アベルも迷うのです。
恋に迷ってるの? いや、道にですけど。
では、本編いってみましょう。
◇
空地を後にし、アベルを先頭に町を歩いていた一行だったのだが。
「……迷った」
「あはっ、アベルでも迷うのね!」
アベルはベネットじいさんの家を下に見下ろし、立ち止まると頭を抱えしゃがんでしまった。
あれから町の東に位置する武器屋兼、防具屋を抜け障壁上の通路を歩いて行き、町の南西の広場を下に眺めマルシェワゴンの女の子に手を振って通過。
そのまま通路を進むが、ベネットじいさんの家には辿り着けなかった。
……つまり、今アベル達は道に迷っているのである。
「ハハッ……。僕だって迷う時もあるよ?(特にこの町迷路みたいだしなぁ……)」
アベルは隣でベネットじいさんの家を見つめているアリアを見上げる。
何度も繰り返しているというのに道を憶えていないない自分が情けなく思えてならなかった。
――アリアの前では格好良くいたいのに……どうも彼女の前だと上手く行かないなぁ……、……あっ。
何となく見上げたアリアのスカートがルラフェンの町に吹く風にそよぎ、中身が見えてしまった。
(あぁ……、眼福 眼福……今日もイイ……!)
アベルはずっと見ているとマズイ気がして ちらっとだけ見て立ち上がる。
「ふふっ、そうよね。私もよく迷うから解るよ」
「僕は方角は把握してるから方向音痴のアリアとは違うけどね」
アリアが同意すると“ここは町の中央、真南だね!”とアベルが辺りを見渡し告げた。
ちょっとドヤ顔をしてしまったかもしれない。
するとどうだろう、アリアは不快だったのか一瞬プクッと頬を膨らませてからアベルを睨むように見上げる。
「あっ、もぉっ! アベルひどいっ。そういうこと言うかなぁっ?(どうせ私は方向音痴ですよ~!)」
アリアの口はへの字口で、瞳は睨んでいるが至近距離だと自然と上目遣いになってしまうので怖くはなかった。
「ははっ、アリアの怒った顔!」
――くるくる表情が変わって かっわいいなぁ~!
怒った彼女の顔が可愛くて、アベルは嬉しそうに目を細める。
「ムゥッ、も~……。アベルってばイジワルねっ」
「はははっ、ごめんごめん。アリアの怒った顔が見たくなっちゃって」
「何それ……(どういうこと……?)」
アリアは楽しそうなアベルに首を傾げた。
「可愛いから、つい からかいたくなったんだ」
「っ!? や、やだアベル……、急に何言って……」
優し気な瞳で見下ろしてくるアベルにアリアは赤面してしまう。
――アベルっ! あなたってキザねっ!!
アベルはいつも素直に気持ちをぶつけて来てくれる。
前世でこんな風に甘く弄られたことなどないアリアは恥ずかしくて堪らなかった。
「…………照れてるアリアも可愛いよ」
「ヒィッ!」
ダメ押しのようにアベルがこっそりアリアの耳元で囁くと、アリアは肩を揺らす。
「……ん?(ヒィ?)」
「や、やめて……、アベルあなたどうしちゃったの……!? みんな居るんだよ……?」
アリアは小さく震えながら顔の前に手首をクロスさせアベルから顔を隠してしまった。
彼女の顔は真っ赤に茹り、耳まで赤い。
身体は怯えたようにプルプルと小さく震えていた。
アベルとアリアの近くでピエールとキャシーが二人を見てニヤニヤしている(実際ピエールは不明だが)。
「アリア……、顔真っ赤だよ?(可愛い……)」
――うわ……アリア何この反応……。もっと弄りたくなるじゃないか……!
アリアの態度にアベルの胸が高鳴る。
アベルはもっと彼女を困らせてみたい衝動に駆られた。
「っっ、ム、ムリ……。無理だよ、アベル、あなたおかしいよ……」
アリアはアベルから目を逸らしながら何とか声を絞り出す。
――アベルに褒められる度、どんどん胸が苦しくなっていつか死んじゃいそう……!
アベルはいつの間に女を口説く褒め殺しなんてものを覚えたのだろう。
アベルがアリアに優しい瞳を向ける度、優しい言葉を掛ける度、アリアの胸の奥をキュウキュウと締め付け苦しくなる。
“ゲームの主人公にガチ恋するなんて私の方が頭おかしいけどもっ……!”と、アリアは日々膨らんでいく想いに戸惑っていた。
「……………………ははっ。うん、そうかもね」
――おかしくなってるのは君の所為、アリアが好き過ぎて もうどうしようもないんだ。
そうは思ったが、アリアが震えているので今はこれ以上言わない。
アリアをからかうのはこれくらいにして、アベルは再び歩き出した。
「……本当、この町迷路みたいだなぁ」
障壁の上の通路を歩いて行くと、ベネットじいさんの家を通り越して町の入口広場へと戻って来てしまう。
「……ね、アベル」
アリアはアベルのマントを控えめに引いて声を掛けた。
「ん? 何だい?」
「アベルは道を知ってると思ってたから言わなかったんだけど、キャシーちゃん、貼り紙の場所まで憶えてると思うの」
「え? キャシーが……?」
「うっふン。道案内はお任せヨン❤」
アリアの話に“アタシを呼んだン?”とキャシーがアベルの傍にやって来る。
「……キャシー、君、神の塔でも案内してくれたもんな……、道を憶えるの得意なんだ……?」
「ウフフ、まあネン。男の家に行って獲物を収穫したら一目散に逃げなキャだものン。道は一度で覚えられるノン」
「へ、へえ……、すごいね(獲物って何だ……?)」
【エンプーサ】がどんな魔物なのか詳しく知らないアベルはキャシーの話に訳も分からず相槌を打っていた。
「うふっ。アベルんたら、アタシを振ったこと、後悔してるン?」
「いや、それは全然。アリアが一番なので」
「っ、アベルっ!(そういうこと言わなくていいからっ!)」
アベルが真顔で首を横に振ると、アリアの頬が ぽっと色付く。
「マッ、ブレないわねぇン。さぁ付いて来テ!」
――アリア、愛されてるのネン……。アタシも、新しい恋探そウっとン❤
キャシーは出会った頃から変わらないアベルの態度にくすくす微笑むと、道案内を始めた。
そうしてアベル達はキャシーの案内で張り紙を見た場所まで向かうことにした。
◇
「ここを真っ直ぐ行くト、北東の風車が見えて来るのン。その北東広場の北の壁に張り紙があるんだケド、広場に下りるまでは真っ直ぐ、曲がっちゃダメ。曲がっちゃうト、全然違うところに出ちゃうカラ」
教会や酒場の入った複合施設の裏の通りを歩きながらキャシーが説明してくれる。
「ああ、こっちから通じてたのか……(北東の風車…………見えた!)」
――この町迷路みたいなのに、アリアとちょっと周っただけでキャシーは正確に憶えてるんだな……。
“張り紙はアレよン”と少し遠目ではあるが、張り紙が北東広場の北の壁に貼ってあるのが見えた。
キャシーの思わぬ長所を発見したアベルは、モンスターじいさん送りはもう少し待った方がいいのか迷ったのだが……。
アベルが吐く言葉が甘くて吐きそう……ウヘェァ……。
男の人って好きな子からかうよね、そして何か楽しそうなんだよなぁ……。
今の所ラブ度は80%って所かな~。
これからどんどん物理的に距離が縮まって行く予定です。
エチケット袋の用意は大丈夫でしょうかw
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!