ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

魔物の住処が終わったよ。

では、本編どぞ。



第三百二十話 魔物の住処を後にして

 

 

 

 

 

 ぱちぱち、ぱちぱち。

 焚火が爆ぜる音が聞こえる。

 

 アベル達はカボチ村へと戻る途中、森の中でキャンプをしていた。

 

 

「……今日は曇ってるね。星が全然見えないや……」

 

「そうだね(……あれ? アリアの顎の下……?)」

 

 

 アリアがアベルの隣で樹々の合間から空を仰ぎ見るが、今夜は曇天のため いつもはよく見える満点の星々が見えなかった。

 アベルは空を見上げるアリアを何となく見つめる。

 

 ……と、彼女の顎の下に傷があるのを見つけてしまう。

 そう深い傷ではないが、切られたような痕だ。それは薄っすらと血が滲んで固まっていた。

 

 

 ――いつの間に怪我を……? いつも見下ろしてるから上からじゃ気付けなかったな。アリアの綺麗な肌が……。

 

 

「アリ……」

 

 

 アベルは回復呪文を掛けてやろうと思い、先ずは彼女に声を掛けることにするのだが……。

 

 

「明日は雨が降りそうだね」

 

「雨か……。珍しいな……」

 

 

 アリアが先程湯を沸かし、お茶を淹れたカップを手に話し始めるので、アベルは話を合わせるように相槌を打ち「ふぅふぅ」とカップの中のお茶に息を吹き掛け冷ます。

 

 

「そうなんだ?」

 

「うん……。降らないわけじゃないけど……割と天候は安定してて……あんまり雨に降られた記憶、ないかな」

 

「へぇ~……面白いね」

 

 

 アリアはカップを少し傾けお茶を口に含んだ。

 

 

 ――ゲームだから天候が安定してるってことかな……?

 

 

 そういえば十年前、妖精の国で雪に降られはしたが、雨に降られた記憶はない。

 この世界は緑が多いし、雨はよく降るのかなって思ってたのに……と、アリアは異世界の常識に笑みが零れた。

 

 

「……だから雨が降ったらちょっと嬉しいかもしれない」

 

「ふふっ、そっか。それは楽しみだねっ」

 

「うん……」

 

 

 アベルの言葉に優しく微笑み掛けてくれるアリアが眩しくて、アベルは目を細める。

 

 

 ――ああ、この笑顔好きだなぁ……。

 

 

 アベルは胸の高鳴りを感じつつ、静かにお茶を啜った。

 

 

「ね、アリ……」

 

 

 再びアベルが顎の下の怪我について訊ねようとするが、タイミングがいいのか悪いのか……アリアがカップを地面に置き口を開く。

 

 

「……ね、アベル。ちょっと相談があるんだけどいいかな……?」

 

「えっ、う、ん? 何でも言って?」

 

 

 彼女に相談を持ち掛けられ、アベルは怪我については言い出せなかったが口角を上げた。

 彼女の役に立てるならこれ程嬉しいことはない、その一心でアリアの話に耳を傾ける。

 

 

 

「ありがと……。あのね……、さっきの洞窟でね。私、不思議な人に逢ったんだ」

 

 

 アリアはアベルに報告しなきゃと洞窟で逢ったアベルに似た男の話をする。

 

 

「……ん? 不思議な人……? 戦士の男の人……? それなら僕も洞窟の中で……」

 

「ううん……違うよ。その人、アベルに似ていたの。でも……アベルじゃなかった」

 

 

 アベルは洞窟で逢ったビビリな戦士のことかと訊ねたが、アリアは首を左右に振っていた。

 

 

「うん、僕はその頃洞窟に向かっていたわけだしね……。戦士の男の人じゃないなら……誰だろう……?」

 

「それがわからないの……。私に“逢いたかったよ、アリア”って言って来てね……。私、意味が解らなくて……アベルの親戚かな~? なんて思ったんだけど……」

 

「逢いたかった……? なに……? どういうこと……?」

 

 

 ――僕に似た男……? そいつが何でアリアに“逢いたかった”……? いったい誰なんだ……??

