マルシェワゴンで商売していたのはいったい誰なのか……。
では、本編ど~ぞ。
「アリア、他に必要な物は?」
「あっ、じゃあ、あの隅っこの小瓶も」
「わかった」
アベルはアリアが欲しいという小瓶を棚の端から取り出す。
そしてそれをアリアに渡した。
アリアはアベルにお礼を告げて、接客中の店員を待つ。
しばらく待っていると、前の客が買物を済ませ去って行った。
「お会計お願いします」
「はい、ありがとうございます。石鹸とモモガキジャムですね。二つで150ゴールドになります」
アリアは道具屋で会計を済ませ、買ったものを自分の鞄に仕舞った。
それからアベル達は宿屋に戻ることにした。
「石鹸とモモガキジャム……? 何でそんなの買ったの?」
「明日からキャンプするでしょ? ちょっと買い足しておこうかなって」
アベルがアリアの買物に首を傾げる。
必要な調味料や材料は一応馬車に積んであるのだ。
――何も食べないで冒険してる……とは思ってはなかったけど、やっぱり自炊してたんだなぁ……。
この世界の住人は冷蔵庫も無い為、現地調達現地調理が基本(但し各自の鞄や持ち物の中に入れると腐敗は止まるというなんという謎仕様)。
そのため保存食も多い。
旅をしていると大体同じものばかり食べる羽目になるのだ。
たまには別の味も欲しいということでジャムを購入したのである。
「あぁ……食事が心配なのかい? 旅の途中で魔物を狩れば食糧は困らないよ?」
「……ふふっ。うん、そうだよね、わかってる。魔物のお肉、美味しいよね」
――記憶喪失中にすっかり慣れたよ……! 何でも食べれるよ!
宿屋に向かいながらアベルの言葉に笑いが込み上げ、アリアはくすくす笑う。
十年前、アベルとビアンカが【いっかくうさぎ】を持ち帰るとか持ち帰らないとか言ってたことがあったなぁと思い出してしまった。
「まあ……美味しくないのもあるけどね」
「ふふっ、そうだね。あれは美味しくなかったね」
アベルが旅の途中で食べた不味い魔物の肉の味を思い出したのか、渋い顔をすると、アリアは「あのお肉ね~!」と思い当たったのか、相槌を打つ。
実はサンタローズ周辺で長い首を持つイタチの魔物【くびながイタチ】の上位種【ガスミンク】を仕留めた際に、食べてみたのだが硬くて不味かったのだ。
アベルとアリアはすぐに食べるのを止めたが、なんとヘンリーは気に入ったのか全部平らげている。
『歯ごたえがあってなかなかいい、臭みも気にならない』
とのことだった。
「ヘンリーの味覚っておかしいよね。いや、頭がおかしいのかな? 僕はアレは無理だなぁ」
「あはは……。まあ、硬かったけど独特な味だったから好きな人もいるのかもね」
真面目な顔で話すアベルの言葉にアリアは、アベルって結構辛辣なこと言うよね、と笑ってしまった。
アベル的にはあの頃のヘンリーはアリアに靡いていたし、後に重婚とか莫迦なことも言い出していたりと、思い出してイラっとしたらしい。
親友であることに間違いは無いが、許せない一言もあるのである。
◇
そうして話をしながら宿まで歩いていると、宿の前に先程は無かった屋根付きマルシェワゴンが停められていた。
マルシェワゴンにはちょっとした人だかりが出来ている。
「ね、アベル、あれなんだろう……? 甘い匂いがするけど……」
「さあ……? …………こんなこと初めてだ……」
アリアがマルシェワゴンの方から漂う甘い匂いに鼻をひくつかせる。
焼き菓子のような匂いがした。
アベルもマルシェワゴンに目を向けるが、茫然とする。
「そうなの?」
「ああ……、行ってみよう。ピエール馬車を頼める? あそこを見に行ったらそのまま宿屋に行くから停めておいて」
