ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

異世界フード、未知なる味を求めて彷徨うアリア。

では、本編どぞ。



第三百一話 異世界フードの魅力

 

 

 

 

 

 あれから宿屋にやって来ると、宿屋の扉の前ではピエールがスラりんとアンドレが稽古している様子を見ていた。

 スラりんが「なんのまだまだ!」とアンドレに体当たりし、アンドレは「はっはっはっはっ」と余裕の笑みを浮かべている。

 アンドレはスラりんよりも身体が大きい分、やはり強いようだ(戦闘経験の差もある)。

 

 その傍には馬車を停車させており、アベル達が戻って来たのがわかると、キャビンからキャシーが笑顔で手を振っていた。コドラン、ドラきち、ダニーも嬉しそうに笑顔を見せる。

 仲魔達はアベルが傍に居ると嬉しそうだ。

 

 

「主殿、特に問題はございませんでしたか?」

 

「ああ、大丈夫。普通の……いや、変わった……? うん、いい子達だったよ」

 

 

 ピエールがアベル達に気が付くと“トトトッ”と駆け寄って来る。

 アンドレに乗っていないと随分と小さく見えてしまうが、彼は強いので見た目で判断してはいけない。

 アベルはマルシェワゴンの二人の印象をピエールに話した。

 

 

「そうですか。一応こちらから様子を見てはいたのですが、特に邪気などは感じられませんでした故、アンドレとスラりん殿の稽古を見ておりました」

 

「そっか。待たせたね」

 

「いえ、それにしても、不思議な方々だったようですね」

 

 

 ピエールはチラッと、アベルの抱える荷物を見上げる。

 

 

 ――見た事のない食糧が多々見受けられますな……。

 

 

 アベルの抱える荷物には【ケーキ】【キャンディ】【あんサンド】といった見慣れない菓子があった。

 

 

「うん……でも、こんなに おいしそうなものを作る子達だから、悪い人じゃないと思うな。……ん~甘くておいしい!」

 

 

 アリアがアベルの抱える荷物から【キャンディ】を取り出し、一粒ぱくっと口に入れる。

 途端、口の中に甘みが広がり、アリアは幸せそうに目を細めた。

 

 

「アリア……、食べ物に誤魔化されちゃダメだよ……?(アリアって甘いものに弱い……?)」

 

 

 ――案外甘いもので釣れたりして……。

 

 

 そういえばアリアは記憶喪失中も甘いものを持ち歩いていたっけ。それにさっきもジャムを買っていたし……と、幸せそうに飴を舐めるアリアにアベルは今度甘いもので懐柔してみようかと思うのだった。

 

 そんなことを考えていると、アリアが【キャンディ】を一粒手にしてアベルの口元に差し出す。

 

 

「はい、アベルもあーん」

 

「っ!? ぁ、あーん……?」

 

 

 アリアに言われるままにアベルが口を開けると、ころんっと飴玉を放り込まれた。

 僅かにアリアの指先が触れ、むず痒くなってしまう。

 

 

「っ……、甘い……」

 

 

 アベルの頬は真っ赤に染まってしまった。

 そんなアベルの様子など気にもしていないのか、アリアは馬車から聞こえて来る「アリア! アタシにもそれ頂戴!」「ボクもー!」「グルルン!」「ニンニン!」という仲魔達の声に【キャンディ】の袋を手に、キャビンへと行ってしまう。

 

 アリアは仲魔達の口にそれぞれ【キャンディ】を放り込んでいた。

 スラりんとアンドレにも与え、ピエールも始めは恐縮していたものの、兜を僅かに上げて口に放り込んでもらう。

 【キャンディ】を食べた仲魔達はみな うっとりと幸せそうに微笑んでいた。

 

 

「……虫歯にならないといいけど……。みんな、あとでちゃんと歯を磨こうね!」

 

 

 アリアがそう云うと、仲魔達はみな「はぁ~い!」と良い返事をする。

 

 

「ね。こんなに おいしいものを作る子達が悪い人なわけないよね!」

 

 

 仲魔達に同意を求めたアリアだったが、仲魔達は「う~ん……」と苦笑いを浮かべていた。

 アリアは「あれ? 違うの?」と首を傾げる。

 

 

「…………うーん、それはわからないよ……? って、あの子達は悪い子達じゃないと思うけど、美味しいものを作るからといって良い人とは限らないんじゃないかな?」

 

「えぇ~、そうかなぁ……。美味しいものをくれる人は良い人だって思ってたんだけどな」

 

 

 アベルも仲魔達と同様で首を捻り「今回はたまたま良い子達だっただけだよ」と続けたのだが、アリアは転生前を思い出し……、

 

 

 ――お菓子をくれた近所のおばさん、良い人だったなぁ……。美味しかったよ、黒棒……。いつも黒棒だったけど……。

 

 

 渋いチョイスだよね、と思いつつ、アリアは懐かしいあのお菓子をまた食べたいなと思うのだった。

 懐かしい黒棒のおばさんを思い浮かべていると、アベルも苦笑いを浮かべる。

 

 

「……アリア、美味しいものをあげるって言ったらついて行きそうだね……。行かないでよ?」

 

