ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

何を大事にするんですかね。

では、本編。



第三百五話 大事にするよ

 

 口の中に広がる美味さよりも、心が満たされる気がした。

 ……のだったが、アベルが【フルーツタルト】を齧った途端、アリアは頬を膨らませる。

 

 

「あっ! アベルの一口大きい! ずるい! 私まだ一口しか食べてないのに」

 

「……っ……ぅま…………え?(何怒って……?)」

 

 

 アベルがあまりに大きく齧った所為か、【フルーツタルト】の残りはもうあまりなかった。

 

 

 ――アリアに怒られてしまった……。

 

 

「フルーツタルトは私のなのに……。もうあげないからねっ! 食べ物の恨みは恐ろしいんだからねっ」

 

 

 アリアはプイッとそっぽを向いてしまう。

 

 

「っ、ご、ごめっ……! こ、これ残り全部あげるから……!(うっかり思いっきって大口を開けてしまった……!)」

 

 

 アベルは慌ててショートケーキを差し出した。

 

 すると、

 

 

「…………………………………………っ! ……ううん、いいの。そもそもこれ、アベルが買ってくれたんだもんね。アベルが食べて当然だよね」

 

「いや、これはアリアに買ったんであって……」

 

 

 アリアは少し沈黙してからアベルに向き直ると首を横に振るってはにかむ。

 アベルも彼女と同じように首を横に振った。

 

 

「……アベル優しいから、私つい甘えちゃって…………ごめんね」

 

 

 ――タルトを大きく齧られたくらいで、私大人げなさすぎ……。そもそも私があげるって言ったくせに……。

 

 

 その事実に気が付いたアリアは、十年前も今もアベルに食の世話になっている身分の癖に何を言っているのかと反省したのだった。

 

 

「それはっ! 僕の方こそっ!! 昔から君には我儘を聞いてもらってばっかりで……!」

 

 

 アベルはアリアの謝罪にとんでもないと頭を下げる。

 

 

「っ!? そ、そう……?」

 

「う、うん……、十年前、僕はアリアを振り回してばかりだった……」

 

 

 反省してるんだ……と、アベルがしゅんと目を伏せると、アリアは優しい瞳で首を左右に振っていた。

 

 

「それは……子どもの頃のことだもの、全然問題ないよ」

 

「……アリアは……、子どもにすごく優しいよね……」

 

「……子どもは宝物だもの、大事にしないと。私もそうされたかったけど……して貰えなかったから、出会った子達を大切にしてあげないとね」

 

 

 おずおずとアベルが窺うと、アリアは優しい瞳のまま口角を上げる。

 そんなアリアにアベルは「ぁ……」と小さく呟くと、意を決したように告げていた。

 

 

 

 

「っ、……ぼ、僕が……、っ、僕が大事にするよっ! アリアをずっと大事にするっ!」

 

 

 

 

 アベルは顔を真っ赤にしてアリアを真っ直ぐ見つめる。

 

 

「っ!? アベルっ!? な、何言ってるの……? だからそれはダメだって……! あなたは主人公なんだから……」

 

「ぐ…………またっ、そういうこと言って……っ、な、仲間としてならいいでしょ!?」

 

 

 ――仲間として大事にするなら、問題ないはずだよね!?

 

 

 アベルはこれ以上アリアに拒否されたくなくて言い直した。

 照れているのか、アリアの頬がほんのり赤く色付いている。だが、徐々に眉根は下げられ、彼女は困ったような顔を見せたのだった。

 

 

「っ……、アベル……」

 

「……この話はもうしない。これからは態度で示すよ。アリアはい、ケーキもっと食べていいよ?」

 

 

 ――僕に大事にされるのが嫌なの……? それとも、何か別の理由があるのか……?

 

 

 アリアの表情がなぜ曇ったのかはわからないが、ともかく目の前の彼女を困らせているのが自分なのは確かなので、アベルは話題転換を図る。

 自分の気持ちが伝わらないことは辛かったが、ショートケーキを差し出しアリアに食べるよう促していた。

 

 甘いものでも食べて機嫌を直してもらおう作戦である。

 

 

「…………アベルってば……、もぅ……(そんなに優しくされたら困るんだってば……)」

 

 

 アベルの言葉にアリアの目の奥が痛み、彼の視線から逃れるように目を伏せ再び顔を背ける。

 そして彼女はアベルのケーキは食べずにタルトの残りを口に入れて すくっと立ち上がった。

 

 

「……アリア?」

 

「……私、馬車の子達に“おにぎり”を配って来るね。アベルはゆっくりしてて? おにぎりも食べてね。あと、お風呂も借りて来るから、ちょっと戻って来るの遅くなるかも」

 

 

 アベルと目を合わせない様、アリアは靴を履き替え買ってもらった荷物の中から【しゃけおにぎり】を馬車の人数分手にすると部屋を出て行く。

 ピエールはアリアが心配だということでついて行った。

 

 

「……わかったよ……」

 

 

 既に閉じられた部屋の扉に向かってアベルが小さく返事をする。

 何となくアリアに声を掛けられる雰囲気じゃなかったアベルは、眠るスラりんと共に“ぽつん”と取り残され、手にしたショートケーキを一気に平らげた。

 

 

「あま……」

 

 

 ――アリア、何で哀しそうな顔をしていたんだろう……? 僕は何か君を哀しませるようなことを言ってしまったのだろうか……?

