オルソー……じゃあな!
では、本編どぞー。
◇
出会いがあれば当然別れもある。
アベル達の出発にオルソーが集落の出入口までノアと共に見送ってくれていた。
「お世話になりました! ここに来て良かったです!」
ほくほく顔のアベルは明るい笑顔でオルソーに礼を伝える。
ここに寄ったお陰でアリアと想いが通じ合ったのだ、心を込めて告げオルソーの手を強く握った。
――オルソーさん、ありがとう!!
「そうかそうか、良かったな! 俺も屋根の修繕が出来て助かったぜ。アベル、勇者を捜す旅なんだろ? 頑張れよ」
「はい!」
オルソーが笑みを浮かべてアベルの肩を叩くと、アベルは張りのある声で返事をする。
続けてオルソーはパトリシアとノアの様子を眺めるアリアをチラ見して、こっそり親指で彼女を指した。
「……あっちも頑張れよ? 何、大丈夫だアベル。アンタなら、あの娘を幸せにできるさ。アンタも幸せになんな。諦めんなよ」
「っ、オルソーさん……、はいっ!」
ぽんっ、とオルソーの大きな手がアベルの頭にのっかる。
かつてパパスに何度かされたそれは、もう縁遠いものだと思っていたがオルソーの大きな手にアベルは父パパスを重ね、元気に返事をした。
「ブブブブ……」
アベルがオルソーと別れの挨拶をする中、パトリシアとノアが離れ難いのか互いに寄り添い首を擦り合わせている。
「パティ……、ノアと離れたくないのね……」
アリアは仲睦まじい二頭の様子を眺めていた。
――【ルーラ】が使えればなぁ……、そしたら時々会わせてあげられるのに……私、何故か使えないのよね……。誰かが使ってるところを見れば使えるようになるかなぁ……?
大抵の呪文は使えるというのに、一度行った場所に瞬時に移動できる呪文【ルーラ】だけは、アリアは使えなかった。
何故なのかはわからないが、使えないものはしょうがない。
そんなことを考えながら二頭を眺めていると、パトリシアとノアが目の前でチュッ。と口付けを交わす。
「っ……も、もぉっ、二人ともラブラブなんだから……!(見せつけてくれちゃっても~!)」
アリアは何だか恥ずかしくなって顔を両手で覆うと、二頭から目を逸らした。
「……パティ、またいつかここに来ようね」
「っ、アベル……」
二頭から目を逸らしたアリアの元にアベルがオルソーとの挨拶を終え戻って来る。
と、アベルはアリアの肩に手を置き身を屈めた。
そして「僕達もする?」と静かに訊ね、そっと顔をアリアの顔へ近付ける。
「……アリア……」
「っ……! む、むりっ。みんなの前は無理っ……!」
「んむぅ!(そんなぁっ!)」
アリアはびっくりしてアベルの頬に両手を突き出し押し退ける。アベルの尖らせた唇と顔がアリアの手で歪んでいた。
それでもアベルの顔は嬉しそうで再チャレンジとばかりにアリアに迫る。
アリアはたじたじで両腕を盾に、迫り来るアベルの唇をガードしていた。
「……主殿は大胆ですな……(我々が見ているというのに……)」
「フフ、まったく昨日は揃って熱出して……一昨日の晩、二人でナニしてたのかしらネ……」
ピエールの呟きに本日パーティーにインしたキャシーがニヤニヤと唇を歪ませる。
「ちょっ!? 何にもしてないよっ?」
聞こえていたのか、アリアがアベルから逃がれやって来て否定した。
「あらン……、アリア顔が真っ赤よン……?」
「してないよっ!?」
キャシーがちらちらアリアにイヤラシイ視線を送ると、アリアはもう一度強く否定する。
「ンフフフ……」
何かあったわよネン……と言わんばかりの流し目がアリアを射抜くと、アリアが涙目になった。
極めつけにアベルが後ろからやって来て、アリアの手を取ると破顔する。
「アハハ……バレた? いやあ……。ほら、僕達恋人同士だからね……。ね?」
「アベルっ、キャシーちゃんに意味ありげなこと言わないでっ(キスだけだったでしょっ)」
アベルは掴んだアリアの手を軽く挙げてアリアに微笑み掛けた。
それに対しアリアは涙目でアベルに訴えかけるのだが、キャシーがアベルを褒める。
「マッ! アベルんたら、もうアリアをモノにしたのねン! さすがはアタシのモ・ト・カ・レ!」
「モ、モノって……(なに!? どういうこと!?)」
キャシーの言葉にアリアの瞳が大きく見開き、涙が零れ落ちた。
――なに、モノって、それ。まさか、男女の関係ってことぉ……!? ってかキャシーちゃん、あなたいったい……。
確かドラクエは全年齢対象のゲームだったはず……。
アリアはキャシーがいつも際どいことを言うのが気になってはいたが、やっぱりそっちの話だったかと解り、ショックを受けてしまった。
