空目の回。
では、本編。
なんと、太后様はニセ者だった。
このウワサは瞬く間に国中に広がり、そして夜が明け……
……ず……。
アベル達がニセ太后を倒したことにより、魔族から国を見事奪還、ラインハットは漸く人の手に戻って来た。
具体的な策は後日ということにして、第一王子であるヘンリーが生きていたことが周知され、すぐさま税金が引き下げられた。
国民達は皆喜びに沸き、今後この国にも民が戻って来ることだろう。
……アベルが姿を消してすぐに、デールとヘンリー、太后、大臣で話し合い決めたことである。
今夜はささやかながら宴を開くというので、アベル達は宴の時間までかつてのヘンリーの部屋で休むことになった。
「……アベル……どこに行ったのかな……マリアさんも……(にしてもこの部屋何だか懐かしい気がするなぁ……。あの本とか……)」
アリアは椅子に腰掛け、出されたお茶を飲んで部屋を見回していた。
ピエールは馬車の様子が気になるとのことで見に行っている為、今はアリア一人だ。
部屋の中を見回していると、ふと本棚に目が留まり、本でも読むかと立ち上がって中から一冊手に取る。
本の表紙には“文字の書き方・上”と書かれていた。
「この本知ってる……!」
強い既視感。ここで読んだことがあるような気がして、アリアは表紙を捲る。
今でこそ この世界の文字を書くことが出来るが、それは修道院で教わったものだ(ちなみに修道院では“文字の書き方・下”を使っている)。
アリアがアベルと初めて出会った時は全く読むことが出来なかったのにも関わらず、修道院で目覚めてすぐ、文字を書くことは難しかったが何故か読むことは出来た。
ということは、アベルやヘンリーと別れる前に教わったのかもしれない……。
アリアは“文字の書き方・上”をパラパラと捲っていく。
――強い既視感があるのは、やっぱりヘンリー君と友達だったからなのかな……? 早く思い出してあげたいなぁ……。
記憶喪失の間はサンタローズやアルカパでこれ程 強い既視感を感じたりはしなかったので、残りの記憶はその内戻りそうな気がするアリアだった。
「……アリアさん」
パタン。と扉が閉じる音が聞こえ そちらへ振り向くと、マリアがやって来ていた。
「あっ、マリアさん。どちらに行っていたんですか?」
「ちょっと……三階の屋上へ……。のどが渇きました……」
マリアはテーブルの席に着く。
「お茶をどうぞ。少し時間が経っているので、ちょっと冷めちゃってますけど……」
「ありがとうございます」
アリアは本を棚に戻し、マリアにお茶を淹れた。
マリアはそのお茶を口にして「はぁ……美味しいお茶ですわね」と目を細める。
「マリアさん、私、アベルを捜しに行こうかと思って。ちょっと行って来ますね(マリアさんが来るの待ってたんだよね……)」
アリアはティーポットをテーブルに置くと、踵を返し扉に向かった。
と、
「アリアさん」
「はい?」
マリアに呼び止められ、アリアは振り返る。
「……アベルさんなら、三階の屋上で町を眺めていらっしゃいますわ」
「そうなんだ。ありがとう! 行って来るね!」
アベルの居場所がわかり、アリアは早速……と再び踵を返す。
「アリアさんっ! お待ちになって!」
「ん……?」
マリアは立ち上がって駆け出し、扉の前に立つとアリアの行く手を阻んだ。
「アリアさんは、アベルさんのことをどう思っていらっしゃるの……?」
「え……? どうって……、仲の良い友達……だけど……、なんで……?」
「…………アベルさんのこと、お好きなのでは……?」
「えっ」
マリアに問い詰められ、アリアは息を呑む。
「……でなければ、アベルさんが可哀想です……」
――アリアさんの記憶を取り戻すのにあんなに奮闘されたのに……!
マリアは手を組み、瞳を伏せてしまった。
「……ぇっと……」
「どうなのですか?」
アリアが返答に困って目を泳がせると、マリアは瞳をうるうるさせアリアを見つめて来る。
「ぅ…………………………………………、…………――だょ」
「…………え? 声が小さくて……聞き取れませんでしたわ、もう一度教えて下さいませんか?」
「っ…………、…………私は………………――」
アリアはマリアに近付いて、彼女の耳元に手を添えそっと呟く。
「………………………………まあ……!」
「はは……、まあ、しょうがないよね……」
アリアの答えにマリアは目を見開いて、瞳をぱちぱちと瞬かせた。
その後で、二人は「うふふっ」と笑い合ったのだった。
◇
一方で、逃げ出したアベルはというと、三階歩廊の先、屋上の南で城下町を眺めていた。
「……アリア……。僕はどうしたらいいんだ……?」
城下町ではもう夕暮れだというのに人々が喜びに満ち溢れた笑顔で、お祭り騒ぎをしている。
アベルは今までこんな光景を見た事が無い。
いつもは【ニセ太后】を倒した後はすぐ休んで次の日だったはず……。
「……あ、あの子達は……(嬉しそうだなぁ)」
アベルの目に物乞いの姉弟が晴れやかな笑顔でパンを頬張っている姿が映る。町で配られたようで、両手に握って交互に食べている。
「よかった……」
――でも、僕の心は晴れないや……。アリアは僕のことをどう思ってるんだろう……。
記憶が戻ってから見えない壁を張られた気がして、アベルはそれ以上踏み込めないでいた。
戦闘中の告白は混乱中の世迷言なのだろう、混乱が解けたら忘れてしまっているとは……。
勢いで自分も告白したが、それすらも忘れられている。
アリアの挑発に乗って正直になれず反発してしまったのは悪いとは思っている。
だが、アリアもアリアで距離を置いて来たかと思えば、今度は近付いて揺さぶって来る。
そして、アベルが近付けばまた遠ざかる。
アベルには彼女の意図が全くわからなかった。
「アリア……」
――君は、僕をただ からかっているだけなのかい……?
そういえば、小さな頃からお姉さん風を吹かせる女の子だった。
僕を褒めて、宥めて、励ましてくれた。
僕はそれが心地良かったんだ。
彼女はいつも笑顔で受け止めてくれていた。
――そう……、笑顔だった。
記憶喪失中は何だか頼りなくて、よく泣いて解りやすかったのに……。
今はずっと笑顔で何を考えているのか わからない……。
「それでも好きだけど……」
アベルの髪を夕暮れの冷えた風が攫って行く。
このまま彼女を好きでいても、報われないのかなと思うと哀しくなった。
――これから共に旅をするけど、少しずつ諦められるのだろうか……?
アベルは空を見上げ考えてみる。
どうしてかは分からないが、アリアは自分にちょっかいを掛けて来る。その距離感はおかしい。
どう考えても、一緒に居て諦められる気がしない。
「……ふぅ……」
とはいえ、アリア一人では心配だから、一緒に旅するのを止めるわけにも行かない……と、アベルの口からは溜息しか出なかった。
そんな時、
ポンッ! と、アベルは肩を叩かれる。
「アーベルッ!」
「っ、あっ、アリア……!」
アベルが振り返ると、アリアが笑顔で立っていた。
マリアとアリアが並ぶとどっちがどっちか、わからなくなる。
歳かな……。
アリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアルアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリアアリアマリア。
一つだけ、アリアが入っていますw