ちょろいんですよ。案外。
では、本編どうぞ。
「う、ん……? ……何かよくわかんないなぁ……。お話するくらい良くない?」
アベルのはっきりしない返答にアリアは訳が解らず首を捻る。
「ぅ……、そ、そうだけどさ……」
「アベルが会話に入って来ないでって言うなら、黙って聞いててもいいけど……」
ちょいちょい。
と、アリアはアベルの服を引っ張り彼を見上げた。
「ん?」
「……ちょっと淋しいなぁ、なんて……。ほら、私、昔はみんなから見えなかったでしょ? ずっと居ない者扱いされてて、認識してもらえるって嬉しいんだよね……」
そう告げたアリアの瞳が哀し気に揺れている。
「っ、あっ! っ……わかった! 全然入って来ていいよ! 変なこと言ってごめんね!」
――そうだよ……! 彼女の立場を考えたらそう思うよね……!
アベルは一瞬でも彼女の姿が昔のように見えなかったら良かったのにと思った自らを恥じて謝罪した。
自分はアリアを独占したいが、彼女の自由を奪うつもりはない。アリアにはいつも笑顔でいて欲しいのだから。
「ううん、ありがとうアベル。でも、なるべくアベルの邪魔はしないようにするね?」
「アリア……いいんだよそんなこと……」
アリアにじっと見上げられ、アベルは握っていた彼女の片手を口元に持って来て指先に口付けを落とす。
「っっ!? や、やだアベル……こんなところで そんなことしないで……っ?」
――あぅっ!? アベル、どうしちゃったの!? 何か昨日からスキンシップが過剰な気がするんだけど……!?
アベルの思わぬ行動にアリアの顔が茹り、瞬時に耳まで紅く色付いてしまった。
昨日からアベルのスキンシップが増えている気がする。
人前でも構わず手を繋いで来たり、抱きしめて来たり。
一昨日ルラフェンに着いた時までは普通だった気がするのだが、それ以降アベルの心境に変化でもあったのだろうか……?
……ルラフェンの一夜を憶えていないアリアにはわからなかった。
「わっはっは! 参ったなこりゃ。ここにもヘンリーさま達 顔負けの仲の良い夫婦が一組……」
アベルの背後から待機所で備品点検をしていた上級兵士が話し掛けて来る。
上級兵士は笑顔だったが今にも泣きそうな眼をしていた。
「……え? 私達は夫婦じゃな、っんむ!?(アベルっ!?)」
「ハハッ! すみません。ヘンリー夫妻はそんなに仲が良いんですか?」
アリアが否定しようとすると、アベルは彼女の口を手で塞いで応対する。
「本当に もうヘンリーさまと奥さまは仲が良くて……。独り者には目の毒だな。わっはっはっ」
わっはっは、わっはっは……と高らかに笑い、上級兵士は「さて、足りない備品はと……」と去って行ってしまった。
その背中には哀愁が漂っていた……。
「ははっ、あの人ちょっと涙目だったね」
アベルはアリアの口から手を放す。
「っ、アベル、私達は夫婦じゃ」
「そんなの今は別にどうでもいいでしょ。いちいち否定しなくていいよ」
アリアの言葉を遮るようにアベルは薄っすらはにかんで、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
――僕達が夫婦じゃないことくらいわかってるし、アリアが結婚を嫌がってることもわかってるよ……、だから何度も否定しなくていいのに。
アベルは笑顔を崩さないよう努めていた。
「ぅ。でも、私達は夫婦じゃなくて恋人同……」
「……すみませ~ん!」
再びアリアが言い直そうとするとアベルは三つあるテーブルの内、真ん中のテーブルに着く兵士に話し掛けに行ってしまった。
「アベル……(なに……? 何でそんな急に不機嫌に……?)」
――さっきのアベル、口は笑ってたけど目が笑ってなかったような……?
