未来の花嫁って……?
では、本編どぞ。
◇
「あ、おかえり。さっぱりした?」
アベルが部屋に戻って来ると、アリアはベッドに腰掛けて本を読んでいた。
「うん。あ、アリア。さっきのご夫婦も勇者を捜してるんだって」
「……あぁ、何かそんなこと言ってたね。闇の世界から大魔王がどうのって……。勇者さま、早く見つけないとね」
アリアが本から顔を上げてアベルに微笑み掛けてくれる。
「そうだね。そろそろ…………、ね、寝る……?」
アベルの声が上擦ってしまった。
今日は隣のベッドで眠るのだ。果たして眠りに就くことが出来るのだろうか。
――緊張して……眠れるかわからないけど……!
アベルは鼓動が早くなるのを感じる。
オラクルベリーで殆ど休めていないままポートセルミにやって来たため、身体は疲れているのだが、疲労と関係なく今夜は緊張して眠れるか不安だ。
「ん? うん。明日早いでしょ? アベルはもう休んだら?」
「僕はって……どういう……?(眠れるかわかんないけど……!?)」
「んふふ……。いいからいいから、そんなとこに突っ立ってないで、ほら、横になって?」
アベルが首を傾げていると、アリアが傍にやって来てアベルの手を取った。
「ん? ……う、うん……(アリアが誘ってる……?)」
アリアに手を引かれるままにアベルは自分のベッドに連れて行かれる。
「……アベル、おやすみ、良い夢を」
「え……?」
アベルをベッドに座らせるとアリアは横になるよう促し、アベルは素直に身体を横たえる。
心臓はドッドッドッ……と早鐘を打っていたが、アリアの表情はなんだか穏やかでアベルは不思議に感じた。
アリアは横になるアベルを覗き込み、優しい笑みを浮かべる。
「……ふふっ、あなた心配性だから…………、…………ラリホー……」
突如アリアの口から、眠り状態にする補助呪文【ラリホー】が唱えられた。
「えっ……!? ぁ…………っ……アリ……っ…………」
アベルの目蓋が一瞬大きく開いたと思ったが……。
――なんっ……、何で【ラリホー】なんて…………。
そう思った時には意識を手放し、アベルは夢の中へと落ちていた。
気を失う様に眠ったアベルの頭にはアリアにあげた【安眠枕】が敷かれている。
「……アリア嬢……、宜しいのですか……?」
ピエールが眠るアベルの傍にやって来て覗き込む。
アベルはすぴーすぴーと心地良さそうに眠っていた。
「ん……? ラリホーで入眠、安眠枕で熟睡! これなら朝までぐっすりでしょ? ……ピエール君と夜のデートなんて言ったら、“僕も行く!”って絶対言うもの。アベル、昨日も一昨日も殆ど眠ってなかったみたいだし、安眠枕はアベルが使った方が絶対いいよね」
「確かに……」
「じゃあ……、行こっか」
「ええ」
アリアとピエールは眠るアベルを部屋に残し、宿屋を後にした(スラりんもすやすやである)。
◇
あれから、宿屋を後にしたアリアとピエールはポートセルミの埠頭までやって来ていた。
「夜の海って静かね(月がこの世界にもあるんだよね……)」
ザザーン、ザザーン。と打ち寄せる穏やかな波の音だけが聞こえ、空を見上げると月が見える。
アリアは不思議だな~などと思いながら空を見上げていた。
今夜は月明かりが明るくて あまりはっきり見えなかったが、空には小さな星々が僅かに煌めいて見える。
海から吹く海風がアリアの髪を撫でて行った。
プラチナブロンドが月明かりに照らされ、風に揺れる度きらきらと輝いている。
「そうですね……(今宵のアリア嬢も美しい……)」
ピエールはしばしアリアに見惚れた。
「私、穏やかな夜の海って結構好きよ。遠くを見ると……少し怖いけど……。この海の向こうにはたくさんの魔物がいるのね……」
「ええ……ですが、大丈夫ですよ。私がお守り致します。主殿もきっとそうされるでしょう。アリア嬢は安心して私と主殿に守られていれば良いのです」
「……ありがとう、ピエール君」
ピエールが自分だけじゃなく、アベルも……と告げるがアリアは淋し気に微笑む。
その瞳は哀し気で愁いを帯びていた。
「……アリア嬢……。なぜ……」
「……ん?」
「なぜ、そんな哀しそうな瞳をされるのですか……? 主殿はアリア嬢をお慕いされていて、アリア嬢もまた……」
「っっ! えっ!? な、何のこと……?」
ピエールの指摘にアリアの瞳が揺れて、顔を真っ赤に染める。
「……アリア嬢。私はずっと貴女を見て来ました。貴女が誰を想っているかなど……一目瞭然……。記憶が戻る前から貴女は主殿を……。主殿の想いを受け入れない理由は……?」
「っ、ピエール君……。っ、や、やだ……、な、何のことぉ……?」
――な、何でわかっちゃったのっ!? 私、顔に出してないと思うんだけどっ!?
