何が「うん」なんですかね。
では、本編どぞっ!
◇
アリアが調理をしている一方でアベル達はというと。
屋根の修理を終え、今度は壁の補修を行っていた。
「おーい、すまん。家に入ってすぐの引き出しに釘を入れた箱があるんだが、どっちか取って来てくれないか? 足りなくなっちまった」
釘が足らなくなったらしく、大男が板を押えながらアベルとピエールに告げる。
「わかりました、僕が行って来ます! ピエール、ちょっとこっちを頼めるかい?」
「はい、お任せを!」
アベルは自分の持ち場をピエールに任せ、馬小屋を出て行った。
◇
「……さっき、自然に話せたよね……? ……でも、何か気まずいかも……」
アベルは先程アリアに上手く話せたかどうか気にしつつ、家の扉をそっと開いた。
扉を開くと中ではスラりん、ドラきち、コドラン、プックルの話し声が賑やかに響いている。
アベルが家の中に入ると炊事場から好い匂いがして、アリアとキャシーが楽しそうにお喋をしながら何かを調理しているのが見えた。
(何か作ってる……? えっと、すぐ傍の引き出し……。あ、これか)
アリア達の背が扉に向いているため、戻って来たアベルには気付かない。
……ので、アベルはこっそり扉の隣にある引き出しを調べる。
引き出しの中から大男に云われた釘の箱を見つけると、外に出るため静かにそっと扉を開き出ようとした。
すると一瞬スラりん達の会話が途切れ、アリアとキャシーの声が耳に入って来る。
「……ねえン、アリア。アベルんに食べてもらうと思うと、ドキドキするわネ!」
「っ、ま、まぁね……。不味いものは食べさせられないよね……」
「そうよネ~。大好きな人に不味いものは食べさせられないわよネ~」
「…………うん。美味しいもの、食べさせてあげたいかな……。ふふっ……アベル喜んでくれるといいな……あ、キャシーちゃんこれ……――――」
アリアの話が続く中、扉は ぱたんと閉じた。
「え……?」
――えっ……!? 何? 今の……、どういう……意味……!?
女の子二人の会話にアベルは口元を手で覆い、今のアリアの言葉はどういう意味だったのかを考える。
「っ……?? え、何、だいすk……? いや……、そんなこと……」
――っ、とりあえず作業に戻ろう……!
まだ補修作業が途中のため、アベルは強制的に思考停止し馬小屋へと戻って行った。
「おお、これこれ。悪かったな! ここを補修すれば馬小屋はもう大丈夫だ」
大男がアベルから釘を受け取ると さっそく板を打ち付け、あっという間に補修する。
そして補修が終わるとパトリシアに向かって笑顔を見せた。
「別嬪さんよ、今夜はゆっくり休むといいぞ。うちのと仲良くしてやってくれな?」
大男がパトリシアの隣の房に居る黒い馬に目配せする。
黒い馬はパトリシアを見ると、キリッとした顔をしたのだった。
「ブブブ……」
パトリシアは黒い馬と目を合わせると、上目遣いに鼻を鳴らす。
黒い馬も呼応するように「ブブブ……」と返事をしていた。
「お、気に入ったみたいだな! こいつはノアってんだ。いい身体してるだろ? よろしくなっ! よし、じゃあ最終確認して家に戻るか!」
わっはっはっはっ! と大男は豪快に笑って馬小屋から出て行く。
アベルとピエールは馬小屋に残り【ノア】とパトリシアの様子を見ていた。
二頭は互いに首を伸ばし、労わり合うように互いの首を擦り合わせている。
そのパトリシアの眼は女の眼をしていた……!
「……パ、パティ……?」
「パトリシア殿は……伴侶を見つけられたのかもしれませんね……」
アベルが驚く中、ピエールは“良かった良かった”と頷いていた。
「パティの伴侶って……。そんなこと今まで無かったよね……?」
「わっはっはっ! この世界は面白いですな! まさかパトリシア殿に恋人……いえ、恋馬(?)が出来るとは! 主殿が言っていた未知というのも悪くないものですね! いや~、良かった良かった!」
ぱちぱちと瞳を瞬かせ訊ねるアベルに、未知が怖いと云っていたピエールが嬉しそうな声を上げている。
(アリア……。これって……?)
