何に勝ちたいの?
では、本編どぞ。
「大丈夫ですか!? ……って酒くさっ!」
「ああ、二日酔いだ。昨日は飲み過ぎたなあ」
アベルは鼻を抓んだ。
男が頭を抱えながら「もうちょっとしたら帰るよ……ムニャムニャ」と云いながら目を閉じる。
そして気持ち良さそうにイビキを掻き出した。
相当飲んだのだろう、近づいた男性からは強烈なアルコールの臭いがした。
夕暮れ時に近い時間だというのに、こんな所で横になっているとは……。
昨日飲み過ぎたのではなく、さっきまで飲んでいたの間違いなのではと疑いたくなる。
「……よかった。ただの酔っ払いか……」
「……アベル。あっ、お酒くさ~い!」
アベルがホッと胸を撫で下ろすと、アリアが後ろからやって来て鼻を抓んだ。
「あっ、アリア! 待っててって言ったのに」
「……あははっ、だって、アベルと一緒に居たいんだもん。ダメだった?」
「っっ!?(どういう意味っ!? からかっているのか……!?)」
無邪気に笑うアリアの発言にアベルは面食らう。
――もう……本当、なんでアリアは僕を煽るようなこと言うんだ……!?
ドキドキドキと、またしてもアリアの言葉に胸が高鳴るのを感じたアベルだった。
「あれ? ここ酒場……?」
――【BAR】って…………私にも読める……!
アリアは【BAR】と書かれた看板を見つけ、くすっと笑う。
そういえば、オラクルベリーの看板にも【CASINO】と書かれていたなと、この世界の文字ではないのに、こういう所が面白いなと思ってしまった。
「……そういうことされると、本当、困るんだよなぁ……ん? あ、そうだね」
頬をほんのり赤らめ、ブツブツと呟いていたアベルだったが、アリアが看板を見上げて云うので頷く。
「酒場かぁ……情報収集したいけど……、退いてくれそうにないし……、あっちの大きな扉から入ろっか」
アリアが隣の大きな扉を指差し告げた。
アベルはアリアのいつもと変わらない態度に、自分だけがドキドキしていると思うとモヤモヤしてしまう。
「…………なんか普通だし……(気にしてるの僕だけ……?)」
「……ん?」
アベルが口を尖らせるとアリアが窺うように首を傾げるので……。
「……別に?」
――人の気も知らないで可愛い顔して……!
アリアから視線を外しプイッとそっぽを向いて、アベルは大きな扉に向かった。
「……ありゃ。何だかご機嫌ナナメ? あとでお酒飲もっか!」
タッタッタッタッ、とアリアがすぐ追いかけて来ると、アベルのマントを引く。
「っ……別に機嫌は悪くないよっ。そうじゃなくて……」
「そうなの!? ふふっ、へそ曲がりのアベルも可愛いよっ」
アベルが振り返ると、アリアの人差し指が頬に刺さる。
そして、アリアは にこにことアベルを見上げていた。
アメジストの中に
「っ――……!!」
――ああっ、もうっ! 何でそんな可愛いことするんだよっ!!
つんつんとアリアはアベルの頬を突いて楽しそうだ。
アベルは何も言えず頬だけ真っ赤に染めたのだった。
「うふふっ、アベルのほっぺ柔らかいね。私とどっちが柔らかいかな?」
「っ、え……?」
「触ってみて?」
アリアはアベルの前に頬を差し出し、触れるようにと促してくる。
「ほらほら。結構柔らかいと思うんだけどな」
アベルの手を取り、アリアは自分の頬に触らせようとしていた。
「ぇ……っ……。アリアっ……なんで……………………」
アリアの行動にアベルは黙り込んでしまう。
「え……?」
「……っ、君、僕をからかってる…………よね?」
――僕の気持ちを知っているなら、なぜこんなことを……。
アベルはアリアに触れられている手に愛しさを感じながらも、からかわれている気がして訊ねていた。
「やだ、そんなつもりは……」
アリアは首を左右に振る。
「アリア……、君は僕を諦めさせたいんだよ……ね?」
「へ……?」
「…………こんなことされたら、諦められないと思わないの?」
アリアが掴む自分の手を、彼女の云う通りに頬へと持って行く。アベルは彼女の望み通りに頬に触れてやった。
そして彼女をじっと見つめ、片手でアリアの頬を包み親指でそっと撫でる。
それは柔らかくて滑らかで、吸い付くようだった。
「え…………ぁっ! そ、そうだね。……ちょっと調子に乗っちゃったかも……。アベル、いつも私をからかうからお返しにって思って……」
アリアはアベルの視線にハッとして何かに気付いたように俯こうとするが、アベルの手がそうさせてくれない。
「僕は君をからかったことなんてないよ」
「そ、そっか……。昔のアベルのほっぺ、柔らかくて可愛かったから、今も柔らかいのかなって……、思っただけなの……」
アベルの真摯な態度にアリアは気まずそうに視線をどこかに泳がせる。
言っていることが最初と違うが、アリアの頬が徐々に赤くなっていった。
(アリアの頬が赤くなった! これって……!?)
