アベルは過保護。
では、本編どぞ。
「っ!? そんなことされたのか!? 何でそういうことを言ってくれないんだっ!?」
アリアの話を聞いたアベルは声を荒げ、お茶のカップを荒々しく地面に置くと彼女の両肩を掴んだ。
「っ、アベル?(えっ、怒ったっ!?)」
「ホウレンソウだって言ったよね!? そういう大事なこと教えてくれなきゃダメじゃないか!」
眉間に皺を寄せ、アベルはアリアに強く主張する。
「っ……何で怒ってるの……?」
アリアはアベルが急に怒り出したのか意味がわからず、訊ねていた。
「っ、アリアの綺麗な肌に傷が残ったらどうするんだっ!? 君は傷ついたらダメなんだよ……!」
「っ……、そんなこと言われても……、魔物と戦ってたら傷つくことだってあるよ……?」
――毎日戦ってるんだもの。多少の怪我くらいしょうがないでしょ……?
アベルの主張にアリアは首を傾げる。
だが、アベルはムッとした表情で続けた。
「っ、そうであっても、早く言ってくれれば回復だってすぐ出来るよねっ!?」
「そりゃ……まあ……、回復は早いに越したことはないけども……。かすり傷程度、自然に治るんじゃ……?」
「っ、ダメだっ!」
アリアが訝し気にアベルを見つめ首を横に倒すと、アベルは頭を左右に何度も振るう。
「え、ダメ? 何が?」
「アリアは男の僕とは違う。女の子なんだから、身体にいつまでも傷がついたままじゃダメだ」
アベルはアリアの両肩を掴みながら俯き、静かに告げた。
「っ、だからダメって……何で……(この世界じゃ多少の怪我なんて当たり前でしょ……?)」
「っ、アリア、わからないの?」
「え?」
アリアの言葉にアベルが顔を上げると、彼女は瞳を瞬かせる。
「僕がイヤなんだよ……。君が傷を負ってるところなんて見たくないんだ。すぐ回復してあげたい」
――アリアにはいつも綺麗で居て欲しい。傷なんて付けさせたくない。背中の傷だって、絶対治してやるんだ……!!
アベルがアリアを真っ直ぐに見据えると、アリアの瞳が揺れた。
「っ、アベル……」
「……僕に似た男か何なのか知らないけど……、今度会ったら殴ってやる……いや殺す……」
アベルの口から不穏な言葉が飛び出す。
そして、いつものアベルからは想像もできない程、その表情は怒りに歪んでいた。
「へっ? ころっ……ちょ、ちょっとアベル、物騒だよ……? たまたま引っ掛かっただけかもしれないのに。その人、ちょっと失礼なところもあったけど、口調は穏やかな人だったよ?」
「僕のアリアに傷をつけたこと絶対後悔させてやる……」
アリアがアベル似の男のフォローを入れたが、アベルは彼女の肩から手を放し、フーッフーッと興奮したように鼻息荒く拳を握り締める。
「ぼ、僕のって…………っ……もぅ……(すぐそういうこと言うんだから……)」
好意が駄々洩れのアベルの台詞にアリアは頬が熱くなってしまった。
「アリア! ちょっとでも怪我をしたらすぐ言うこと! いいね!?」
「っ……!? ……ん、わかった」
再びアベルがアリアの両肩を掴み真っ直ぐ射抜くように見つめて来るので、アリアは勢いに呑まれ頷く。
――過保護だよ……!
そうは思ったが、大切にされている感じが何だかむず痒くて、アリアはアベルの瞳を見つめ返した。
すると漸く険しかったアベルの眉間の皺がスッと消える。
「……アリア……、いい子だね……」
アベルはいつもの優しい顔でアリアの頭を撫でていた。
「っ、いい子って……。私、大人なのだけど……」
――頭ナデナデしちゃダメぇっ! 愛おしくなっちゃうでしょっ!?
