妖精の国へ~!
すぐには行かないんだな、これがっ。
ハハハ……。
では、本編どうぞっ。
「うぅ……」
アベルはサンチョから濡れたタオルを渡され、顔を拭う。
「さあさ、坊ちゃんは長旅でお疲れでしょう。どうぞお休みなさいませ」
うん、そうするね。と、アベルはサンチョに促され、その日は旅の疲れもあり、早めに身体を休めたのだった。
◇
次の日――。
ピチチ、ピチチチチッ。
朝陽と共に、小鳥達の鳴き声が窓から聴こえて来る。
「ん……、ぁ(もう朝かぁ……、アリアは……?)」
アベルは目を擦りながら半身を起こすと、机で何やら調べ物ををしている父、パパスの姿を見つけた。
ベッドの下には今目覚めたのか、アベルを待っていたのか、プックルが欠伸をしながら背伸びしている。部屋にアリアの姿は見当たらなかった。
もしかしたら、散歩にでも出ているのかもしれない。
そう思い、アベルはとりあえずベッドから抜け出した。
「父さん、おはよう」
「おはよう、アベル。よく眠っていたようだな。父さんは調べることがあるので今日は家に居るが……。お前も村の外に出たりしないようにな」
「うん、わかった」
パパスに返事して、アベルは階段を下り一階へと下りた。
「おはよう、坊ちゃん。ところで坊ちゃんは、まな板をどこかにしまったりしませんよね。おかしいなあ。どこへやったんだろ……」
プックルを伴い一階へ下りると、サンチョが不思議顔で首を捻りながらまな板を探していた。
戸棚を全部開いているが、見当たらないらしい。
「……見つからないの?」
「ええ、そうなんですよ……。一体どこに……。これじゃ坊ちゃんの朝食が作れないじゃありませんか」
「え、あ、僕は何でもいいよ?」
「何でもというわけには参りません。このサンチョ、坊ちゃんの栄養バランスを考えて野菜スープを作ろうかと……」
サンチョがテーブルに目をやると、テーブルの上にはキャベツやトマトといった野菜がカゴに入って置かれていた。
そして、傍には包丁。
だが、まな板がない。
「僕、別にスープにしなくても野菜食べれるけど……?」
「まな板が無いと切ることが出来ませんよ。外に遊びに行くのならパンだけでも食べて行って下さいまし。戻って来る頃には見つかってスープを作っておきますから」
「はぁい」
サンチョにパンを渡され、アベルはパンを齧った。
「……あー……、あなたはこちらをどうぞ……?」
サンチョは苦笑いを浮かべながら、プックルにミルクを差し出す。
すると、プックルは嬉しそうに目を細めてペチャピチャと、美味しそうに飲んでいた。
「はー……食べた。ねえ、サンチョ。パンもう一個ある?」
「え? ええ、ありますが……。お腹空いてらしたんですね?」
サンチョはパンの入ったカゴから一つ取り出し、アベルに渡す(ちなみに、パンはサンチョの手作りである)。
「ありがとう! 僕、後で外で食べるねっ」
アベルはパンを布に包んで、袋の中に入れたのだった。
そして、プックルに“すぐ戻って来るから待ってて”と告げて、地下室へと下りて行った。
「あっ、坊ちゃん、また……(地下室に……?)」
サンチョはアベルが気にはなったが、再び包丁を探し始めたのだった。
◇
「あ、やっぱり」
「っ、あ! アベルおはよう」
地下室に下りると、アリアが一人で何やら作業をしている。
アベルに背を向けているので、何をしているのかはわからなかった。
「何してるの?」
「あ、えと、お掃除」
「掃除……?」
「うん。何度か泊めてもらってるから、せめてものお礼に」
アリアの手元には箒が握られていた。
地下室は先日サンチョが片付けてはいたが、掃除が全て行き届いてはいなかったようで、アリアの足元には砂埃が纏まっている。
一宿一飯の恩義を返したいとのことらしい(一宿じゃないけど)。
「……アリアっていい子だね……」
「そうかな?」
「……ってことは……、アリアじゃないってことかぁ……」
「う、ん? 何が?」
「アリア、まな板を隠してなんて……ないよね……?」
「まな板? 何の話……?」
アリアが首を傾げる中、アベルは貰ったパンを彼女に渡し、先程サンチョに言われたことを教えた。
