ラインハットで宴があってもよかろう?
では、本編どぞ!
「みっけ♪」
アベルを捜しに来たのだろう、アリアはアベルを見つけて嬉しそうだった。
「…………あ、うん……」
半面アベルはアリアの笑顔に切なくなって、ただ頷くだけ。
――僕に会えて凄く嬉しそうなのは……気の所為?
「国を救った英雄が こんな所で独り黄昏れてるなんて……。何かあったの……?」
「……何も……」
アリアに見つめられ、アベルは彼女の瞳から逃れるように身体を城下町の方へ戻すと遠くを見た。
「何か暗いなぁ~。小さい頃のアベルは明るくていつも元気だったのに」
「……はは……。十年経ったら性格も変わるさ……」
アベルが背を向けるので、アリアはアベルの隣に移動して横に並ぶ。
そして、アベルと同じように遠くを眺めた。
「……そうだね。アベルは辛い目に遭って来たんだもの……。ごめん、無神経なこと言ったね」
「あ、いや……。………………アリアは変わらないね。あ、記憶喪失中は全く違ったけど……」
「あははっ、大人ですから! ふふっ。記憶喪失中ね! アレはアレだよ。…………前の私」
アベルの言葉にアリアは風に揺れる髪を掻き上げた。
「え……」
「……前世の……、ダメダメだった頃の私。自分に自信が無くて、毎日不安でどうしようもなかった頃のね。あの頃の私、大嫌い」
「大嫌いって……そんな……」
――僕は、その君にも惹かれていたのに……。
アベルはアリアの自己否定の言葉に哀しくなる。
「……前世の私のお父さん、結構酷い親でね……。私虐待されてたの。毎日罵声と暴力振るわれてたんだ」
「っ……!?」
アリアの思わぬ話にアベルは目を見開く。
――前世って……、昔言ってた……!? 罵声と暴力って……!?
「あっ、でも、今くらいの歳の頃には親とは離れて暮らしてたから、そっからは少しずつ回復したよ。それから大人になって色んな物を積み上げて自信も持てるようになった。でも……」
「……今くらいの歳って……。アリア、それ……、どういう話なの……?」
アベルは遠くを見つめて話す隣のアリアを見下ろした。
「ん……?」
「アリアの……昔話……。天界で罵声と暴力を振るうような父親が居たっていうのか……?」
「……あ。……ふふっ。……そっから話さないと、やっぱダメだよね」
アベルが天界はそんなに酷い所なのかと眉を寄せるとアリアは弱り目で笑う。
「…………話してくれるのかい……?」
「うん、全部話すよ。でも……」
「ん……?」
アリアが言い淀むと、二人の背後から誰かの駆けて来る音が聞こえて来たのだった。
『アベルさーん、アリアさーん! 宴が始まりますよー!』
その声にアベルとアリアは振り返り、声の主を見て目を丸くする。
なんと、デール王自ら二人を呼びに走って来るではないか。
「あ……」
「……今日は無理そうだね。これからずっと一緒なんだし……、今度ゆっくり話そ?」
「っ……すぐ、そういうこと言うんだから……!」
アリアが上目遣いで そっとアベルの手を取ると、アベルは頬を膨らます。
頬は赤く染まっていたが、辺りは暗くなりアリアにはバレなかった。
「ん? うふふっ、行こっ、アベル」
「……しょうがないなぁ……。じゃあ僕が連れて行ってあげるよ」
アベルはアリアの手を繋ぐと少し強引に引いて、デールの元へと歩き出す。
「あんっ、アベル手痛いっ!」
「っ……、そういう声出さないでよね……!」
不意に漏れたアリアの艶声にアベルは どぎまぎすると、彼女を
「……ふふっ、ごめんごめん。咄嗟に出ただけだから許して? っていうか、記憶喪失中の時の方がアベル優しかった気がする~。あっちの方がアベルの好みだったかな?」
「…………っ、何言ってんの……。そんなことないよ……」
「ふふっ、……そっか、よかったぁ……」
「…………っ……!?」
アベルにやんわり否定され、アリアは嬉しそうに目を細める。
その顔にアベルはやっぱり彼女を諦めることは出来そうにないと観念したのだった。
呼びに来たデールに繋いだ手を凝視されつつ、二人はそのまま三階の宴会場へと向かう。
ささやかな宴とはいえ、宴は夜遅くまで続き、アベルやヘンリーは大いに酒を飲み、アリアは少しだけ、マリアはアルコール無しで楽しい夜を過ごした。
そして、夜が明けた……!
