ルラフェンに到着です。
では、本編どぞー。
第三百四十六話 仲魔の入れ替え
「……みんな、アリアの所に居るからね……」
「あ」
アリアはアベルに指摘され、自分の周りを見回す。
仲魔が自分の周りに集まり、アベルの周りには誰もおらず焚き火の向かいにピエールが居るだけだった。
「……アリアって、何者なの……? 天空人って、魔物を吸い寄せたりするのかな……」
「さ、さあ……。何なんだろうね……」
「記憶……、あ、僕と出会う前の記憶のことだけど、お母さんと面倒を看てくれたおばさんのこと以外、まだ思い出せない?」
アベルは何者なのか訊ねるついでに、アリアの記憶についても訊いてみる。
「ぅん……、あ、でも何となくだけど一つだけ……」
「何か思い出したの!? 教えて!」
アリアは宙を見上げ、記憶を巡らせると一つだけあるという。
アベルは瞳を瞬かせ、身を乗り出した。
「あ、いやこれ思い出したっていうのかな……、記憶喪失中のことなんだけど……」
「うん」
アベルが眉根を寄せるアリアに頷くと、彼女は静かに語り出した。
「……サンタローズのアベルの自宅で毒の水に浸かってた時にね、私、アベルに会いに来たんじゃないかって思ったの」
「ぼ、僕に会いに……??」
「すっごく不思議なんだけど……、あの時はアベルの自宅だってことも思い出せなかったから、何となく そんな気がしたんだよね……。不思議だよね」
「…………うん」
アリアの話にアベルは目を細めて嬉しそうに破顔する。
――アリアが僕に会いに来た……? 本当に……?
何故かはわからないが、アリアが望んでやって来たのだと思うと嬉しくなった。
「アベル……(そんな嬉しそうに……)」
「……アリアは、やっぱり僕の天使なんだね……」
アベルは繋いだ手を強く握る。
「え……」
「……ねえ、アリア。大好きだよ。僕達、ずっと一緒に居ようね」
真っ直ぐにアリアを見つめ、真面目な顔でアベルは伝えていた。
ぱちっ、ぱちぱち。
焚き火の爆ぜる音を聞きながら、手から伝わって来る温もりにアリアの頬が赤く染まる。
「ぁ……、…………うん……(一緒に居られる間はずっと一緒だよ)」
「…………うん」
――良かった、伝わったみたいだ……。
アリアが穏やかに微笑み首を縦に下ろすと、アベルも頷いた。
ぱちぱち、ぱちっ。
焚き火が爆ぜる。
火の粉が舞い上がり、闇夜に溶けて消えていった。
アベルとアリアは互いにそれ以上何も話すことはなく、しばらく見つめ合った後で順番で眠ることにする。
最初は話をしていたものの……、
「アリアおやすみ、いい夢を……」
プックルに寄り掛かりいつの間にか眠ってしまったアリアの髪を、アベルは一房手に取り撫でていた(仲魔達の所為で近付けない)。
――アリアはいったい何者……か。
アリアが何者なのか……、初めて口にしアベルは気になったが、今は彼女の呪いを解くのが先だ。
そういえば、昔の彼女も自分探しの旅をすると云っていた。
「……僕が君の過去も探してあげるから」
アベルはそっとアリアの髪に口付け手を放すと、自分の場所へと戻る。
すると向かいに座ったピエールがアベルの様子を見ていた。
「……主殿……」
「ん……? あ、ピエールも眠ってていいよ。僕が眠くなったら起こすから代わってくれる?」
「あ、はい……」
ピエールは何か言いたげだったが、アベルは新たに薪を追加し、眠るアリアへと視線を移す。
その瞳は穏やかで優し気だった。
――あまり深入りなさいませんように、アリア嬢はあなたの運命の
喉から出掛かった言葉をピエールは呑み込み、アンドレに寄り掛かって目を閉じる。
出来るだけアベルとアリアが長く続くといいなと願い、眠りに就いた。
……その晩は、そうして更けていった。
◇
次の日、アベル達はまだ明るい内にルラフェンへと無事辿り着いた。
ルラフェン……――。
森の中にあるこの町は、魔物からの襲来を防ぐため複雑な障壁を築き、迷路のように入り組んだ造りをしている。
森の木々を抜け町に吹き込む風が風車を回し、人々の今日の営みを支えていた。
