サンタローズに帰ろう。
では、本編どうぞっ。
第三十五話 ネコ飼っていい?
プックルにあげたリボンと同じものを、ビアンカはもう一本、アリアに差し出し受け取るように促しているのだ。
「っ……」
こんなことは、
この先はどうなるの……?
アベルは初めての出来事を静かに見守っていた。
「っ、その……、誰かにプレゼントするの初めてだから、ちょっと照れちゃうけど……、アリア女の子でしょ……? きっと似合うと思うから……。あ、今は見えないけど……。いつか見えるようになるよね……?」
ビアンカはもじもじしながらリボンを受け取ってくれるのを待っている。
『……ビアンカちゃん、ありがとう……』
「あっ……」
アリアがビアンカの手からリボンを掴む。
リボンが宙に浮いたのが一瞬だけ見え、リボンは消えてしまった。
アリアがリボンを掴むとビアンカからは消えたように見えるのだ。
「受け取ってくれてありがとう!」
『こちらこそありがとう。大事にするね!』
アリアは自分の髪……、サイドの三つ編みにリボンを結ぶ。
『アベル、ビアンカちゃんにお礼言って欲しいのと、私がすごく喜んでるって伝えてね。大事にするよって』
「っ、あっ、うんっ。ビアンカ、アリアがありがとうって。すごく喜んでる。髪に結んでて可愛い。大事にするって言ってるよ」
「本当!? 良かったぁ! 可愛いんだ? 見たかったなぁ~!」
毎度の仲立ちを頼まれアベルが伝えると、ビアンカは「こちらこそお薬ありがとう」とほっとしたように無邪気な笑みを浮かべていた。
『っ、可愛いは余計だってば……』
アリアは照れ臭くて、頬を掻く。
満更でもなさそうである。
「アベル、アリア、またいつか一緒に冒険しましょうね! 絶対よ」
ビアンカは両手小指を、自分の胸の高さに持ち上げ、アベルとアリア二人に向ける。
「うん」
『うん』
アベルとアリアはその小指にそれぞれ、自らの小指を絡めたのだった。
「元気でね、アベル、アリア。それと……プックルちゃんも」
ビアンカがちょっぴり涙目で、笑う。
「ビアンカもね」
『……きっとまた会えるよ(……多分……)』
「にゃぁう」
そうして、アベルとアリア……と、プックルはビアンカと別れたのだった。
ビアンカに見送られ、アベルはアリア、プックルを引き連れパパスの元へ。
ビアンカはずっと手を振ってくれている。
「もういいのか?」
「うん」
「ところでアベル……。お化け退治のこと、この父も感心したぞ。しかし、お前はまだ子供だ。あまり無茶するでないぞ」
「……うん、でも、僕強くなったんだよね」
「すっかり英雄気取りだな。まあ、それも良かろう。では、行くとしよう」
パパスは表情を緩め口角を上げると、アベルの頭を撫でアルカパの出入口へと歩き出した。
「…………マーサ。アベルは強い男になるだろう。立派に成長しているぞ……」
パパスは自分の
「アリア、サンタローズに戻ったら何したい?」
「う、ん? ……そうだなぁ……。何しよう……?」
アベルとアリアはパパスの後ろについて歩いて行く。
アリアが宙を見上げて考え込むと、プックルがアリアの周りを回り出す。
それをビアンカは見送っていた。
「ふふっ、プックルちゃん元気だな~。……そろそろお家に戻ろうかな……って、あっ……!!」
不意にビアンカは驚いて、大きな声を上げてしまう。その大きな声に、周りの人々が振り向いていた。
そんなことなど気にも留めずに、ビアンカの目蓋が大きく開く。
「っ、あれが……、アリア……!?」
去って行くアベルの隣に、真っ白な翼を背に持った少女の姿が見えたのだった。
その少女は先程自分のあげたリボンを髪に結んでいる。
「……可愛い……。本当に天使だ……。……また会おうね……!」
アルカパを出ようとしたアベル達が振り返って手を振るので、ビアンカも大きく手を振ったのだった……――。
◇
アルカパを出てサンタローズへ向け旅立ったアベル達は、途中魔物と遭遇するも、パパスとアベルであっという間に一掃し、無事サンタローズに戻って来た。
家に入ると、サンチョが笑顔で封書を手に走り寄って来る。
「だんな様、お帰りなさいませ! ダンカンさんの病気のご加減はいかがでしたか?」
「ああ、ただの風邪だったようだ」
サンチョの話を聞きながら、パパスは武器を下ろすとテーブルに置いた。
「なんと! ただの風邪!? それはようございましたね。ところで、留守中だんな様にこのようなお手紙が……」
サンチョの差し出した封書は上質な紙で出来ていた。
表書きにはパパスの名前が書かれている。
「うむ……」
パパスは封書を受け取ると裏返し、封蝋を見下ろし黙り込んでしまう。
そして、顎に手を当て「ううむ」と唸った。
「……父さん?」
何だろう……?
