モンスターじいさんツー
では、本編どぞ。
アベルは未だ自分では咀嚼出来ていない とんでも話をピエールに話した。
「…………というわけなんだってさ。君は理解出来る?」
「な、なんと……! 私が世界を渡り歩いた理由がその“げえむ”とやらだから……ですと?」
「……アリアの説明が本当なら、この世界は僕を中心に回ってるってことになるんだけど……、そんな実感もないんだよね……」
「それはそうでしょう! 私は私で主殿が居ない場所で生きておりましたし、他の人々も同じはず」
アベルとピエールは埠頭に腰掛け、海を眺めながら話を続けていた(アンドレはピエールの隣で日向ぼっこ中)。
アベルの髪が海風に揺れている。
「だよね。ただ、アリアの言ってることがわかるような気もしていてね……」
「……と言いますと?」
「うーん、まだはっきりしないから何とも言えないんだけどね。何となく、“あ、なるほど”って感じる時があるというか……。その内理解出来るような気がするよ」
ピエールにアリアから聞いた話をするだけして、アベルは海風に靡く前髪を何となく
“前髪伸びたな……”なんて見上げていた。
「……はぁー……、なんと……そんなことが……」
ピエールの表情は兜で覆われ読めないが、声は呆気に取られているような気がする。
自分もそんな感じだったよとアベルは口角を上げた。
「ははは……昔からアリアって変わってたけど、遂に頭がおかしくなったのかなって一瞬思ったりもしたんだ。けど、そういや昔、僕も父さんやサンチョにおかしな子扱いされてたなって思い出してさ、同類だなって思ってね。僕だけでも信じてあげないとって思ったんだ」
そこまで話すとアベルは立ち上がる。
「主殿……そこまでアリア嬢を……」
「……彼女はあんな壮大な嘘、吐かないと思う。それでね、ピエールにお願いがあるんだけど」
「はい?」
ピエールはアンドレによじ登りながら顔だけアベルに向けていた。
「アリアが何か訊いて来たら教えてやって。彼女には君も人生を繰り返していることを話してあるから」
「あっ、そうなのですか。わかりました! アリア嬢がお望みならば何でもチカラになりましょう! 彼女の幸せが私の幸せですから」
アベルが向こうの方へ行ってみようと指差しながら言うと、ピエールはグッと拳を握り締め力瘤を作ってみせる。
アリアの為なら何でも協力するつもりらしい。
自分もそういう気持ちではあるが、ピエールには敵わない気がしたアベルだった。
「はははっ、君は本当に頼もしいね」
二人は再び移動し砂浜へとやって来る。
すると そこには焚き火を淋し気に見つめる老人が佇んでいた。
「お爺さん、こんにちは。僕は旅をしているんですが、最近何か変わったことはありませんか……?」
アベルは町で変わったことが無いか訊ねてみる。
老人の背中があまりにも淋しそうだったからつい声を掛けてしまったのだ。
「わしの息子は本当にウデのいい船乗りじゃった。しかし息子の乗った船が魔物どもに襲われてのう。今思い出しても悔しくて涙が出てくるわい……」
「……そうですか……。魔物に……」
老人の背中が淋し気な理由がわかり、アベルは俯く。
声を掛けない方が良かっただろうかと少し後悔した。
「……お前さん船で来なさったか?」
「あ、はい」
「無事でよかったのう……。気を付けて旅をなされよ」
「お爺さんも……元気出して下さいね……」
アベルが老人にそう声を掛けると、老人は黙り込んでそれ以上何も話してくれなかった。
悲しみに囚われているのだろう……。
いつ息子が亡くなったのかは知らないが、老人の様子にまだそんなに日が経っていない気がして、アベルは黙って頭を下げ埠頭へと戻る。
埠頭から浜辺を振り返り見れば、老人の背はやはり淋し気で、彼はパチパチと燃える焚き火をただ黙ってじっと見つめ、時折目蓋を拭っていた。
「……海の魔物か……」
「海洋の魔物は獰猛で、凶悪。容赦ないですからね……」
「……魔王がいる限り、それは続くんだね……。君みたいな話のわかる魔物もいるっていうのに……」
アベルはいつか勇者と共に倒さなければ……と拳を握り締める。
「……主殿……」
「……はぁ、先は長そうだね。……あ、そこの階段なんだろう?」
――埠頭に階段……? 気になる……!
