教会奥の部屋には教典が置かれていましてね……。
では、本編どぞー。
「そう? ……あ、本棚。わぁ……シスター、そこの本を読んでもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
アリアはアベルの様子を窺ったものの、部屋にあった本棚に気付くとシスターに一声掛け そちらへと寄って行った。
アベルも彼女のすぐ後ろにつく。
「……何を読みたいの? 高い所は取ってあげるよ」
「ありがとう! でも、ぅーん……。読んだことのある本が多いみたい」
本棚を眺めながらアリアが顎に手を当て、どれも知っている本だと告げる。
修道院で読んだらしい。
確かにここの本棚を見る限り、修道院の書庫の方が種類が豊富だなとアベルは思った。
「へえ……。アリアって勉強家なんだね」
「ふふっ、勉強家なのかはわからないけど、この世界のことを知りたくて、たくさん読んだの。始めは絵本ばっかりだったけど、今は難しい本も読めるようになったのよ」
アベルが感心したように云うと、アリアは笑顔で返す。
「そっか……(笑顔が可愛いぃ……)」
アリアの笑顔に釣られアベルも口角を上げたところで、彼女は上の方にある見慣れない本を指差した。
「あれ、イブールの本だって」
「? 読んだことないの?」
「うん、初めて見るかな。ね、アベル」
「あ、うん」
アベルはアリアに【イブールの本】とやらを取ってやる。
「ありがと……、あ、光の教団の教典……て書いてある」
「っ、光の教団!? 見せて!」
アベルはアリアが手に持つ【イブールの本】を覗き込む。
【イブールの本】には以下のことが書かれていた。
“約束の1 教団の教えに背く者は光の国へ辿り着けないだろう”
“約束の2 大教祖イブールを信じる者は神に愛されるだろう”
……あとは同じような内容の繰り返しだった。
「……っ……(なんだこの教典は……! 適当なことを……!)」
――アリアが信じたらどうしよう……。
アベルは心配で恐る恐る隣の彼女を窺う。
ところが そのアリアはというと、ドン引いたように眉根を寄せていた。
「うわぁ……」
「…………アリア?(あれ……? 大丈夫そうだ……よかった……)」
アリアが不快そうな顔をしていたため、アベルは安堵する。
「新興宗教っぽぉい……。こんなの信じる人居るの?」
「しんこうしゅうきょう?」
アリアが目を細めて口を尖らせると、アベルは反復していた。
「教団の教えに背く者は光の国へ辿り着けないの? 教祖を信じないと神に愛されない……? 随分狭量な神さまだと思わない? そんな話あるわけないじゃない」
「え?」
「仮に私が神さまなら信じても信じてくれなくても それなりに皆を愛すけどなぁ~。神さまの癖に随分と器が小さいんだな~って思って。神さまってもっと寛大な気がするのだけど……。この教典に書かれた神さまって……けちん坊ね」
「え、ケチ? あ……………………、………………プッ! あはははっっ!」
――神さまをけちん坊呼ばわり……!?
教会でかなりお世話になっているはずなのに、アリアは神を信じていないのだろうか。
アベルは吹き出してしまった。
「あれ? 私また何か変なこと言っちゃった?」
「あはははっ! いやっ? アリアが信じてないみたいで良かったなと思って」
「ぁ……ふふっ。前に勧誘されたことがあってね! この手のは信じないことにしてるんだ~」
――あれは、そう……。もう昔のことね……。
アリアは懐かしの宗教勧誘を思い出す。
社会人になって一年目、学生の頃は大して仲良くも無かった友達(?)から突然連絡が来て「遊ぼう!」と呼び出され、仕事が忙しい時期にも関わらずわざわざ休みを取ったというのに。
喜んで会いに行ったら見知らぬ人が一緒で、話を聞いたら宗教勧誘だったという……。
その人と旧友(?)が云うには、その教えを忠実に守れば“幸せになれる”らしい。
……アリアはそんなもので幸せになれるとは思えなかった。
“せっかく懐かしいお喋りが出来ると思ったのに、貴重な休みを返せ……!”