何だか心がざわざわする気がする。
アベルは何故だか急に不安に駆られて、父の様子を窺う。
「……ん? ああそうだ、サンチョ」
「はい?」
「アベルがその子を飼っていいかと訊いて来た」
アベルの視線に気づいたパパスは、後ろにいるプックルを親指で指差す。
プックルはアリアに撫でてもらっているのか、機嫌よく咽喉をゴロゴロと云わせていた。
次第にプックルが仰向けに腹を出すので、アベルもアリアと一緒になって撫で回している。
「その子……、っ、そいつは……ベビー……、っ!!?(だんな様!?)」
サンチョがプックルの存在に気付き、ベビーパンサー……と口走ろうとすると口を塞がれる。
「……っと、大丈夫だ。アベルに懐いているらしい。ここに戻る間、共に戦ってくれた頼もしい子だ」
サンチョの言葉を遮るように、パパスの手が伸びていたのだった。
パパスはサンチョにこそこそ、「飼ってやってもいいか?」と訊ねる。
「で、ですがそいつが大人になれば……(地獄の殺し屋とも呼ばれてるんですけど……!?)」
パパスの発言にサンチョは難色を示し、楽しそうにプックルの腹を撫で回すアベルを見つめる。
「……アベルの奴、上目遣いに潤んだ瞳で私にお願いをしてきたのだ。そんな目で見られたら断れないだろう? ……サンチョは断れるか?」
「いえ、断れませんな!」
パパスの問いにサンチョは即答していた。
二人とも、親バカである。
「……しょ、しょうがないですねぇ……。まあ、腹を出してこれだけ懐いているのであれば大丈夫でしょう……」
サンチョは、プックルが将来野生に目覚めたりしないか心配にはなったものの、アベルが哀しむ顔は見たくないので渋々了承したのだった。
「アベル、お許しが出たぞ。その子はお前が責任をもってちゃんと育てるのだぞ?」
「え……!? 本当にいいの!?」
「ああ、いいぞ。その子は強いし、よく懐いているようだし、お前の遊び相手に丁度いいだろう」
「わぁ……! 良かったね、プックル!」
「ガルルルル……ペロペロペロ……」
パパスとサンチョに飼育許可を貰い、アベルがプックルに抱き着くと、プックルはアベルの顔を舐め倒したのだった。
「ちょ、ちょっとくすぐったいよぉ!(……アリアっ、助けてっ!)」
アベルは心の中でアリアに助けを呼ぶが……。
アリアの顔は喜色満面である。
『……助けないよ~。たまにはアベルも舐め回されればいいのよ(いっつも私ばっかり舐められるからね!)』
アルカパを出てから戦闘が終わる度、プックルがアリアの安全を確認するように、彼女の顔を何度も舐めており、既に顔も髪もでろでろだった。
その間、アベルはただ眺めているだけで助けてくれなかったので、アリアは不満に思っていたらしい。
仕返しをしているつもりなのだ。
「ぬわーーっっ!!」
って、このセリフ、僕のじゃないよぉぉぉ!
アリアが見守る中、アベルの顔はべちょべちょに溶けていった……。
お母さん(サンチョ)がOKしないと動物は飼ってはいけないのです。
こんな可愛い息子にうるうるされたらOK出すよね!
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