 

 

 どういうことなのか わからないままアベルは訊き返してしまう。

 アリアも解らないらしく、弱り目でアベルを見つめていた。

 

 

「やっぱり違うよね……。解らないことばっかりで、話そうか迷ったんだけど……、アベルには言っておいた方がいいかなって思って……」

 

「ああ、うん。ホウレンソウは大事だよね! 報・連・相!」

 

「ホウ・レン・ソウ? あ、もしかして報告・連絡・相談のこと? それともこの世界にもホウレンソウがあるの?」

 

 

 突然アベルの口から飛び出たビジネス用語にアリアが首を傾げた。

 

 

 ――まあ、あっても不思議ではなさそうだけど……。

 

 

 アリアは人が作り出したこの世界に時々現実(前の)世界と同じ物が出て来ることがあることを知っている。

 だからか然程気にはならなかった……のだが、アベルは首を横に振っていた。

 

 

「っ、違うよ。アリアが僕に教えてくれたんだよ?」

 

「えっ、そうなの?」

 

 

 アリアは ぱちぱちと長い睫毛を上下に瞬かせる。

 

 

 ――私が教えたんだ……? ……記憶の消えている部分……早く思い出したいなぁ……。

 

 

 覚えがないので、恐らくラインハットの教会でお祈りをした後のことなのだろう。

 アベルから話には聞いているが、翼を失った経緯やパパスの最期をいつか思い出せるといいのになと思ったアリアだった。

 

 

「あ、もしかして憶えてない?」

 

「…………みたい。いつ言ってたのかはわからないけど……、うん。私、気付いたことがあったらアベルにホウレンソウするね?」

 

「うん、してして! 君のこと、何でも知りたいっ!」

 

 

 ――アリアのこと、全部知っておきたいんだ……!

 

 

 アベルが身を乗り出しアリアを覗き込んでじっと見つめる。

 何だか熱い視線に感じて、アリアはアベルの瞳から逃れるように目線を外した。

 

 

「っ……アベル……。……っ、隠さないんだね……」

 

「……何を……?」

 

「…………ううん。何でもないの……」

 

 

 アベルが柔和な顔で口角を上げると、アリアは目を伏せてしまう。

 

 

 ――そんな風に見つめられたら……、勘違いしちゃうじゃない……。いや、勘違いじゃないんだけど……、でも。

 

 

 

 

 “あなたはいつか別の女性(ヒト)と結婚するんでしょ……?”

 

 

 

 

 ポートセルミでピエールから話を聞いてからアリアはずっと悩んでいた。

 ピエールの話では、アベルが結婚するのは一年以上先とのこと。

 

 つまり、自分がアベルの気持ちを受け入れさえすれば、一年は確実にアベルと恋人同士になることが出来るのだ。

 

 ただ、アベルがビアンカかフローラを選ぶということは恐らく決まっている(・・・・・・)

 アベルが「大筋は変わってない」と云っていたからそうなのだろう。

 未来()を知るピエールもそう告げていた。

 

 そう、この世界がゲームの中である以上、アベルとアリアの別れは決まっているのである。

 

 アリアの中でアベルの存在が日に日に大きくなっており、いざ別れの時が来たら自分はどうなってしまうのだろう、耐えられるのだろうか……とアリアはどうしてもアベルを受け入れるのを躊躇してしまう。

 

 本気で好きになってしまったが故に、傷つくのが怖かった。

 

 

「……アリア?」

 

「あっ、う、ん?」

 

 

 アリアの様子にアベルは目蓋をぱちくりさせ声を掛けて来る。

 彼女はハッとしてアベルに微笑み掛けた。

 

 

「顎の下のところ……、怪我してるんだけど……。どうしたんだい……?」

 

 

 アベルはアリアの顎の下を指差し、さっきから訊こうと思っていたことを漸く訊ねる。

 

 

「顎の下……? あ、そういえば……ちょっと痛いなって思ってたんだっけ……」

 

 

 ――それって……、アベルに似たあの人が引っ掻いた痕……?

 

 

 アリアはアベル達がプックルの巣に来る前、アベル似の男に顎を掴まれ爪で引っ掻かれたことを思い出した。

 

 

「みせて」

 

「え? あ、うん……」

 

「ホイミ。…………うん、綺麗に消えた(良かった……)」

 

 

 アベルに患部を診せろと言われ、アリアは上を見上げる。

 アベルはすぐさまアリアの顎の下の傷に回復呪文を掛け、治癒したのだった。

 

 

「ありがとう……」

 

 

 傷が塞がり僅かな痛みも取れ、アリアはアベルに目礼する。

 

 

「どこで怪我したか憶えてる?」

 

「うん、多分なんだけど……。さっき話したアベルに似た男の人に私、顎を強く掴まれたの。その時に引っ掛かって切れちゃったんじゃないかなって」

 

 

 そうアリアが説明をした途端、アベルの目が見開かれた。

 




ホウレンソウ。
アリアは忘れてるけど、ラインハットでお祈り後、確かに云っているのです。
アベルは憶えているんだなぁv
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