図星だったアリアは何とか笑顔で誤魔化してみた。
すると、
「…………! はっはっはっはっ! アリア嬢も主殿と同じことを仰るんですねぇ!」
ピエールが腹を抱えて笑い出す。
「え?」
「はっはっはっはっ! アリア嬢に恋をし始めた頃の主殿とよく似てらっしゃるっ!!」
「っ……、に、似てるって言われても……そんなの知らないよ……」
「ふっふっふっ……! すみません……、記憶を取り戻したアリア嬢は何とも素直なお嬢さんなのだなと……! ふはははっ……!」
お淑やかなアリア嬢も良かったが、今の彼女は以前の彼女よりも親しみやすいなとピエールは思い切り笑い飛ばしてしまった。
「っ、ピエール君……! どういうことよ……」
――ピエール君って、一体いくつなのかな……。何か、随分年上な気がするんだけど……。
アリアは何とも言えない顔で眉を顰め頬を膨らます。
「くく…………、アリア嬢。この世界はゲームの中の世界なのだとか……」
ピエールは笑うのはこれくらいにして……と、自分の訊きたかったことを話題にしてみた。
「あっ、アベルに聞いた?」
「ええ……。詳しくお聞かせ願えますか……?」
「……うん、その話をしたら、私も訊きたいことがあるの」
「……なんなりと」
アリアはピエールに自分の知っている限りのこの世界のことを話す。
ピエールはアベルからざっくり聞いていたので、黙って頷きアリアの話に耳を傾けていた。
「……なるほど。つまり、この世界は主殿を中心に回っている……と」
「……だと思うんだけど……、でも、それだけじゃないみたいで」
「そうですね。皆それぞれに営みがありますからね。ただ、その“ゲーム”とやらだから繰り返されている……というのは何となく納得がいきますね」
「そっか……。それにしても、アベルもそうだったけど……、ピエール君も
――順応するのが早いよね……。
アリアはアベルもピエールも然程ショックを受けていないことが不思議でならなかった。
「狼狽え……? なぜ……?」
「だって、“この世界はゲームの中の世界なの”って言われたらショックじゃない?」
アリアの話に、ピエールが腕組みをする。
「……うーん……。むしろ納得がいったと申しましょうか……」
「……納得……?」
「ええ。世界の深淵に触れた気がします。繰り返す原因がわかりましたし、今回の世界はもしかしたら違う未来が見られるのかもと」
「……違う未来……。ね、ピエール君。ピエール君はアベルよりも鮮明に未来のことを憶えているって聞いたから、訊きたいことがあるんだけど……、いいかな……?」
アリアは一通り話し終え、自分が訊きたかったことを訊ねることにした。
「はい、もちろんです」
ピエールが快諾してくれる。
「…………ね、アベルってさ……、…………その…………」
ピエールの返事にアリアは手を合わせて、言い辛そうにごにょごにょ。
「…………? はい……? よく聞き取れませんでした、もう一度……」
ピエールはアリアの方へと耳を寄せた。
するとアリアは一度口篭もってから再び口を開く。
「…………アベルは…………ビアンカちゃんとフローラさんのどちらかと結婚するんでしょう……?」
アリアの言葉にピエールは驚き、思わず後退った。
「……っ!? な、何故それを……!?」
「…………やっぱり……。そう……、だよね……」
ピエールの反応を見るや否やアリアは目を伏せる。
「アリア嬢……! どうして……!? なぜアリア嬢がその未来を知って……!?」
「……私は“外”から来た人間だから……それだけ知ってるの……」
ピエールに問われ、そう言葉にするアリアの顔は浮かない顔をしていた。
アリアはドラクエ5は未プレイながら、アベルの嫁が誰であるかは知っているのです……。
パッケージ見てるからね。