「……アリアの頬、気持ちいいね。ずっと触っていたいくらいだ」
アベルはアリアの思わぬ態度に気を好くして、今度は手の平で彼女の頬を撫でる。
「っっ!!」
アベルに頬を撫でられると、アリアは驚き目を丸くしてアベルに視線を戻した。
その瞳がなんだかいつもより潤っている気がする。
「……ぁ」
――これって涙……? 瞳が潤んで……めちゃくちゃ綺麗だ……。
顔を真っ赤にして瞳を潤ませ自分を見上げて来るアリアにアベルはつい見惚れてしまった。
そんなアベルにじっと見つめられ、アリアはその目線に耐えられなくなる。
「……っ、も、もぉ……放して……。あ、謝るから……」
「え……、あ…………謝るまで放さないって言ったら?」
アリアが潤んだ瞳で許しを請うのだが、アベルは今度は頬をぷにぷにと優しく抓んでいた。
「っ、何言ってるのっ、謝るって言ってるでしょっ。……ごめんなさい。だから放して?」
アベルの腕に両手を添え、アリアは放してくれと訴える。
「…………わかった(残念……)」
しおらしいアリアの態度にアベルは漸く手を放した。
「こ、ここ玄関なのよ? 通行の妨げになっちゃうよ……。早く中に入ろ?」
アベルの手が離れると、アリアは触れられた自分の頬に手を当て俯き加減でアベルの様子を窺う。
もう終わりにして早く中に入ろうと促すのだが、
「違う場所ならいいの?」
アベルはまだこの話題を流すつもりはなかったようで、目を細めアリアに笑顔を向けた。
「っっ!? よ、よくないよっ!?」
「そうなの? あ、そうだ。今度から君が僕の頬を触るなら、僕も君の頬を触るから。それで おあいこでいいよね?」
アベルは瞳をぱちぱちと瞬かせるアリアに話しながら扉を開く。
扉を開くとすぐ大きな舞台が目に入った。
昼間は何もやっていないらしく、舞台上には誰も居ない。
「っ……、もう触らないよ……」
「えー、残念だなあ……。僕は触りたかったんだけどなあ~」
アリアが反省した様子で目を伏せると、アベルは今度は僕が挑発してやるとばかりに笑顔のまま言ってのける。
「…………ごめんなさい…………反省してます。アベルが可愛くてつい……」
「……アリア、僕のこと
――僕を好きでやってるなら許せるけど……、ただからかうだけならやめて欲しい。
アベルはアリアの謝罪の言葉に笑顔のままで釘を刺す。
相好を崩さないアベルはアリアからは怒っているように見えた。
「っ……
――私……どうかしてた。アベルをからかおうと思ってたわけじゃないのに……。
アベルが本気で怒っているとわかり、アリアは頭を下げる。
無意識でやっていたとは言えなかった。
「そう? まあ、やり返していいならいつでもどうぞ? 受けて立つよ」
アベルはアリアを挑発するように自分の頬をとんとんと叩くと、口角を上げる。
「っ……勝負じゃないよ……?」
「知ってる。けど、君に負けたくないからね」
「勝負じゃないってば……」
アベル達はそんな会話をしながら酒場の方へと歩いて行った。
アベルとアリアの後ろで、一連のやり取りを見ていたピエールがぽつり。
「……アリア嬢……、……何をそんなに気になされているのです……?」
あれは船に乗る前だったか、後だったか……、アリアの様子がなんだか何かを気にしているように思えてならないピエールだった。
イチャラブ回でした。
アベルは男の子なのですよ。
やっぱり子ども扱いされるのは嫌ですよね。
いやー、そろそろこの二人くっついていいんじゃないかなと思っているのですがどうでしょうかね。
まだ引っ張るか……(え)