風の便りが来ましたよ。
では、本編どぞ~。
◇
「アベルお待たせっ」
アリアが漸く待ち合わせ場所である屋上に辿り着くとアベルが笑いながら迎える。
「くくくっ……!」
「ん……? どうしたの? 何か面白いことでもあったの?」
腹を抱えて堪えるように笑うアベルにアリアは首を傾げた。
「ふはっ! はははっ……あ、いや何でもない。アリア、道に迷わなくて良かったね」
「道にまよ……ぁっ! っ、見てたのっ!?」
アベルの言葉にアリアは先程のことかと思い当たる。
「フフフ……、見晴らしがいいからついね。全然違う方向に行こうとしてるから面白くて」
「やだ~恥ずかしいっ」
恥ずかしさにアリアは頬を両手で覆って俯いてしまった。
そんなアリアをアベルは嬉しそうに眺める。
「やっぱりアリアは一人で行動しない方が良さそうだなぁ……」
アベルがアリアの頭を撫で、宥めるようにして「町を歩く時は僕かピエールを連れて行くように」と念を押した。
「うぅ……。地図さえあれば私だって……。アベル、地図貸して?」
――アベルの持ってる【ふしぎな地図】さえあれば、私だって……!
アリアは地図を確認すれば問題ないとアベルの【ふくろ】に手を伸ばす。
その手をアベルはキャッチして繋いだ。
「アリアに渡して居なくなられると捜せなくなるから、それは勘弁して」
「っ、それ、私が地図を持ってても迷子になるって言いたいのっ?」
「ハハハ…………うん。多分……、君、迷子になるよ」
アリアの抗議にアベルが深く頷く。
何度も見ているので自信がある、アリアは筋金入りの方向音痴なのだ。
独りにするわけにはいかない。
「っ、ヒドイ~!」
「ははは……。ごめんね、君を守る為だからね」
チュッ。
嘆くアリアを余所に、アベルは繋いだアリアの手を口元へ持って来て、軽く手の甲に口付けた。
「っ、アベルっ! こ、こんな所で何を……」
――人がたくさん居るのに……!
屋上では数人の人々がアベルとアリアの様子をちらちらと見ている。
アリアは顔を真っ赤に染めて繋がれてない方の手で顔を覆った。
「……アリア。今度、僕とデートしてくれる?」
アリアの恥ずかしがっている顔が可愛くて、アベルは衝動的に彼女をデートに誘う。
キャシーとアリアの様子をチラッとしか見ていないが、すごく楽しそうだった。
自分もあんな風にアリアと町を歩けたら さぞかし心躍るのだろう。容易にが想像できる。
「えっ、デ、デート?」
「……駄目かな?」
「ぁ、ううん……、い、いいよ……? 私も……アベルと歩きたいし……」
アリアは一瞬驚いた顔をしたが、もじもじしながら頷き了承した。
「っ、やったっ! じゃあ、次に寄った町でデートしよう」
「あ、うん……」
「何か欲しい物とかあったら教えてね。何でも買ってあげる」
「っ、あのっ、別に私何にも要らな……」
“え? ラインハットの……――”
アベルとアリアがデートの話をし始めると、近くのテーブルから話し声が聞こえて来る。
アベルとアリアは“ラインハット”の言葉に惹かれ、耳を
「ラインハットのお城で大層豪華な結婚式があったらしいですよ。なんでも結婚なされたのは王さまの兄上のヘンリーさまとか……」
「まあ……!」
旅の行商人らしき男が向かいに座る婦人に仕入れた情報を話すと、婦人が驚きに目を丸くしている。
「ヘンリーが結婚っ!?(先を越された!!)」
「ヘンリー君が……結婚っ!?(早っ!!)」
突然耳に入って来たヘンリーの結婚したという声に、アベルとアリアの二人は驚きに顔を見合わせ声を上げた。
「っ、あのっ、その話、詳しく……!」
「お城の結婚式というのをこの目で見たかったわ。きっと絵に描いたような美しい花嫁さまだったんでしょうねえ」
アベルがテーブルに駆け寄り訊ねると、婦人がうっとりと口角を上げ目を閉じ想像する。
「あの国も色々あったとはいえ、おめでたいことですなぁ!」
「そうねえ~」
行商人と婦人が互いに柏手を打ち、遠くのヘンリー達に祝福を送った。
「っ…………」
詳しくは聞き出せなかったが、ヘンリーが結婚したというのは聞き間違いではなさそうだ。
アベルはテーブルから離れ、アリアの傍に戻って彼女を見下ろす。
「ん……? アベルどうかしたの?」
アリアは柔和な顔でアベルを見上げていた。
「アリア……」
――僕達も結婚しない……?
