マリアちゃんは何か困ったことがあるらしい。
では、本編どぞ。
「マリア、どうだった? お義兄さんは大丈夫だったかい?」
「あっ、ヘンリーさま。兄のこともお気に掛けていただいて ありがとうございます……。兄なんですが、風邪ならお部屋でお休みになるように言ったのですけど大丈夫だと言い張って……お薬を飲ませました。アベルさまもアリアさんも中座してしまい申し訳ありませんでした」
風邪が仮病なのかどうかはわからないが、ヘンリーがヨシュアを気遣うと部屋に戻って来たマリアはヘンリーの隣に腰掛け、ヨシュアの状態を教えてくれる。
その後でアベルとアリアに頭を下げた。
「いや、僕達は構わないよ」
「うん、平気」
アベルとアリアはマリアに問題ないと笑顔を見せる。
「……そっか、なら良かった。なあマリア」
「はい……?」
「マリアは今何か困っていることがあるのか……?」
「困っていること……?」
ヘンリーが訊ねるとマリアは首を傾げていた。
「それ、オレじゃ解決出来ないことなのか……?」
――妻のマリアが困っているなら夫であるオレが何とかしてやらないと……!
ヘンリーは自分を頼って欲しくてマリアを真っ直ぐに見つめる。
「…………えと…………ああ……そうでしたわ。困っているというより、ちょっと心配なことがありまして……」
「心配……?」
「はい、実は……」
マリアは静かに話し出した……。
◇
マリアの話によると、修道院を離れてからほぼ毎日手紙でヨムシスとやり取りをしていたのだが、ここ一週間程ヨムシスからの手紙が届かないのだそうだ。
先週、神の塔へと至る砂漠地帯で砂嵐が吹き荒れ【エビルアップル】の大量死が目撃されたという話を旅人から聞いたのは昨日のこと。
その砂漠地帯から北にある橋を渡り北西に進めば【海辺の修道院】がある。
このところ異常気象が多く、ラインハットでも丁度一週間前に大雨が降ったらしい。
城下町から離れた森の中の小さな集落が災害に見舞われていた。
オラクルベリー近くでも急激な大雨により河の水が増水、北の橋が崩落してしまったという。
オラクルベリーからサンタローズ、はたまたラインハットの関所へと結ぶ北の橋は現在復旧作業中で、対岸に渡るには渡し舟に乗るしかない。
とりあえず仮の木の橋を建てるそうだが、出来るまでは少々日数が掛かるらしい。
というのも各地で大雨やら嵐やらの被害が相次ぎ、材料が手に入りにくいのだそうだ。
デールが“木こり急募!”とお触れを出しているがそれでも足らない。
西の国に助けを求めようにも海で魔物の被害が多くなり、船が出せない状態だ。オラクルベリーと協力し、自国でどうにかするしかない(※)。
ヘンリーが「移動呪文で来て正解だったな。今あそこは対岸に渡るための舟待ちの行列ですごいことになってるんだぜ」と教えてくれた。
アベル達も西の大陸にて大雨に見舞われているが、あれと似たようなものなのだろうか。
そこでマリアは修道院で何かあったのではと気を揉んでいたようだ。
「……オラクルベリーの北の橋の件もありますし……私、様子を見に行こうと思ったんですけれど、ヘンリーさまのお手伝いがあるので ここを離れるわけにはいかなくて……、どうしようかと思っていたんです」
「そうだったのか……言ってくれれば良かったのに……。確かにここのところ忙しかったものな。マリア、オレを支えてくれてありがとな」
「い、いえ……、妻として当然の務めを果たしただけですわ……」
ヘンリーに手を取られ ぎゅっと握りしめられるとマリアは頬をほんのり赤く染めて首を左右に振った。
「修道院で何かあったら……、っ……どうしよう……」
マリアの話にアリアは動揺し手を組み眉を寄せる。
「アリア……どうかしたのかい……?」
「っ、アベルほらっ、私達も数週間前に酷い大雨に遭ったじゃない……? 私達は雨だけだったから良かったけど、もし嵐に遭っていたら……?」
「っ、大丈夫だよ……そんなことあるわけないよ」
――そんなこと今まで一度も無かったはず……。
アリアが不安気な顔でアベルに訊ねるが、アベルはそんなこと一度も無かった気がするとピエールに目配せする。
ピエールも同意なのか「無いです無いです」と首を縦に何度も下ろしていた。
「アベル……私ね、悪い予感だけはいつも当たるんだよね」
アリアはそう云って目を伏せる。
勘なのかどうかは不明だが、組んだ手が小さく震えていた。
「え?」
「……何だろうね、これ。……アベル、修道院に急ごう?」