アベルに優しく頭を撫でられ軽くパニックを起こすものの、アリアは平静を装う。
彼に触れられると恥ずかしい。
同時、何とも言えない安心感に包まれるので、アリアはアベルをじっと見つめたまま、黙って撫でられてやった。
スラりんやプックルになったような気分である。
「そういうところ、可愛いね……」
――好きだ……。
アリアが自然な上目遣いで見つめていると、アベルの頬がほんのり色付く。
柔らかい彼女の髪の感触にアベルはせっかくだからとしばらく撫でることにしたのだった。
「っ……!? っ、そういうこと言わないでってば……」
「……言わせてよ。核心に触れてないんだからいいでしょ?」
「ぅ……」
アリアに否定されアベルの眉が下がると、彼女はバツが悪そうに黙り込む。
「……僕の気持ちわかってるくせに、アリアって残酷だなあ……」
アベルは彼女の髪を撫でながら苦笑した。
「っ…………、ごめん……」
「……別にいいんだけどさ………………ははっ、ちょっと意地悪言ったね。僕の方こそごめんね。君を困らせるつもりはないんだ」
アリアが目を伏せ頭を下げるとアベルも何故か謝る。
「ん……、うん……」
「……綺麗な髪だね……」
アベルは心地好い髪の感触を堪能しながら、俯くアリアを愛おしそうに見つめていた。
すると不意に、アリアが顔を上げる。
「…………っ、アベル、私 眠くなって来ちゃった……」
彼女は気まずそうにアベルに笑い掛けて、目を擦った。
「……あ、うん、そっか。じゃあキャビンで休んで。今夜の火の番は僕とピエールでするよ」
「うん……、ありがと……」
アベルはアリアの髪から手を放し、優しくはにかむ。
そうしてアリアはアベルを焚火の前に残し、馬車に向かった。
去って行くアリアの背中をアベルは優し気な瞳で見送る。
◇
キャビンの前までアリアはやって来たが、乗り口が高いため助走を付けて乗り込むことに。
アリアは踏み台が無いと自力でキャビンに乗ることが出来ない。
鈍くさいのである。
アベルに言えば乗せてくれるのだが、乗り降りくらい自分でしたい。運動音痴も多分にあるのだろう、只今自力でキャビンに乗り込む練習期間なのだ。
「……よし!」
タッタッタッタ。と、アリアは小走りで駆けると踏み出し、跳躍。乗り口へと足を掛けようとするが やっぱり少し高くて上れない。
「うーん……もうちょっとなんだけどなぁ……」
仕方ないので別のアプローチで乗り込むことにした。
アベルに頼めば踏み台を出してくれるが、何となく今はアベルに声をかけ辛い。
キャビンの中にいるスラりん達はもう眠っているのか、静かだから起こすのも忍びなかった。
アリアは乗り口に手を掛け地面を蹴る。
身体が持ち上がり一応乗り口に腰までは上がったものの、微妙に脚が上がり切らず落ちそうになり藻掻いた。
「っ、なんのっ! これくらい出来ないと……! よっこい……」
よっこいしょっ……と掛け声をかけてしまうのはアラサー故なのか……。
そんなアリアの様子にキャビンの中からキャシーが顔を覗かせる。
「鈍くさいわネ……」
「え。わっ!?(びっくりしたっ)」
突然ぬっと現れた夜のキャシーのドアップにアリアは驚き地面に落ちた。
キャシーの顔は夜だというのにフルメイクで、闇の中に急に現れたら中々の恐怖である。
「いったぁ……!」
「アリア、アナタ何やってるノ。……ほら掴まんなさいヨ」
アリアが尻餅をついて痛みにお尻を擦ると、キャシーがキャビンから手を差し出してくれた。
「あっ、キャシーちゃんありがと。やっさし~!」
差し出されたキャシーの手を取ると、アリアは一気にキャビンの中へ引き上げられる。
彼女の腕は力強かった。
大好きな女の子に怪我はさせたくないものです。
なんだ? 支配欲か? 庇護欲か?
アベルの気持ちはアリアにちゃんと届いているっていう……。
もうちょっと! もうちょっとなんや!!(何がだ)