足りない……!
では、本編どぞ。
“アリアが足りないんだ”
ずぅぅううん。とアベルは沈んだ顔で落ち込んでいた。
「え?(アリア嬢が足りない……とは?)」
これはじっくり聞いてみないとわからないと思ったピエールは首を捻る。
話の続きを待つことにした。
「……ルラフェンを発ってからというもの、僕は彼女とハグとキスどころか、話もじっくり出来ていない。付き合い始めたばかりだというのに、あんまりだと思わないかい?」
「……………………、……あ、はぁ……、まあ、魔物が多いですし致し方ないことかと……」
アベルの話にピエールは呆れたように答える。
「仕方ないことなのはわかってるよ。けど、手を繋ぐことすらも無いって……ぅっ……、あんまりだ……!」
「っ!? 主殿っ!?(まさか泣いておられるので!?)」
俯いたままのアベルから嗚咽が聞こえた気がして、ピエールは驚愕する。
――かつて我が主がこんな風に泣いたことがあっただろうか……!?
いつも頼もしい主君のアベルが、好きな女と触れ合えないだけで むせび泣くとは……。
恋は盲目とよく言ったものだと、ピエールは笑みを溢した。
「ぅっ、ぅっ……。アリアに触れたい、抱きしめたい、キスしたい……! アリアだってしたいはずなんだ……!(自信は無いけど……)」
アベルは顔を上げないまま声を荒げる。
「アハハハ……それはどうかと……(アリア嬢は毎日元気で楽しそうですよ……?)」
「傍に居るのに触れられないって、生殺しだと思わないかピエール」
ピエールが乾いた笑いを浮かべると、アベルは漸く顔を上げた。
アベルの鼻からは透明な粘り気のある液体が流れている。
「生殺し……(主殿、鼻水が出ていますよ……!)」
「ズズッ……この一週間ちょっと、僕は殆ど彼女を見ているだけだ。これじゃあ想いを伝える前と一緒じゃないか。もっと彼女に近付きたいんだよ……」
アベルは鼻水を啜りながら、自分の現状をピエールに伝えた。
「主殿……」
――此度の主殿は少々甘えん坊の気質も持ち合わせているようですね……。
本来なら“しっかりして下さい”と
父性本能とでもいうのか、アベルが可愛く思えたピエールだった。
「キャンプ中は仲魔達がアリアの周りに集まるから近付けないだろう? だからルラフェンで一泊してから出たかったのに……」
「ルラフェンで一泊……。では、主殿はアリア嬢と情交を結びたかった……と?」
「っ!? あっ、いや、そうじゃないけどねっ! 一緒に語らいたかったってだけで僕はっ」
落ち着き払ったピエールの言葉に、アベルはビクリと身体を揺らし、早口で否定する。
「……違うのですか? アリア嬢ほど魅力的な女性ならば、ポートセルミでの一夜をまた過ごしたいと思われるのも無理はないと思うのですが……」
「え、ポートセルミの一夜って?」
意味が解らずアベルは首を傾げた。
「え? ポートセルミで、お二人はお楽しみだったのでは……?」
「お楽しみって…………、はっ!? いっ、いやっ!? 何にも無かったよっ!?」
ピエールの言葉が漸く理解が追い付いたのか、アベルは首を横に何度も振っていた。
その頬は真っ赤に茹っている。
「えぇ……、そうなのですか……? 私はまた、お二人は既にそういう仲だとばかり思っていたもので」
「なんでっ!?」
「いえ……、オルソー殿の家でお二人が揃って熱を出されていたので、その時既に……と」
「っっ!!? あっ、あの時は雨の中に長時間いたからで……!!」
ピエールは冷静に受け答えするが、アベルはパニックを起こし掛けていた。
「ええ、ですからその時に男女の仲になったものと 思っておりました」
「っ…………な……なってないです……(なりたかったけど……)」
――アリアがまだ早いって云うし、残念ながらキス止まりです……しかも触れ合うだけの可愛いもので……。
淡々と話すピエールにアベルは縮こまってしまう。
ピエールって大人なんだな……と十七歳の
「……そうでしたか……。私のお膳立ては無意味だったと……。私の努力は水の泡、泡沫の如く消えた、と……」
ピエールは肩を落とした。
「なんかすみません」
ピエールもアリアを好きなはずなのだが、自分とアリアが上手くいくよう取り計らってくれる。
アベルは何故か残念そうに肩を落とすピエールに頭を下げておいた。
