ルラフェンに戻って来ました。
では、本編どぞ。
◇
アリア達を追い掛けたアベルが町の入口広場にやって来ると、彼女は入口広場に居た青年に声を掛けられていた。
「こんばんわっ。ここはルラフェンの町です」
「こんばんは」
元気よく笑顔で挨拶され、アリアは声を掛けて来た青年に向けて微笑み返す。
「お嬢さんっ、宜しかったら町を案内しましょうか? この町は迷路のようになっていて迷う旅人が多いんですよ」
「あっ、えと、知ってま……」
アリアの笑顔に気を好くしたのか、青年がアリアの手を取ろうとする。
ところがその手は サッと別の誰かに奪われていた。
「はぁっ……アリアっ!」
「あ、アベル」
アベルが追い付いて、アリアの手を取ると彼女を自らの背に隠す。
「っ、間に合ってます!」
「お、お連れさんが居たんですか……残念です」
青年はアベルに睨まれ、ぺこぺこと頭を下げて去って行った。
「……アリアは話し掛けちゃいけないって言わなかったっけ……?」
「話し掛けてないよ!? 挨拶されたから返しただけ!」
「…………っ、あぁ、もう……おいで」
アベルは注意するが、アリアには通じない気がして彼女の手を引いて歩き出す。
宿屋に直行するかと思いきや、障壁の通路へと階段を上がって行った。
「ね、アベル、どこ行くの? こんな夜にベネットおじいさんの所に行ったら迷惑じゃない?」
「今夜は行かないよ。宿に泊まって明日にしよう。せっかくだし、酒場で食事しようよ」
「あ、いいね、それ! 最近魔物のお肉ばっかりだったから たまには別のものが食べたいなっ」
そう話しながら歩いていると、丁度目の前に酒場である。
前回来た時は昼間で開いていなかった酒場だが、夜はどうなのだろうか。
アベルは扉を開き、アリアを先に通すと酒場へと足を踏み入れた。
◇
酒場内は中々の繁盛ぶりで、賑わっている。
テーブル席はすべて埋まっていた。
「おぉ~、混んでるね!(これぞ酒場って感じね!)」
「だね、カウンタ―席が空いてるみたいだからあっちにしようか」
アリアが店内を見渡していると、アベルは店の奥に空いてるカウンタ―席を見つけ、向こうに行こうと歩き出す。
アリアも頷いてそちらへ向かうのだが、途中で足を止めていた。
「アリア?」
「ね、アベル、あの人」
「ん?」
「あの人、神父さまじゃないかなぁ?」
アベルが彼女を窺うと、アリアの視線はテーブル席に着いている法衣を着た男性に注がれている。
神父は赤い顔をしているが、眉根を寄せ難しい顔をしていた。
「本当だ……」
「前に会った時泣いてたよね。ね、アベル、話聞いてあげて……? 私、男の人に話し掛けちゃいけないんでしょ?」
「アリア…………、うん。わかった、ちょっと聞いてみようか」
アリアに頼られてはしょうがない。
アベルは神父に話し掛けることにし、神父のいるテーブル席へと向かう。
「神父様こんばんは。あの、僕達以前教会でお世話になった者ですけど……」
「神さまは とっくの昔にいなくなっちゃったんです! うっうっ……。おねえちゃん。お酒もう一杯ね。アーメン……ひっく」
アベルに話し掛けられた神父は突然“ぶわっ”と泣き出し近くを歩いていた【おどりこの服】を着たウェイトレスの女性を呼び止め、おかわりの注文をした。
「うっ、うっ……」
「はい、おかわり持って来ましたよー」
めそめそしている神父の元に、ウェイトレスが酒を持って来る。
「おお! この一杯が私の迷いを払ってくれるでしょう! んぐんぐ。アーメン……ひっく」
神父はおかわりした酒を一気に飲み干すとテーブルに伏せてしまった。
しくしくしく……。
伏せた神父からは小さな嗚咽が聞こえる。
神父の耳が赤いこともあり、相当酔っているのがわかった。
「……神父さま、また泣いてる……」
「ははは……」
「今夜は神父さん、ずいぶん荒れてるわねえ」
アリアとアベルが神父の前で話をしていると、グラスを片付けに来たウェイトレスが苦笑する。
「そうなんですか?」
「ええ、ここのところ毎晩なの。何があったのかしらね。まあ、うちとしては儲かるからありがたいのだけど」
“お客さん達もたくさん飲んで行ってね。”
アベルとアリアに一言残し、ウェイトレスは隣のテーブル席の客に呼ばれて去って行った。
「お酒は程々にって言ったのに……。もう一度言っておく……?」
「アリアが心配することじゃないでしょ?」
「あっ……」