「……うん、私じゃないよ? ぁ、いただきまーす。丁度お腹空いてたの、うれしい!」
アリアはアベルに貰ったパンを食べる。
「だよね。アリアそういうことする子じゃないもんね」
「はは、こりゃまた随分と私、アベルの中じゃいい子みたいだね(このパン美味しい~! サンチョさんが作ったのかな?)」
もぐもぐもぐと、若干口内にパサつきを覚えながらも、小麦の香り香るほんのり甘いパンにアリアは機嫌良く応える。
「アリアはいい子だよ?」
「あはは……」
アリアはパンを咀嚼しながら、“そりゃ、中身は大人ですから、しょうもない悪戯なんてしませんよ……”と思うが言わないでおいた。
「それ食べ終わったら外に遊びに行かない?」
「掃除が終わるまで待ってくれる? もうすぐ終わるの」
「もちろんだよ! 僕も手伝うねっ」
アベルはアリアの食事が終わると、掃除の手伝いを買って出てさっさと終わらせたのだった。
「手伝ってくれてありがとう」
「どういたしまして! じゃあ、行こう!」
「あっ……!」
箒を元あった場所に戻し、アベルはアリアの手を握って走り出す。
もう~、いつも強引なんだから……っ。
アリアはそう思ったが、アベルが楽しそうなので“まぁ、いいか”と可愛い六歳児の横顔に表情を和ませた。
「プックルおいで、遊びに行くよ!」
「ガルルルル!」
一階に戻るとサンチョと、椅子に乗っかりテーブルに前足をついたプックルが何やら睨み合っていたが、アベルに声を掛けられるとプックルは喜び勇んでアベルの方(否、アリア)へと駆けて来たのだった。
そして、
『プックル……!? わ……ぁっ……!』
ドシンッ。
と、アリアはプックルにタックルをかまされ、尻餅を搗く。
『いった……ひゃはははっ!! もっ、やだってばっ!!』
ベロベロベロと、アリアは顔を舐めまわされてしまった。
そのままアリアはプックルに馬乗りにされ、「助けて~!」とアベルに手を伸ばしている。
「プックル、めっ!」
早い段階でアベルが止めに入る。
するとプックルは耳を下げて、反省したような顔になりアリアから退いたのだった。
『はぁ、はぁ……、熱烈歓迎嬉しいけど……プックル結構重い』
「だ、大丈夫……?」
『うん……』
アベルはアリアの手を引いて起こしてやる。
「坊ちゃん? 誰と話してるんです?」
「え? あ……、プ、プックルとだけどっ!?」
サンチョに話し掛けられ、アベルは愛想笑いで乗り切ろうとする。
「そうですか……?」
「そうそう。家の中で暴れたらいけないって……」
「ああ! そうですね。ほら、わかりましたか!? あなたもきちんと野菜を食べて、いつまでも健康で坊ちゃんにお仕えするのですよ!? さっきこの子に野菜を食べさせようとしたら怒りましてね……」
サンチョがプックルを見下ろすと、プックルは「ガルルルル」と不満気に喉を鳴らしたのだった。
先程睨み合っていたのはこのことらしい。
プックルは野菜を食べたくないのである。
“我、肉食なんだけど”
絶対野菜など食べない。
高潔なキラーパンサー一族が野菜などといった土から出来たものなど死んでも食べるわけがなかろう!
全く人間という奴は……。
肉! 肉! 肉だぁあああ!!
我は肉しか食わん!
絶対だ!!
と。
……身体が小さくともプライドだけは高いプックルだった。
しかしこの数日後、野菜の美味さに目覚めるとは……、今のプックルは知る由もなかった……。
プックル……。
一人称“我”だったんだ……。
何かね、しっくり来ちゃって、こうなった。
けど、甘える時とか“オイラ”とか言っちゃったりして。
一人の時は“キリッ!”としてて、アベルとアリアには「聞いて聞いてご主人達、オイラね~!」とか言ってそう。
かわええなぁ……。
野菜の美味さに目覚めたプックルはその内……。
殺意の波動に目覚めたリュウ的な書き方になってしまったwww
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読んでいただきありがとうございましたっ!