……とアベルは言いたかったが、付き合い始めたばかりの彼女には言えなかった。
アリアは自分を好きでは居てくれている……と思う。
けれど彼女は自分が彼女を想うほど、自分を想ってくれてはいない気がする。
少しずつ少しずつ距離を縮めている最中で、いつかは手に入れたいけれど、それは今じゃない。
焦って断られでもしたら立ち直れない。
それに母を捜すのが先だし、アリアのことは大好きだが、いつか彼女の呪いが解けたら危険な旅だから置いて行かないといけない。
彼女のことは……何もかもが終わったら迎えに行きたいと思っている。
それまでアリアは待っていてくれるのかはわからないけど……。
目の前で後れ毛を耳に掛けて、自分を見つめて来るアリアにアベルはただ穏やかに目を細める。
ヘンリーに先を越されたのは何となく悔しい気もするが、こういうのは勝ち負けじゃないってことくらい わかっているアベルは、親友の結婚に先ずは祝福を。
あとはやっぱり……悔しいってことを伝えてやりたかった。
アベルは視線を北東、ラインハットの方へと投げ、ルラフェンの町に吹き抜ける風に祝辞を乗せて願う。
――遠く離れた親友よ。おめでとう……お幸せに! いつかは僕も……!
最後はアリアに視線を移して、目を細めた。
そんなアリアは考え込む様に顎に手を当てている。
「……ヘンリー君が結婚したということは……」
「ん?」
「相手はマリアさんかな~?」
――ヘンリー君、マリアさん大好きだったもんね!
思い当たったアリアは ぽんっと手を合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
「はは、多分ね。ヘンリーはマリアさんのこと好きだったみたいだし」
アベルの口から乾いた笑いが漏れる。
――ヘンリーは始め君のことも好きだったみたいだけどね!
アベルはヘンリーのアリアに対する想いを教えるつもりはない。
もちろん、この先マリアと会うことがあっても余計なことは言わないつもりだ。
女性二人には何も知らずに幸せになってもらいたい。
「ふふっ、お祝いしたかったね」
「そうだね」
アリアの笑顔にアベルも同意する。
「結婚かあ……。…………ぃぃ――……」
――いいなぁ~~……。
(結婚っていえば、愛する人と永遠に結ばれるってやつだよね。憧れるなぁ……。まあ、私には到底無理ゲーよね。)
アリアは小さく呟き遠い目をした。
「ん……? アリア?」
「あっ、ううん。何でもない。この世界の人達って結婚早いよね(ヘンリー君っていくつなんだろう……?)」
――歳は近いと思うんだけど……気にしたことなかったな……。
アリアは修道院で求婚されたことを思い出しアベルに訊ねる。
「ははは、そう?」
アベルに聞いたところで奴隷をしていたので、世間一般の適齢期など知らない。
ただアリアに訊かれたので、笑顔で返した。
「そうだよ。私、転生前なんて二十八歳で独身だったんだから」
「えっ、そ、そうなの!? アリアまだ十八じゃなかった!?」
――二十八歳にはとても見えないんだけど……!?
アリアの話にアベルは目を丸くする。
まだ転生がどうのをきちんと理解していないようだ……。
「あ、えと、だから前の話で……、ほら、前世の……」
「あっ、ああ~! うん、そうなんだ。二十八歳のアリアもきっと素敵だと思うよ。僕が出会ってたらプロポーズしてたよ」
アリアが説明しようとするとアベルは気が付き、満面の笑みを浮かべた。
アベルとヘンリーは同じ王子ながら違う人生を歩んでいる対なる存在なのですよね。
ヘンリーは国を選び、アベルは母を選んだ。
……と考えるとアベルはやっぱり自分から苦労を背負いこんでますなぁ。
まあ、尊敬する父にああ云われちゃねえ……意志を継ぐしかないよねぇ……。
サンタローズでアリアと暮らしていくっていう選択もありっちゃありなのかもなとふと思いましたが、アリアもアリアで自分探しをしなければなので、やっぱり旅一択だなぁ。
ともあれ、少し先にはなりますがルーラを覚えたらラインハットに行ってみましょう。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!