アベルが目を丸くすると、アリアはふと顔を上げて訴えて来る。
「っ……、アリアは修道院で何かが起こってるっていうのかい?」
「ん……。わかんないけど……何か起こってたら嫌だなって……。何もなければそれでいいんだけどね……」
アベルに問い掛けられ答えたアリアは「マザー大丈夫かな……ちびちゃんも……」と心配そうに呟いていた。
アベルは そんなことあるはずないと思いつつ、頷く。
「……わかった、急ごう。……けど、修道院へはルーラでは行けないみたいなんだ」
「そうなの……? どうして……」
「うん……、あれかな……僕あそこに居た期間が短かったから巧くイメージ出来ないんだと思う。次に行ったらちゃんと記憶出来ると思うから徒歩で行こう」
「そっか、わかった」
アベルの【ルーラ】では今は修道院に行けないようだ。
そのためアベル達は徒歩で修道院へと向かうことにした。
「マリアさん、僕とアリアで修道院を見て来るよ」
アベルがマリアに伝えると、アリアも深く頷く。
「ありがとうございます アベルさま、アリアさん。もし災害などの被害に遭っているようでしたらご連絡いただけますか? 私、駆け付けますから……!」
「兵士も一人 連絡役で連れて行ってくれ。何もなきゃ無いで一人で帰せばいいから」
「それは構わないけど……誰を連れて行けばいいんだい……?」
「ん~、そうだなぁ。待機所に居る兵士に声を掛けて連れて行ってくれればいいよ。今 一筆書くからさ」
ヘンリーが“紙と羽根ペンがいるなー……”と立ち上がろうとすると、マリアがそれを引き留めた。
「ヘンリーさま。その連絡役、兄に頼んでも宜しいですか?」
「え? お義兄さんに?」
マリアの言葉にヘンリーは首を傾げる。
――お義兄さんは、マリアの傍を離れないんじゃないかな……?
ヘンリーはそう思うが、マリアの考えは違うようで話は続いた。
「……兄も修道院にはお世話になりました。回復してすぐこちらに来ましたから、お礼も何も出来ていないのです。そのご恩返しをする機会をどうかお与えくださいませんか?」
「マリア……」
――その間、オレとマリア……もしかして二人きりになれるんじゃ……!?
マリアの話に少々不謹慎だがヘンリーの心が弾む。顔に出ないよう無表情を装った。
何せヨシュアがやって来てからというもの、夫婦の時間が取れていないのである。
新婚なのだ、昼間だけじゃなく夜だってイチャイチャしたい。
そりゃ もう、濃厚で濃密な時間を二人で共有したいのだ。
マリアは兄ヨシュアのことを想い云ったのだろうが、ヘンリーからしたら願ってもない申し出だった。
ただ、ヨシュアがそれを受けてくれるかは また別の話なのだが……。
「兄は私のことをとても可愛がってくれていますが、もっと周りにも目を向ける必要があるように感じるのです。アベルさま、兄が同行しても構いませんか?」
「ああ、僕達は構わないよ。アリアいいよね?」
「うん! マリアさんはお兄さんを妹離れさせたいんだねっ?」
マリアにお願いされると、アベルとアリアは快諾する。
アリアはついでにふと疑問に思ったことを訊ねていた。
「っ、……はい。兄は大切な家族ですが、私はヘンリーさまの妻ですから……ヘンリーさまを一番に考えたいのです。私ばかり心配しているのではなく、兄にもそのような存在が出来たらと……。先ずは私から離れることが大事ではないかと思ったのです」
「……マリア……(ああ、オレの奥さんは なんてオレ想いなんだ……!!)」
マリアの一言にヘンリーの瞳が感動で潤む。
それほど想われていたとは思っていなかったらしい。
それからマリアは兄ヨシュアに修道院の様子を見て来て欲しいと頼み、妹からの頼みとあらば断わる訳にも行かず、ヨシュアは渋々承諾。
アベル達に同行することになったのだった。
サブクエスト:修道院の様子を見に行って欲しい……!
ってことで、マリアは兄のシスコンをどうにかしたいのと、ヘンリーと二人きりになりたいという二つの願いを同時に叶えるため、アベルとアリアにヨシュアのお守を頼んだという……。
ヨシュアにも結婚して欲しいのでしょうね。そして妹離れをして欲しいと切に願う。
※)オラクルベリーは自治都市です。ちなサンタローズもアルカパも自治村・町です。関所渡った向こうっ側がラインハット。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!