アリアはアベルの地雷を踏んでしまったような気がして不安になったが、何が悪かったのかはわからず後を追う。
アベルは既に兵士と話をし始めていた。
「あの事件以来太后さまもすっかり大人しくなって。頼りなげに思えたデールさまですが今では本当に立派な王におなりです」
「そうですか、良かった。ラインハットも安泰ですね……!」
アリアがやって来ると、アベルは兵士との話を終えて、再び彼女の頭を撫でた。
「……アベル……?」
アリアはアベルの行動に目を瞬かせる。
「……会話聞こえた?」
「あ、うん、最後だけ。デール君頑張ってるんだね」
「よかったね? ……嬉しい?」
「え? あ、うん。嬉しいよ……?」
「……………………そっか」
アリアが きょとんとした顔で訊かれるままに頷くと、アベルは口角を上げてまた彼女の頭を撫でていた。
アリアはアベルのその様子に、さっきは見分けが難しかったが今度ははっきりと気付く。
アベルの眼が笑っていないのだ。
何があったのかとアリアが理由を訊ねようとしたが、それより早く“兵士達の話も聞けたことだし……”とアベルが踵を返し下り階段へ向かうので、アリアもついていった。
寄り道したが、今度こそヘンリーの元へ行こうというのである。
「……アベル……? どうしたの……? なに怒ってるの……?」
階段に差し掛かり、アリアはやはり気になるので訊ねてみた。
「っ、怒ってなんかっ! っ、…………アリアは僕の恋人だよね?」
――アリアって鋭いっ! 何で気付いたんだっ!?
アリアの指摘にアベルは息を呑む。
つまらない嫉妬をしているだけなので、彼女に悟られたくない。アベルは自分達の関係を確認するように告げていた。
「え? うん、そうだよ?」
「……わかってくれてるならいいんだ」
「わかってるよ? 私アベルのこと大好きだもの……」
「っっ!! ……そ、そうなんだ……」
「そうだよ……。私の気持ち知ってるでしょ……?」
“いちいち確認なんて取らなくても解ってるでしょ?”とアリアはアベルのマントを小さく引いて上目遣いに頬を染める。
「っ……うんっ! だよね!!」
――ああっ、もう好き……っ! アリアが可愛い……っ!!
アベルは自分のマントを掴むアリアの手を取り繋いだ。
「っ、アベル、人前だよ?」
「いいよいいよ。このままヘンリー達に見せつけてやろうよ」
「っ、それは……っ!(余計恥ずかしいよっ!)」
アベルの提案にアリアは恥ずかしくなり頬が熱くなってしまう。
繋がれた手を見下ろしアリアはラインハットを離れる際、マリアに云われた言葉を思い出していた。
……あの時、マリアはアリアにハグをしてこう云ったのだ。
“……うふふ、どうかご自分の気持ちに正直になさって下さいね。”
何もかも見透かしたようなマリアの瞳を思い出すと、顔を覆って縮こまりたくなる。
「…………そういえば、ヘンリーの相手が誰かわからなかったなぁ。色んな人に話を聞きながら行こうか」
「っ、マリアさんに決まってるよ~」
「あたしもヘンリーさまと結婚したかったのに……。残念だわ!」
アベル達が階段を下りながら話していると、一階から果物カゴを持って上がって来た女性が口をへの字にして口を挟んできた。
……この女性は確か……。
「あ、台所に居た……?」
ふと思い出したアベルは女性に返す。
「あら……あなた達はヘンリーさまと一緒に居たアベルさんとアリアさんね!」
女性も憶えていたらしく、アベルとアリアに笑顔を向けてくれた。
彼女とは城に潜入した時だけでなく、実は宴の際にも顔を合せていたのである。
「あ、はい」
「わっ、美味しそう……!」
アベルが頷く中、アリアは果物カゴを見ると瞳を輝かせる。
カゴの中にはアリアの大好きな【モモガキ】がたくさん入っていた。
「ん……? あ、モモガキ? ふふっ、食べる? 台所に行けばいっぱいあるわよ?」
「え?」
「デール様がアリアさんがいつ来てもいいように毎日用意しておけって。今日に限って大量に誤発注しちゃってね。こうして兵士達にも持って来たってわけ。台所にまだたくさんあるのよ。良かったら持ってく?」
女性がカゴから【モモガキ】を一つアリアに手渡してくれる。
アリアが手元の【モモガキ】をキラキラした目で見下ろしていた。
そんなアリアにアベルはムッと眉根を寄せる。
(アリア、そんなもので懐柔されないよね……!?)
アベルはアリアの様子を窺うのだが、アベルの気持ちは届かず……
「いいんですかっ?」
彼女はキラキラした瞳のまま女性に訊ねていた。
「ちょっ!?」
――懐柔されてるじゃーーん!!!!
アリアってちょろい……!!
……なんて思ってしまったアベルは繋いでいた手を放し、アリアの気を惹けるものが無いか【ふくろ】を漁る。
「いいのいいの。あなたのために用意してあるんだし! デール様もそうなさると思うわ。これ二階に置いて来るから一階で待ってて……!」
アリアが訊ねると女性は笑顔で待機所へと上がって行く。
アベル達は女性とすれ違い、そのまま一階に下りることにした。
アリアは食べ物で釣れる。アベルも釣ってましたもんね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!