アベルが熱を出しました。
では本編どぞ。
◇
次の日――朝。
雨はすっかり上がり空は晴れ渡っているにも関わらず、アベルとアリアは二人して熱を出し、大男の家のベッドを占領し寝込んでいた。
「がっはっはっはっ! それで二人して風邪を引いたと!」
この家の家主、大男こと【オルソー】が豪快に笑い飛ばす。
……オルソーは熊のような男だ。年齢は四十近く。
アベルよりも高い背に真っ黒な長い髪を後ろで束ね、口には髭を蓄え、身体は筋骨隆々、袖のない質素な【ぬののふく】から胸毛と、腋毛に腕毛に、短パン着用のため
日に焼けた肌も黒く、夜、灯りのない場所で遭ったなら熊の魔物かと勘違いしそうな程である。
パパスにも何となく似たものを感じるが、毛色が違うようだ。パパスのような品の良さはあまり感じられない(気の良いおっさんという感じ)。
オルソーはこの集落の代表で、木こりをして生計を立てているらしい。
ノアと共に伐採した木々をポートセルミへ運んでいる間に集落が魔物の襲撃に遭い、帰って来た時にはほぼ全滅していた……、というわけで、一人生き残り崩れた家を補修して暮らしているそうだ。
集落の者達は何人か亡くなったらしいが、命からがら逃げだした者もおり、オルソーがポートセルミから戻る途中で報告を受け、住民達は集落には戻らないと告げ去って行った。
オルソーのみがここに戻り一人で暮らしている。
性格は豪快そのもので、細かいことは気にしない
「はぁ、はぁ……すみません……」
「……すみません……はぁ……」
アベルとアリアが隣同士で横になるベッドの間に立ち、二人を見下ろすオルソーに謝る。
「いいっていいって。アンタ達、旅をしてるんだろう?」
「はい……」
「たまには休息も大事だぜ? アンタの仲魔達は俺が見ておいてやらぁ。今日は一日ゆっくりして行けばいい。ゆっくり寝てりゃ直に熱も下がるだろうよ」
オルソーはアベルとアリアに休んでいけと告げると、暖炉の方へと向かいピエール達と話をし始めたのだった。
「はぁ……アリア、大丈夫……?」
「……うん……平気……。アベルは……?」
アベルがアリアの方へと身体を横に向けると、アリアも同じようにアベル側へと身体を向け、赤い顔で頷いた。
「うん……。ちょっとぼーっとするけど大丈夫……。熱があるってこんな感じなんだね……」
ふぅ……と熱い吐息を吐き出し、アベルは口角を上げる。
「…………あ、熱出すの初めて?」
「…………記憶の中ではそうかも。僕、病気したことないよ」
アリアに問われアベルは記憶を辿ってみる。
父パパスが寝込んだ記憶はあるが、自分が寝込んだ記憶はない。
――僕が寝込むなんて……。
身体はだるいが、初めての経験にアベルは目を細めていた。
「ふふ……そっか……。じゃあ、辛いね……?」
「…………うん、でも……。アリアとお揃いだから、悪くないかな……」
「ふふっ……、こんなお揃いはどうかと思うけど……。早く治そうね」
アベルの笑顔にアリアも顔を綻ばせる。
そしてアリアは「寝よう寝よう」と身体を仰向けに戻し、目を閉じた。
「…………アリア」
「ん……?」
アベルが呼ぶので、アリアは顔だけアベルに向ける。
「手を……。…………手を繋いでもいい?」
アベルは熱で心細いのか、手をアリアへと伸ばし訊ねた。
「…………ん」
アリアはそれに応えるように、布団から手を出しアベルの手を握る。
「アリア……。好きだよ…………」
「…………もぉ、わかったってば……」
アベルはアリアの手を取ると目を閉じ、安堵したような顔で眠りに就く。
アリアはアベルの寝顔を眺め、彼の寝息が聞こえて来るまで見守っていた。
◇
一方で、暖炉の周りではピエール達とオルソーがお茶を飲み飲み、語らいあっている。
「ほぉ……、行方知れずの母を救うため、伝説の勇者を捜す旅か……。そんでアベル達は旅をしていると」
「ええ、そうなのです。主殿はこれまで辛い旅を……」
「……辛い旅……? ……かなり幸せそうだがなぁ?」
ちらっと、ベッドの方へと目を向けて、アベルとアリアが笑顔で会話する様子を窺うとオルソーは口を歪ませた。
遠目で見るアベルの顔は幸せに満ちている。
そうしている内に終いに二人は手を繋ぎ、眠ってしまったではないか。
「あ……、……ハハハ……。そう、ですね……。今回の旅は……、どうも様子が違うようでして……」
「はっはっはっ! 俺はまた、婚前旅行かと思っていたぞ!」
「い、いえっ! お二人は結婚などするはずがないのです……!」
ピエールがアベルとアリアの結婚は無いと言い切った。
するとオルソーはピエールの物言いに腕組みをし、口を開く。
「ほぉ? そうなのか? アベルの奴、昨日俺に彼女を“未来の奥さん”だって紹介してくれたんだが?」
「っ!? ま、まことでございますか!?」
――そんなこと、出来るはずもないのに……!?
