見晴らしがいい所は気持ちがいいですね。
では、本編どぞ~。
◇
「うわぁ~~~~! いい眺め~~~~!」
灯台最上階に着くと、アリアが海の遠くを眺めて眩しそうに目を細める。
海面がキラキラと陽の光を反射させていた。
「ここが西の国で、海が目の前にあるから……あっちが東かな? あっちから来たのね」
なんと! アリアが指差した方向は北だった……。
「…………うん、そっちは北だね……!」
――方向音痴、やっぱり治ってない……!
アベルは目元を緩め、修正してやる。
「っ………………、あはは……。じゃ、じゃああっちが東ね……」
アリアは出しっぱなしの人差し指の位置を自分が東と思う方へと向けた。
「…………大体合ってるかな?」
「ほっ……。っ、気を取り直して、今度は向こうを見て来るね!」
アベルに頷いてもらい ほっとしたアリアは今度は灯台の南側へと向かって遠くを見渡す。
「緑がいっぱいね~!(さすが異世界。どこまでも自然だらけね!)」
アリアの眼前には広大な自然が広がっていた。
中には魔物らしき影が見えるものの、人の手が殆ど入っていない現実世界では見られない光景に、感動してしまう。
アリアはそのまま灯台を一周しながら辺りを見渡していった。
「…………子どもみたいに はしゃいじゃって……」
――可愛いなぁ……。
アベルは楽しそうに景色を見下ろすアリアを優しい瞳で見守る。
と、
「おや? あの煙は何だろう? 確かルラフェンの辺りかな?」
「……? 何か見えたんですか?」
アリアは望遠鏡を覗いている青年に話し掛けていた。
「え? あっ! っ、……み、見てみます……?(うわっ、綺麗な
声を掛けられた青年はアリアに振り向くと ぽっと頬を染め、アリアに場所を譲ろうとする。
「っ、アリアっ!」
「あっ」
アベルは咄嗟にアリアの手を引いて、青年から彼女を遠ざけた。
「結構です!! ね? あっちの望遠鏡が空いてるよ」
「っ、ごめんなさい。あっちの望遠鏡を見ますね……」
アベルに手を取られ、アリアは青年の覗いている望遠鏡とは真反対に位置する望遠鏡に連れて行かれる。
アリアは青年に軽く頭を下げておいた。
「そうですか……、残念です……」
青年はぽつりと呟いて再び望遠鏡を覗くことにした。
「アリアっ、さっき言ったよね!?」
空いている望遠鏡の前までアリアを連れて来ると、アベルは声を荒げる。
「ご、ごめん~……。って、何で私が謝らなきゃいけないの……?」
「君は余計なトラブルを招くかもしれないから、話し掛けるの禁止っ!」
アリアが不服そうに頬を膨らますが、アベルはこの際だからとアリアから誰かに話し掛けるのを禁止することにした。
「余計なトラブルって……」
「セクハラとかセクハラとか、セクハラされるでしょ!」
「全部セクハラじゃない……。ていうか、アベルもしたじゃない……」
「僕はいいでしょ!」
アベルは自分の事は棚上げである。
「へ? 何言ってるの、ダメに決まってるでしょ! めっ! 悪い子なんだからっ」
アベルの言葉にアリアは彼の鼻尖を人差し指で弾いた。
「っ……」
――めっ、って……。何もぉ……この可愛い怒り方……。
アリアの怒り方にアベルは言葉を失ってしまう。
完全に子ども扱いを受けているわけだが、僅かに触れた指先が愛おし過ぎて黙り込んでしまっていた。
「も~、アベルってば、大人になったらすっかりエッチになっちゃって……。ってまあ思春期だもの、興味あるよね。……ふふふっ(しょうがないか!)」
アリアは自分の胸を覆い隠すように腕をクロスさせ、アベルを見つめるとくすくすと笑う。
記憶喪失中にアベルから何度か受けたセクハラは水に流している様子で怒ってはいないようだ。
「アリア……、ごめん。もう、しないから……」
――本当はもっと君に触れたいけど……、嫌われたくないから触らないよ……。
アベルはそう思ったが、機会があれば触りたいなとアリアをよく観察することに決めた(懲りてはいない)。
「ん、わかったのならヨシっ、じゃあ、
「ぁ、ぅん」
アリアが望遠鏡を覗く。
望遠鏡を操作し、左右に移動させていくと海の向こう、南東の方向にとてつもなく高い山が見える。
山頂には何やら建っているが雲が懸かっていて何なのかはわからない。
「あれ……なんだろう……?」
「どれどれ?」
アリアが望遠鏡を覗きながら声を出すとアベルの声が耳の傍で聞こえた。
「アベル見てみて……、ぁっ……!」
「ぁっ……」
不意に、二人の顔が間近に迫る。
あまりに突然過ぎて、二人とも一瞬声を失ってしまった。
「っ……、ぇと、すっごい高い……山があって……」
「…………っ、そ、そぉなんだ……」
――あっ、アリアの吐息が掛かった……!
