時には甘えるも良し。
では、本編どぞー。
ピエールに訊ねられたオルソーは眉を顰めしばし黙り込んでから話し出した。
「……なぜかなんて、そんなのわかんねえよ。どんなに好き合っていても、別れはいつか必ずやって来る。それが早いか遅いかは人それぞれだがな。俺は自分に嘘を吐きたくなかっただけだ。アイツは“自分は早く死ぬから諦めろ”と言っていたが、俺は諦めなかった。そしたら、結婚して子まで授かったってわけよ。結果……アイツは予定していた死期より長く生きたよ」
「な、なんという奇跡……! 愛のチカラということでしょうか!?」
話を聞いたピエールは興奮気味にオルソーを見上げる。
「へへっ、愛のチカラか……
「諦めないこと……ですか……」
「アベルも彼女が振り向くまで諦めないって言ってたぞ。ありゃ、俺と同じで一途な男だな。いつか、彼女を嫁にするんじゃないか?」
「それは……どうか……」
オルソーの言葉にピエールは口を濁した。
「んあ? なんだよ、ピエールはアベルとアリアがくっつくのが嫌なのか? あの二人お似合いじゃないか」
「いえっ、そうではないのですが…………」
――主殿の花嫁は もう決まっているのです……。
輪廻する世界の出来事は多少の差異はあれど、その大筋は変わらない。
恐らくアベルの結婚は確定事項なのだ。
……ここはゲームの中の世界である。
アベルもアリアもあんなに好き合っているというのに、決まっているということは残酷だ……、とピエールはそれ以上何も言えなくなってしまった。
その後、倒れたアベルとアリアを家に残し、オルソーの手伝いと称してピエール達は木の伐採や、材木小屋の補修などを手伝い一日を過ごす。
オルソーは一見魔物のような風貌からか、仲魔達から同類と見做され慕われていた。
◇
そして、夜――。
アリアが復活し、彼女は前日と同じように食事を作って皆に振る舞う。
と、オルソーは男泣きをして「うめえ、うめえ、こんな美味い食事は十五年振りだ!」と何度もおかわりをしていた。
何で涙なんか……と、後に話を訊くと、息子が出て行った原因がオルソーの料理の不味さにあったらしい。
“母ちゃんのもマズかったが、まだ食えるだけマシだった……これ以上マズイもの食って、殺されてたまるか! クソオヤジ! オレはウマ飯の嫁を捜すぞ!!”
というのが、息子が家を出て行く際の最後の言葉だったそうな……。
余談であるが、アベル達に用意してくれた食事はポートセルミで購入した【ミルクがゆ】と【パン】と【パンプキンスープ】で、オルソーは一切調理していない。
恐らく、マルシェワゴンのツインテールの女の子が作ったものなのだろう。
オルソーが客人のために買っておいたものである。
普段から息子に「オヤジは調理するな! 客が訊ねてきたら別の誰かに頼め、死人が出るぞ!」と云われていたからか、自分ではそこまで酷いと思っていなかったが、手料理を振舞うのはやめ購入したものを出したのだった。
アベル達に振舞った
というより、オルソーは味音痴で自分の料理が不味いとは思っておらず、自分の食事は自分で作って食べていた。
アベルとアリアが寝込む中、昼に謎の肉の入った青色の液体スープに魔物であるピエール達がドン引きする中、オルソーは「ちとマズイかな……? いやでも中々……」と自画自賛し、食している。
アリアの作った料理はといえば、彼女は料理人ではないため特別美味いわけではないが、普通に美味い。味音痴のオルソーでも美味いと感じる味付けだったようだ。
“十五年振りだ!”と言っていたオルソーだったが、十五年前食べた美味い食事とは今は亡き妻の料理のわけだ。
……なのだが、実はその料理は然程美味いものではなく、美化されているのである(なんてったって、夫婦揃ってメシマズだ!)。
だが、オルソーは妻の料理はいつも美味く感じ、いつも完食していた。
『愛さえあれば料理の味は全て美味いのだ、ガハハッ!!』
オルソーの持論だったが、アリアの料理を食べ、涙したのは真に美味いものと出会えたからかもしれない(実際は普通の味なのだが……)。
そんなこんなで皆が食事する中、アベルは熱が下がらないためベッドで横になっており、アリアに食事を運んでもらう。
「……アベル、ごはん食べられる……? 一応、持って来たけど……」
「あ……、うん……、食べる……」
エプロン姿のアリアがアベルの元にやって来ると、アベルは寝ていた身体を起こした。
「……エプロン姿似合う……、可愛いね……」
「や、やだ……、アベルったら……。熱でもあるんじゃないの? って熱あるんだっけ……ウフフッ❤」
アベルに褒められ、アリアは照れながらアベルの膝にトレーをのせて笑った。
「……僕は君に熱を上げてる……」
「……プッ! どうしちゃったの? アベル変だよ?」
――アベルの顔が赤い……熱が下がっていないみたいね……。
アリアはアベルの様子を眺めながら手にスプーンを持たせる。
「そうかな……。まだ昨日の事が夢みたいに思えて……、君に伝えなくちゃって……」
アベルはぼーっとする頭でアリアを見つめたまま動かなかった。
「アベル……」
「……アリア……、君が好きだよ……」
「っ……わかってるよ……、昨日いっぱい聞いたし、伝わってるよ……?」
「……うん……良かった。……好い匂い……」
アリアがアベルを見つめて頷くと、アベルは安心したのか野菜と肉の入った白いスープを掬う。
今夜のメニューはクリームシチューだ。
昨日のメニューがなんだったのかアベルは知らない。二人で家に戻るとそのまま倒れてしまい食べ損ねてしまっていた。
だから今夜は何が何でも食べてやるんだとアベルはスプーンを口元に持っていく。
「召し上がれ」
「……はぁ……」
アリアに見守られ、アベルはスプーンを口に持って来ようとしたが脱力した。
スプーンは再びシチューの皿の中へ。
「……あれ? どうしたの? やっぱり食欲無い……?」
「ううん……、そうじゃないんだけど……何か手に上手く力が入らなくって……」
――アリアの料理、食べたいのに……!
熱のせいか手に力が入らないらしく、アベルは俯いてしまった。
「食べさせようか?」
「えっ」
「アベル辛そうだし……、熱いからフゥフゥしてあげるね」
「ぁ…………っ……うんっ!」
そうしてアベルはアリアに食事を食べさせてもらう。
何だか子どもに戻った気分だったが、悪くない。
――病気になった時は甘えてもいいのかな……?
そう思ったアベルだった。
アベルをめいっぱい甘やかしてやりたい母心……。
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