◇
……翌日、朝。
「うぅ……」
昔のヘンリーの部屋でアベルは目が覚めると、頭を抱える。
昨夜はこの部屋で眠ったのだった。
アリアとマリアは奥の部屋(【子分のしるし】が入っ……ていない宝箱の部屋)にベッドを用意してもらい一泊。
「あちゃ~、具合が悪そうね。二日酔い? 昨日飲み過ぎてたよね」
アリアがアベルを覗き込み声を掛ける。
「ぅぅ……これ二日酔いっていうのか…………そうみたいだ……」
――頭は痛いけど……、アリアの顔を見たらなんか ほっとする……。
自分を優し気に見守るアリアの顔にアベルは口角を上げた。
「玉座の間……? あ、王の間だっけ? 行けそう? もう少し横になってる……?」
「ああ……、いや、大丈夫。起きるよ」
アリアが「みんな王の間でアベルを待ってるけど、少し位待たせてもいいよね」と微笑むが、アベルは身体を起こす。
「マリアさんは先に行っちゃったよ」
マリアはヘンリーと共に先に部屋を出たらしい。
「そっか……」
「フフッ」
頭を抱えながら応えるとアリアから楽しそうな笑い声が聞こえ、アベルは顔を上げた。
「……ん……?」
「今、二人きりだね?」
「っ……、な、何言って……」
アリアの微笑みにアベルは動揺し頬を紅潮させる。
「……具合が悪いなら私の腕に掴まるといいよ? アベル一人くらい支えられるから。連れて行ってあげる」
「……その細腕で? 無理だよ」
優しい笑みでアリアが自分の細腕をパンパンと叩くが、アベルは首を傾げた。
「ぅ。やっぱ頼りない……?」
「僕が寄り掛かったら、アリアが倒れてしまいそうで怖い。僕、重いよ?」
アベルはベッドから下りて、立ち上がった。
するとアリアはアベルを見上げる。
「…………うーん、アベルってば、本当、大きくなったよねえ……。私よりもうんと背が高くなっちゃってさ~」
――すっごい筋肉よね……! いいなぁ……腕とか触ってみたい……けど……触ったら怒るかな……?
アリアはアベルの身体を改めて眺めると、自分にはない筋肉が少し羨ましく感じた。
自分は八年間眠っていたし、修道院でリハビリこそすれ筋トレなどした試しはない。
これからも旅は続くのだ。ひ弱なままの身体をもう少し鍛え、アベルに迷惑を掛けないようにしたいなと思うのだった。
「アリアは小さいもんね」
アベルは自分を羨ましそうに見上げるアリアの頭に、手をのせ撫でてやる。
柔らかい絹髪の感触に心地好さを感じた。
けれどもアリアは頭を撫でたのが不満だったのか否か、何故か瞳を伏せてしまう。
「……これでも成長したんですけど。って何か、アベルが大きくなったら私、幼くなったみたいじゃない。……やだなぁ。大人なのに恥ずかしいわ……」
――私、アラサーなんですよ……っ!? 十六歳の子にこんな子ども扱いされるって恥ずかし過ぎるでしょ……っ!!
アベルに子ども扱いされ、アリアは恥ずかしそうに膨らませた頬を掻く。
そう、お忘れかもしれないが、アリアの
十六歳の青年に子ども扱いをされること程、恥ずかしいことはないのである。
「……っ(可愛い……)」
――こんなことで恥ずかしがるんだ……?
アリアの想いなど知る由もないアベルは、記憶喪失中とは恥ずかしがる箇所が違うんだなぁと不思議に思いつつ、彼女の頭を撫で続けた。
「………………もう、行っちゃう?」
「……ん? うん」
――もう少し触れていたいけど、これくらいで今は我慢……。
アリアが顔を上げるとアベルは撫でるのを止めて返事をした。
「ん、そっか。じゃあ行こう!」
アリアはにっこりと満面の笑みを浮かべ、アベルから離れ歩き出す。
「ぁっ、アリア!」
――やっぱり手を繋いで……
……とは思ったが、
「んー?」
「……………………何でもない」
アベルは“手を繋ぎたい”とは言い出せなかった。
子どもの頃のノリで言えば多分、アリアは断らないだろう。
きっと自分を子ども扱いして、笑顔で繋いでくれる。
だがそれは自分を男として見ていない証明になってしまう。
一つしか歳は違わないが、アリアは年上の
子どもの頃のように弟扱いされたままでは意識してもらうことすら出来ないのではないか。
――僕は大人の男だ。アリアから手を繋いで欲しいと言われるまではこちらからは求めない……。
アリアにいつか自分が男なんだと意識させたい一心で、アベルは彼女の手元をじっと見る。
「…………? うん、……そっか」
アリアは何か言いたげではあったが、特に何を言うでもなく歩き出した。
そうして二人は部屋を後にし、ヘンリー達の待つ王の間へと向かった。
切り所がわからず、ちょっと長くなってしまいました。
ヘンリー君との最後の夜だもの、ラインハットで宴があってもいーじゃない。
……の割に宴は数行であっさり終わってるっていうwww