アベルっていい人だよね……。
では、本編どぞー。
家を出て行くアベルはアリアに背を向け振り返らなかった。
随分と怒らせてしまったようだ。
「アベル……」
――いつも心配掛けてごめんね……申し訳ないと思ってるよ。でも、私はあなたのお嫁さんにはなれないから……。
アベルが消えた扉を見つめ、アリアは目を伏せ落ち込む。
「ピキー……アリアちゃん……。主さま悲しそうだったよ……?」
「主さまは、いつもアリアちゃんを見てるよ? だからそんな顔しなくて大丈夫だよ」
「グルルン!」
スラりん、ドラきち、コドランがアリアの傍にやって来て、落ち込むアリアにそれぞれ声を掛けていた。
「みんな……(でも……そういうことじゃないんだよね……)」
アリアは説明し難い想いにフッと口角だけ上げる。
ところが……、
「……痴話喧嘩なんて犬も食わないワよねン。プックル?」
「がうがう」
キャシーとプックルはアリアをチラ見して暖炉前……彼女の真ん前を陣取ると、ドカッと腰を下ろした。
二人はアリアの前で寛ぎ始める。
「っ、痴話喧嘩って……キャシーちゃん……。プックルも……解ったような顔して……」
「さっさとくっついちゃえばいいのにネ。まどろっこしいったらありゃしないワ!」
「がうがう」
背後から身を乗り出し訊ねるアリアの言葉は届かず、キャシーとプックルは親し気に語り合っていた。
「あのね……。私にだって事情ってものがあって……」
――私だって、好きなんだよ!? でも、お別れが決まってるなんてあんまりでしょ……?
アリアは心配そうに見上げて来るスラりん、ドラきち、コドランを抱きしめ顔を埋めたのだった。
◇
……アベルが家を出てからしばらく経ったが、彼が戻って来る様子はなかった。
雨脚も強く、屋根に打ち付ける雨音が先程よりも大きく聞こえる。
「……アベル大丈夫かな……(雨……すごい音がしてるけど……)」
「心配なら見て来れバ?」
「……っ……、でも……、アベルに ここに居てって言われてるし……」
キャシーに云われるが、アリアは膝を抱え躊躇していた。
「けどアベルんのこと、心配なんでショ?」
「それは、だって……」
――ピエール君もパティも心配だけど、アベルが一番心配に決まってるっ!!
心はそう思うも、アリアの身体は動かない。
「うわっ、ヤダッ! でもでもだっては嫌われるわよン! 気になるなら確認すればいいのヨ! そしたらすっきりするワ!」
「ぅ……(魔物に説教されるとは……)」
キャシーが大袈裟に顔を歪ませアリアにアベルの様子を見て来いと促すと、アリアは眉を一瞬顰めた。
「ほら、行っタ行っタ」
シッシッとキャシーはアリアを追い払う。
すると漸くアリアは黙って立ち上がると出て行った。
「ピキー……! 上手くいくといいねえ!」
「……キャシーちゃんて、主さまとアリアちゃんのキューピッドなの?」
スラりんが扉を見つめ告げると、ドラきちがキャシーに訊ねる。
「あらん、アタシが天使ですっテ? ウフフ、今度の衣装に翼を付けても可愛いかもしれないワネ!」
――可愛さと妖艶さで男共はアタシにイチコロよン……!!
キャシーは新たな衣装の構想を練り出したのだった。
◇
アリアが外に出ると何かを打ち付ける音が雨音に紛れ聞こえて来る。
カンカン! トントン!
トントン! カンカン!
それは家の隣からのようで、家を出たアリアはアベルを捜して音のする方へと向かった。
「っ、アベルっ! 何してるの!?」
アリアがアベルを見つけ、声を掛ける。
アベルは家の隣にある小屋らしき建物の上で見知らぬガタイのいい大男と屋根の補修作業をしていた。
「あっ、アリア! 濡れちゃうから家の中に居なよ、もうすぐ終わるから!」
「お! 彼女がそうか、別嬪さんだな!」
「アハハ……、はい」
屋根の上で、アベルと大男が作業しながら何やら話をしている。
アベルは照れ臭そうに笑顔を見せていた。
「……何の話……?」
アリアには聞こえず、彼女は彼等を見上げる。
「すまんな~! 馬小屋の補修がまだ終わってなくてな! こんなに降ると思わなかったから慌てて直してるんだよ!」
大男が大きな声で告げると、馬小屋の中からピエールが出てきた。
隣の小屋は馬小屋らしい。
そこそこ大きな小屋であるが、壁や屋根が一部崩れている。
恐らく魔物の仕業だろう。
「アリア嬢! 濡れてしまいます。家にお戻りください!」
「あ、えと……パティは……?」
馬小屋の隣に馬車だけを残し、パトリシアの姿が見えない。
アリアはピエールに訊ねていた。
「パトリシア殿なら、
「そっか、良かった……」
「私はもう少しこちらで主殿の手伝いをします故、先に家の中へ」
「うん、わかったわ。無理しないでね」
パトリシアが無事だとわかり、アリアはピエールに促され家に戻ることにした。
「ふぅ……(すごい雨だったな……)」
パタン。
家の扉を閉じると雨音が少し遠くなる。
戻って来たアリアは濡れたマントを脱いで水気を払った。
「アラ? もう戻って来たノ?」
「あ、うん、なんかアベル馬小屋の修理を手伝ってたから、邪魔しちゃ悪いかなって思って戻って来たの」
「ふーん、さすがはアベルんネ、優しいんダカラッ! アリア~……フラれて残念だったわネ?」
アリアは先程あった状況を説明したが、ニヤニヤとキャシーに笑われてしまう。
「フラれてないもん」
アリアは心外だと言わんばかりに、ぷくっと頬を膨らませた。
「まっ! なぁに、そのぶちゃいくな顔ハ……(可愛いっ!! ほっぺた抓ってあげたいわネ!)」
「…………別にぶちゃいくでいいもん……」
――可愛かろうが不細工だろうが、アベルのお嫁さんになれないならどうでもいいよ……。
あぁ、今世も独り身決定か~! まあ、ヒロインが決まってる主人公を好きになっちゃあ、しょうがないよね……。
キャシーに茶化されアリアは黙って扉近くの炊事場へと向かう。
「……アリア……? 何するのン?」
「……アベル達、外で作業してるから温かいものでも作ろうかなって。……ここ、勝手に使ってもいいよね……?」
「いいんじゃナイ?」
「うん、じゃあ、ちゃっちゃと作っちゃおう!」
アリアは【絹のエプロン】を取り出し身に着けると、自分の荷物の中から材料を取り出し温かいスープを作り始めたのだった。
アリアってお母さんみたいよね……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!