アベルは無意識にアリアの吐き出した呼気を吸い込んでしまう。
するとアリアがそわそわしながら顔をそっとアベルから背けるので、アベルは場所を代わってもらい望遠鏡を覗いた。
二人の耳と首とが赤い。
――アリア、今、顔赤くしてた……よね?
「…………っ、あれは…………!!」
アリアの事を考えながら望遠鏡を覗くとアベルの目には彼女の見た山が映る。
その山は高く、人の足ではとても登れそうにない。
雲が懸かっていて山頂もよく見えなかったが、山頂に建っている建物が何なのかアベルにはわかった。
「……アベルわかる……?」
「っ……あそこは多分……大神殿だよ……」
アリアに話し掛けられアベルは望遠鏡から目を離し、彼女に向き直る。
「大神殿って…………? ……あっ! アベルが居たっていう!?」
「……うん、多分ね……。高い場所だったってことは憶えてるから……」
アリアがハッとして気が付くと、アベルは首を縦に下ろした。
「……あんな所に居たのね……」
「…………よくは見えなかったけど……、僕が居た頃より建築が進んでいるみたいだった……。っ、あんな所に……」
アベルはギュッと拳を握り締める。
瞬時に奴隷の日々が思い出され、胸が苦しくなった。
十年もの長い間食事もままならない、鞭を振るわれ続け、いびられ、肉体労働を強いられた奴隷生活。
【ムチ男】の所為でアベルの性癖まで変えられたのだ……!
「……アベル……。思い出さないで……?」
アベルが握った拳を胸元に持って来て俯き顔を顰めると、アリアの手がアベルの拳に触れる。
「え……?」
「辛いことなんて思い出さないでいいよ。過去は過去だよ、もう戻らない。でも、それでも辛い時は私が愚痴を聞くから。何でも言っていいんだよ?」
「アリア……(鞭で打ってって言ってもいいの……? ……いや、駄目か)」
アリアのアメジストがじっとアベルを見上げると、アベルは自分と対話しながらそれに囚われたように見下ろした。
「……過去ってね、ずーっと纏わりつくものなの。でも、自分が気にしなければ何てことはないんだよ? 未来は過去の延長じゃないから……。今が未来を作ってる」
「今が未来を作る……」
「……って、偉そうなこと言ってごめんね。アベルが苦しそうな顔してるの見るの、辛い。私、あなたには幸せになって欲しいな」
「っ……そう思うなら……僕の気持ちを受け入れてくれればいいのに……」
つい、アベルの口から零れ落ちる。
「そ、それは……………………、……………………、…………………………ごめんね」
零れ落ちた呟きにアリアは言葉を失い、スッと身を引いてアベルから離れた。
「あっ、僕の方こそごめんっ、今のナシっ! 冗談だから気にしないでっ!」
「っ…………うん。…………ふふっ、アベルは優しいね。ホント、優し過ぎて…………ははっ……」
アベルがアリアの手をそっと引いて笑い掛けると、アリアも笑う。
けれども、目は伏せられ悲し気だった。
その様子をピエールが離れた場所から眺め、何かを感じ取ったのか首を傾げて見ていた(ちなみにスラりんは「すごーいすごーい!」とぴょんぴょん跳ねて景色を楽しんでいる)。
「アリア……?(何でそんなに悲しそうなの……?)」
「……そろそろ下りよっか」
アリアの声掛けで、アベル達は下に下りることにした。
スラりんが無邪気でちょっとしか出てこないけど癒される……。