思わぬ再会。
では、本編。
◇
青年の部屋を出ると斜め向かいに扉が見える。
今度はその扉を開き、アベルとピエールは中へ入ることにした。
「ここは……教会?」
アベルが開いた扉の先は教会のようで、神父が祭壇に一人。
眉間に皺を寄せブツブツと何か嘆いたように呟き、アベル達が入って来たことに気付いていない様子。
「教会……ですね」
「教会か……っ、アリアを連れて来ないと! そろそろ二人も待ち合わせ場所に来てるかな?」
――アリアに会いたい……。
アリア達と別れてまだ三十分も経っていないというのに、アベルはもうアリアに会いたくなってしまった。
恐らく待ち合わせ場所にはまだ来ていないだろう。
「さあ……、どうでしょうか……(主殿、さっき別行動したばかりですよ……)」
アベルの発言にピエールはちょっぴり呆れる。
アベルはアリアと片時も離れたくない程惚れ込んでいるようだ。
「……来てるかもしれないし、一度外に出よう!」
「あ、主殿!」
アベルはピエールを置いてさっさと教会を出て行ってしまった。
◇
……さて一方、アリアとキャシーはというと。
障壁の通路を練り歩き、町の南東の広場にやって来ていた。
その広場には、ポートセルミで出会ったマルシェワゴンがやって来ており、今回は食べ物だけではなく、衣類も売っていたのである。
「お姉さん また会ったね。買ってくれてありがとうっ!」
ポートセルミで出会ったツインテールの女の子がアリアに品物を渡しながら明るい笑顔を向けた。
アリアも女の子の笑顔に釣られ、笑顔で返す。
「こちらこそ! この間買ったお菓子もおにぎりも全部美味しかったよ」
「よかった~! あ、これ おまけ!」
「あっ、鮭おにぎり! ありがとう!」
ツインテールの女の子が“おまけ”だと云って、【しゃけおにぎり】をくれる。
アリアは満面の笑みを浮かべてそれを受け取った。
「明日もここに居るから、よかったらまた来てね~!」
アリアとキャシーは元気いっぱいのツインテールの女の子に見送られ、広場を後にする。
今日は以前見た黒髪の少年の姿は見当たらなかったが、女の子の顔色が良かったので きちんと眠れているようで他人事ながらアリアは安心したのだった。
(あの子 今日は顔色良かったな 隈も無かったし……よかった……、睡眠は大事だよ……!)
元社畜のアリアは元の世界では残業続きで睡眠を削り、身体を壊したことがある。
身体は資本。
この世界に来てからはしっかり睡眠を取るようになり、アリアの身体はすっかり健康体である。
女の子にも「睡眠は大事だよ」……そう言ってやれば良かったなと思いつつ、お節介かもと思い自重していた。
「いやぁ……それにしても、またあの子に会えるとは思わなかったなぁ。やっぱりあの子達も旅をしているのね」
「そうネン。ポートセルミに居ると思ったラ、もう居なかったものネン」
明日もここに居るとは云っていたが、こちらも旅をする身であるから もう会えないかもしれない。
おまけで貰った【しゃけおにぎり】を見下ろし、不思議な出会いについ笑みが零れる。
「次はどこに行くノン?」
先程広場で購入したトップスに着替えたキャシーが訊ねた。
彼女のトップスは元々着ていたピンクのビキニトップスから、先程広場で購入した真っ赤なビキニトップスに変わっている。
キャシーに訊ねられたアリアは腕組みして考え始めた。
「ん~……道具屋さんは行ったでしょ? あと武器屋さんは装備出来そうなものがなかったし……。そろそろ待ち合わせ場所に行ってみる?」
「そうねン……アリアに任せたらまた行き止まりに連れて行かれちゃうカラ……アタシについて来てちょうダイ」
「アハハハ……、何かごめんね~……」
方向音痴のアリアに道案内を任せると とんでもない所へ連れて行かれてしまうので、ここはキャシーに任せる。
キャシーの後を追って、防具屋の前に差し掛かると、