「了解しました。……くれぐれもお気を付け下さい」
「……ああ」
ワゴンを警戒するピエールに馬車を任せ、アベルはアリアと共にマルシェワゴンに行くことにした。
◇
「はぁい、いらっしゃーい! クッキーとケーキ、アイスもあるよ~! あとおにぎりも! どれでも一つ5ゴールドだよっ!」
マルシェワゴンに集まる人々は女性が多めだが男性も居て、皆それぞれに珍しい珍しいと口々に商品を購入していた。
購入し終えた人は早速商品を口にし「美味しいっ!!」と大絶賛である。
店はかなりの賑わいを見せていた。
アベルとアリアもマルシェワゴンに近付き、自分達の順番を待つ。
アベルからはマルシェワゴンの奥にツインテールの可愛らしい女の子が接客しているのが見えた。
アベルからは見えるがアリアからは人だかりで見えないだろう。
(……なんだ、女の子が食べ物を売っているだけか……)
ピエールに「お気を付け下さい」なんて言われたから警戒していたが、女の子から嫌な感じは見受けられない。
アベルは警戒を解いたのだった。
「っ、おにぎりっ!? 今おにぎりって言った!?」
マルシェワゴンから聞こえた声に、アリアは驚き目を見開く。
「ん? おにぎりって?」
「っ、前に居た世界で食べたことがあるの……っ! 見て行ってもいい……?」
アリアはアベルに窺うように下から見上げて来る。
「え、あ、ああ。もちろん! 何でも買ってあげる!(一つ5ゴールドだし!)」
「っ、ありがとうっ! アベルだいすきっ! 行って来るね! 選んだら呼ぶね~!」
アリアは一気に開花し眩しいくらいの笑顔をアベルに向けてから人だかりに割り入っていった。
「えっ、あっ(今、なんて言った!?)」
――だ、だいすき……!? 今、大好きって言ったっ!?
アベルに一言残し、アリアは既に人波に紛れ最前列で商品を選び中である。
「…………っ……、ど、どういうことだ? ……っ……うわ……、ナニコレ……胸が…………痛い…………」
――どうしよう、めちゃくちゃ嬉しいんだけど……!!??
思いがけない彼女の言葉にアベルの胸がきゅうきゅうと締め付けられた。
「……ぁ。でも……、本当かな……。アリア混乱してなかったよね……? 期待しない方が……。いや、アリアを信じるんだ……!」
アベルは一人マルシェワゴンから少し距離を取り立ち尽くす。
すると、
ドンッ!
と突如アベルの背に衝撃が走った。
「っ……!?」
アベルは驚いて振り返る。
そこには、黒髪でツノのような二本の跳ね上がった前髪と、ベラのように尖った耳、赤く鋭い目付きの少年が大量の荷物を抱え立っていた。
量で言えば、キャビンの四分の一……いや、三分の一程の大荷物を少年は軽々と抱えている。
「あ、悪ぃ悪ぃ。前が見えなかった。怪我は無いか?」
荷物に埋もれるようにして、少年が笑う。
笑うと白い歯に可愛らしい八重歯が見えた。
「…………あ、ああ……。君はいったい……」
「ん? オレか? この素材達をあいつに運んでる途中なんだ。けどなんだ? 戻って来てみりゃすげー人だかりじゃねえか。あれで休憩取れてんのかよ……。まあ、あいつの作る食いモンは美味いからな……」
瞳をぱちぱちと瞬かせるアベルに、少年は荷物を一旦置くと、手を叩き合わせマルシェワゴンの方へと優しい視線を向ける。
「…………君、すごいチカラ持ちなんだね」
「はぁー……人がはけるまで待つっきゃねーか……、ん? あ、まあな。何たってオレさまは破壊神だからな!」
アベルが声を掛けると、少年がアベルを見上げた。
ツインテールの女の子と、黒髪の前髪二本ツノの少年。
誰なんですかね……w
ここに来てがっつり、クロスオーバーしてしまいましたかね。