 

 

 その後、アベルはアリアに言われた通り部屋でゆっくり休むことにする。

 アリアの云った【しゃけおにぎり】を食べ終えても彼女は戻って来ず、窓の外は夜の帳が降り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……殿、……主殿」

 

「…………ん……? ぁ……、あれ……? ピエール……?」

 

 

 あれから いつの間にか微睡んでいたアベルはピエールに身体を揺すられ、目を開けると身体を起こした。

 部屋にはピエールだけが戻って来ていて、アリアの姿が見当たらない。

 

 

「アリアは……?」

 

 

 アベルは訊ねることにした。

 

 

「アリア嬢ならお風呂へ行かれました。何やら泊り客のご夫婦と意気投合されて、ご夫婦の部屋は風呂付きの部屋だったらしく、借りられることになりまして。主殿もお借りできるようですから伺ってみては?」

 

「そっか。じゃあ……せっかくだから僕も借りようかな」

 

「ええ、明日からまたしばらく入れないでしょうから。それに、ご夫婦のお話が大変興味深いので是非お話を聞いてみるとよろしいかと」

 

「? そうなのかい?」

 

「ご案内致します」

 

 

 アベルはピエールに連れられ、部屋を後にする。

 スラりんは相変わらず眠ったままなのでそっとしておいた。

 

 

 アベルが部屋を出ると、階下から音楽が聞こえて来る。

 二階から下を見下ろすと、舞台で昼間出会った踊り娘達がダンスを踊っていた。

 

 

「あ、クラリスさん達が躍ってる」

 

「そうですね、もう夜ですから」

 

「へ~、上手く回るなぁ……」

 

 

 ピエールがこちらです、と一階が見下ろせる二階の通路を歩いて行くと、丁度舞台の真上に差し掛かる場所で“はぁはぁ”と興奮気味で鼻息を荒げている青年が手摺を持ち踊り娘達を見下ろしていた。

 

 

「……あの、大丈夫ですか……?」

 

 

 アベルは具合が悪いのかと思い声を掛ける。

 ところが、青年はそういうわけではなかったようで……、

 

 

「やや! あなたも気が付きましたね。そうです。ここからだと踊り娘さんのムネを覗けるんですよ。エヘヘ」

 

 

 アベルの声に振り向いた青年の鼻の下が伸びに伸びていたのだった。

 青年の顔はニヤつき、いやらしい顔をしている。

 

 

「っ、ムネって……」

 

 

 アベルも男だ、ちらっと舞台を見下ろしてみるのだが、

 

 

「おっと! ここは私の場所ですからね。向こうに行った行った! ここから見たいなら順番待ちですよ!」

 

 

 シッシッ!

 

 

 アベルは青年にあしらわれてしまった。

 

 

「順番待ちっていつ回って来るんですか……?」

 

「そうだなぁ~……、ひぃ、ふぅ……。……うーん、まだまだ先だな!」

 

 

 順番とやらはいつ回って来るのか一応訊いてみるのだが、青年の後はいっぱいらしく すぐに順番は巡って来ないようだ。

 

 

「……主殿、アリア嬢が泣きますよ」

 

「っ……べ、別にそういうわけじゃ……。ただ、ちょっと真上から踊りを観てみたいなって思っただけで……」

 

 

 ピエールにジト目で見られ、アベルは誤解だと言い訳をする。

 

 

「…………主殿は助平ですなぁ……」

 

「っ、ち、違うって言ってるでしょ! 僕は純粋に踊りをだね……!」

 

 

 ――踊り娘さん達の胸はともかく、もし本当に見えるなら、昼間アリアに舞台に立ってもらって上からこっそり……!!

 

 

 アベルは場所の検証をしたいだけだったらしく、ちらちらと下を覗いていた。真下じゃないとやはり見えにくく、青年が云うようなムネとやらは見えなかった。

 




アベルさん想いが溢れて止まらない……www
いや、まぁ、そうだよね……。
気持ちバレてるし、何かとちょっかい掛けられてるもの、我慢出来なくなってもしょうがないよね。
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