さあ、修道院へと向かいましょう!
では、本編どぞ。
第四百五話 いざ、修道院へ……!
◇
「それでは兄を宜しくお願いします」
「アベル頼んだぜ。アリアさんも宜しくな」
「ああ、任せてくれ」
「ええ!」
ヘンリー夫妻の部屋を出て、屋上へとやって来るとアベル達はマリアに頭を下げられる。
ヘンリーがアベルの肩を軽く叩くと、アベルとアリアも深く頷いた。
「マリア、私が居ない間大丈夫か?」
「大丈夫ですわ、お兄さま。私にはヘンリーさまがいらっしゃいますもの」
ヨシュアがマリアを心配そうに窺って訊ねるが、マリアは穏やかな表情で隣に立つヘンリーを見上げている。
ヘンリーも優し気にマリアを見下ろし、二人は見つめ合った。
「っ……(それが一番心配なんだが……)」
ヨシュアは二人の仲睦まじい様子に唇を噛み締める。
「お義兄さん、よろしくお願いします。何かあったら報告を……」
ヘンリーが握手を求めるように手を差し出したが、ヨシュアは手元を眺めたものの、その手を取ることはなかった。
代わりに小さく頷く。
「……………………了解しました」
「…………ま、待ってます……」
――う~ん……、この何とも言えない対応……、もうちょっと仲良くしたい……。
ヘンリーはヨシュアの態度に唇をひくつかせたが、なるべく笑顔を保ちながら差し出した手を握り締めた。
……気を取り直してヘンリーはアベルに身体を向け、伝えておく。
「……アベル。何もなければいいが、もし助けが必要な状態ならすぐに連絡してくれ」
「ああ、わかった。アリア」
アベルはヘンリーから視線をアリアに移し、手を差し出した。
「ん? あ、はい」
アリアは差し出された手を取り繋ぐ。
アリアが手を繋ぐとアベルは満足そうに目を細めていた。
ところが……、
「…………手を……繋ぐのですか?」
「あ、ヨシュアさんも、はい」
ヨシュアが不思議そうに訊ねるので、アリアは空いてる片手をヨシュアに差し出す。
「っ、アリアっ!? ちょっ!?」
「…………あ、……では失礼して……」
アベルが驚きに目を見開く中、ヨシュアは差し出された手をそっと繋いだ。繋いだ手をまじまじと見下ろすヨシュアの頬が、ほんのりと赤くなっている気がする。
そしてヨシュアはチラチラとアリアを見下ろしていた。
「よし、準備OK! アベル、早く早く!」
「っ…………!(何でヨシュアさんとも手を繋ぐんだよっ! そういうところ、気を付けてよね……!!)」
――手なんか繋がなくたって大丈夫なのに……!!
手など繋がなくとも【ルーラ】は仲間を運ぶことが出来る。
手を繋ぐのはアベルがアリアに触れたいがためで、アリアは手を繋がないといけないと思っているようだった。
今更 手を繋ぐ必要なし……なんてことは今後のためにも言い出せない。
アリアに急かされアベルは目を閉じ修道院に近いオラクルベリーをイメージし、呪文を唱える。
“【ルーラ】!!”
アベル達の身体が宙に浮いてアリアの小さな悲鳴と共に、一行はオラクルベリーへと飛んで行った。
「………………くくくっ! アリアさん悲鳴上げてたな」
「…………ふふっ、あんなスピードで飛んで行くんですもの、びっくりしますわよね」
飛んで行ったアベル達を見送り、ヘンリーが笑うとマリアも空を見上げて微笑む。
「……マリア……(久しぶりに二人きりだ……)」
「ヘンリーさま……」
ヘンリーとマリアは互いに見つめ合い手を取ると寄り添い、屋上から見える景色を眺めた。
先週の大雨で多少遠くに大きな水溜まりがいくつか見えるが、城下は今日も平和だ。
……空を見上げれば晴天。
ここのところ、しばらく晴れが続いている。
(アベル、アリア、ありがとな! 久しぶりの二人きり、満喫させてもらうぜ……!!)