ふとアベルが埠頭の先に下り階段を見つけ、指を差す。
こんな海のすぐ目の前に階段……? 不思議に思ったが、
「? 行ってみましょうか」
ピエールがそう言ってくれたのでアベルは階段を下った。
階段を下りた先には見た事のある光景が広がっており、アベルは驚く。
なんと! オラクルベリーにいたはずのモンスターじいさんがそこには居たのだった。
部屋の作りもそっくりそのままである。
「モ、モンスターじいさんっ!? オラクルベリーに居るはずじゃ……!」
アベルは驚き、つい大きな声を上げてしまう。
そんなアベルにモンスターじいさんがニカッと白い歯を見せた。
「……あやつは元気にしておったか?」
「っ……!?(ど、どういうこと!?)」
モンスターじいさんの言葉にアベルは首を傾げる。
――あやつ……ということは、モンスターじいさんは双子だった……!?
そういえばイナッツさんが居ないなとアベルは魔物の檻を眺めた。
檻からは「あっ、あるじ~!」「ピルルルッ」「はぁぁ~」と聞き覚えのある仲魔の声が聞こえ、鉄格子越しに手を振る仲魔の姿が見える。
何故オラクルベリーに預けた仲魔の声がそこから聞こえるのか……。
アベルは不思議に思ったが“深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ……”。ふとそんな言葉が頭に過る。背中にひやりとしたものが這った気がした。
モンスターじいさんに深く関わってはいけないと心が訴えている気がしてアベルは仲魔達に手を振り、気にしないことにした。
(うん、みんな元気そうだね!)
アベルが預けられた仲魔の様子を見終えると、モンスターじいさんが声を掛けて来る。
「で? 何の用じゃ?」
「あっ、べ、別に用は……」
「たまには顔を出してやれよ。みな淋しがっておるでな」
ちょっと寄ってみただけだったのに、思わぬ出会いをしたものだ。
モンスターじいさんに仲魔達をお願いしますと頭を下げて、二人は階段を上がる。
「そろそろ、アリアも終わったかな……?」
「そうですね……、教会へ戻りましょうか」
アベルとピエールは教会に戻ることにした。
◇
教会へと戻って来ると、アリアが丁度教会を出ようとしていた所だった。
「あ! アベルっ、いいところに。丁度終わったよ~!」
「あっ……、うん。よかった……!」
――アリアの笑顔が可愛い……!
アリアが嬉しそうな笑みを浮かべ、手を振りながらアベルの方へと歩いて来るので、アベルの目元が自然と緩んでしまう。
好きとは言わせてもらえないけれど、この笑顔が見れるなら今はそれだけで満足だ。
アベルは自分のすぐ傍までやって来たアリアの様子が随分とすっきりしているように感じた。
「アリア、ひょっとして呪いが解けた……? 随分すっきりしているみたいだけど?」
ふと疑問に感じて、アベルはアリアに訊ねてみる。
「ん~、もう少しみたい。あと三、四ヵ所くらい回れば解けるかもって」
「へえ、そうなんだ。よかった……効果は出てるんだね」
アリアがアベルを見上げて神父に云われたことをアベルに話す。
と、アベルが優し気にアリアを見下ろしていた。
「……どうしてわかったの?」
「ん……? 何となく……?」
――アリアのことは いつも見てるから、変化があれば気付くんだよ……。
アリアに問われて、アベルは ぽっと頬を染め頭の後ろを掻く。
「……何となくかぁ、アベルはすごいね。やっぱり主人公なんだなぁ……」
「関係ないと思うよ?」
アベルの言葉にアリアが感心するが、アベルは口角を上げてやんわり否定した。
モンスターじいさん複数人居る説。ホンマ、謎なんですよ!
また旅先でスリーとかフォーとか出るんでしょうねw