オルソーの話にピエールが食って掛かる。
アベルは毎回、ビアンカかフローラのどちらかと結婚する……、アリアもその事を知っていた。
(これは恐らく変わらない未来で、例え今、二人が想い合っていても変わらないはず……。)
ピエールは今まで変わらなかった出来事が今更改変出来るとは到底思えなかった。
「……どうしたんだピエール? ……あ、そうか。アンタ……あの娘のことが好きなのか……」
「ぃっ!? い、今、私の気持ちって関係あります!? そ、それに私の愛はそんな簡単に語れる程軽いものでは……」
オルソーに突かれピエールはもじもじと手を組み、人差し指をくるくる回す。
表情は読めないが、恥ずかしがっているのは解る。
「はっはっはっ! 図星か! まぁ、あの娘は可憐だしな……気持ちはわからんでもない。死んだ俺のコレも可憐な女でな……。ただ、アイツは身体が弱かった……」
オルソーは小指を立てて暖炉の上に置かれた小さな額縁を愛おし気に眺める。
そこには線の細い美しい女性の絵が描かれていた。
「オルソー殿?」
「ここを出て行った奴等に他へ移らないかと誘われたが……、アイツはこの家が好きだったんでなぁ……。ここに住んでいると、アイツが居るような気がして離れられないんだよ……もう十五年も経つっていうのになぁ……」
先程まで豪快に笑みを浮かべていたオルソーは体躯に似合わず身体を縮こまらせ俯いてしまう。
「……なるほど、あの女性はオルソー殿の奥方でしたか……」
ピエールは額縁を眺め呟いた。
「アイツに一目惚れしちまったのが運の尽きってヤツだな。まあ、一人息子も巣立って帰っちゃ来ねえし、俺はここでノアと男同士仲良くやってるってわけだ」
「そうでしたか……」
ピエールが真剣に頷く中、オルソーの話は続き「うちのバカ息子は、いったい どこほっつき歩いてんだか……」とぶつぶつ文句を言い始める。
「まあ、俺ぁ、いい父親じゃなかったからな。嫌になったんだろう、元気で幸せにやってくれてればそれでいいわな。わっはっはっ!」
「オルソー殿……(息子さんがいらしたのか……)」
――オルソー殿は良い父親だと思いますよ……。
オルソーと息子の間に何があったのかは わからないが、息子は家を出て行ってしまったらしい。
しかも帰って来ていないという……喧嘩別れでもしたのだろうか。
だが、あまり根掘り葉掘り訊くのも悪い気がしてピエールは豪快に笑うオルソーを見上げていた。
「フッ、息子には悪いことをしたと思ってる。だがな、俺の柄じゃねえが……、運命の女と会っちまうと もうそいつしか見えなくなるもんなんだ。アイツが長く生きられないことは知ってたが、俺はアイツに惚れちまった。居なくなった今も、俺の心の中にはアイツしかいねえ。わははっ! やっぱり柄じゃねえな!」
オルソーは照れ臭そうに頭をガシガシと掻いた。
「……別れが決まっていて……なぜ奥方とご結婚を……?」
ピエールは形は違えど、アベルとアリアも別れが決まっているため、参考までに訊いてみたくなり、訊ねる。
オルソーの答えは……、
オルソーはオリジナルキャラです。
名付けをする時はなるべく原作と名前が被らないようにしていますが、調べたらDQ7で仲間に出来るモンスターの中におりましたw
イタリア語で熊という意味です。まんまやんw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!