ルーラをやっと覚えます。
ルラフェン編ラスト!
では、本編どーぞ。
「えっ!?」
「イヤァアアアアアッッ!!」
アリアの叫声が鍋の中で木霊する。
彼女は頭を抱えて怯えるように震えていた。
「あ、アリア……?」
アベルは呆気に取られ目を瞬かせてアリアの様子を窺う。
「……るから……、…………なさい……、……けて」
アベルに見守られる中、アリアはブツブツと何やら呟き出した。
「……え?」
「……なさい、ごめんなさいっ! アリアいい子にするから、ここから出して! いい子にするからぁぁあああっ!! ここから出してぇええっ、お願いぃっ! お父さぁああん……!!」
アベルが俯くアリアの頬に触れようとすると、彼女は急に顔を上げて取り乱す。
アリアの瞳からは滂沱の涙が……。
どこを見ているのだろうか、目の前に居るアベルとは目線が合わなかった。
「っ、アリアッ!?(お父さんって……)」
――まさか前世の……?
アベルは初めて見るアリアの激しい叫泣に胸が苦しくなってしまう。
「ごめんなさいぃぃ……!! 狭くて暗い所はイヤなの。ここから出して、お願いよぉーーっ!! 誰か助けてぇぇえええ……っっ!!」
「アリア、しっかり……! …………っ、アリアっ!」
アリアがどこを見ているのかはわからないが、
アベルは全身を震わせ泣き叫ぶアリアの頬を両手で包んで強く語り掛ける。
――確か、アリアは前世で虐待されていたと言ってたっけ……。
もしかしたら、暗くて狭い場所に閉じ込められたことがあるのかもしれない……とアベルは想像した。
前世の彼女がどういった姿をしていたのかは知らないが、今の彼女で想像すると胸が痛くて堪らない。
「……はっ!? …………っ、アベル……?」
アベルの一喝にアリアの瞳が大きく見開かれて、やっと目が合う。
「……アリア大丈夫だよ! ここに君のお父さんは居ないよ!」
「っ……やだやだやだ! お願いアベルっ、ここから出して! お願いぃぃ!!」
アベルが改めて優しく語り掛けると、アリアはアベルの首に縋りつくように腕を回した。
「…………っ、わかった……! すぐ出ようね! スラりん、パペックお願い!!」
アベルはアリアを抱え、スラりんとパペックに合図を出し、引き上げてもらい鍋から無事脱出する……。
◇
……巨大鍋から出てもアリアはアベルから離れなかった。
彼女はふるふると身体を震わせてアベルに抱きついたままである。
「…………っ……アリア、平気?」
――僕としてはずっとこのままでもいいんだけど……。
アベルはアリアの頭を優しく撫でながら、密着する彼女の体温に心地良さを感じていたのだが……目の前でベネットが白眼を剥いて気を失っているので、そろそろ起こしてやった方がいいかもしれない。
アベルはアリアの背中をとんとんと優しく撫でて様子を窺っていた。
が。
「…………っ…………ん。………………ぐすっ……もう少し、ダメ……?」
「っ、いいに決まってる! ベネットさんもぐっすりだから大丈夫だよ!」
――可哀想に……辛いことを思い出したんだね……! 大丈夫だよ……!