アリアが神父に近付こうとすると、アベルは彼女の手を引いてカウンタ―席へと向かう。
「やあ、こんばんは。いい夜ですなぁ!」
アベル達がカウンタ―席に座ろうとすると、近くに座っていた旅の商人が話し掛けて来た。
「そうですね」
アベルはアリアをチラッと見てから頷く。
アベルの視線に気付いたアリアはにこっとはにかんでいた。
今日はスラりんとパペックも一緒だが、二人はカウンタ―席の端っこに歩いて行くと大人しく腰掛け、アベルとアリアの邪魔をすることはない。
「あんた、ポートセルミの南のカボチ村には行ってみましたか?」
「あ、カボチ村ですか……? いや……」
商人に問われて、苦い思い出がアベルの脳裏に蘇る。
「それなら行かない方がいいですよ。あの村の住民は よそ者には妙に冷たくて……」
アベルは口篭っただけなのだが、商人は“行っていない”と取ったらしい。行かない方が……と教えてくれた。
「っ、わかります! とっても排他的でした!」
「あれ? 行ったんですか?」
アベルが黙っているとアリアが会話に入って来たので、何があったのかを話すことに。
「あ、実は行ったことがありまして……」
「だったらあんたもイヤな思いをしたでしょ。いえね、私もなんですよ」
皆まで語ることなく商人が深く何度も頷いてくれ、「気にしない気にしない」とアベルの肩を慰めるように叩いてくれた。
時に思いがけない話が聞ける旅の一期一会というのはそう悪くないものだなとアベルは思う。
そんな風に商人と話をしていると、マスターがメモ用紙を手にやって来ていた。
「いらっしゃい。二人共そんなとこに突っ立ってないで 早くそこに座んなよ、何にする?」
「あ、どうも。じゃあ、おすすめのお酒と軽く何か食べさせてもらえませんか」
「あいよ、すぐ用意するから少々お待ちを」
酒場のマスターに促され、アベルとアリアはカウンター席に腰掛ける。
前回来た際、マスターとアベルは一度顔を合せているのだが、マスターは憶えていないようだ。
マスターはアベルから受けた注文を手にしていたメモ用紙に書き込んでいた。
「マスター、お酒追加。あら、料理の注文入ったの?」
「ああ、頼めるかい?」
「はーい。二人ともちょっと待っててね。すぐ出来るから」
先程会った【おどりこの服】姿のウェイトレスがカウンタ―に戻って来ると、彼女はマスターからメモを渡され、二階へと上がって行く。
「さて、料理が来るまでお客さんの話でも聞かせてもらおうかな? おお、そうだキミ達にはこれをどうぞ」
マスターがアベルとアリアの前に酒の入ったジョッキを置いて、スラりんとパペックの前にはミルクの入ったコップを置いてくれた(パペックは飲めないので
「あ、僕達は伝説の勇者を捜して旅をしているんです。けど、まだ何も手掛かりを掴めてなくて……。知っていることと言えば、勇者は天空の武器と防具を装備出来るってことだけで……」
アベルは旅の理由を掻い摘んで話すと、酒を一口口に含む。
アリアも隣でうんうんと黙って頷いてチビチビお酒を飲み始めていた。
「へえ。伝説の勇者を? けど、あてはないか……。だったら、その天空の武器、防具とやらをあつめておくんですね。もし本当に勇者がいるんなら向こうもそれを探すはず。いずれ会えるってもんだ」
「やっぱりそうですよね」
ここでも新しい情報は得られそうにないかな……なんてアベルが思っていたのだが、
「大変な旅だねえ……、あ、そういえば、あっちのテーブル席に座ってるお客さん、天空がどうとかいう話をしていたよ」
ほら、あの吟遊詩人さんだよ。とマスターがテーブル席で酒を嗜む吟遊詩人を指差す。
「えっ!? 本当ですか!?」
「訊いてみたらいいんじゃないか?」
「ありがとう! 訊いて来ます!」
マスターから良い話を聞いて、アベルは立ち上がった。
「あっ、私も行く?」
アリアも立ち上がろうとするが、アベルは彼女の肩に触れて制止する。
「アリアはここで飲んでていいよ。疲れたでしょ? もうすぐ料理も来ると思うし、先に食べてていいからね」
「ぁ、ありがと。じゃあここに居るね?」
「うん、すぐ戻るよ」
アベルはアリアを席に残し、マスターに教わった吟遊詩人に話し掛けることにした。
今夜は宿屋で一泊だー!!
二人きりじゃないけど……。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!