカルになっていった。
「っ、手を下ろすのです!」
「っ、そなたこそ!」
太后達は険悪な雰囲気で互いを牽制する。
「お二人共手を下ろして下さい!」
デールは威厳のある口調で太后達を
そんなデールの物言いに、二人は大人しく手を下ろすと膝の上にのせる。
「……母上達がすみません……」
デールはアリアに振り向き、恥ずかしそうに頬を赤くして頭を下げた。
「ふふっ、元気なお母様達ね!」
「……じゃあ、先ずは右の母上から話を聞いてみてもいいですか?」
「ん? アレは使わないの?」
「……アベルさん達には申し訳ないのですが、ボクも自分の力で解決してみたいのです。無理だった場合は後を頼みます」
アリアが朗らかに笑うと、デールが自分でも解決したいと右の太后の前に立つ。
――アリアさんにボクが頼れる王だってことを見せたい……!
デールはアリアがすぐ後ろで見守る中、右側に座る太后に話し掛けた。
左側の太后は苦々しい顔で右側の太后を睨んでいる。
「母上」
「デールや、この母が分からぬのですか? さあ、こっちへいらっしゃい」
右側の太后はドレスが薄汚れ少々疲れた顔をしていたが、優しい笑みを浮かべている。
その様子を見ていたヘンリーがアベル達の後ろで個人的な意見を話し始めた。
「う~ん。こっちが本物かな? なんか薄汚れてるし……。でもオレが知ってる この人は、こんなに優しそうじゃなかったな」
――牢に居たから薄汚れたのか、さっきの戦いで汚れたのかわからんな……。
右側に座る太后の様子を眺めてヘンリーはうーんと唸る。
アベルとピエールは共に黙って様子を見ていた。
「……では、次は左側の母上に声を掛けてみますね……は」
「ええい! 私が本物だとなぜ分からぬのかっ! この薄汚い女を早く牢に入れておしまい!」
デールが左側に座る太后に話し掛けるより先に、左側の太后がキィキィと甲高い声で右側の太后を罵る。
そしてデールの後ろに居るアリアをチラ見するのだが、一瞬だけだったので彼女は気が付かなかった。
「ああ、あのヒステリックな声、子供の頃を思い出すよ。こっちが本物かな?」
またしてもヘンリーが様子を見ながら見解を述べる。
腕組みしながら、左側の太后を凝視していた。
――薄汚れてはいないけど、さっきの戦いで傷を負ってるな……。うーん、どっちだ?
ヘンリーには判断がつかないようだ。
と、
「……うーん。見た目だけじゃ判断がつきませんね。……残念です」
デールも判断がつかなかったらしく、ガクッと肩を落としてしまった。
そして、「後は兄さん達にお任せします……」と身を引いて下がり、今居る場所をアベル達に譲る。
アリアは肩を落としたデールが気になったのか、「デール君はよくやったよ……」とデールに励ましの声を掛け、太后達に背を向けていた。
太后二人は又しても「わらわが本物!」と主張し出してしまう。
「さあ今こそアレを……!」
一番後ろで見ていたマリアがアベルの隣にやって来て告げた。
太后強いやん!w