そもそも【エンプーサ】は男を誘惑し、交わった後に相手を食い殺したり、男に悪夢を見せながら血を啜る魔物なのだが、キャシーのそういう場面をアリアは見ていないために知らなかったのだ。
「いや……君の男になった記憶はないよ。っ、アリア……! 泣かないで? 誤解だよ。キャシーはただの仲間だ」
「ンフフ♥ アベルんたら相変わらずはっきり言うのネ~」
アベルがアリアの涙に気付いて、慌ててハンカチを差し出す。
キャシーはアベルに冷たくあしらわれたにも関わらず、嬉しそうだった。
「へ? あ、ち、違っ、これは違うの。キャシーちゃんの言葉に驚いて……」
アリアは慌てて涙を拭う。
びっくりして涙が零れただけなのだ。
「っ、キャシーっ! アリアを泣かせちゃダメじゃないか!」
「アラ、アタシが泣かせたノン? アリアってば泣き虫ねぇン。ごめんなサイねン♥」
アベルが語気を荒げてキャシーを責めると、キャシーはアリアにしな垂れかかり瞳をぱちぱちさせる。
あまり可愛くはないのだが、か弱そうに見える所作は流れるようで一級品だ。
これで見目も揃えば男は一溜りもないだろう。
「っ……べ、別に謝ってもらわなくても平気だよ? ていうか、そっちの話を止めてくれるだけでいいっていうか……」
「そっチ?」
「そっちって?」
アリアの言葉にキャシーとアベルが首を傾げた。
「っ、な、何でもないの……」
アリアはハッとして頬を赤く染め、首を横に二度三度振る。
――アベルには綺麗な身体で結婚して欲しいから……。
あんまりアベルを刺激するようなことを言わないで欲しい。
ビアンカちゃんかフローラさんに綺麗なアベルを渡さないと……。
――でもっ、キ、キスくらいまでならいいよね……! ゆっくり距離を縮めて行こう……!
アリアはアベルと恋仲にはなったが、男女関係になるつもりはない。
だが、アベルは男。
そして思春期真っ只中である。
恋仲になれば、キスだけでは済まなくなっていく。
アリアは精神が大人だからこそ、それをわかっている。
これから一年間、のらりくらりとキスのみで仲良くして行こうと思っているわけである。
……そうアリアが思う通り、上手くいくかは定かではないのだが。
◇
“元気でな~!”
オルソーに見送られ、アベル達は一路ポートセルミへ。
晴れ渡る空の下、アベルはアリアと手を繋ぎ町を目指していた(ピエールとキャシーは馬車の後ろである)。
ポートセルミまではあともう少し。
「……アリア」
「なぁに?」
「アリア」
「はぁい?」
アベルが隣を歩くアリアを窺いながら名を呼ぶと、アリアは優しい声で返事をする。
さっきから、何度も繰り返されていることだった。
「っ、アリアっ!」
「…………プッ。……ふふっ、なんで何度も呼ぶの? 変なアベル。うふふっ」
アベルはさっきから、声のトーンを変えながらアリアを呼び続けている。
片手から伝わる温もりに繋いだ手を見下ろした。
「……なんか……、夢みたいで……」
「夢じゃないよ……?」
頭の後ろを掻くアベルに、アリアは繋いだ手をぎゅっぎゅっと力を込めて握る。
実感できるでしょ? とにこっとはにかんで見せた。
「うん、わかってるんだけど……」
――ああ、笑顔が尊い……! アリアがずっと優しくて、胸が苦しい……!
アリアの笑顔にアベルの胸がきゅうきゅうと締め付けられる。
これまで時々冷ややかな瞳のアリアを見ていたアベルは、彼女がこんなにも甘いとは思っていなかった。
普段から穏やかでツンとした様子はないし、優しいところも変わらないが、昔からアリアは基本的に理性的な女性である。
その彼女が告白を受けた時から自分を甘やかし、以前よりも優しく接してくれるなんて思ってもみなかった。
アベルは自分が彼女を甘やかすんだと思っていたのだが、甘やかされている気がする。
――僕、ひょっとしてアリアにすごく愛されてない……?
アベルは繋いだ手から伝わる温もりと共にポートセルミに向け、歩き続けた。
オルソー(当方オリジナルキャラ)はパパスに似ては居ないけれど、パパスを思わせる気の良いおっさんでしたね(メシマズだけどな)。
パトリシアの旦那も見つかったことだし、あとはアベルが石化中に子をこさえればヨシ。
ちなみにオルソーの家はポートセルミの西南にある森の中という設定です。以前にもどこかで書きましたがドラクエ5はキャラ達が視認できない町とか村があるとか……。
あまりそういう集落を増やすとお話が解り辛くなるため、しないつもりではいますが、あと二つくらいは出てきたりするかもしれません。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!