さあ、ルラフェンの町を散策しましょう。
では、本編どぞー。
まだ昼前のため、目の前に見える宿屋に今はまだ用はない。
アベルとピエールは宿屋隣の階段を上り、障壁の上の通路を行く。
階段を上がると酒場が見えたので先ずはそこに寄ることにした。
「こんにちは……」
アベルが酒場を覗くと客らしきマスク男が居るだけで、他には誰もいない。
昼間はやっていないのかもしれないなと、とりあえずそこに居たマスク男に声を掛けてみることにした。
「酒場は まだやってねえみたいだな。はやく飲みたいぜ」
「あ、そうなんですね」
声を掛けられたマスク男は、アベルをちらと見て教えてくれたが、酒がよっぽど飲みたいのだろう、つまらなそうにテーブルに突っ伏してしまった。
アベルも男から離れ、何かないかなと店内を見渡す。
今怪しいなと思う箇所はカウンタ―傍の張り紙と、店の端にあるタル二つ。
とりあえず、タル二つを割ってみることにした。
「……福引券か……」
二つあるタルの内一つに【ふくびき券】を見つける。
それから壁の張り紙を確認しに行くと、壁の張り紙には“酒場は夜からです”と書かれていた。
「まあ……大体そうだよね」
「ははは、そうですね」
昼間に来ても人は少ないし、居る意味はなさそうだ。
アベルとピエールは酒場の二階へと上がることにする。
◇
二階に上がった先には扉が二つ見えた。
そして、後ろを振り返ると長い廊下が続いて部屋が幾つかに分かれている。
城でもないのに随分と広い造りの建物だ。
「誰か居ないかな」
「そうですね、話が聞けると良いのですが……」
アベルが階段近くの扉に手を掛けるとピエールも相槌を打った。
――確か、この町は迷路のように入り組んでいて、【ベネット】殿の所まで辿り着くのが大変だったような……。
ピエールはこの町で起こることを知ってはいるのだが、町の細かな構造やら、誰が何を教えてくれるかなどの詳細は憶えていない。
アベルに“ベネット殿にお会いすれば良いのです”とも下手に言えないので、余計なことは言わずにアベルの後ろについて行く。
「あ」
「さあて、今夜の酒の仕込みはこんなもんかな」
アベルが開けた扉の先では酒場のマスターらしき男が酒の仕込みを行っていた。
「あっ、何をするんです!? 今仕込みが終わったところなんですよ!?」
アベルが目の前にあるタルを持ち上げようとすると、マスターが止めに入る。
「えっ、あ。すみません(残念だな……)」
アベルは渋々タルから手を放した。
「タルを壊したいのでしたら、その端の二つでお願いします。他は仕込み済みですから壊されると困ります」
「あ、はあ……」
マスターが仕込み済みの二つのタルにしがみつき“壊すな”と告げるが、アベルは納得していない顔で残ったタルに手を掛けた。
「……私の目の前のタルと、さっき あなたが投げようとしたタルには今夜の酒以外何も入っていませんよ」
「そうですか……(そう言われても気になる……)」
アベルの心中を察してか、マスターが何も入っていないと教えてくれたものの、やはり気になりアベルは夜にでも割ってみようと思うのだった。
「あ、不思議な木の実……」
マスターの右側にあったタルを割り、その奥のタルを割ると【ふしぎな木の実】が出てきた。
「ややっ! 良いものを見つけましたね! こちらには何も入ってませんからね!」
マスターが仕込んだタルを死守しながらアベルに笑顔を見せる。
「……失礼しました」
アベルは部屋の奥に階段を見つけたが、ここは恐らく酒場の二階なのだろうと推測して、部屋を後にした。
「主殿。我々はどうしてこうもタルやツボを割りたくなってしまうのでしょうなぁ」
「ね。参っちゃうよね」
マスターの居た部屋を後にして、次に近い部屋の扉を開ける。
すると中では踊り娘の衣装を来た女性がすやすやと寝息を立てて眠っていた。
ここは彼女の部屋なのだろう。
開けた掛布団から覗く無防備な身体の曲線美につい、アベルの目が釘付けになってしまう。
(女性って寝相悪いの? ……いや、たまたまか。)
アリアもよく掛布団を開けさせるので、アベルは毎夜ドキッとさせられている。
他の女性もそうなのかと思ったら興味が湧いてしまった。
――アリアが居なくて良かった……!