ついでに「またよろしく」ともお願いしておく。
「……ええ、お安い御用ですよ。さあ主殿、次の魔物達がいつ現れるか わかりません。私が火の番を致しますから主殿はお休み下さい」
ピエールは深く頷いて、薪を追加した。
アベルはピエールの言葉に甘えて、身体を横たえる。
「ああ、ありがとう。……魔物達が現れたらすぐ起こしてくれ」
「はい。ですが、昨夜のキャンプから魔物の出現数が減っております。我々の強さが見合ってきたようです。今夜は静かに眠れるかもしれません」
「そうか……じゃあ、交代の時間で起こして」
「はい」
ピエールの分析によると、アベル達のレベルが上がったのだろう、今夜からは魔物の邪魔もなく眠れるかもしれない。
アベルは“もう少し余裕を持って旅をしたいな”と思いつつ、今夜は少しゆっくり眠らせてもらうことにした。
【ルーラ】を覚えたらキャンプ中は朝までぐっすり眠れる様、仲間達の強化を図りたいところである。
「あ、アリアは朝まで寝かせてやって。この間呪いが発現してからしばらく症状が出ていないみたいだけど、もうそろそろ出るかもしれない」
「はい、そうですね。呪いの発現間隔が随分と開くようになって来たように思います」
プックルに
「……良くなってるんだね」
「そうですね……、アベル殿の愛のチカラですね」
アベルとピエールは眠るアリアを優しい瞳で眺める。
彼女は穏やかな顔で眠っていた。
「っ……神父やシスター達のチカラだよ……」
「いえ、アベル殿が町に寄る度、教会へとアリア嬢を連れて行って下さるお陰でしょう。彼女お独りならば時々忘れていたかもしれません。うっかり屋さんなので。私からもお礼を言わせて下さい」
「ピエール……僕が好きでやってることだ。君がお礼を言う必要なんて……」
――って、アリア忘れるって……何……、ありそうで怖い……。
照れたようにはにかみつつ、アベルはピエールの話に同意してしまう。
アリアは自分のことに割と無頓着なところがある。
「アベル殿は我が主ですが、アリア嬢は私の唯一。私は彼女の騎士です。彼女には幸せになって頂きたいのです。アリア嬢がアベル殿をお慕いしているのなら、結ばれて欲しい」
「ピエール……」
「おやすみなさいませ、我が主。明日の夜にはルラムーン草が手に入ることでしょう」
「…………ああ、おやすみ……(おやすみ、アリア)」
アベルはピエールと眠るアリアに告げて、目を閉じた。
(結ばれて欲しい……、たとえ運命が二人を引き裂こうとも。)
ピエールはやがて来る不幸な未来から目を背けるように、今は穏やかに眠るアベルとアリアを見守っていた……。
◇
「はぁ……」
……次の日はアベルの溜息から始まった。
「どしたのアベル?」
「……アリア…………っっ」
――アリアが足りないんだよぉおおおっ!!
アリアに問われ、アベルは咄嗟に口元を手で覆う。
朝、焚き火の火が消えた頃、魔物の群れに起こされそのまま三連戦の戦闘三昧。
で、丁度魔物の群れを倒し終えた所でアベルはアリアに声を掛けられ想いが溢れ出す。
戦ってばかりいると興奮状態が続いてしまうので、アリアの顔を見ると抱きしめたくなってしまうのである。
切なそうな瞳でアベルはアリアを見つめていた。
「……ん?」
アリアにはそんな衝動など無いのか、いつも通り柔和に微笑んでいる。
(アリアが足りない。アリアに触りたい。指先だけでも、髪の一房だけでもいいから!)
「っ、ねえアリア。ちょ、ちょっと話せるかい?」
アベルは堪らずアリアの手を取ろうとする。
「え? あ、うん、いいけど…………、アベルそのまま回れ右して?」
「ん? ………………っ、くそっ! またかっ!!」
アリアに云われてアベルが後ろを振り返ると、そこには新手がやって来ていたのだった。
せっかく両想いになったのに、戦いばかりで話すこともままならない状況下、アベルの欲求は高まるばかりですね。
アベル欲求不満でイライラ。
その内暴走しそう……。
ピエールさんはアベルとアリアは既にそういう仲になっているとばかり思っていたようです。
多分キャシーもだな。
って、早くね……?w
魔物と人間の感覚も違うし、異世界の恋愛感覚も現実とは違う気がしますねぇ。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!