アベルは初めて見る光景に驚き、
「おーい、二人とも点検が終わったぞー。家に戻ろう。何だか家の方から好い匂いがしてるぞ!?」
「あっ、そうだ、アリアが何か作ってくれてて……」
「おおっ! アリア嬢が! 戻りましょう戻りましょう!」
大男が馬小屋に戻って来るとピエールを連れて家へと戻り始めのだが、アベルは立ち止まってしまう。
「あっ……、ちょっと僕は後で戻るよ」
「……どうかされたのですか……? もう補修は終わって……」
「……馬車の点検もしたいし、少し……考えたいことがあるんだ……。一人にさせて」
「……はぁ……わかりました。皆に伝えておきます」
――この雨の中、馬車の点検も怠らないとは……、いつもの事ながら主殿はリーダーとして素晴らしい資質をお持ちですね……!
ピエールはアベルに尊敬の眼差しを向けると、アベルを残し大男の後について行った。
「…………、……アリアが……、僕を……?」
大男とピエールの消えた馬小屋でアベルは独り呟く。
――うっそだぁ……! またアリア、僕をからかって……。
いや、でも僕が居ないのにそんなこと言う必要ってある?
いや、でも、アリアははっきり“好き”とは言ってなかったっけ……?
補修作業を終えたアベルの頭の中で先程聞いたアリアとキャシー、二人の会話が木霊していた。
キャシーが“大好きな人に不味いものを食べさせられない――”とか何とか云った後で、アリアが「うん」と肯定した。
“大好きな人”に対する「うん」なのか、“不味いものを食べさせられない”に対する「うん」なのか。
どっちに対する肯定なのだろうか……それとも両方……?
頭の中でどっちなのかと何度も反芻する。
「……っ、……とりあえず、馬車の様子を見て来よう……。パティ……、良かったね」
「ブブブ……」
アベルは馬小屋からの去り際、ノアと寄り添うパトリシアに一声掛ける。
……と、
◇
ザーーーー。
アベルが馬小屋を出ると雨は相変わらずバケツをひっくり返したように降り続いている。
ここは崩れた家々よりも少し高い場所に位置しているため、傾斜もあるからか冠水することはなさそうだ。
これだけ降ると、例えばサンタローズなら川が溢れ大洪水になっていたかもしれない。
「……よく降るなぁ……」
雨漏りしてないといいけど……、とアベルは馬車に向かった。
馬小屋の隣に停めた馬車をチェックする……と、結果的に馬車は雨漏りなどしておらず、キャビンの屋根は水を弾いていた。
オラクル屋が作った馬車なのかは知らないが、目利きで仕入れたにしてもいい仕事をする。
今まで雨が降った記憶の無かったアベルは不思議に思ったが、もしかしたら幼い頃は記憶に残っていないだけで実際は降っていたのかもしれない。
そしてアリアと居た時はたまたま乾期で降らなかっただけ……、更にゲマに攫われた後は大神殿が雲の上にある場所だから降らなかっただけなのかも……と考えを改めたのだった。
アリアも記憶していないのだが、彼女はよく記憶喪失になるため忘れているだけなのかもしれない。
「……アリア……君が僕を想ってくれているなら……。言ってもいいよね……? 僕はもう……、黙っていられそうにないよ……」
アベルは独りキャビンに上がると仰向けに身体を寝かせ、水を弾く布製の屋根を見つめた。
ざぁざぁと降りつける雨音に、アベルは目を閉じる。
目を閉じればアリアの顔が浮かんで来る。
笑顔だったり、泣いていたり、怒っていたり、恥ずかしがっていたり、その表情は様々で、くるくると変わる表情に目を閉じるアベルの口角が上がった。
諦めようと思っていた矢先、アリアが自分を好いてくれている……
――いや、でも、確かに訊いたし……?
アベルは自問自答を何度か繰り返していた。
「っ、僕はアリアじゃないんだ、わかんないよ……!」
アベルは毛布を被って寝転がる。
毛布からはアリアの香りがして、彼女に包まれたような心地好さを感じてしまった。
――アリアの匂い……、好きだ……、好きだよアリア。
こんなに好きなのに諦められるわけないだろ?
一瞬でも諦めようと思った僕がバカだったんだ。
そもそも何も言わずに諦めるなんてどうかしてる……!
昔の僕はもっと行動的だっただろ!?
どうせなら当たって砕ければいいじゃないか!
……アベルはアリアの香りに包まれ、自分を鼓舞する。
そうしている内に疲れていたのか次第に眠くなって意識を手放した……。
パティの伴侶……w
黒い馬なんやで、イケ馬やでw
パトリシアがメスの顔するんやでw パトリシアも幸せになって欲しい❤
あぁ……やっと通じ合えるかな……。長かったなぁ……。
えらい引っ張ったなぁ。
でも、両片想い……すき。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!