「っ、い、行かないよっ!? こ、子どもじゃないんだから……やだなあ、もぉ……私をなんだと思ってるのっ?(大人ですよ!?)」

 

 

 アベルにツッコミを入れられ、アリアは頬を赤くした。

 正直なところ、異世界で美味しいものに釣られたら抗える気がしない。

 

 食べるイコール生きる、なのだ。

 この世界で生き抜くためには是非未知なる味を体験したい。アリアはそう思っているのである。

 そんなアリアにアベルは訊ねてみた。

 

 

「…………モモガキパイとかあったら食べたい?」

 

「食べたい!」

 

 

 アベルの質問にアリアは即答する。

 

 

「…………、…………ヘンリーに誘われても行く?」

 

「行く!」

 

 

 またしても即答。

 

 

「っ…………じゃあ、知らない男が誘っても?」

 

「……うーん……、悪そうな人じゃなければ……!」

 

 

 アベルは眉間に皺を寄せ再び訊ねたが、アリアは一瞬だけ考え込み、首を縦に下ろした。

 

 

「っ……、やっぱりついて行っちゃうじゃないか! ダメだよ!」

 

 

 アリアの答えに、アベルは息を呑み怒鳴る。

 

 

「っ!? え、だ、だってヘンリー君なら別に……それに、知らない男の人でもいざとなったら呪文をぶつければ逃げ……」

 

「アリア、駄目だ。マホトーンを使う人も居るんだ。君、呪文を封じられたらどうするつもり?」

 

 

 アベルの声に驚いたアリアは、いざとなれば呪文があるのだからと笑顔で言うのだが、アベルに怖い目で見下ろされ冷静に返されてしまった。

 

 

「ぁっ……、っ…………そ、そっか……そういうこともあるのか……。で、でも異世界の食べ物……(めっちゃ食べたい……)」

 

 

 アリアは食い意地が張っていた……。

 

 

 ――【マホトーン】されたら、私、マズイの……?

 

 

 ヘンリーならともかく、知らない男について行った場合の自分の処遇を想像してみると、どう考えても最悪の事態しか浮かばない。

 

 現実世界の日本なら人の目も多くあるから そういう目に会うことも少ないわけだが、ここは異世界。人々は日々を生き抜くため、それなりに強者ばかりなのだ。

 

 そして、今は魔物達の脅威に人々の心も荒んでいる。

 荒んだ心を持つ者の中には、自分の欲望のままに倫理に背く行動を取る者もいるのである。

 薄い本に描かれるような立場に自分がなるとも限らない……というわけだ。

 つまりアリアは危機感が足りない。

 

 

「…………わかった?」

 

 

 アベルはそういうことをきちんと理解していて、アリアに注意していたわけだが、果たしてアリアに通じたのだろうか。

 アベルはしかめっ面で首を傾げ訊ねる。

 

 

「っ……、でも」

 

「でもじゃないっ、絶対ダメだっ! 何か珍しいものが食べたいなら僕が食べさせてあげるから それで我慢してよ! いいねっ!?」

 

 

 アリアが何か言おうとすると、アベルは語気を荒げた。

 ここはアリアが頷かないと、引き下がってくれそうにない。

 

 

「っ……アベル……(すごい怒ってる……なんで……?)」

 

 

 ――アベルって こんなに感情を露わにする子だった……? ちょっと怖い……。

 

 

 アベルの剣幕に、アリアは声を失いじっと見上げる。

 

 

「…………返事は?」

 

「……っ、う、うん……。わかった。でも、それだとアベルに迷惑掛けちゃわない……?」

 

「何言ってるの? 僕がいつ迷惑だなんて言った?」

 

 

 ――アリアは僕に懐柔されてればいいんだよ。

 

 

 アベルは不機嫌にアリアを見つめ返した。

 

 

「…………ありがと。でも、アベルのお財布、空っぽになっちゃったらどうしよう?」

 

「……フ。そんなに食べるつもり? ……けど、いいよ。その時は また魔物を倒せばいいんだから」

 

 

 おずおずとアリアが上目でアベルに訊ねると、アベルはやっと笑って いつもの優しい瞳で目を細める。

 

 

「アベル……」

 

 

 ――アベルは、私が心配なんだね……。

 

 

 アベルの好意が痛いほど伝わり、アリアは胸元辺りに握った拳を持って来て考え込む。

 

 

「わかってくれたなら、それでいい。さあ、部屋を取ろうよ。明日は早くここを出るから早めに休もう」

 

「……うん」

 

 

 そうしてアベル達は漸く宿屋へと入るのだった。

 空にはいつの間にか夕日が差していた。

 




実は食い意地が張ってるアリアさんw
美味しいものをチラつかせたら案外フラフラついて行きそうです(オラクルベリーでは仕事中だったからついて行かなかったけども)。
大人だからしっかりしてるはずなのにねw

女の子ってこういうところあったりしますよね……。
誰にでもってわけじゃないけど、フリーだったり、タイミングが合えば行ったりさ……。

誰しもウィークポイントはあるものです。
アベルは気が気じゃないですよね。
とりあえずアベルが餌付けしとけばいけそうな気がします。
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