『アリア―ーっ!!』
どこからともなくアベルの声が聞こえて来る。
アリアは辺りを見回しアベルを捜すが、見つけられなかった。
『アリア上! 上だよ!』
「……ん? ……あっ、アベルーー!」
アベルの声を頼りにそちらへ目を向けると、アベルが煙の出る家の傍で手を振っていた。
アベルはアリアを見つけて、かなり嬉しそうだ。
アリアも笑顔で手を振り返す。
『上で待ってるねー!』
「はぁ~い! 今行きま~す!」
アベルがこの町で一番高い建物の上り階段を指差し告げると、アリアは了承してキャシーの手を取った。
「キャシーちゃん。待ち合わせ場所までお願いします!」
「しょうがないワネ~……」
キャシーは繋がれた手が擽ったかったが、満更でもない顔で歩き始める。
そうして町の構造を把握しているのか、丁字路を迷うことなく正しい道を選び進んで行った。
「確か、この裏を真っ直ぐ進んで回って行けば辿り着いたはず」
「おお、キャシーちゃんすごい。迷いがないね!」
「大体覚えたワ」
アリアが感心していると、頭上で風車の回る音が聞こえて来る。
アリアは何となく上を見上げてみた。
すると、アベルが優し気に二人を見下ろしている……。
「……あ、アベル! 今行くねっ」
『ゆっくりでいいよ』
「うん」
アベルはアリアと目が合うと、穏やかな表情で軽く手を振っていた。
アリアもアベルに軽く手を振ってから視線を通路へと戻す。
――アベルって優しいなぁ……私よりもすっごく若いのに、頼りになるし……。
アベルの優しさに触れる度、アリアの胸が きゅうきゅうと締め付けられる。
どんどん彼に惹かれていく自分が解り、今は幸せなはずなのに、泣きたくなってしまった。
「……アリアどうしたノン? 何ダカ悲しそうネン……?」
「え? あっ、何でもないよ? ほら、急ごう?」
キャシーがアリアの様子に気付き声を掛けるものの、アリアはキャシーの手を放して走って行く。
「アリア……?」
――アベルんとの仲は良好よね……? なのになぜそんな悲しそうな顔をしているノン……?
疑問に思ったが、とりあえず今はアリアを追い掛けるのが先である。キャシーは慌ててアリアを追い掛けた。
「アリア! そっちじゃナイわヨ! あっちヨ! アッチ!」
今歩いている大きな建物の裏道を進み、角を曲がって道具屋の前を行き、その先の階段を登って教会の前を過ぎれば、待ち合わせ場所の屋上へと着くわけだが……アリアは通路の角を曲がったまでは良かったが、道具屋の前の上り階段を上り始めていたわけで。
キャシーは大声で
「……あ、アハハハ……。あっちかぁ! 何かおかしいと思ったんだよね……あはは……」
アリアは上り始めた階段を下りて来る。
「方向音痴が過ぎるワヨ……」
――アベルん。アナタって、アリアのこと本当にわかってるのネン……。
キャシーはアベルに云われたことを思い出す。
アリアとデートをする前、キャシーはアベルに一つお願いをされていたのだ。
“アリアは方向音痴だから絶対離れないでやってくれ。でないと迷子になるから”
まっさか~! なんて思っていたキャシーだったが、目の当たりにするとアリアの頭が心配になった。
「キャシーちゃん……。私のことバカだと思ってるでしょ……」
「思ってないワ! アホだと思ってタ!」
「う……、アホって酷い……。方向感覚がね……わからないのよ……。慣れれば憶えられると思うんだけどね……」
キャシーに手を引かれ、アリアは正しいルートへと戻される。
この先の階段を上るのよと告げられ、キャシーの案内の下アベルの待つ屋上へ向かった。
さらっと、クリエちゃんと再会。
何を購入したのかはその内判明します(ヒント書かれてるけど)。
シドー君が不在だったので、ちょっと残念。
また会えるといいなっ。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!