アリアはその日三時間の勧誘を経て断り、ぐったりして帰宅。
もう大して仲の良くなかった知り合いからの呼び出しは受けまいと誓った。
……と、そんなことがあったのだ。
「へぇ~」
――前って……前世のことかな? アリアって色々経験してるんだな……。
彼女の話にアベルは“アリアも前の記憶があるけど、僕とは違うんだな~”なんて感心している。
「ね、アベル。他に珍しい本は無いみたい」
「そっか。じゃあそろそろ行こうか」
「うん」
アリアが本棚を一通りチェックすると、目新しいものがなかったようでアベルは【イブールの本】を棚に戻し、ベネットじいさんの家へ向かうことにした。
アベルがアリアを引き連れ部屋を後にしようとすると、テーブルの老人と目が合う。
『ギューッとしてブチューじゃ! 頑張れよ!』
「っ!」
アベルに向けて老人が身体を使い、ハグとキスのジェスチャーをしてからサムズアップすると、アベルは頬を赤く染めた。
――そんな強引に出来るかっ!!
アベルはアリアの手を強く引いて素早く部屋から脱出しようと試みる。
が、
「あんっ、腕が痛いっ……! 急に引っ張っちゃイヤっ」
「あっ、ご、ごめん……!」
アリアから艶のある声が漏れてアベルは慌てて手を放した。
――アリアっ、その声やめてもらってもいいですか!?
アリアの艶声にアベルの心臓がドクンと跳ねる。
少しばかり下半身も反応してしまいそうになった。
「っ、アベル昔よりもチカラ強くなってるから……急に引っ張られると腕が抜けちゃいそう……」
アリアは引っ張られた腕の方、肩を擦っている。
痛かったのだろう、ちょっぴり涙目だ。
「っ、大丈夫だった!?(しまったっ!! またやって……!)」
――僕のバカ! なんで僕はいつもアリアに痛い想いをさせて……!!
アベルは猛省する。
アリアを乱暴に引っ張ってはいけない。
アリアを扱う時は優しくしないといけない。
わかっているのに、つい昔の癖が出てしまった。
「ん……今は平気……。手を繋ぐのは大丈夫だから、優しくして……?」
「っ、はいっ! 優しくしますっ!」
アリアが先程繋がれた手とは逆の手を差し出すと、アベルはその手を今度は優しく優しく握る。
「ふふっ、そんなに優しく握られたらすぐ離れちゃいそう」
「えっ? ……難しいな……」
アリアに笑われ、アベルは力を込めようかどうしようか迷った。
意識してみるとアリアの手は自分よりも小さく、子どもの時とは違って頼りなく感じる。
触り心地は最高で、触れているだけで満たされていく気がした。
同時、壊しそうで怖い。
――この小さな手を幼い頃の僕は乱暴に扱って……、なんてことを……!!
アベルは難しい顔で繋いだ手を見下ろす。
「……ふふっ、もっと ぎゅってしても平気だよ?」
「えっ? わ、わかった。痛かったら言ってくれる?」
アベルの表情にアリアは優しく微笑み繋いだ手に力を込めた。
その力加減にアベルはピンと来る。
――なるほど、これぐらいか……。
とりあえずアリアと同じ位の力加減で握ってみることにしたアベルだった。
「うん」
「あ、えと……じゃあ……」
アベルは改めてアリアと歩き出す。
……そうして隣の部屋の教会へと戻って来たのだった。
◇
「ね、アベル、あのお爺さん、ちょっとお酒臭かったね。酔ってたのかな?」
「えっ、あっ……そういえば確かに!」
アリアの言葉にアベルはハッとする。
――そうか、酔ってたからあんなことを……。
「人生のオマケかぁ……(ちょびっとだけしか貰えなかったけど美味しかったなぁ……)」
突然アリアがぽつりと呟き、目を閉じた。
その顔がうっとりしているように見える。
「……ん? 人生のオマケ? 何?(何だ? 今のうっとりした顔……)」
「あっ、何でもないよ?」
「…………そう?」
――そういえばアリア、さっき様子が変だった気がしたな……。
気にはなったが、然程深刻そうでもなかったのでアベルは特に深く追求することはしなかった。
アベルの不器用な感じが好きだったりします……。
失敗してしまってもええんやで。
そういうのも愛おしい。
人生のオマケをゲットするのは大分先になりそうです。
多分、石化解いた後かな……?
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!