アベルも男である。
恋人がいても目移りしているわけではないのだが、他の女性をちらりと見てしまうことくらいはあるのだ。
「……は、話し掛けてみる??」
アベルの顔が何となく嬉しそうである。
「……アリア嬢に言い付けますよ?」
「っ! ごめんなさいっ!」
ピエールに
「わはは。主殿は素直なお方ですな。あの女性、中々美しい方でしたね?」
「ぅ……僕はちょっと話を聞いてみようと思っただけで、他意はなくて……、……今の、アリアには秘密にしておいてくれ。心配させたくないからねっ」
「ふふふ、わかりました。男と男の約束と致しましょう」
「っ……」
――弱味を握られてしまったな……。
アベルは気まずそうにピエールに背を向け、廊下を歩く。
扉は左側に二つ、右の奥に一つ見えた。
手前から順に開けて住人が居たら話を聞いていくことにする。
まずは、左側、手前の扉を開いた。
先程開けた扉同様、民家のようでアベルは奥の炊事場で食器を洗っている婦人に声を掛ける。
「こんにちは」
「あら、旅の人かい? こんにちは」
先程の踊り娘の部屋といい、この部屋といい、この建物の一階は酒場だが二階は民家になっているのだろうか。
恐らく別世界で来たことはあるのだろうが、こういった造りの町は初めて来たなと、未だ記憶の降りて来ないアベルは、水仕事を終え手を拭く婦人に頭を下げた。
「はい。あの、この町で呪文の研究をしている老人が居ると聞いてやって来たんですが……」
さっき会ったマスターに話を聞ければ良かったのだが、アベルはタルの一件で気まずくて訊けずじまいだ。婦人に訊いてみることにする。
「ああ、ベネットじいさんのことかい?」
「ベネットじいさん……ですか?」
「ベネットじいさんの家からはいつも煙が出ててねえ。いつか火事にならないかと心配で仕方がないよ」
「そうなんですね。そのベネットじいさんのお宅は……」
「この町で道案内するのは難しいねえ……。教会から外に出れば煙が出てる家があるから それを頼りに行くといい。なに、いつかは辿り着くはずだよ」
婦人にベネットじいさんのことを教えてもらい、アベルは会釈して部屋を後にする。
「ベネットさんに会わないとね」
「ええ。早速ベネット殿に会いに行きましょう」
「とりあえず、隣の部屋の人の話も聞いてみようか」
「ははは……はい」
ピエールはベネットじいさんに会うことを勧めるが、アベルは他にも色々話を訊きたいとして、再び廊下を進み隣の部屋の扉を開いた。
ピエールがアベルの後ろで乾いた笑いを浮かべている。
「こんにちはー」
挨拶をしながらアベルが部屋を覗くと、部屋の奥のテーブルで食事をしている青年が一人。
「うまい! うまい! 人間やっぱり うまい物を食べてる時が一番幸せだよな。まっ、あとの人生はオマケみたいなもんだよ」
青年はアベルに軽く手を挙げて挨拶を返してくれたが、そのまま食事を続けて立ち上がることは無かった。
「主殿。ここは特に何もなさそうです」
「う、ん? そうだね。あ、ツボがある」
「……調べてから出ましょう」
アベルが部屋を見回すと、部屋の奥の方にツボが一つ。
ピエールはアベルに相槌を打ち、二人はツボを調べることにした。
食事をする青年の眉がピクッと動いた気がしたが、アベル達は気付かずツボの元へ。
「……なんだろう、このツボ……」
――良い匂い……、これは……お酒……か?
ツボにはしっかりと蓋が括りつけてあり、蓋とツボの縁の間から何とも言えない良い香りが漂っている。
ツボを見ると古いラベルのようなものが貼ってある……。
“…酒、人……オマ…”
しかしラベルの文字は擦り切れていてよく読めなかった……。
「……不思議なツボだね」
「……そうですね……。このツボ、床に固定されています。壊すことは出来なさそうですね」
アベルが腕を組み首を捻ると、ピエールも腕組みしてツボの底を見下ろす。ツボは動かせないように固定されていた。
「……あ、ピエール知らないんだ?」
「……あの……、前にも申し上げた通り、全てを網羅しているわけではございませんので……」
「そっか。じゃあ次行こうか」
「そうですね」
アベルとピエールは青年の部屋から出ることにし、ツボから離れる。
「お邪魔しました」
アベルは軽く頭を下げて部屋を出て行った。
「……………………………………はぁ。危なかった……! 人生のオマケは死守せねば……」
青年の声がアベルとピエールの居なくなった部屋に響く。
青年は食事テーブルから離れてツボに近寄り鼻をヒクつかせると、うっとりと瞳を虚ろわせていた。
このお話のアベルは一応一途なのですが、何せ若い男の子。目の前に無防備な女体が眠ってたら見ちゃいますよね。よね!?
彼女と女体は別腹なんや……見るくらいええんやで。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!