時折風向きが変わると、とある一軒家から漏れ出す煙が町を覆っている。
「あのこの町は……」
「ようこそ、ルラフェンの町に」
町の入口でアベルが散歩中の女性に訊ねると、ここがルラフェンであると教えてもらえた。
「ここがルラフェンね……」
アリアは落ち込んだ様子で町を見つめる。
「アリア……ごめんね。僕も出来ればアリアの意向に沿いたかったんだけど……」
「ううん、アベルの判断は間違ってないと思うからいいよ」
アベルが落ち込むアリアに声を掛けると、彼女は首を横に振ってから微笑んだ。
いったい何があったのだろうか。
◇
◇
◇
……何があったのかといえば、ここに来る途中で新しい仲魔が増え、コドランをモンスターじいさんに送ることになったのだった。
モンスターじいさんに送る際、コドランがアリアに離れたくないと泣きついて、アリアも離れようとしないコドランに感情移入してしまったのか、お互い“イヤイヤ”でくっつき離れようとしない。
アベルは説得することにした。
「アリア……昨日の戦闘で思ったんだけど、コドランはまだ小さい。息攻撃も続かなかったから、一度モンスターじいさんに預かってもらおうと思うんだ。それがコドランの為にもなると思うんだけど……どうかな?」
昨日は何とか乗り切った戦闘ではあるが、遭遇する魔物が段々と強くなっている気がする。
コドランには先ずは身体を成長させてからまた一緒に旅をしてはどうか……と、イヤイヤをするコドランを抱きしめるアリアに告げたのだった。
「…………コドラン……。アベルの言ってることわかる?」
「グルルルン……」
アリアがコドランを抱えたまま そっと様子を窺うと、コドランは弱り目で彼女を見上げる。そしてアベルの方へもちらり。
アベルの話した内容を理解しているようだ。
「もう少し身体が大きくなったら、迎えに行くよ。どうかな?」
アベルが優しくコドランの頭を撫でると、コドランは「グルルン!」と一度頷き、モンスターじいさんの元へと送られたのだった。
そして、コドランの代わりに入ったのは、青い身体に黄色の脚、青いクラゲのような【スライム】……【ホイミスライム】の【ホイミン】である。
「ふわふわん。ぼくホイミン、よろしくね。ぼくホイミが得意なんだよ。痛くなったらいつでも言ってね」
「よろしく、ホイミン」
「あ、そのセリフ聞いたことあるっ」
ホイミンがアベルと触手で握手していると、アリアが目を瞬かせていた。
「「え?」」
アベルとホイミンの声が揃う。
何の事だろう……? とアベルとホイミンが疑問を持つ中、アリアは訊ねていた。
「ね、ホイミン。ライアンって人……知ってる?」
「え? ライアンさん……? 誰だろう……?」
「そっか……。同名なだけなのね(そりゃそうか……)」
アリアは納得したが、残念そうに呟く。
そんな彼女はドラクエ4を途中までプレイ中で第一章に出て来る王宮の戦士【ライアン】のことを知っている。
ライアンの旅の仲間にホイミンがいたのを憶えていて訊ねてみたのだった。
だが、どうやら今目の前にいるホイミンはライアンとは無関係らしい。
タイトルが違うため当たり前なのだが、繋がっていたら面白いのになと思ったアリアだった。
アリアのいつもの変わった発言に慣れっこのアベルは特にツッコむことはせず、僅かに口角を上げてから口を開く。
「……アリア。相談があるんだけど……」
「う、ん……?」
「次に仲間が増える時、モンスターじいさんに送るモンスターなんだけどね……」
首を傾げるアリアにアベルは自分の考えを正直に話すことにした。
アリアに仲魔達が寄って来る理由はいつか明らかにします。
そして、これまで入っては出て、入っては出てだった仲魔の入れ替えを総入れ替えまでもないのですが、ごっそり替えて行こうと思っています。
パーティー>アベル・アリア・ピエール・キャシー
馬車の中>スラりん・ドラきち・ホイミン・プックル
out:コドラン(モンスターじいさん送り)
次回仲間が増え次第out予定が……
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!