アリアの泣き言が聞こえ、アベルは声を張り上げ二つ返事でOKを出すと、彼女を抱きしめる腕に力を込める。
「アベル……ありがと……ぐすっ……クスン……(私、暗くて狭い場所が苦手だったんだ……、どうして……?)」
アリアはアベルに抱きしめられて いくらか落ち着いて来たようで、鼻を啜ると先程あった出来事を思い起こしていた。
(私、子どもの頃は物置によく閉じ込められたけど……、大体昼間でそこまで暗くなかったし、お兄ちゃんも居たし……さっきみたいなパニックを起こしたことなんてないと思うんだけど……)
――もしかして、
先程のパニックが前世の自分ではなく、今の自分の身に起きたことだったのかもしれないと思った途端腑に落ちる。
この身体の元々の持ち主である
――
不意に魔物の住処で出会ったアベル似の男の顔が浮かんだ。
偽のアベルはこう云っていたのだ。
『私はお前に会うために ここに来た。逢いたかったよ、アリア』
そして、
『まだ目覚めていないのだな? ……――ゆっくり目覚めれば良い』
その言葉は今の自分に向けた言葉なのか、この身体の持ち主に向けられた言葉なのかは未だ不明。
ただ、記憶喪失中に見た夢と先程の感覚がこの身体の元の持ち主の記憶であることは確かで、それが今の自分の中に浸透して来ていた。
同化……という言葉が近いかもしれない。
それは八年もの長き眠りから目覚めた時から強く感じるようになっていた。
この身体が経験したことが今の自分の記憶に落ちていく。
前世の“ありあ”が今の“アリア”に踏襲されていくような感覚。
これからもこうして自分の知らない記憶に触れていく機会があるのかもしれない。
元の
どちらにしても もう過去に戻ることは無い。
……今更ながらに“アリア”という娘は謎の多い人物だなとアリアは思った。
「……アリア、大丈夫だからね。僕が傍に居るから……」
「…………アベル、ありがとう……。……もう、大丈夫」
アベルにヨシヨシと慰められて、アリアはすっかり落ち着きを取り戻し彼から離れる。
「本当に……?」
「うん、色々……冷静に考えられたから……」
「……………………そう……」
アベルはアリアの涙を親指で拭ってやりながら眉を下げて浮かない顔をした。
「…………ん?」
「…………何か話したくなったら言ってね、僕で良ければ何でも相談に乗るから」
――アリアに何があったのか訊きたいけど……、辛いよね……。
アリアの過去を聞いてはいけない気がして、アベルは遠慮する。
「ありがと……アベル」
無理に訊き出そうとしないアベルにアリアは彼の手を取り、きゅっと握ってはにかんでみせた。
「うん……アリアが笑顔でいてくれるなら、僕はそれでいいんだ」
「アベル……」
アベルもアリアに穏やかな笑みを向ける。
そうして二人が互いに見つめ合う中……、
「…………おい、お前さんら。わしにいつ話し掛けるつもりなんじゃ?」
近くで伸びていたベネットが目を閉じ話し掛けて来たのだった。
「「わっ!?」」
アベルとアリアはベネットの声に驚き慌てて手を放す。
「っ、あっ、と…………いつ気付かれたんで……?」
「“ベネットさんもぐっすりだから”じゃと……? 寝てたんじゃない! わしは気を失っておっただけじゃ! ……ったく…………――――からに……――――……ぶつぶつ」
アベルがベネットに訊ねると怒られてしまった……。
ベネットの小言が続いたが、小さくてよく聞き取れなかった。
詳しい内容は、こうである。
“……ったく、こちら二週間以上眠っておったのじゃ、眠気などある筈なかろうに。女の子が泣いてたから ちょっと気を遣って遠慮してやったら いちゃいちゃしだしおってからに……いつになったら わしに気付いてくれるかと ドキドキしたわい……ぶつぶつ。”
……とのこと。
「っ、すみません……」
「……まあよい、好きな
頭を下げるアベルにベネットは起き上がってアリアをちらり。
自らのポケットをガサゴソと漁り「娘さん、これをやろう」と飴玉でもやるかのように【まほうのせいすい】をくれた。
アベルとアリアの仲に関しては特に言ってはいないが察しているようだ。
「ぁ、ありがとうございます……?」
「なに、わしの研究に協力してくれた礼じゃよ。偶然とはいえ怖い想いをさせて悪かったのう」
「いえ……、そんな……」
――ベネットおじいさんって優しい人……。
渡された【まほうのせいすい】を見下ろしアリアはベネットの優しさにほっこりする。
と、アリアを慰めたベネットは次に巨大鍋を見上げた。
「ふむ……。おかしいのう……。わしの考えでは今のでルーラという昔の呪文が
「あ、はい」
ベネットの言葉にアベルは深く頷く。
――よし! これでルーラを覚えられたな……!
アベルは早速頭の中に
「お前さん呪文が使えるように なっていないか、ちと試してくれんか」
アベルが
「……ん?」
「アリア、行こう」
“【ルーラ!!】”
アリアがアベルを見上げると同時、二人の身体が宙に浮かび上がり どこか遠くへと飛び立つ。
彼女が「わわっ!」と驚きの声を上げていたが、アベルは驚く彼女の顔が可愛くて目を細めていた。
『おお! おお! やったぞ! やったぞ! よし、この調子で次の呪文に挑戦することにしようぞ!』
アベル達が無事飛んで行く様子を見上げ、ベネットは喜びに年甲斐もなく二度飛び上がると、次なる研究へと着手し始めたのだった……。
アリアのトラウマ発動。
少しずつアリアの正体が解っていくといいなと思っています。
そしてルラフェン編、これにて終了。
次回から各地を回りつつ、サラボナを目指します!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!