ヘンリーの瞳に映った空は青く澄んでいた。
◇
さて、【ルーラ】でオラクルベリーへと飛んで行ったアベル達はというと。
「……到着!」
アベルがオラクルベリーの町の入口前にそっと足を着けると、アリアも着地した。
「やっぱルーラは早いね~!(はぁ~、怖かった……あのヒュッってする感覚早く慣れたいな……)」
――馬車まで呼び寄せるなんてどういう原理なのかなぁ……不思議~。
アリアが【ルーラ】の急な浮遊感に慣れず、身体を強張らせながらもアベルを見上げ満面の笑みを浮かべる。
ピエール達はもちろん、パトリシアと馬車もきちんと移動して来ていた。
……手を繋ぐ必要などないことにアリアはまだ気付いていないが、そんなこと【ルーラ】の急な浮遊感の前に気にする余裕はない。
「……なるほど、移動呪文……任意の町へと飛ぶことが出来るのだな」
「便利ですよねっ」
「……っ、ですね……」
ヨシュアが顎に手を当てながら頷くと、まだ片手を繋いだままのアリアがにっこりと笑い掛けるのでヨシュアの頬が ぽっと紅く染まる。
「……………………ここからは徒歩になる。この辺りの魔物はそんなに強くないけど気を緩めないように」
アベルはヨシュアの様子に眉を顰め それとなくアリアの手を放させた。
「うん、了解! この辺りの魔物なら慣れっこだから任せて!」
「……そうだね、じゃあ戦闘はアリアにお任せしようかな?」
アリアが力こぶを作って見せて来るのでアベルは目を細める。
この辺りの魔物なら今のアリアでも一人で一掃出来るだろう。
「ふふっ、アベルは馬車で休んでてもいいよ? 寝不足なんでしょ? キャビンでお昼寝してればいいのに」
「えっ? 何で知って…………いや、さすがにそれはね……」
「そう? 私 結構強くなったから余裕だと思うんだけどな~」
アベルとアリアの会話をヨシュアは黙って聞いていた。
(アベルさまとこの女性……。二人は随分仲が良いようだ……、マリアと少々毛色が違うが可憐な女性だな……)
ヨシュアはアベルと楽し気に話すアリアをじっと見つめる。
その視線に気が付いたのか、アリアがヨシュアに振り向いた。
「……あ。えと、ヨシュア……さん……でしたっけ?」
「あっ、ああ! マリアの兄、ヨシュアだ。宜しく頼む」
アリアに訊ねられ、ヨシュアは手を差し出し握手を求める。
アベルの眉がピクリと動く中、アリアはその手を握った。
「私はアリアといいます。マリアさんとは修道院で出会って短い間でしたけど、仲良くして頂いて……」
「そっ、そうでしたか……! それはそれは……! あなたがマリアの言っていた女性の……! 妹が大変世話になりました……!」
――マリアと同じ位の背丈……、小さい……なんと可憐な……。
ヨシュアはアリアを見下ろしながら握られた手に少しだけ力を込める。
「あら、マリアさん私のこと何か言っていたんですか?」
「あっ、ええ! 名前が一文字違いの歳の近い女性に世話になったと……アリア……さん」
「はい?」
「す、素敵な名前ですね……」
照れたようにヨシュアがアリアを褒めた。
「あ、ありがとうございます……」
ヨシュアに褒められたアリアは気まずそうにアベルに視線を移して握手していた手を放した。
それを見ていたアベルは特に何を言うでもないが、無表情でアリアの手を繋いで歩き出す。
「…………行こうか」
「っ、……う、うん!(アベル怒ってる……?)」
――もしかして、嫉妬してるの……??
アリアは自分に背を向けるアベルに胸を疼かせて、繋がれた手を指を絡めるように繋ぎ直した。
「……っ……アリア? ……人前だけどいいの?」
「…………手を離さないでね?」
「…………離してやらないけど?」
アベルが訊ねたがアリアは繋いだ手を ぎゅっと強く握って見上げて来る。
そんな彼女にアベルは口角を上げて目元を緩めたのだった。
そうしてアベルとアリアは歩き出し、ヨシュアは最後尾につく。
「……お二人はそういう……仲、なんだな……」
前を歩くピエールにヨシュアが ぼそっと口にしていた。
「……そうですね、所謂恋人同士というやつです」
「……そうか……。ハハハ……」
ピエールの返事にヨシュアの口からは乾いた笑いしか出ない。ちょっといいなと思った女性には既に恋人がいたとは……。
――やっぱりマリアが一番だなっ!! さっさと確認を終わらせてラインハットに戻ろう!
シスコンを拗らせたヨシュアはアリアで“脱・妹LOVE”をするかと思われたが、脱することに失敗。
このままではラインハットに戻っても変わらないままだろうが、そんなものはアベルの知ったことではない。
マリアからアリアに飛び火されても困るのでアベルは先手を打ち、ヨシュアの前で手を繋ぐ……という対策を講じたわけである。
アリアも気付いたのだろう、アベルの隣で微笑んでいた。
「……アリア嬢は恐らく主殿しか受け入れないでしょう。貴殿は別の方をさがした方が宜しいかと」
ピエールはアベルとアリアに余計な不和を生まない様、念のためヨシュアに釘を刺しておく。
「ハハハ……。やはり妹には私が付いていてやらないと心配だな! マリア……兄さんは直ぐに戻るからな……!」
「…………? ヨシュア殿……?」
ピエールの話など聞こえていないのか、ヨシュアは遠い目で「マリア……」と呟いていた。
……丁度その頃、ラインハットではマリアが大きなくしゃみをしたとかしないとか……――。
せっかくマリア以外の女に興味を惹かれたものの、脱・シスコンとはならず……。
脱・シスコンして誰かいい人と結婚して欲しいですね……。
でないとヘンリー夫妻の間にコリンズ君が生まれないではないかw
アベル、ヨシュアのアリアに対する好意を早めに打ち砕くことに成功。
アベルはアリアに想われてるという自信さえあれば割と余裕を持って対処出来る男である。
アリアは基本誰にでも親切だが、あちこちフラフラする女ではないため、アベルを最優先にするっていう。
お互いの信頼度が上がってる感じがしますね~。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!